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第六十八話 幸せな目覚め

顔を照らす朝日の眩しさで、

目が覚めた。


何度もベッドの配置を変えたいと思った、

この鬱陶しい光も、

今日はちょっといとおしい。


何故なら……


「起きた?」


隣に世界で一番大好き人がいるから。


「ん、起きたぁ……」


寝ぼけ半分の私とは対照的で、

天也はしっかり目を覚ましてた。


「先に起きてて良かったのに」


「聖音の可愛い寝顔に見とれて、

起き上がるの忘れてた」


「やだ、口開いたりとかなかった!?」


「ちょっと歯軋りが……」


「嘘だっ!!」


天也が眉間に皺寄せて、

すごい顔してる。


嘘だぁ……


恥ずかしくて、

布団を深く被って、隠れた。


「なんてな、冗談だよ」


その布団を捲って、

天也は笑った。


「もぉ、意地悪っ!」


私は目一杯膨れっ面をして、

ベッドから起き上がった。


一瞬、信じちゃったじゃん。


バカバカっ!!


心の中でそんな事思ってたら、

いきなり後ろから抱きつかれた。


「きゃっ」


「もうちょっとだけ、

こうしてたい」


「先に服着よ?」


「だーめー」


子供みたいに引っ付いて離れない天也。


でもそんな所が、

やっぱりかわいくて、

いとおしくて、

大好き。


だけどね……


下着の上に、

ビッグシルエットの半袖Tシャツ1枚っていう、

季節感の全くない格好をなんとかしなきゃ。


いくら暖房ついてても、

極寒の1月なんだから。


「寒いから、

服着ようよ」


「引っ付いてたら温かい」


「むぅ……」


そうなの、

ほんとは温かいの。


だから、

これ以上説得しようがない。


「じゃあ、もう少しだけね」


説得を諦めて、

私を包む天也の腕をそっと抱き寄せた。


そして目を閉じて、

天也の温もりを全身で感じた。


……一晩過ごしても、

まだ夢かもしれないなんて、

思ってる。


何度も願って、

叶わないと諦めていた事が、

こうして現実になったから。


目が覚めたら全く違う世界だったらどうしよう、

とか、

目が覚めたら天也はいない、

とか、

後ろ向きな事ばかり考えて眠ったから。


目が覚めて、

やっぱり夢じゃないって、

わかってるのに。


やっぱり夢かもしれないなんて。


矛盾してるよね。


それくらい、

信じられない程嬉しくて、

とても幸せ。


今も、

もう少しだけって言ったくせに、

離れないでって思ってる。


私、面倒くさい女でしょ?


そんな甘い時間を過ごしていたその時。


玄関のインターホンが鳴った。


その音で、

私達は離れた。


「聖音ちゃーん、

ちょっと早いけど、

大丈夫ー?」


陽流さんの声で、

慌てて時計を見ると、

時刻は8時。


「やばっ!!

今日ドラマの撮影!!」


私はTシャツを脱ぎ捨て、

クローゼットからワンピを出して着た。


時短、時短。


それから玄関に向かった。


そして、鍵を開けた時、

重大な事に気が付いた。


「陽流さん、

ちょっと待っ……」


時、既に遅し。


「……聖音ちゃん、

これはどういう事なのかな?」


陽流さんは笑顔で、

低い声で言った。


玄関に置かれた、

男物のスニーカー、

エアジョーダンを指差しながら。


それは、

この家にあるはずのない靴がなぜあるか、

と言いたいんだと思う。


聖斗パパは、

革靴大好きな人で、

スニーカーは履かない。


それに、

パパの靴のサイズは26で、

このスニーカーは29。


明らかに大きい上、

しかも今は、

この家にいない。


それを陽流さんは熟知してる。


「えっと……」


「今、この家に、

聖音ちゃん以外に、

誰かいるのかな?」


わかってるのに、

わざと遠回しに言う辺りが、

かなり怒ってる証。


もう誤魔化しは効かない。


……というより、

もう確信してるから。


「ごめんなさい、

連絡しなくて。

実は……」


「聖音、あのさー……

ごめん、話し中だった?」


ちょうど話し始めた所へ、

天也が現れた。


バッドタイミング。


というか天也、

わざとだよね!?


「あなた……

朝日奈選手!?

