第四十一話 再発
「吉報よ、聖音ちゃん!!
秋の連ドラ決まったわ!!
月9で、ヒロインの妹役!!」
北海道ロケを終え、
帰って来てすぐの事だった。
久しぶりのオフで、
のんびりしていたら、
突然陽流さんが家にやってきた。
そして、
普段の3倍のテンションで、
月9が決まった事を話してくれた。
「また妹役?」
何故か妹役が多い気がするのは、
気のせい?
「今度は死なないし、
姉よりモテる妹なのよ?」
THE月9みたいな話を想像した。
多分正解だと思う。
「姉と男取り合うわけだ?」
「その辺は…まぁ置いといて。
姉の恋人役が、
貴臣さんなのよ。
また一緒出来るでしょ?」
陽流さんは、
私と侑人さんが恋人同士だと知っている。
なんせ、マネージャーだし。
すぐに報告してと、
いつも言われていたし。
でも、私達が付き合っていることは、
世間にはまだ公表してない。
だからといって、
全く知られていない訳でもなくて。
この業界では、
噂にはなってる。
堂々と公開プロポーズしてくれちゃったし。
…まだ結婚すると決めた訳じゃないけど。
「それでね、
連ドラの撮影が、
8月の頭から始まるのよ。
映画の撮了まで、
ハードスケジュールになるけど、
大丈夫?」
「うーん…多分大丈夫。
最近調子いいし。
断ったら、
仕事貰えなくなるよね」
制作サイドが考えて、
私をと選んでくれた。
それを簡単に断ることも出来ないし、
断ればもう来ない。
ここはそういう世界。
「心配しなくても、
なくなったら、
また駆け回って仕事取るわよ」
「ありがとう、陽流さん。
でも私、
月9やりたい」
そんな陽流さんがマネージャーだから、
私は頑張りたいと思える。
「そう?
じゃあ正式に返事をしておくわ。
それから…
今までにずっとNGにしてたけど、
そろそろバラエティもやってみない?」
「え!?」
女優デビューから、
私はバラエティだけは出ないと決めていた。
理由は、
私が聖斗パパと音緒ママの娘だから。
バラエティに出れば、
扱いは2世タレント。
嫌でも、
プライベートを根掘り葉掘り聞かれる。
それが嫌だから。
過去の事とか、
両親の事とか。
今は、
侑人さんとの事だって、
聞かれるかも。
上手くはぐらかせればいいんだけど、
それが出来ないから。
ずっと今までNGにしてきた。
それを陽流さんも受け入れてくれて、
尊重してくれていた。
それを、
敢えてやってみようと言ったのは、
多分かなりのオファーが来てるから。
薄々気付いてた。
陽流さんが各所に頭を下げて、
私の最小にして最大のわがままを、
通させてくれてたこと。
「…わかった。
陽流さんの判断で、
受けて」
「本当!?
なるべくゲスいのは取らないからね」
…その後、
陽流さんは私がOKを出すと、
あっという間に3本決めてきた。
それが、
今までにない、
ハードスケジュールを産み出した。
オフが1ヶ月先までない、
ありがたいような、
ありがたくないような状況。
連ドラ、映画、バラエティと、
雑誌の撮影なんかも続いて。
「顔色悪いよ、聖音。
ちょっと働きすぎじゃないの?」
「へーき、へーきっ!!
いってきまーす」
そう言って家を出た、
3時間後。
私はドラマの撮影中に意識を失って、
救急搬送された。
―――「……っ」
「聖音ちゃんっ!?」
気がついて、
陽流さんの泣きそうな顔を見て、
やってしまったと思った。
何度も経験した状況だから、
すぐにわかる。
無機質な白の天井。
一定のリズムを刻みながら落ちる、
点滴。
「病院…」
「良かった…意識が戻って」
「ごめんなさい。
迷惑かけて」
「そんなの、心配しなくていいから。
今はゆっくり休んで。
ちょっと電話してくるから」
「はい…」
陽流さんは、病室を出て行った。
思えばここ1週間くらい、
どんなに休んでも、
疲れが抜けなくて。
ずっとだるくて。
でも休んでばっかりもいられなくて。
今日を乗り切れば、
明日はオフだったから。
頑張ろうと思ってたのに。
コンコンコンっ!
病室の扉を誰かがノックした。
「聖音、入るよ」
音緒ママの声だ。
陽流さんが連絡したのかな。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫じゃないけど」
「もう、そんな冗談言って」
「えへへ…」
音緒ママは、
ソファに座って、
ため息をついた。
「ごめんね…」
「もっと体を大事にしなきゃ。
大きな病気してるんだからね」
「うん…」
もう何年も調子良かったし、
完治の宣告も受けたから、
大丈夫だと油断してた。
「聖音ちゃん、入るよ」
病室の外から声がして、
陽流さんが戻ってきた。
「あ、音緒さん。
いらしてたんですね」
「ええ。
連絡ありがとうございます」
「いいえ。
それより、
先生からお話があるそうです」
「わかりました、
行ってきます」
陽流さんとバトンタッチするように、
今度は音緒ママが出て行った。
「君恋の撮影は、
聖音ちゃん抜きのシーンを進めるそうです。
3日間の仕事は全部キャンセルしたから、
ちゃんと休んでね」
陽流さんは、
スケジュール帳に書き込みながら言った。
「はぁい…」
「それから…
後で貴臣さんが来るって」
「侑人さんが?」
こんな所見られたくないけど…
会えるのは嬉しい。
まともに会う時間も作れないでいたから。
「それじゃあ私は、
事務所に戻るから」
「ごめんなさい」
陽流さんは帰っていった。
静かになった部屋で、
私はただぼんやりと天井を眺めてた。
しばらくして、
音緒ママが暗い顔をして、
戻ってきた。
嫌な予感がした。
「今日はこのまま病院に、
入院ですって」
「うん」
「それからね…
明日詳しい検査をしないと、
まだ断定は出来ないけど…
もしかしたら、
白血病が再発したかも、
しれない…」
「………」
あまりにも突然で、
言葉が出てこなかった。