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レイテル・ウェストと白亜の女神像  作者: 羽都 稟華
1.遭遇
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1

私の名はレイテル・ウェスト。


18歳という若さで遺産学の知識の頂点に立つ、才能に満ち溢れた遺産学者です。


遺産の研究や発掘調査、そしてその『遺産』を数多く作ったとされるクレ・エンテやエ・レステルの生涯をも研究しています。


神は二物を与えず、とは言いますが、私に関していえば話は別。


優れた頭脳に可憐な容姿も相まって、この世界では『遺産学者レイテル・ウェスト』の名を知らぬ者はそうはおりませんわ。


さて、そんな私が今回調査に乗り出したのは『ルミナス・オブリッジ』と呼ばれる塔です。


このルミナス・オブリッジはクレ・エンテとエ・レステルの二人が合作で建てたと言われる史上最大の遺産。


さすが天才二人の合作とあって、外見・内装とも細やかで美しい造りをしています。


さて、今回の調査の目的はこの塔の最上階にあります。


この塔は外から見ると七段の階層から成っているのが分かります。


各々の階に窓。


そこからは『階ごとに異なる美しい置物』が見えるのです。


二階には美しい木の彫像。


三階の窓枠には幸せを呼ぶ青い鳥の像、四階には泉……というように。


もちろん過去の内部調査におきましても、階ごとに置かれた置物の存在はしかと確認出来ました。


けれどその七階部分──塔の最上階にあります最も美しく最も気品ある“後ろ姿の白亜の女神像”の階だけが、どうしても発見出来なかったのです。


“後ろ姿の”というのは他でもありません。


塔の外──窓から見えるのは、恐らくは女神像であろうという白亜の像の後ろ姿のみ。


その正面の姿を見ようと思いましたら塔の内部に入り、最上階に辿り着くほかありません。


無論、塔内部から階段を普通に上がっていきますと、六階までは上がって行く事が出来ます。


ですがそこから七階へ上がる為の登り口はなし。


天井の形も、『この上はない』とばかりの半球型。


ですが外から七階部分が見える事は紛れもない事実なのですから、確実にその部屋は存在しているはずなのです。


過去にあれほど探索してもその部屋を見つける事が出来なかった為、学会を説得するのは骨が折れましたが、『学会としては一切の協力はしない』という事でようやくの合意を得ました。


一切の協力はしないというからには、もちろん調査の為の費用もお給金も出ませんし、学会の方では何の援助もしてはくれません。


ですが逆に考えれば、もしこの私が新たな階の発見をした場合、その全てが私の素晴らしい功績として讃えられる訳なのです!


これは願ってもない事ですわ。


──と、期待に胸を膨らませ、塔の外から白亜の女神像の後ろ姿を見つめた私の背後から。


「──……げ、」


と下品な声が上がりました。


私は思わず振り返りながら口を開きます。


「げ、とは何ですの!?

しかもその声……」


ゾッとしながら振り返った先で、私のつぶらな瞳に最もおぞましく最も品のない顔が映りました。


色の薄い、茶髪とも金髪ともとれない短髪に、いつでも人を睨み据えるような茶色の眼。


私と同い年のこの男──ノルフィス・エドワルド!


学会の意見も聞かず、いつだって好き勝手ばかりやっている愚か者。


おお、それなのに何故か『遺産に魅入られし者』だの『クレ・エンテの息子』だのと周りから言われるほど数多くの遺産を発掘し、遺産学者として有名になっている様です。


きっと私の不動の地位を狙って自分でも大袈裟に触れ回っているせいに違いありません!


