表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

息子が鬼嫁と結婚した件について

使い古された手を使わせてもらいました。

 私は海よりも深い、ため息をついた。


 今日、息子が帰ってくる。


 家を継ぐのが嫌で出て行った息子が、帰ってくるのだ。


 もちろん、出戻りとかではなく、もっと別の話で帰ってくる。


 一体なんなのか話を聞くと、お嫁さんを見つけたみたいで、私の息子は結婚するらしい。


「う、ウソでしょ? いきなり結婚なの? 何の前置きもないじゃないの」


 私は頭を抱えた。


 家を出て行ってから一度も帰って来なかった息子が、いきなり嫁を連れて帰ってくる。


 きっと喧嘩になる。うちの旦那と息子で、大喧嘩になる。


 旦那はラーメン一筋の頑固おやじだし、息子はITビジネスを成功させた社長だ。話が合うはずがない。店をどうするのだと、喧嘩になる。


 息子も旦那と話すのは嫌だろうが、お嫁さん側にもご両親はいる。やはり話は通さないといけない。


 あぁ。


 まったく、急な話で嫌になる。お店だって臨時で閉店させたわよ。


 父さんだってイライラしながらビールを飲んで野球見てる。メールくらいはしてたけど、息子とはずっと会ってないし、急に嫁を連れてこられても困るだけだよね。


 あ~あ。めんどくさいッたらありゃしない。


 私は得意でもない洋風の料理を作って息子を待っていると、玄関からチャイムが鳴った。


 ついに息子が帰ってきた。嫁を連れて帰ってきた。


「はぁーい。今開けるからまってね~」


 私は返事をしつつ、玄関を開けると、そこには壁が立っていた。筋肉の壁が立っていた。


「へ?」


 一瞬、わけが分からなかった。こんなところに赤い壁なんてあったっけ? そう思ったら、横にチビの息子が立っていた。私の息子、陽太だ。


「母さんただいま。久しぶりだね。元気そうで良かったよ。」


「え? あ、あぁお帰り」


「それと、彼女が俺の結婚するお嫁さんだよ」


「か、神楽かぐらです。よろしくお願いします」


 そう言って、肉の壁は頭を下げた。それでようやく彼女の顔が見えた。


 二メートルは軽く越えた、バレーボール選手も真っ青の筋肉女性だった。


 これが普通の人間だったら私もそこまで驚かなかった。彼女は肌が赤く、髪も燃えるように赤い。角が生えて、なぜか巨大な金棒まで持っていた。


 まるで桃太郎に出てくる赤鬼のような女の子だった。


 太ももをこすり合わせてモジモジしていたが、明らかに鬼だった。


 鬼嫁だった。


 その場で腰を抜かす私。いくら亜人が日本に増えてきたからと言って、生で見るのは初めてだ。ここはド田舎だし、ダンジョンも近くにない。魔物だって見たことないし、いきなり鬼族、しかもオーガの女の子だなんて、ありえない。


 私はおしっこをチビりながら、しりもちをついてしまった。


「あ、大丈夫ですか?」


 神楽さんが手を差し伸べてくれる。その手はものすごくゴツくて、爪が刃のようにとがっていた。


「ひぃっ!」


 私は悲鳴を上げてしまった。


「ちょ! 何やってんだよ、母さん! 神楽を見て腰を抜かすことないだろ! 悲鳴まで上げて! 人種差別だぞ! 俺の神楽に謝ってくれ!」 


「へ、へぇ? あ、あの、ごめんなさいね……。初めて鬼族の人見たもんだから、びっくりして……」


「あ、あぁ、気にしないでください……」


「いきなり腰を抜かすなんて思わなかった。ちゃんと伝えておくべきだったよ。失敗したなこれは」


 息子は怒っていたけど、居間から出てきたお父さんもびっくりしてた。こりゃ、とんでもないことになった。 


 

★★★



 それからは息子と神楽さんを交えての夕食が始まった。


 神楽さんはサラダや鶏肉をゆっくりと食べていたけど、息子は父さんのラーメンを食べたがって、店から持ってきたやつを食べてた。神楽さんは意外と少食だと思ったけど、ケーキを出したらものすごい勢いで食べてた。甘いものが好きみたい。


 神楽さんはとにかく露出の多い服を着ていて、裸で歩いているような感じだった。うちの旦那はずっと神楽さんの体ばかり見ていたから、あたしが頭を引っ叩いてやったけどね。


 まぁ、鬼族の女の子と言うからどんな感じかと思ったけど、神楽ちゃんは優しい子だった。人を食べるとか、人を殺して楽しむとか、そんなのは物語の中だけで、嘘だった。


 初めての顔見せだけど、普通に終わったよ。鬼の神楽ちゃんも最初はシャイだったけど、すぐにあたしたちと打ち解けてくれた。順応性が高い子みたいだね。


 それと、息子は父親とも和解できたみたい。店を継ぐって言ってた。まぁ継ぐと言っても、オーナーになるという感じで、息子が厨房に立つわけじゃない。あたしたちの店に出資して、店舗を拡大するっていうことも話してた。


 息子はすごく立派になっていたけど、やっぱり連れてきた神楽ちゃんが気になる。


「ねぇ神楽ちゃんは何が得意なの? 趣味とかってある?」


「はい。魔物をぶっ殺すことですね!」


「え? ぶっころ……?」


「はい! ぬっ殺します!」


「ヌッコロス……?」


 満面の笑顔で、金棒を持って言ったので、あたしと旦那はそれ以上言葉が出なかった。息子は横で拍手をしているけど、本当にそれでいいの? 嫁が魔物をぬっ殺すとかって、普通じゃないんだけど。


 あとで息子に聞いてみたけど、神楽ちゃんは良いところのお嬢さんで、家事は何もできないということだった。魔物を倒すのが趣味の、お転婆お嬢様と言うことだ。


 お嬢様と言うことで、料理は下手、洗濯もまともにできない。掃除をさせると物を壊すという始末。体が大きいから狭い家では暮らせない。ものすごい問題だらけの子だった。


 ただ、すごく優しい女の子で、裁縫だけは得意だった。ほつれたシャツのボタンを器用に塗って直してくれるという。


 家事が全くできないのに裁縫が出来るとはどういうことだろうか?


