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第六十六話 逃げない

「本日はお忙しい中、

お集まりいただき、

誠に有難うございます。

只今より、

聖音主演映画『虹の空に』の、

完成披露試写会を始めます。

早速ではありますが、

上映を開始致します」


司会者がそう告げると、

劇場内の照明が全て消され、

真っ暗になった。


そして、

映画は始まった。


上映が始まるまで

私はずっと不安だった。


上映後に待っているのは、

天国か、地獄か。


だけど…

始まってすぐに、

そんな不安を考えている余裕はなくなった。


映画に入り込んでいた。


台本を読んで、

演じたんだから、

結末だって展開だって、

大方は知ってる。


それでも、

完成したこの映画に、

最高の作品に、

私は感動した。


初主演という大役を、

果たしきった。


それを証明するかのように、

上映が終わった瞬間、

劇場内は割れんばかりの拍手に包まれた。


二股女なんて報道されている最中で、

拍手すら貰えないかもしれないと、

そんな覚悟もしていたから、

とても嬉しくて。


私は号泣していた。


渋沢監督にエスコートしてもらい、

私は登壇した。


ウォータープルーフの、

しっかリメイクをしてもらってて良かった。


じゃなきゃ、

人前に出れる顔じゃなくなってたかも。


そんな私達に続いて、

侑人さんを筆頭に、

共演者達も登壇した。


その中に、

もちろん京華もいる。


「最後までご覧戴き、

有難うございます。

映画『虹の空に』いかがでしたか?

主演の聖音ちゃん、

感無量で喋れないみたいなので、

代わりに僕が進行しちゃいます」


登壇する時に受け取ったマイクで、

渋沢監督は場を和ませてくれた。


「まずは…

なんと言ってもイケメンの、

貴臣くんに聞いてみようかな」


「イケメンは余計ですよ、

渋沢さん」


侑人さんが照れながら言った。


「君がイケメンじゃなかったら、

僕たちどうなるんだよ」


渋沢監督の言葉に、

会場は笑いに包まれた。


「映画の感想、

聞かせてくれるかな?」


「そうですね……

実際の年齢より年下の役だったので、

若作りが大変でしたね。

もう学生ノリなんて、

ほとんど覚えてないですから(笑)」


「その割には、

一番学生っぽかったけどなぁ。

学ラン似合ってたし(笑)

ねぇ皆さん」


「それ褒めてるんですか?

