小説家になるために小説家になろうのユーザーになろうとする小説家志望者になろうとする人間になろうとするカバになろうとするミジンコになろう!
小説家になるためにまずはミジンコになろう!
鮫島くるみは決意した。
自室は汚く、食べ物、読み物、ゲーム類、通販の段ボール、自己啓発本、などなど、それらが雑然と散乱している姿はもはやお部屋ではなく汚部屋と呼ぶのがふさわしかった。
しかし一番のゴミはこの私だ。
その証拠に、私は今日も床ドンした。
「まだ間に合うから、まだ間に合うから、まだ間に合うから」
母は言う、しかし。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああっ」
私は叫び、壁に物を投げつけた。
「うぐぁぁぁぁ、うぐぁぁぁぁ」
母は泣き、下の階へと去っていった。
わたしって、ほんとゴミ(てへぺろ
「うわあああああああああああああああああああああああああああああん」
私は泣いた。あらゆる悲痛な思いが咳を切ったようにあふれ出した。
「私はダメな子、私はゴミクズ、私は出来損ない、私は社会不適合者、わたしはぁ、わたしはぁぁ」
母の置いていった焼きそばとご飯を、私は泣きながらいただいた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、生きててごめんなさい、死んでなくてごめんなさい、深夜に大音量でアニソンを聴いてごめんなさい、オンラインゲームに負けた鬱憤を冷蔵庫にぶつけてごめんなさい、風呂場で手首を切ってごめんなさい、いっそザックリいかなくてごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああん」
私は大声で泣いた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ」
階下からは母の叫ぶ声。金属をこするような、悲しい声。
「あはは、はは、は」
「あははは、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
私はなんだか笑えてきた。
母と娘、二人で奏でる絶望のハーモニー。
それが余りにも滑稽で、悲しくて、笑えてきて、苦しくて、辛くて、楽しくて、痛々しくて、バカらしくて、気が付くと私はケタケタと喉を鳴らしていた。
「なんで笑ってるのぉ!!」
バァン、と、階下で何かの砕けた音がした。
「お前、お前、お前、お前、お前、お前、お前、お前、お前、お前、なんで笑ってるのぉ!! お前、ほんとお前、お前、お前、お前、お前、おまえええええっ」
母が階段を昇ってくる。
「わたしは母親じゃない、ギラファノコギリクワガタ、ギラファノコギリクワガタなの、そう、母親じゃない、ギラファノコギリクワガタ、ギラファノコギリクワガタなの、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ぁぁああぁあぁあぁあ! ぁああぁぁぁあぁあああぁぁぁぁぁあああああああぁぁあぁあぁぁ!」
バァン、とまた何かが砕けた。
多分あの人鈍器かなんか持ってる。わたしはそう直感した。
「お前の母ちゃんでーべーそーぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっっっぅ!!」
謎のかけ声と共にドアノブが砕かれた。鍵なんてかけてないのに・・・。
キィィィィ、と扉が開かれる。
「にひひひひひひひひひひひ、でべそちゃんど~~こだ~~?」
母の得物はバットだった。
「見当たらないな~~隠れてるのかな~~?」
母はそう言い、私の部屋を歩き回る。
そして次の瞬間。
「でべそちゃんそこだ~~~~~!」
押し入れにバットをフルスイングした。
バァンと紙が破れて、次にゴンという鈍い音が響いた。
「れれれ? でべそちゃんちがうぞ~~~!!」
そこに私はいなかった。代わりに壁がへこんだ。
「がぁぁあぁぁああああああぁぁぁぁぁぁあああああああ」
キレた母は床をバットで殴打し始めた。
「やべぇよ」
私はその光景を、窓の外側から、そーっと見ていた。
窓枠から手を放し、できるだけ静かに地面へと着地した。
さてもう家には戻れないぞ。なぜなら母があんなだから。
あいつマジで頭おかしいわ、殺人未遂でポリスメンに通報してやろーか。
けど母がいなくなったらそれこそわたし生きていけないし、仕方ないので機嫌が収まるのを待つことにする。
冗談じゃねぇ。こんな家ぜってぇ出てってやる。
わたしはマウスを動かしていた。
数日が経った。母は泣いて私に謝り、壁に頭を打ち付けだしたがそれは私が制止した。
以前と変わらずわたしはこの部屋で生活している。
しかしだ。
部屋を見渡す。
押し入れの紙は凄絶に破れ、奥からは繊維のむき出しになった木材がちらちらのとのぞいてる。
ドアノブは砕け、床はべこべこ。机は半壊しており、椅子も背もたれが(まぁともかくだ
要するにいつ殺されてもおかしくないということだ。
ご察しの通り母はイカれてる。お父さんが出て行ってからああなったと自分では思ってるようだがむしろああだからお父さんが出ていったという方が正しい。まぁその話は別にいいですね。
ともかく、わたしは小説家になるのだ。
なって、こんな生活とはおさらばするのだ。
「小説家になろう」というサイトがある。今さら説明は不要だろう。
あなたは知ってるはずだ。でなければおかしい。
わたしはそこのアカウントを取ろうと思う。むろん、小説家になるためだ。
一週間後。
「まだアカウント作れてない」
なぜなら面倒だったから。
メールアドレスを入力するだけの簡単な作業すら億劫に思えて、後でいいや後でいいやと後回しにし続けていたら、あっという間に一週間が過ぎていたのだ。
仕方ない。ならばせめて、小説家になろうのユーザーになろうとする小説家志望者を目指そう。
何もしないよりはマシだ。小さな歩みでもかまわないから前に進むことが大事なんだ。
一週間後。
「私は小説家志望者になれなかった」
なぜなら小説があまり好きじゃないから。
執筆という行為に対して小説家を書く人間なら誰もが抱くんじゃないかと思うような充実感を、ついに私は抱けなかった。つまり楽しくなかった。
仕方ない。ならばせめて、小説家志望者になろうとする人間を目指そう。
何もしないよりはマシだ。小さな歩みでもかまわないから前に進むことが大事なんだ。
一週間後。
「私は人間じゃない。動物だ」
食って寝る、それだけの生活。そこに人間らしさを見出すことが、ついに私はできなかった。
私は大便製造機だ。いや一応女の子だからマシュマロ製造機か。
汚ねえマシュマロだ。
仕方ない。ならばせめて、人間になろうとするカバを目指そう。
何もしないよりはマシだ。小さな歩みでもかまわないから前に進むことが大事なんだ。
一週間後。
「私はカバになれなかった。だってカバじゃないもん」
仕方ない。ならばせめて、カバになろうとするミジンコを目指そう。
何もしないよりはマシだ。小さな歩みでもかまわないから前に進むことが大事なんだ。
一週間後。
「執筆をサボり続けた結果、ついに私は人間ですらなくなった」
今の私はミジンコだ。
何もしないよりはマシ。その言葉を言い訳にし、立ち向かうべき物から逃げる口実を作り続けた結果、とうとう私は虫ケラにまでなり下がった。
私は何をすべきだったのか。
小説を書くべきだったのか。人生に立ち向かうべきだったのか。
思えば私は、ずっと逃げていたのかも知れません。