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第五十三話 初詣

「聖音、初詣行くよ!!」


元日の朝、

私は布団を剥ぎ取られ、

その勢いでベッドから落ちた。


「ふにゃっ……!?」


目を擦りながら、

起きると京華がいた。


両手で布団を持っている。


犯人は京華だったのか…。


「眠たい…寒い…やだ」


「却下!!

早く起きて着替えなさい!!」


京華は布団を空のベッドに戻して、

私を立ち上がらせて、

ソファーに座らせた。


それから何をするかと思ったら、

クローゼットを物色し始めて。


グレーのニットワンピと、

買ったばかりのロングコートを出してきた。


「はい、これ着て」


「やだぁ…」


「自分でやらないなら、

脱がせるけど?」


京華の目が光った気がした。


悪寒がして、

それで目が完全に覚めた。


「…わかったよぉ」


私は渋々スウェットを脱いで、

出されたニットワンピを着た。


「てか、何でいるの?」


冷静になって、思った。


別に約束もしてないし。


連絡もなかったはず…。


「今更すぎだし!」


「今気になったんだもん…」


「なんでもいいじゃん。

さ、行くよ!」


「え、ちょっ…」


私の腕を引っ張り、

ソファーに置いたコートを持って、

強引に部屋の外へ連れ出した。


「聖音借りまーす!!」


京華はリビングに向かって叫んで、

そのまま玄関へ。


勝手知ったるで、

私のニーハイブーツを下駄箱から取り出した。


ブーツを履いてると、

リビングから音緒ママがやってきて、

「京華ちゃん、よろしくね」

とウインクした。


それでなんとなくわかった。


音緒ママが、

京華を呼んだんだって。


侑人さんと別れてから、

仕事が入ってないのをいいことに、

引きこもりしてる私を連れ出させるために。


好きで引きこもりしてる訳でもないんだけどね。


明後日から始まるバスケの練習に向けて、

精神統一というか…


再会してから、

会うのは明後日が初めてで。


フリーになったといっても、

すぐにもう一度彼女にしてなんて言えないし。


言ったって、

今の天也には相手にされないと思うし。


どんな顔で会えばいいんだろうとか。


色々考えてたら、

またちょっと会うのが、

怖くなってしまったというか。


それだけの事。


早い話、

出る用がなかっただけ。


「なーに、一人でぶつぶつ言ってるの?」


「え、声に出てた?」


完全に無意識…


ヤバい人じゃん!


「とりあえず、

芝大神宮にお参り」


「京華は毎年お参りしてるんだ」


「当たり前でしょ?

ちゃんとお礼をしないとね」


「信心深いねぇ」


「聖音は、

絶対初詣行かない派でしょ?」


「イエス。

寒いのやだもん」


「これだから、

最近の若いのは…」


京華はやれやれという顔をして言った。


あんまり年変わらないのにな…。


「マネージャー待ってるから、

早く行くよ!」


京華はエレベーターのドアが開いたと同時に、

外へ飛び出した。


「え、待ってってばぁ!」


乗り気じゃないけど、

ここに置いてきぼりもなんか嫌だなと思って。


京華を追って、

私もエレベーターから出た。


てか、コート!!


くれなきゃ寒いじゃん!!


しかもまだ、

一度も袖を通してないやつ!!


