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第四十二話 ドキドキ

その日の面会時間の終了ギリギリに、

侑人さんはお見舞いに来てくれた。


「大丈夫か?」


「うん、点滴したし」


「ビビった…

目の前で真っ青な顔になって、

気を失ったから」


私が倒れた時は、

侑人さんと、

姉役の塩谷まりさんとのシーンのリハ中だった。


「ごめんなさい、驚かせて」


「…こんな事思ったらいけないけど、

2人きりの時間が出来て嬉しい」


普段はイメージを守って、

クールなチャラ男なのに、

私と2人になると、

いとも簡単に崩れる。


そんな所が、

私だけ特別って感じさせてくれて、

ちょっといとおしい。


「いきなり忙しくなっちゃったから、

収録以外で会えなかったもんね」


「俺にも一言相談してくれよな」


「ごめん…

でも思ってたより、

バラエティやれてる」


「それは受ける仕事がいいからだろ?」


「それ正解。

陽流さんに任せてたら問題ないもん」


「敏腕マネージャーがいるの、

すっげー羨ましいわ」


「でしょー?

私にはもったいないくらい」


陽流さんは、

どこに行っても褒められて、

嫌いっていう人はいない。


顔も広いし、

本当に最高のマネージャー。


だから、

たまには陽流さんの顔もたてなきゃと、

バラエティも限定でOKしたんだけど…。


逆に裏目に出ちゃったな…。


「…でも思ったより元気にしてて、

安心したよ」


「……ありがとう。

時間大丈夫?」


「ああ。

あと30分くらいなら平気」


侑人さんはベッドに腰かけて、

私にキスした。


その後は、

特にこれといった話はせず、

侑人さんのマネージャーが迎えに来るまで、

甘い時間を過ごした。


…だけど、

白血病の事は何も言えなかった。


侑人さんは、

私が白血病だった事すら知らない。


自分が受け入れたくないから、

余計に口にしたくないって、

そんな思いもあった。


嫌でも明日、

検査したら結果が出る。


きっと、

侑人さんが来てくれてなかったら、

私はもっと沈んでた。


再発してたら、

助かる確率が低いこと。


私は十分にわかってるから。


それでも1度勝てたんだから、

きっと次も勝てるはずだって、

楽天的だけど勇気が持てた。


―――そんな気持ちで迎えたから…


検査結果が出て、

先生から告げられた時、

最初に怒りが沸いた。


「検査の結果ですが…

単刀直入に申し上げます。

白血病は、

再発しておりません」


「はっ!?

聞き間違い…じゃないですよね?」


「はい。

搬送されてきた時は、

赤血球の数値がかなり低く、

再発を疑いました。

しかし、

今は安定しています。

疲労が蓄積した事による、

一時的なものだった可能性が高いです」


「…そう、だったんだ」


一気に力が抜けた。


「ですが今回のような事が、

2度3度起こるようなら、

その時は…」


先生はその先を口にしなかったけど、

言わなくてもわかる。


だから、

あえて濁したのかもしれない。


「医者としては、

しばらくは安静にしてもらって、

月に1回は診せて欲しい所だけど…

それは難しいですよね?」


「…はい」


ただでさえ、

丸2日も休んでしまって、

迷惑かけてるのに。


「どんなに忙しくても、

毎食きちんと食べて、

栄養を摂ること。

少しでも体調が悪いと感じたら、

すぐに病院へ来て下さい。

それを約束していただけるなら、

退院を許可します」


「本当ですか!?」


また長い入院生活が待ってるのかと、

憂鬱だったのが、

一瞬で吹き飛んだ。


「約束ですからね?」


「はい!!」


退院の4文字以外は、

耳を通り抜けて。


私は退院出来るっていう、

喜びだけでいっぱいだった。


先生が病室を出た後、

すぐにベッドから降りて、

着替えて。


脱いだスウェットと、

残りの荷物を鞄に詰めた。


いつでも帰れる準備をして、

その時を待っていた。


「朝日奈さん、

退院の手続きお願いします」


準備を終えてから、20分後。


やっと看護師さんが呼びに来てくれた。


「今行きます!」


私は超ハッピー!!な気分で、

病室を出た。


支払いを済ませて、

タクシーの手配をお願いしようとした、

その瞬間。


「聖音!」


ふいに名前を呼ばれて、

振り返るとそこに、

侑人さんが立っていた。


「え…侑人さん!?」


驚かせようと思って、

誰にも退院の連絡はしてなかった。


なのに、なぜ!?


「もう退院なんだ?

良かった、間に合って」


「どうして…」


「昨日は収録で来れなかったから、

今日は抜けさせてもらったんだよ」


「そういう事じゃなくて」


「ああ、なんでいるかって事?」


「そうだよ。

驚かせようと思って、

内緒で退院したのに」


「それなら十分驚いてるし。

一昨日来た時、

様子がおかしかったから、

気になって。

でも昨日は抜けられなかったから、

わがまま言って、

2時間だけ時間もらったんだよ」


私が白血病の事を言えなくて、

モヤモヤしてたの、

気付いてたの?


再発したかもって不安とか、

顔に出てた?


「でも…元気そうで安心した。

しかもグッドタイミング」


侑人さんは笑った。


それは多分、

再発じゃないとわかって、

私がほっとしているから。


「…ありがとう、来てくれて。

ついでに家まで送ってくれる?」


「はいはい、

人使いの荒いお姫様」


やれやれという顔をしながら、

多分喜んでるにちがいない。


だってほら。


口元が緩んでる。


「そんな意地悪言うならー、

タクシーで帰るけど?」


わざとひねくれて、

ついつい愛情確認しちゃう。


だってこの人、

今をときめく超人気俳優、

貴臣侑人なんだもん。


「ちゃんと送っていくから。

乗ってって下さい」


「しょうがないなぁ」


そう言いながら、

私は喜んでいる。


この人、

私の事を凄ぉく好きって事が、

ちゃんと態度に出てるもの。


そして、

歳上なのに、

そんな子供みたいな侑人さんを、

私は好き。


本人には言ってあげないけどね。

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