(けな)してるんですか?」


「褒めてるに決まってるじゃないか。

その年で学ラン似合うの、

あんまりいないしね」


「やっぱ貶してますね、

渋沢さん」


2人の会話に、

会場は盛り上がり。


そしてやっと、

私の涙も収まってくれて。


「聖音ちゃん、

そろそろ話せそう?」


その様子を見て、

渋沢監督は私に振ってくれた。


「お騒がせ?しました。

もう大丈夫です!」


「じゃあ聖音ちゃん、

今の気持ちを思う存分、

話していいよ」


そう言って、

私に持っていたマイクを渡してくれた。


それを受け取って、

私は話し始めた。


「今日は来ていただき、

そして沢山の温かい拍手を下さり、

本当にありがとうございます。

色んな憶測とか、

報道がされていますが、

私はこの作品での共演がきっかけで、

彼……侑人さんとお付き合いをしていました」


その言葉を言った瞬間、

和やかなムードから一転して、

会場はざわついた。


陽流さんも裏で唖然としてると思う。


当の私は、

何かから解放されたような、

そんな気分になって、

もう何も怖くなかった。


これが私の決めた覚悟。


「侑人さんに愛してもらって、

本当に幸せな時を過ごしていた。

でも去年のクリスマス、

侑人さん以上に好きな人が出来て…

それが今回一緒にいる所を写真に撮られた人。

その人が好き……

だから侑人さんとは、

年末に別れた。

だけど……

今はまだ私の片思いなので、

報道されているような、

二股とかじゃない。

私そんなに器用な人間じゃないから、

二人の人を愛したりなんて出来ない……

これが全てです。

侑人さん、

勝手に話してごめんなさい」


私は話し終えてから、

侑人さんに向かって頭を下げた。


私が顔を上げると、

侑人さんは客席に向かって話し始めた。


「……全て彼女の話した通りです。

彼女は本当にいい子だから、

二股かけるなんて、

考えもしなかったんでしょうね。

別に俺はそれでも良かったのに」


そう言って、

私の方を向いた。


「侑人さん、

何言って……」


「冗談だよ。

それくらい、言ってもいいだろ?」


侑人さんの笑えない冗談に、

それ以上何も言い返せなかった。


「……本当に演技派の二人だから、

映画の主人公になりきっちゃったんだね。

でも仕方ないな、

おかげで映画は、

こんなにもいい作品になったんだから」


気まずい空気を変えてくれたのは、

渋沢監督だった。


「ほんと、

まだ映画見てるみたいよね」


渋沢監督に乗っかって、

京華も会場の空気を和ませてくれて、

その場は収まった。


「全国公開は3月6日からです。

是非是非、足を運んでください」


侑人さんが強制的に話を終わらせて、


「その台詞は、

監督の僕のだと思うんだけどな~」


渋沢監督が台詞を盗られたと悲しみ、


「今日は本当に、

本当に有難うございましたっ」


私は締めくくりの挨拶をして、

全員で客席に手を振りながら試写会は終わった。


―――当然だけど、

その後私を待っていたのは、

陽流さんの怖い顔だった。


「聖音ちゃん……

自分のした事わかってる?」


陽流さんはめちゃくちゃ怒ってた。


「わかってるよ、

これが私が出した答え。

憶測であれこれ書かれるよりは、

本当の事を話しちゃおうと思って。

今夜のエンタメ決定かな」


笑いながら言った私は、

陽流さんからデコピンを食らった。


「いったぁ……」


それもなかなかの威力。


「認めてもいいとは言ったけど、

あそこまで赤裸々に語る?」


「いや……どこまで言っていいか、

わからないし……」


「はぁ……」


陽流さんは大きくため息を吐いて。


「……でも、

聖音の気持ちは、

十分伝わったと思うよ。

あれだけ堂々としてたら、

今度はメディアが、

味方になってくれるかもしれない。

何より……今の聖音ちゃん、

凄くいい顔してる」


そう言って、

私をぎゅっと抱き締めてくれた。


「本当は怖かったでしょ。

よく頑張ったね」


「陽流さん……」


私は陽流さんに抱きついて、

久しぶりに人の温もりを感じた。


「聖音、ちょっとだけ話せるか?」


そこへ侑人さんが来て、

私は思わず陽流さんの後ろに隠れた。


「……そんなに露骨に避けなくても、

別に襲ったりしねぇよ」


侑人さんはそう言いながら、

両手を挙げた。


「……わかった。

陽流さん、

ちょっと待っててくれる?」


陽流さんは黙って頷いた。


私は侑人さんの後についていった。


侑人さんは少し歩いた所で立ち止まって、

くるっと振り返った。


「俺さ……全部無かったことにしてやる、

なんて、カッコつけて言ったけど、

やっぱ無かったことには出来ない」


「え……」


侑人さんの言葉に、

私は困惑した。


それって……


「そんな顔しなくても、

ヨリを戻したいとか言わないから」


「……」


良かったなんて、

思ってても口に出せない。


「……わかってるけど、

もうちょっと残念がってほしいな。

まぁいいや。

初めてデートした日に、

俺は運命の人じゃない、

これから先も思わない。

そう言ったの、覚えてる?」


私は首を横に振った。


そんな事言ったっけ……。


「……俺はそれを、

宣戦布告だと思って、

ずっと付き合ってたんだ。

絶対俺を運命の人だと思わせるって。

……結局出来なかったけどな」


「……」


「……朝日奈選手は、

聖音の運命の人?」


「えっ……」


話の流れから、

多分来ると思ったけど……


天也は私の運命の人なのかな。


「……わからない。

でも……運命かもしれない」


そうであってほしいとも思う。


そんな曖昧な答えしかない。


「……だったら、

自分の手で運命にしろよ」


侑人さんの言葉は意外だった。


それって応援、してくれてる?


「侑人さん……」


「幸せになれよ」


侑人さんはそう言って、

笑った。


「侑人さんも、

幸せになってね。

……本当の運命の人を見つけて」


侑人さんは、

何も言わず私の横を通りすぎて。


マネージャーの元に戻っていった。


「ありがとう……」


侑人さんの背中に向かって呟いた。


その後は考えるよりも先に、

体が動いていた。


「陽流さん、

ごめんなさいっ!!」


「は、えっ、聖音ちゃん!?」


陽流さんに頭を下げて、

預けていた鞄を奪い取って、

劇場の外に走った。


侑人さんの言葉に背中を押されて。

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