第9話 モータル族と飴ちゃん 4
今度素っ頓狂な声を出すことになったのは僕だった。
「いやいやいや、元々そんな話じゃなかったよ!? 僕らは僕らでダンジョンを攻略して強くなっていこうって話で。トーヤに何かするなんて話は一つもしてなかったはずだろ!?」
「でも、ユウ君もこの子の話を聞いてから、一発ガツンとかましたいと思ってるんやろ?」
エミの問いかけに、僕は返答に窮する。
エミにはそれがお見通しなのか。
僕は復讐心がないとは言わないけど、これからトーヤに特別なにかをしようとは思っていなかった。トーヤのパーティを選んだのは彼らで、僕はただ彼らから捨てられただけで。復讐するのも烏滸がましい、ただの内部分裂だ。
……僕の仲間の引き抜きに関しては、トーヤは何一つ悪くない。三人には、その引き抜きに乗らない自由があった。
ナナノのことだって同じだと言われたら、多分そうなのだ。トーヤのパーティに入ると選んだのはこの子の両親で、そしてその結果がこうなったというだけだ。
――けど、違う……絶対におかしい。
勇者が自分のパーティメンバーを大切にしないなんて絶対おかしいんだ。わがままだと言われても、僕には受け入れられない。みんなが笑ってくれる世界にする為に、僕ら勇者はいるはずなんだから。少なくとも僕はそういうつもりで生きてきた。
他人を犠牲にしてのし上がっていく人間を、勇者だとは僕は思えない。
こんな風に悲しむ人間を増やすことは、勇者のやることじゃない。
「ユウ君……ウチなあ、ユウ君が仲間取られて復讐したいとかそういう気持ちでおるんやったら、ユウ君のパーティに入らんかったわ。でもなあ、話を聞いてみたら、気持ちに気づけなかった自分が不甲斐なかっただの、新しいパーティで辛い目に合わなきゃいいだの……。仲間三人の事をめっちゃ大事にしてたの、伝わったんよ」
「……嘘だ。そんなはずない。僕はあの日あったこと、あいつらに裏切られたことを恨みながら話しただけで……。そんなこと、一言も……言ってない」
エミは僕をキッと睨みつけてくる。
「そんなんなあ、顔に出てたわ! 出てないと思たんか! ウチなあ、人を見る目には自信があるんや! 女神様にも、啖呵切るくらいや! 悲しくて苦しくてどうしようもないって顔しとるのに、それでも仲間が無事でおったらええって思える人間に、悪い人なんかおるわけないやんか!!」
どうして、エミは僕が喋ってもいない気持ちが分かるんだろうか。
これももしかして、女神からもらった特別なスキルなんだろうか……? いや、もしかして元いたオーサカの人間の特殊スキルなのかもしれない。
だとするとエミのいたオーサカには、そういうスキル持ちがいっぱい溢れていて、みんなが思いやりながら、笑って生きているのだろうか。
「ナナノちゃんもそうや! ホンマやったらもっとそのトーヤって子を恨んでええはずやのに、そんなこと考えてもない顔や!! ただ両親が亡くなって悲しい、ユウ君の出て行った仲間の子らが自分の両親と同じようになるんちゃうかって、心配する気持ちの方が顔に出てる! こんなええ子らを悲しませたトーヤって子に、ウチが一言言わんと気が済まんわ!」
どんどんヒートアップしていくエミ。鼻息が荒い。
「で、でも……復讐は何も生まない……!」
「そうですよ……!!」
「何言うてんの。復讐やないやん! あんたらに復讐心がないのに、何を復讐っていうんや。ウチに至っては、全く知らん子やで。屁理屈言うてるんちゃうで、ホンマにウチがそう思てるから言うてるんや。悪いことをしたら叱る。ウチはそうやって、見ず知らずの子ぉでも叱ってきた! 悪いことしたら、叱ったるのが大人の責任なんや!!」
「「……」」
少なくとも、今僕らの前にいるエミは16歳の少女で、大人の責任と言われてもいまいちピンとはこない。だが、エミが僕らの代わりに声を荒げて怒ってくれるのを見て、彼女は別の世界でもこんな風に真っ直ぐにいろんな人に接していたのだろうと、感じることはできた。そして、彼女が信頼できる人間だと、ナナノにも伝わっていると思えた。
「あとなあ!! うっかりしてたわ!! ナナノちゃんに怒るの忘れてた! 生きていく為とはいえ、人からもの盗んでもええとは、ウチはよう言わん!! あかんことはあかんのや!! せやからな! こんなことはもう二度とやったらあかんで、ナナノちゃん!!」
「はい……」
いきなり話が戻ってきた。
「でも、ウチらと一緒に来るんやったら、もう盗みなんてせんでええ! ほらもうこれでその件は万事解決や!! 勇者が嫌いらしいけど、トーヤとかいう子とユウ君は違う! 心配せんでええ、ウチが保証したるわ! あとは、トーヤとかいう子をガチコンいわせたるだけや!!」
鼻息荒く、エミはナナノを見つめる。
こんな力技の勧誘、うまくいくのだろうか……。でも、きっともうナナノの中では答えは出ているだろう。
こんな風に素直に、共感して、泣いて、怒って、真っ直ぐな溢れるような彼女の魅力に、抗える人間なんてきっといない。
「……分かりました。わたし……力になれるか分からないですけど、一緒に行きます。トーヤさんにガチコンいわせに? 行きます」
「分かったよ……。ガチコンいわせに? 行こう。それはいいんだけど、でも……どうやって?」
ヒートアップしていたエミは、きょとんとした顔を僕に向ける。
「え……えー……? ……そ、その辺は……みんなで考えよ?」
僕らはずっこけた。
「復讐は、何も生まない!」 は、個人的に勇者に言わせたい言葉ベスト5には入ると思っています。