「コートぉーっ!!」


追ってるのは京華なのか、

コートなのか…。


「はいはい」


京華は先に行ったと思ったのに、

玄関ホールの入り口で待ってくれてて。


持ってたコートを私に着せてくれた。


やっぱいい、このコート。


一目惚れして買ったけど、

大正解だった。


「途中で着せて、

帰られたら連れ出した意味ないもの」


「そんなに信用ない、私?」


ちょっと悲しい…。


ここまで出て来て、

帰るわけないのに。


「あれだけ嫌がってたらね、

さすがに警戒するでしょ?」


うっ…


それを言われると反論出来ない…。


「ちゃんと行くってば…」


何度も言うけど、

家を出る用事がなかっただけで。


引きこもりの予定はないんだけど。


やれやれ…


音緒ママは、

一体何と言って京華を呼んだんだろう。


まぁいいや。


「じゃあ、いつもの所へ行ってね」


車に乗り込みながら、

京華は運転席のマネージャーに向かって言った。


「はい」


「すいません、いつも。

お世話になります」


私もそう言って、

京華の隣に座った。


「一人も二人も変わりませんよ」


マネージャーさんはそう言って、

にっこり笑ってくれた。


それから車はゆっくり走り出して。


神宮に着くまでずっと、

2人で喋っていた。


―――「おーいっ!!」


神宮の鳥居をくぐった時、

後ろから誰かに呼ばれた…気がした。


「私ら呼んだのかな?」


「…スルーしよう」


私達は何もなかったように、

また歩きだした。


その時。


「おりゃっ!」


「うわっ!!」


京華の背中に誰かが飛び付いた。


ニット帽を被って、

サングラスをかけているけど…


その物凄い芸能人オーラは隠せていない。


こんな事するのって…

彼女しかいない。


「こら、花菜子っ!!」


「当ったり~♪

てか呼のに、無視はなくない!?

聖音、久しぶり!!」


私の数少ない友人の一人、

モデルの遠野花菜。

(本名鍋島花菜子なので、

京華は花菜子と呼ぶ)


しばらく海外でモデルをやってて、

会うのは本当に久しぶり。


「何でここに?」


「多分今年もいるだろうなと思ってさ」


「帰国は明日じゃなかった?」


そういえば、

そんな事言ってたっけ。


「予定繰り上げて、

昨日の便で帰って来たんだけど、

時差ボケで昨日は動けなくてさぁ。

あ、後でお土産渡すね」


「ありがとう、花菜」


「聖音には結婚祝いも含…もががっ!」


京華が焦って花菜の口を塞いだ。


花菜にはまだ、

結婚やめた事言ってなかったもんね。


「このバカ!!

空気読め!!」


怒る京華に、

何故という表情を浮かべる花菜。


ちょっと面白いけど、

ちゃんと言わなきゃね。


「ありがとう、京華。

でも大丈夫。

もう大丈夫だから」


気を遣って、

車中でもその事に触れなかったんだよね。


ありがとう京華。


でも本当に大丈夫だよ。


「あのね、花菜。

私、侑人さんとの結婚やめたの」


花菜の耳元で小声で言った。


これ程の人混みで、

どこで誰が聞いてるかわからないもん。


「ええーっ!?」


花菜の大声に、

周りの人が一斉にこっちを見た。


すぐに花菜の口を押さえて黙らせる京華。


私は平謝りして、

境内への列から抜けた。


花菜を連れて、

京華も抜けてきた。


「こんな所で大声出すな、バカ!!」


「ごめん!!

でもなんで…」


「…数日前の話だったからね」


「バカ花菜子」


「花菜子言うなっ」


「バカはいいんだ!?」


「バカもダメだけどっ」


どこからか、

話が反れてもうわけわからない。


けど2人の言い合いは面白い。


「ぷっ…ははっ!」


「こら聖音!!

笑ってる場合じゃないから!!」


「京華は頭固すぎ!」


「もうやめようよ~

お参りに来たんでしょー?」


最初の目的忘れてるよね?


絶対。


「やだー、

聖音が一番イイコじゃん」


「もういいわ。

行こう、聖音」


京華は、

私の腕を掴んで、人混みに戻った。


「ちょっとぉ!」


後から花菜もやってきた。


「後でちゃんと説明してもらうからね!」


そう言った。


「後でね」


それから、

私達は3人揃って無事にお参りして。


冷えた体を温めるために、

一番近くだった、

花菜のマンションへ避難した。


そこで花菜から質問攻めにされ。

(京華がフォローを入れてくれたけど)


休みなはずなのに、

全然休めないってどういう事!?


だけど、

おかげで気分は少し晴れた。


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