 私は気になったので、どうして裁縫が得意なのか聞いてみた。


「はい! 魔物と戦うと服が破れるんです。私が普段着るのはミスリル製の服なので、買ってばかりいるとお金がかかるんです。だから裁縫を学びました! 母もすごく裁縫は得意ですよ!」


「そ、そうだったの……」


 魔物と戦うということを聞いてドン引きしたが、裁縫は確かに得意だった。不器用ではないみたいだ。


 他に気になったことと言えば、神楽ちゃんは息子の陽太と常にベッタリで、いちゃいちゃしていることだ。息子は人間の中でもチビだから、鬼族の神楽ちゃんと比べると、大人と子供くらいの体格差がある。神楽ちゃんは息子の陽太をよく抱っこしていて、恋人同士というか、子供をあやしているようにしか見えない。一体どうやってここまでラブラブになったのか気になる。


 とにかく、うちの旦那はピチピチの若い神楽ちゃんが気に入ったみたいで、セクハラしないか見張らないといけない。頑固おやじだけど、エロオヤジでもあるからね。神楽ちゃんはものすごい体が大きいけど、すっごいグラマーな体してるから、ほんとやばいよ。あんなビキニみたいな服で家の中をうろつかれたら、たまらないね。


「はぁ~あ。なんでこんなことになったんだろ」


 私は本当の「鬼嫁」を連れてきた息子に、深い深いため息をついた。


 でも、もうどうしようもないさね。うちの旦那も諦めていたようだしね。


★★★


 結婚式当日。


 旦那と私はダンジョンに呼び出された。


 なんでダンジョンかって? ダンジョンで結婚式をするからだよ。耳を疑ったけど、ダンジョンで結婚するから来てほしいって言われた。勘弁してほしいよねまったく。あたしたちは一般庶民だよ。ダンジョンには一度も入ったことが無いんだよ。


 もちろん、ダンジョンに入る時は神楽ちゃんのお父さんやお母さんにしっかりとガードされて、ダンジョンに入った。神楽ちゃんのお父さんは鬼族だったけど、お母さんは普通の人間だった。ようやく話が合う人が相手側にいると思ったら、実は凄腕のハンターだったよ。話がまるで通じなかったね。


 巨大な竜と死闘を繰り広げたとか言われても、チンプンカンプンだからね。


 とにかく、私と旦那は鍾乳洞みたいなダンジョンの中で息子の結婚式を挙げて、息子たちのケーキ入刀場面を見せられた。仲人は息子の友人みたいだけど、ゴブリンさんだったね。


 もう、なにがなんだか分からないよ。これが異種間での結婚なのかね? 新しい世界の形なのかね? 


 結婚式の帰りにはドラゴンの肉を土産に持たされたけど、とても食べる気にはなれない。


 結納金は息子が全部自分で納めたみたいだし、本当にこれでよかったのかな? 


 私はとんでもないところと血縁関係を結んでしまったかと思ったよ。旦那も呆れて何も言えなかったけど、息子たちは幸せそうだったから何も言わなかった。


★★★


 それから何年か時間が過ぎたね。


 ラーメン屋も繁盛して、うちの旦那も新しい店長に店を譲って引退した。オーナーは息子だから、店の味は無くならない。旦那の味と伝統は残すと言ってくれた。


 なんだかんだで、息子と父親の仲が良くなってホッとしているよ。


 結局、分かったことがあるんだ。


 鬼族との問題のある結婚だったけど、「孫」が出来てみると、そんな細かいことはどうでもよくなったんだよ。


 頑固おやじな旦那でも、孫がかわいくて仕方ないみたいだ。


「ほーらおじぃちゃんだよ~。ベロベロバー」


「じぃじ! じぃじ!」


「はっはっはっは! 神流かんなちゃんは赤ちゃんなのに大きいね~」


 孫の神流はまだ一歳半だけど、幼稚園児並みに大きい。ちっちゃな角も頭に生えているし、雷魔法が得意なのかビリビリする。抱っこするのも大変だ。


 でも、可愛い。


 私も「ばぁば」と呼んでくれて、すごく可愛いんだ。鬼族だから赤ちゃんでも大きいのは仕方ないとして、私は今幸せをかみしめてる。


 相手がどんな種族でも、関係ないね。やっぱり、家族ってのはいいね。


 私は孫を抱きしめて、ドラゴンをペットにする鬼嫁へ、今度ラーメンを食べさせようと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 鬼嫁の可愛らしさがその体の大きさとのギャップになっていてかなり好印象でした。 [気になる点] 鬼嫁と息子が好きになる動機や経緯がよく分かりませんでした。 短編に対して言うことではないかも…
[良い点] 読んでいてほっこりする作品で楽しかったです [気になる点] 特に無いです [一言] また面白い作品待ってます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