第八話 クリスマス
「おーい、聖音。大丈夫か?」
「天也、見舞いありがと!!
でもさ、バスケの方はいいの?」
「大丈夫、大丈夫♪」
天也と付き合い始めて1ヶ月が過ぎたクリスマス。
街はクリスマスイルミネーションで明るくて、
家族や大切な人と楽しいひとときを送る日。
私は真っ白の硬くて冷たいベッドの上に居て、
天也は横のパイプイスに座ってる。
―天也と優司さんとクリスマス・イブを過ごしている時に、
私は倒れて、病院に運ばれ即入院。
私は元々貧血気味で、
倒れるのは2回目。
だから今回もただの貧血って思っていたのに、
朝から血は採られるわ、
病院食はマズいわで最悪。
もうサイッテーのクリスマスだよ。
「ねぇ、天也ぁ。」
「ん?何?」
「病院抜けてさ、行こうよ。」
「どこ?」
「ばか。約束してたじゃんっ。」
実は倒れる前、
1つ約束をしたんだ。
「俺のお気に入りの場所に連れてってやるよ。
クリスマスはイルミネーションが最高なんだ♪」
って。
今日行こうって言ったの。
でもその後倒れちゃって。
「あぁ〜アレか。
でもダメだよ。
おとなしくしてなきゃ。
治ったらな。」
「嫌だっ。だって今日行かなきゃ。
クリスマス終わっちゃう。」
「来年もあるだろ。」
「来年?
私、死んでるかもよ?
それでも?絶対後悔するよ?」
「う゛っ。そんなことねぇッ。」
「天也、連れてって。」
「・・・。分かったよ。
負けた。
ただし、帰ってきたら安静にすること。
守れる?」
「やっりぃ☆天也大好き♪」
天也は私のわがまま聞いてくれる。
そーゆーとこ、好き。
「じゃ、これ着て。」
自分の着ていたコートを脱いで渡してくれた。
「えっ、天也寒いでしょ?
いいよ。」
「いーから。着てろ。
俺のって証。」
「もう。ほんとに平気?」
「当ったり前!!
・・・はっくしゅッ!」
「・・・ばか。私のやつ着てなよ。
薄いけど。」
「いいって!てか病人のくせに。」
「じゃあ、その病人に気を遣わせないでよね。」
わかってるよ。
天也が体強いの。
でもね、私みたく病気して欲しくないから、
気を遣っちゃうの。
別に風邪が原因って訳じゃないけど、
風邪は万病の元って言うし(言うよね?あってる??)
大切な人には健康であって欲しい。
苦しむのは私だけでいいの・・・。
―「天也、後どの位で着くの?」
「まだだよ。さっきから急かしすぎ。
聖音の為に安全運転してもらってるんだから。」
病院を抜け出して、
タクシーに乗ってもうすぐ20分が経つ。
「お2人、仲良いんですねぇ。」
「ハイ♪羨ましくなっちゃいます?」
「おいっ」
「ははっ。羨ましいですよ。幸せそうで。」
「ハイ♪今はとっても幸せですよ☆
病気してなかったらもっと・・・ですけど。」
「確かに。健康が一番!
早く良くなってね。
あぁ、着いたよ。」
「ありがとうございましたっ。」
「これで足りますか?
お釣りはいいです。」
そう言って、天也は諭吉さんを置いた。
そして私達はタクシーを降りて歩き出した。
「うわぁ〜キレイ!!」
「だろ?」
そこは・・・雑誌で何度か目にした、
ルミナリエだった。
「お気に入りじゃないんだけど。
前にさ、聖音言ってたろ?
神戸のルミナリエが見たいって。」
「うそ・・・。
覚えてくれてたの?」
確かに私、独り言で言った。
そんなの忘れてるって・・・。
「当たり前だろ。
聖音のことならスリーサイズまで分かる。」
「もぉっ!!天也のスケベっ!!」
サイテーっ。
でも・・・嬉しいよ。
めちゃくちゃ綺麗だし。
「・・・天也。」
「なんだ?辛い?」
「違うよ・・・。
ありがとう。凄く嬉しい・・・。」
「なぁ。」
「なに?」
「・・・やっぱいいや。少し歩いて、帰ろうか。」
ヘンな天也。
でもいつも優しい。
そして私を包んでくれる。
「・・・きだよ・・・」
「なんか言った?」
「天也、だぁいすきっ♪」
「俺も聖音が好きだよ。」
今までで一番のクリスマスだよ。
こんなに幸せって思ったの、初めて。
私、とっても幸せ。
そして、この幸せはずっと続くと思ってた。
ううん、続いて欲しかった―。
―クリスマスが過ぎてもう1週間。
私は相変わらず病院にいた。
そして、今日検査結果が出る。
「おはよ、聖音。」
「天也、おはよ。バスケは?」
「いいの。俺は天才だから。」
相変わらず、
馬鹿なのか賢いのか分からなくなる発言をする天也。
「レギュラー落とされても知らないからね。」
釘を刺す。
じゃないと、すぐ調子に乗るから。
「検査結果が出る大切な日に、
バスケなんかやってらんねぇよ。」
でも、私のせいなんだよね。
・・・ごめん。
「朝日奈さーん。
センセイが呼んでます。
お母様もお待ちですよ。」
「あ、はい。」
「旦那様はここでお待ち下さい。」
「あ、はい・・・
って、ち、ちがっ。
旦那じゃ・・・」
天也は顔を真っ赤にして否定した。
「だってさぁ、旦那様。
行ってくる。」
私もちょっとからかう。
「行ってらっしゃい。」
私は看護婦さんについて病室を後にした。
冷静を装っていたけど、
心臓バクバクで、聞く前に死にかけた。
天也にもママにも思いつめてもらいたくないから。
―看護婦さんの雰囲気で、なんとなく感じた。
私、重い病気なのかもって。
そして・・・センセイを前にした時、
うっすら涙を浮かべるママを見た時それは確信へと変わった。