第五話 波乱
―天也と付き合い始めて1週間が経った。
この1週間はホントに平和で、
毎日が楽しくて、
学校行くのが楽しくて。
こんなの初めてって位。
生き生きしてる毎日は。
天也がいるから、毎日が充実してる。
でも、そんな平和な日々は長くは続かなかった―。
「ちょ、マジ有り得ないでしょ。」
「だよねぇ。うざくない??」
「あんな人が好きだったんだァ。」
「ちょっと悪趣味〜。」
あんたらのがうざいんですけど。
―天也と私が付き合ってる事がばれた。
仕方ないんだけどね。
まぁ、隠してた訳でもないけど。
毎日一緒に登下校してるし、
放課後は、天也の応援の為、
四葉に出入りしてるから。
さっきのは、四葉のお姉様方。
天也は転校してきて1ヶ月も経ってないけど、
前からバスケ界のヒーローとして有名人だから、
既にファンクラブもある。
顔もスタイルもいいから、
大人気だもん。
だからね、この位の事は仕方ないとも思った。
今までの悪口に比べれば、マシだし。
ひがまれるのも仕方ないって思った。
だから天也にも黙ってた。
何も言わずに、耐えてた。
悪口なんて受け流せばいいって。
けど、それはすぐに嫌がらせに変わった。
しかも、四葉のお姉様方が、
プリンシアの人間を使って。
四葉と聖プリンシアはかなり近いところにあり、
それなりに交流もある。
だから、知り合いってゆうのも多い。
そのせいで、私は色んな嫌がらせを受けた。
でも私は、負けない。
天也と別れるとか有り得ないから。
卑怯な事しか出来ない奴らだって、同情した。
―そんなある日。
今日は部活無いから、校門で待ってて。
と天也に言われて待っていた時だった。
「ねぇ、今暇なんでしょ?
ちょっと付き合ってよ。」
四葉のお姉様にからまれた。
向こうは3人組で居たから、
無駄な抵抗はせず、ついて行った。
「この辺でいいや。」
と言って止まった場所は近くの公園だった。
そして。
「アンタ何様のつもり?!
ガキが男に手ェ出すんじゃねえよ。」
「天也様は皆のモノよ。
さっさと別れなさいよ。」
「チョ―目障り。
消えてくんない?」
次々と言った。
さすがに腹が立って、久々に、キレた。
「うっせえな。
皆のモノとか、マジ笑えるし。
つーか天也はモノじゃないし。」
当たり前でしょ。
「―ッ!!
優しく言ってる間に聞けよな。
別れろっつってんの。」
ふざけんなよ。
「別れる気なんてねぇよ。
ってゆうか、その顔で、
天也に思われる気でいんの?
マジウケるっ。
お前らにひれ伏す気なんて無いから。
じゃ、私忙しいし。
今から天也とデートなのよね〜。」
嫌味。
ふんっ。いい気味。
「・・・だったら、こうするまでよ」
小さな声でそう言った。
すると、周りの草むらから数人の男が現れた。
―犯されるッ。
直感で思った。
「マジ可愛いんですけど。
こんな子ヤレるとか、うれしー。」
その内の1人が言った。
「マジマジ。
チョ―可愛い。
早く食べてー。」
「早くヤろーぜ。」
男達は口々に言い出す。
そして1人が私に手を伸ばす。
私は必死で抵抗する。
「てめぇらにヤラれて、たまるかっ。」
私に手を伸ばしてきた男の、
大切な部分を思い切り蹴飛ばした。
「ヴッ・・・」
とうめき声を出しながら、その場に倒れ込む。
その隙に、私は逃げようとしたけど、
別の男に掴まれる。
「ちょっ、離してよッ!」
振り払おうとしても、
そこは中2の女の子。
凄い力で掴まれた腕は払えない。
「このクソアマッ。
てめぇ、許さねぇ。」
私が蹴り飛ばした男が言った。
「おい。
お前ら、順番決めとけよ。
俺、マジ腹立ったからよォ。
先にやらせてもらうぜ。」