え、ちょっと待って……

どういう事!?」


陽流さんはとても驚いていた。


「今から説明しようと……」


「こういう事です」


天也はそう言って、

私の手を握って、

強引に抱き寄せて、キスをした。


「……!!!」


「……元サヤって事でいいのかしら?」


天也の機転 (ただの思いつき)で、

色々省略出来たらしい。


――――「……という訳で、

思いきって天也に告白したの。

玉砕覚悟で。

そしたら、

天也も同じ気持ちでいてくれて……

今に至ります」


「そうなの……って、

納得出来るかっ!!」


陽流さんがまさかのノリツッコミ!!


「何の説明にもなってないからっ!!」


「ごめんなさい~っ!」


私は隣に置いてあったクッションで、

顔を隠した。


「すいません、

説明が色々足りなくて」


「あ、いえ、

朝日奈選手に謝られても…」


「だけど、

易々と話したくない部分もあるので、

その辺りは理解していただけたらと……」


「心配しなくても……そんな野暮しないわよ。

だけど、いきなりの展開過ぎて……」


「……侑人さんにね、言われたの。

自分の手で運命にしろって」


私はクッションを顔から離して置いた。


「ずっと言いたかったけど、

言えなかったの。

今度は私が天也にフラれたらって怖くて。

自分勝手でしょ。

私が終わらせた恋なのに。

でもそんな事にこだわって、

天也が他の誰かを選んでしまったら、

後悔が残るって気付いた。

侑人さんは背中を押してくれたの。

だから私は、

自分の気持ちから逃げないで、

ちゃんと伝えたいって決心して、

天也に会いに行った。

そして、

その思いを、

天也はちゃんと受け止めてくれた。

これが全部だよ」


天也は何も言わずに、

ただ頭を撫でてくれた。


「……よくわかった。

でもね、私が一番怒ってるのは、

ヨリを戻してお泊まりしたことじゃないの。

連絡してって言ったでしょ?

何かあった時、

何も知らなかったら守れないって言ったじゃない」


「……ごめんなさい」


陽流さんが怒るのは当然だ。


昨日、劇場を出てから、

何の連絡もしなかった。


こうなることは、

簡単に想像出来たのに。


何にも考えてなかった。


「……でもあなた達の事は祝福するわ。

良かったわね、聖音ちゃん」


「陽流さん……

陽流さんっ」


私は嬉しくて、

涙を浮かべて、

陽流さんに抱きついた。


「陽流さん、大好きっ」


「聖音ちゃん……苦しいから。

それより、早く準備しなさい」


「あ、やばいっ」


陽流さんからぱっと離れて、

私は自分の部屋に向かった。


だからここからは、

陽流さんが後々にこっそり教えてくれた話。


「えっと……

あきるさん、というんですか?」


「はい、井川陽流といいます。

好きに呼んでください。

朝日奈天也さん」


いきなりフルネームを呼ばれて、

天也は驚いた。


初対面ではないけど、

自己紹介をする機会は今までなかったから。


「俺の名前……」


「はい。

聖音ちゃんから、

色々聞いてます。

昔付き合っていた、

今も大好きな人、と」


陽流さんがそう言うと、

天也はちょっと照れたらしい。


少しだけ赤く染めた顔で、

話し始めた。


「そうですか……。

一度別れているから、

もしかしたら信用ないかもしれませんが、

俺は聖音を心から愛しています。

すぐに、とはいきませんけど、

ちゃんと結婚して、

一生一緒にいたいと思ってます。

その事で、

マネージャーをしてる井川さんには、

沢山迷惑をかけてしまうかもしれません。

ですが、

お互いに真剣なので、

認めていただけると幸いです」


そう言って、

天也はソファから立ち上がって、

陽流さんに向かって、

深く頭を下げた。


「顔を上げて下さい、天也さん。

認めるもなにもないです。

私は聖音ちゃんが幸せなら、

それでいいんです。

私の仕事は、

聖音ちゃんのサポートなので、

気になさらないで下さい。

マネージャーの私が言うのもなんですけど、

あの子をよろしくお願いします」


「こちらこそ」


こうして天也と陽流さんは、

お互いにお辞儀しあって、

そこへ私は荷物を持って戻ってきた。


「二人共、何してるの?」


「何でもないよ。

ほら、聖音は仕事だろ?」


「そうだけど……天也はどうするの?」


今日は天也は公休。


「俺はとりあえず、

家に帰るよ。

着替えないとな」


「終わったら電話するね。

鍵は持ってて」


「わかった、

行ってらっしゃい」


私は天也に見送られて、

陽流さんと家を出た。


その時も、

陽流さんと天也は、

目で会話してて、

状況が読めない私は、

?を頭にいっぱい浮かべて、

現場入りした。

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