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テンキー  作者: 鍵田紗箱
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零の門④ 四の鍵

 また誰か来た。

 私をキーと呼んだアカリという神様に手を引かれ、この空間にまた一人。

 たしか“パドロック”。

 …今は名称なんてどうでもいいか。

 肝心なのは、あの人達の願いによって私が生き返ったこと。

 今やって来たパドロックに一人のキーが駆け寄っていくように、私にも駆け寄るべき“誰か”がいるということ。

 生前を振り返ってみても、パドロックに相応しい人物は大勢いた。

 学級委員長を務め、友達のために雑用をこなした。いつだって私はクラスの中心にいた。

 バレー部のエースとして、地域にその名前が知れ渡っていた。男女関係なく人気があった。

 学校の成績はトップクラス。先生からの評価も高かった。

 賭け事に明け暮れる両親に代わって、家事も全て行った。

 …あの人達と縁を切れたのは良かったと思う。パドロックは間違いなくあの人達ではない。

 どんな人にも分け隔てなく接した。話しかけるだけで汗をかいたり、不快な臭いを常に纏っている人にまで平等に接するのは辛かったけど…。

 だけど、そんな生前の成果が、今の状況という形で実を結んだのだとしたら、苦労した甲斐があったのかもしれない。

 咲ちゃん、胡桃ちゃん、巴ちゃん。思い当たる子はたくさんいる。私の身を固めるだけの存在だと思っていたが、彼女たちがパドロックなら改めて友達になってもいい。

 彼女たちじゃないとしても、可能性のある子はたくさんいる。名前も知らないクラスメイト、顔も知らない同級生、私に恋い焦がれる男の子。

 もしかしたら………

 …それはない、かな。

 何故か着込んでいた馴染みの制服。そのスカートのポケットにいつの間にか入っていた1本の鍵。

 私の趣味に反する古風なその鍵に手を伸ばす。


「…キー、鍵、何か関係はあるはずよね」


 


 








 私が死んだ瞬間。

 少しだけ近づいた対岸の人々。

 警告音をかき消す悲鳴。

 襲い掛かる鉄の塊。

 身体の中心から指先まで、刹那にその感覚は手放された。

 一生に一度の体験が何度もフラッシュバックする。忘れられない。身体中から汗が噴き出す。

 登下校に利用する駅のホーム。通過列車のアナウンス。

 隣には男子生徒がいた気もするけど、顔も名前も思い出せない。

 気にも留めないような人だったためか、死という事象が強烈だったためか、その人のことは今も思い出せずにいる。

 でも、その人が私の隣にいるのは当たり前で、一緒にいる時間はとても幸せだったようにも思う。

 もしも、記憶から抜け落ちたその人が私の大切な存在だというなら、私のことも大切に想ってくれているはず…。

 





 だから、私のパドロックは名前も顔も知らないアノ人。

 事故のことを思い出す度、わけもなく震える私の両手を握って、私を安心させる言葉をかけてくれる。


「逢いたかったよ、手塚詩姫(てづかしき)ちゃん。僕が今度こそ守ってあげる」


 私の名前を呼んで、私の期待通りの行動をしてくれるパドロック。

 ゾクッ

 …ゾクッ?

 背中に悪寒。同時に自慢の綺麗な長髪にも違和感。

 パドロックが私の両手を握る力を強める。それによって、背後を振り返る意識を制されてしまう。

 痛い。力が強いよ。

 でも、それは口にしない。それよりも気になることがあるから。


「貴方は…誰?」




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