表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/73

第五十七話 天也の秘密

―――「…っ、聖音っ!」


「うわっ!!

びっくりしたぁ……」


急に話しかけて、私は飛び上がった。


「目ぇ覚ませよ!

着いたから」


「嘘…寝てた!?」


えっと…

天也に迎えに来てもらって…


車に乗ってからの記憶が曖昧。


まさか、寝ちゃってた!?


「よだれ、出てるぞ」


天也が真剣な顔で言うから。


「え、やだっ!!」


私は慌てて口を拭いた。


すると天也はそれを見て。


「ぷっ…ははっ!

嘘だよ、嘘。

よだれは出てないから。

さっさと行くぞ」


大笑いしてくれちゃって。


「もぉ~バカバカっ!!」


「八つ当たりすんなって。

そんな事すると…」


「な、何…」


「今日の練習を、

スーパーハードにするけど?」


天也はニヤリと笑って言った。


目がマジだ…


ヤバい。


「…ごめんなさい」


とりあえず謝っとこう。


「しょーがないな、

でも練習は厳しくやるけど」


「……手加減をお願いしマス」


「気が向いたらな」


車を降りて、

バックパックを背負いながら笑った。


…だけど、

その笑顔が、

痛々しくて。


私はこれから、

上手く笑えるかな…


―――「…本当は、

天也のお兄さんとの約束で、

絶対に口外禁止なんだけど……」


昨日の夜、

そう言いながら、

颯ちゃんは話してくれた。


それでもまだ、

全部じゃないだろうけど。


「天也は…

今でこそ元気で、

日本代表としても活躍してるけど、

東京行ってすぐの頃…

睡眠薬飲んで、

自殺しようとしたらしい」


その一言を聞いた瞬間、

私は持っていた鞄を落とした。


そして、

地面に崩れ落ちた。


天也が自殺?


優司さんはそんな事一言も…


「ちょうどオレ、

東京に来てて。

天也ん所に遊びに行ったんだよ。

そしたら天也、

救急車で運ばれてく所で。

お兄さんに教えてもらって、

オレも病院へ向かったんだ。

天也は見ての通り、

助かったけど、

その時の記憶は無くしてた。

それでお兄さんと、

2人だけの秘密にしようって約束したんだ。

どうして自殺を図ったのか、

オレもお兄さんも本当の理由(こと)はわからない。

でも聖音ちゃんと天也が別れたって聞いて、

それが原因だろうなって。

あ、聖音ちゃんを責めてるんじゃないよ。

別れたのは、

それだけの理由があったからだろうし」


「………」


何も言えなかった。


言葉にならない。


私が天也を追い詰めた。


それは事実だから。


「あれ以来、

天也はずっと、

今を生きてないみたいだったんだ。

どこか…

遠い所にいるみたいな。

でも今日の天也は…

今までとちょっと違ってた。

聖音ちゃんも一緒だったし、

ヨリ戻したんだって思ったんだけど…

それは違うんだろ?」


「……うん。

今は、ただのコーチと生徒」


ただの私の片思い。


「…よくわからねぇけど、

オレは、天也は聖音ちゃんの事、

まだ好きだと思うよ」


「…そんな事ないよ。

天也はもう、私なんか…」


好きじゃない。


好きでいてくれるなんて、

そんな都合の良いことない。


「じゃあ一つだけ、

良いこと教えてあげよう」


「良いこと?」


この話の流れで、

良いことなんかある?


「オレ、

聖音ちゃんが出てたドラマ、

見てたんだよ。

たまたま好きな女優が出てたから、

だったけど」


「そこ強調しなくてもいいじゃん」


「まぁ最後まで聞けって。

でな、

天也とそのドラマの話をしたことがあって。

京華ちゃんかわいいよなって言ったら、

聖音が一番だって、

すっげー小さい声で呟いて。

まだ未練あるなって確信した」


後半だけ聞いてれば、

飛び上がっちゃうくらい嬉しいけど…


てゆーか、

まさかの京華ファン?


「…颯ちゃん、

遠回しに私をディスってるよね?」


ちょいちょい挟む要らない情報多すぎ。


「違うって!

聖音ちゃんがかわいいのは、

オレ達四高のバスケ部全員が思ってたんだよ。

あわよくばって思ってる奴もいたし、

聖音ちゃんはモテてたんだ」


「嘘でしょ~?」


だって、

誰も私の事女の子扱いしてなかったよね?


妹ノリでしかなかったし。


「それは天也が、

俺の女に手を出すなって、

すっげー剣幕で言って歩いてたからだよ。

現に…聖音ちゃんにセクハラした奴いただろ?」


「えっと…ふざけてて、

お尻に手が当たったアレ?」


本当に偶然、

ちょっとだけ手が当たっただけで、

あっちもめちゃくちゃ謝ってくれたから、

それで終わりにした…


「あの後…あいつは、

天也に酷い目に遭わされたらしい。

それ以来、

オレ達の間で、

聖音ちゃんへのセクハラは勿論、

好きって言う事すらタブーになったんだ。

だからみんな、

妹として扱おうって結論に至って…

やべ、喋り過ぎだ…オレ」


「…ううん、

色んな事を教えてくれてありがとう」


「今日話したことは全部内緒にしといてくれよ。

じゃあな」


颯ちゃんはそう言って、

電話を切った。


私の知ってる天也は、

ほんの一部なんだって。


そして、

いかに深く、

私を思ってくれてたか。


よく思い知った。


ねぇ天也。


颯ちゃんの言う通り、

まだ私の事…

好きでいてくれてるの?


天也の心に、

もう一度触れてもいい?


―――「聖音っ!!

やる気ねぇのか!?」


天也の怒声で、

私は正気に戻った。


また余計なこと考えてた。


今は何より…

目の前の事に、

練習に集中しなくちゃ。


「ご、ごめんなさいっ!!

もう一度、

お願いしますっ!」


天也のスパルタが炸裂したのは言うまでもない…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