第四十四話 2度目の本気
私の21歳の誕生日は、
特別な日になった。
「はいカーット!
これで全てのシーンの撮影終了です!!
お疲れ様でした」
今日、
初主演映画『虹の空に』は、
クランクアップを迎えた。
そして…
「今日は聖音さんの誕生日ということで、
ケーキ用意しましたー」
私は、
21歳の誕生日を迎えた。
撮影が終わったのと同時に、
花束をいただき、
そしてケーキが運ばれてきた。
苺がたくさんのった、
特大サイズのケーキには、
21本のロウソクが立てられていた。
真ん中には、
『Happybirthday聖音さん』の文字。
「うわぁ…
ありがとうございますっ!」
ADさんが全てのロウソクに火を灯すと、
スタッフ共演者全員から、
ハッピーバースデートゥーユーの合唱のプレゼント。
「嬉しい…!」
「さぁ聖音ちゃん。
ロウソクを吹き消して」
さっきまで怖い顔で、
メガホンとってた渋沢監督が、
にっこり笑顔でそう言った。
「はい!!」
21本のロウソクは、
想像以上に手強くて。
消しきった時は少しだけ、
酸欠状態になってしまった。
「おめでとう聖音ちゃん!」
「おめでとう!!」
「ありがとうございます!!
本当にありがとうございます!!!」
嬉し涙を流しながら、
私は次々に頂くお祝いの言葉に、
お礼を言った。
「じゃあ聖音さん、
一言お願いします」
「え!?
わ、わかりました…」
突然スタッフさんに言われて、
何を話せばいいか戸惑いながら、
話し始めた。
「えーと…まずはありがとうございます。
こんなに盛大に祝っていただけて、
とても嬉しいです。
そして…
9ヶ月間、
お疲れ様でした。
スタッフをはじめ、
出演者のみなさんと共に、
作品を作り上げる事が出来て、
とても満足しています。
主演の身でありながら、
沢山ご迷惑心配をおかけして、
本当に申し訳ありませんでした。
最後まで見捨てずにいて下さり、
ありがとうございます。
そして今日という日を迎えることが出来て、
本当に嬉しいです。
ありがとうございました!!」
パチパチパチパチと、
一斉に拍手が鳴り響いた。
挨拶を終えた時、
私の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
この9ヶ月間、
本当に色んな事があった。
良い事も悪い事も。
初主演という記念すべき作品。
そのクランクアップには、
いつもの何倍もの喜びがあった。
しかも誕生日。
これ以上ないくらい、
幸せだった。
「実は聖音さんに、
サプライズゲストが来ています!!
どうぞ~!!」
「えっ、誰!?」
スタッフさんに呼ばれて、
現れたのは…
先に全てのシーンの撮影を終えて、
今日は別のロケに行っているはずの、
侑人さんだった。
「うそ…」
両手いっぱいの、
薔薇の花束を持って。
少し緊張している。
「おめでとう、聖音」
「ありがとう…でもロケ…」
「本当は今日は、オフなんだ。
聖音に驚いてもらおうと思って」
侑人さんは、
そう言って笑った。
「もう…バカ…!」
「今日はね、
大切な話があって来たんだ。
皆にも聞いてもらいたい。
いいかな?」
侑人さんは急に改まって言った。
大切な話?
一体何だろう。
ドキドキしながら、
コクンと頷いた。
「…俺は聖音が収録中に倒れた時、
とても怖かった。
このまま、
もう2度と会えなくなってしまうのか。
大切な人を失うのかと。
だから、
病院で聖音の顔を見た瞬間、
本当にほっとした。
そして決めたんだ」
「…何を?」
「ガキの頃の、
ちっぽけな約束だからじゃない。
今の俺が、
聖音を愛してるから。
死ぬまで一生一緒にいたいのは、
聖音だけなんだ。
だから、俺と…
結婚してください。
世界一幸せにしてみせる」
侑人さんは頭を下げて、
手を前に出した。
飾らない言葉だからこそ、
すっと心に沁みた。
これは初めて会った日の、
冗談混じりなんかじゃなく。
本気のプロポーズ。
不思議と私の答えは決まっていた。
多分、
再発して死ぬかもしれないと感じた瞬間、
彼の顔が浮かんだ時に。
そして彼も、
同じ事を感じたんだと思う。
「……はい」
もう1分1秒も無駄にしたくない。
ずっと、一緒にいたい。
あんなに嫌いだったあの人が。
絶対に好きにならないと決めていた人なのに。
こんなにも大切な人になった。
「宜しくお願いします」
私が侑人さんの手を握った瞬間、
ワァァっと歓声が上がり、
拍手の渦が巻き起こった。
「聖音!!」
「きゃっ!!」
侑人さんは私の手をぐいっと引っ張り、
お姫様抱っこしてみせた。
「もう…本当にバカなんだから…」
侑人さんは、
涙でぐちゃぐちゃの顔で、
泣きながら怒る私を、
ぎゅっと抱き締めて、
「愛してる」と囁いた。
―――こうして、皆に祝福され、
私達は結婚の約束を交わした。
聖斗パパと音緒ママにも、
2人揃って報告し、
婚姻届は夫婦の日の、
2月2日に提出することに決めた。
4ヶ月も先だけど、
ずっと幸せでいたいという思いも込めたくて、
日だけは譲れなかった。
ひっくり返せばS2ハートマークになる、
この日以外考えられない。
世間への発表は、
ドラマの最終回を待って、
記者会見を開こうということになった。
これはドラマのプロデューサーの意向。
ドラマの設定上、
今私達が結婚というのは良くないみたい。
マスコミにも、
一切の報道を許さず、
それには陽流さんが駆け回ってくれた。
公表後から一緒に住む新居も決めて、
着実に新しい生活に向かって進んでいた。
私は今までの人生で、
一番幸せな時を過ごしていた。