しあわせってどんなやつだったっけ?
しあわせがどんなやつだったかって?
どうしてそれを私に聞くかな?
もうずいぶんご無沙汰だし、
正直顔も思い出せないくらいだけど、
それでもいいなら答えるよ。
そう?
たいがい物好きだね、あんた。
私にとってしあわせがどんなやつかなんて、
あんたにはどうでもいいでしょうに。
そうだなぁ。
あいつはね、たとえば、
ちーたらってあるでしょ? おつまみの。
あれ、レンジでチンすると、
パリパリになるの。
チンする時間がぴったりだったらね。
短すぎるとパリパリになんないし、
長すぎるとなんかゴムみたいになるんだけどさ。
ぴったりはまるとうまいんだ。
なんかね、
そんな感じ。
え? よくわからない?
ちーたらあんまり食べない?
そっかー。
おいしいよ? 機会があったら食べてみて。
そんじゃさ、たとえば、
ふらっと寄った酒屋で、
名前に惹かれて衝動買いした純米吟醸が、
予想よりはるかに美味しかった、とか。
そんな感じ。
え? ピンとこない?
日本酒飲まない?
そりゃ私のせいじゃないよ。
私は日本酒党だもの。
私は私にとってのしあわせの話しかできないんだから。
えー? めんどうだなぁ。
んー、そんじゃさ、たとえば、
コンビニで買ったプリンが当たりだった、とか。
知らないよ。
甘いもの苦手とかさ。
私は好きだってだけの話だもの。
もう勘弁してくんない?
ダメ?
食べ物以外?
私から飲み食い取ったら何が残んのさ。
残らないよ。
私はちーたらとコンビニプリンで充分満足できる
やっすい奴なんだって。
……お、おう。
ごめん。
そんな怒らなくても。
ってか、私はなんで怒られてんの?
わかったよ。
……そうだなぁ。
商店街を歩いてたらコロッケの匂いがしたとか。
あ、匂いだから。
そのものじゃないから。
セーフでいいだろ?
他に?
……うーん。
ゆで卵の殻がするっとむけたとか。
食品から離れろ?
酷なこと言うねぇ。
冬の寒い日の二度寝。
休日の夜に布団の中で「明日も休みだ」って気付いたとき。
野良猫の頭撫でた。
仔犬のあくび。
温泉カピバラ。
どうよ。
これだけあればもういいだろ。
まだ?
この欲しがり屋め。
一杯おごれよ。
え? いいの?
そんじゃ遠慮なく。
悪いね。
……うーん。
……でもなぁ。
……
……え?
顔が赤い?
そりゃ、飲んでるからね。
顔も赤くなるし、
意味の分からんことだって言うよ。
……ふぅ。
たとえば、さ。
夜空を見上げたら月が綺麗だったり、とか。
全然予想しないところで、偶然姿を見つけたり、とか。
……本当にくだらない会話だったり、ね。
私にとってのしあわせはそんなやつだったよ。
……ふふっ
そりゃそうだ。
酔ってんだから。
あんたのおごった一杯が致命傷だね。
もはや自分でも何言ってんのかわかんないし、
明日になったらきれいさっぱり忘れてるだろ。
一酔の夢ってやつさ。
そんな言葉はない?
そうだっけ?
まあいいや。
さあ、
私はあんたの話に付き合ったんだから、
今度はあんたが私の酒に付き合いなさいな。
嫌とは言わさないよ。
朝になったら消えるとしても
夜の間は夢の中にいられるだろうさ。
焼きたてのパンの匂いもいいなぁ