と、そのノルフィス・エドワルドがいかにも嫌そうな表情で私に口を利きます。


「何であんたが んなトコにいるんだよ。

いつものバカそうな助手も連れずに?」


「バカそうとは何です。

自分の顔を鏡で見てからおっしゃいな。

トレンスの顔が神の如く見えますから。

……トレンスは胃潰瘍でしばらく入院する事になったのです。

退院を待ってばかりもいられませんから、今回は私一人で探索に来たのです」


「気の毒にな。

あんたと組んでて胃が悪くならない人間なんて存在出来る訳ねぇもんな。

お大事に」


失礼な事を散々並び立て、エドワルドが私より先に塔へ入ろうとします。


私はスッとその前に立ちはだかって見せました。


エドワルドがイラついた様に眉をヒクリとさせますが、私は気にしません。


「お待ちなさい。

調査認行書はお持ちですの?」


『調査認行書』とは、学会からその遺跡を調査する事を認められていますという証。


私はこれを取るまでに約三ヶ月近くもかかり、ようやくここの調査に漕ぎつけたのです。


もちろん、これを持たない者の勝手な調査など、盗人の盗掘と同じ事。


許される訳もありません。


私が尋ねた先でエドワルドがイライラした調子で「持ってねぇよ」と口を開きます。


やっぱり。


「ではあなたにここを調査する事は出来ませんわね。

さっさと帰ってゆっくりなさる事です。

私は知っていますのよ。

ついこの間もあなた、勝手な調査をして学会から大目玉を食らっていたでしょう。

次やったらお目付つきで謹慎処分にされるらしいですわね?

私が一言上へ言えばどうなるかお分かりでしょう?」


ふふん、と勝ち誇り、私はエドワルドの顔を見ます。


エドワルドがいかにもイラついた調子でこちらをギロリと睨んできます。


全く本当に礼儀のなってない男ですわ。


「では失礼」


ほんの少しの優越感と共に私は塔の入り口へ向かいます。


中に入ったらせっかくですから私の持っている遺産、『スティック』を使ってバリケードでも張っておきましょう。


これはエ・レステルの作品で、パッと見た目にはつるりと磨き上げられたただの木の棒(スティック)の様ですが、もちろん中身は違います。


部屋や建物の入り口にこのスティックを立てかけ、そこについている小さなスイッチを一つ押すだけで侵入者を阻める上に中の様子までも見えなくさせる、透明なバリケードを生み出す事が出来るとても素晴らしい装置です。


以前遺跡にて私が発掘した代物ですが、学会の許しを得て私物として使える様にしておいたものですわ。


エドワルドも私がこれを持っている事は知っているでしょうから、さぞ悔しい思いをしながら歯軋りでもしているでしょう。


ほほほ!


──と、心の中で高笑いをしながら進む私の背に。


「おい、レイテル」


声がかかりました。


「私、品のない呼びかけには答えない事にしていますの。

それにさほど親しくもない方から名前を呼び捨てにされるなんて考えられませんわ!」


ぐるんっと振り返り言った先でエドワルドがいかにも苛立った様にこちらを睨め付けてきました。


それでも……押し殺す様な声で不承不承口を開きます。


「じゃあレイテル・ウェストさん。

助手もなしで一人で遺跡に入る気かよ?

トラップに引っかかっても一人じゃ助けも呼べねぇぜ」


「……。

それは……つまりあなたがトレンスの代わりに私をサポートしたいというんですの?」


「悪くはねぇだろ。

俺があんたをサポートする代わり、あんたは認行書を共有する。

あんたが何探しに来たのか大体の想像がつくが、一人より二人の方が発見出来る確率は上がるんじゃねぇのか?」


太々しい調子で言われ……まぁエドワルドはいつもこんなものですが……私は顎に手を当て考えました。


エドワルドの話に私を貶めようとする言葉は見つかりません。


むしろ私にとっては好都合と言える物です。


私は何となく気にかかる事があり、尋ねました。


「それで、あなたは一体何を求めに来たのです?

私の女神像の間は、発見してもあなたの功績になんかさせませんわよ?」


問いかけた先で。


エドワルドが一瞬ニヤリと口の端を上げ、笑いました。


まるで悪魔が悪巧みをした時の様な顔ですわ。


「どうぞご自由に。

俺にはあるたった一文字の記号を書き写させてもらえればいい」


「〜……何ですって?」


訳が分からず問いかけた先で、エドワルドが何も言わず塔の中へ入ってゆきます。


「ちょっ、ちょっとお待ちなさい!

先に入るのは私ですわ!」


私は慌ててエドワルドの後を追ったのでした──。

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