目が尋常じゃない。
恐怖で抵抗も出来なくなった。
男はそれをいい事に私の上にのしかかり、
自分のズボンのチャックを開けると、
私の服に手をかけた。
「嫌ぁ!やだっ。やめてよッ。
助けてっ。誰かっ!」
必死で叫ぶが、すぐに口を塞がれる。
そして、平手打ちされ、唇が切れたらしい。
血の味がする。
「クソアマっ。
黙ってろよ。
次、声出したら殺すぞ。」
嫌ぁ。
怖い。怖いよぉ。
助けて。
ねぇ、誰かぁ。
天也。天也。
―スカートを脱がされかけたその時だった。
「てめぇら、何してんだよ。」
怒った時の天也の声がした。
ううん。よく似た声。
その声は男達にも天也の声に聞こえたらしい。
「す、すいませんっ」
と言いながら、逃げていった。
逆光で顔は見えなかった。
でも、何故かとても安心した。
恐怖からの解放で、
私は、
「おい。大丈夫か?!」
と言いながら寄ってきたその人の顔も見えない位、
泣きじゃくった。
その上、助かったという気持ちから腰が抜けて、
立てなかった。
「大丈夫か?」
さっきとはまるで違う声。
とても優しい声。
「・・・うぅ。
怖かったよぉ。
ひっく。ぐすっ。」
わんわん泣く私。
その人は自分のコートを私に掛け、
抱き上げて、自分の車まで連れて行ってくれた。
―「落ち着いたか?」
「はい・・・。
もう大丈夫です。
ありがとうございました。」
この一言を言うまでに、30分かかった。
そして、その人はよく見ると、
天也にそっくりだった。
「ホントに大丈夫?
何もされてない?」
「はい。
脱がされかかっただけです。
あ、コート・・・。」
「いいよ。着てなよ。
服は大丈夫?」
「この通りです。
破れたりとかしてないですから。」
土がついただけ。
ホントに助かった。
「そっか。良かった。
あ、家まで送ってくよ。
案内して。」
「あ、いいです。
もう大丈夫ですから。
それに彼氏との約束があるんで。」
天也、待たせてるし。
「どこ?」
「え?」
「待ち合わせ場所。
そこまで乗せてくから。」
優しい。
こんな私に。
「そんな・・・悪いですから。」
「いいから。教えろ。」
言い方は悪くても、
優しさが伝わってきた。
「四葉高校・・・。」
悩んだ末、場所を告げた。
その人は、「わかった」
と言うと、車を出した。
「すいません。
助けてもらった上、
こんな事までさせてしまって。」
ホント感謝してる。
「いいんだよ。
それより君、名前は?
聞いてなかったね。」
「あっ、私、朝日奈聖音です。」
「せねってどんな字?」
珍しい名前だからね。
わかんないか。
「聖なる音で聖音。
あ、天也。
ここで止めてくださ・・・。」
私が言い切る前に車を天也の前で止めた。
「俺は優司。
んで、あいつの兄貴だ。」
・・・えぇぇぇぇっ?!
「あ、あのぉ、どーゆー?」
訳が分からなかった。
「聖音っ。
なんで兄貴と・・・。」
天也も驚いていた。
「えっとー?」
混乱してる私。
「俺は朝日奈優司。
あいつの兄貴。
早く行きなよ。
天也が待ってる。」
「あ、はい。
ありがとうございました。
それとこの事は・・・。」
「分かってるよ。
早く行け。」
内緒にしてって言って無いのに。
分かってくれた?
心が読めるの?
車を降りると、
すぐに急発進させ、走り去った。
降りて、ポカーンとする私を待っていたのは、
天也の質問攻めだった。
でも、天也のせいで、
犯されそうになったなんて、
口が裂けても言える訳無いから。
天也がスネて、
私もさっき起こった事で頭がいっぱいで、
デートが台無しになったのは言うまでも無い―。
―これが優司さんとの出会いだった。