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第三十二話 本当の心

「こんなんじゃ、

女優失格じゃん……」


鏡に映る、

酷い有り様を見て、

ため息が出る。


オフで本当よかった。


もう一度ため息をついた時だった。


LINEの通知音がなった。


『今、聖音の家の前にいるんだけど』


相手は京華だった。


家の前にいるとか、

若干怖いんだけど。


あ、そっか。


京華は私の家知ってるんだった。


でも近くのコンビニまでだったような…。


返事を送る前に、

今度は電話が掛かってきた。


「ちょっと、返事遅いんだけど」


「ごめんごめん、

今どこ?」


「コンビニ。

早く来て」


やっぱりね…


「わかった、

すぐ行くから待ってて」


そう言って電話を切った。


コンビニまでなら、

これでいっか、

と部屋着のジャージのまま出た。


だったから…


「嘘でしょ!?」


京華は驚いていた。


そういえば…

このジャージ、

バリバリの頃に買ったから、

ヤバい系だった。


「あんた…まさかとは思ったけど、

本物だったんだ」


ちょっと感動しながら言う京華。


「元だよ、元!」


この格好じゃ、

説得力ないよね~。


「…とりあえず早く着替えて」


「起きたばっかだったんだよっ!

帰ったらすぐ着替えるし。

ってか、そんなに距離…」


京華は私の1m後ろを歩いている。


並ぶのも嫌なの!?


「だって…その般若睨んでるし」


「気のせいだから!

こういう顔のデザイン!!」


「もしかして…入ってる?」


急に小声で眉間に皺を寄せて言った。


「はぁっ!?」


「だから…その、

あれよ、あれ」


「まさか刺青?」


「…声に出すのも恐ろしい」


「いや、入ってないから!!

ってか、

ヤンキーにどんなイメージ持ってるの!?」


声には出さないけど、

そんな清純キャラと違うでしょ、

京華。


まぁ絶対言わないけど。


「ここが私ん家。

っても、親のだけど」


「…なんでこんな金持ちのお嬢様が、

元ヤンなんだろう……」


「色々あったの、

人にはあんまり言えないことが」


「ふぅん……

お邪魔します」


「どうぞ、

散らかってるけど」


京華を自分の部屋に案内する。


そして、

落ち着いた所で、

クローゼットから服を出して着替えた。


「凄いね…堂々と裸見せれるなんて」


「こうでもしなきゃ、

信じないでしょ?」


ほんとはちょっと恥ずかしいけど。


「確かに入ってない…」


なんか残念な感じの京華。


だからヤンキーに…

もういいわ。


「説明してもわかんないと思うけど、

私は元ヤンって言っても、

不良グループのオニイサマ達に、

遊んでもらってただけだよ」


多少は悪いことしたけど、

便乗してたって感じ。


「ソレ意味わからないわ…」


「わからなくていいと思うよ…」


きっと永遠に理解できないと思うから。


「それより……何か用事だったんじゃ?」


急に約束もなしに家に来たんだから。


まぁ…なんとなく察してる。


「…本当はやめようかと思ったけど、

やっぱり聞かせてもらおうと思って。

目の前で繰り広げられた惨状について」


「惨状…」


あれって惨状なの?


「ドラマか!?って、

ツッコミ入れたいくらいよ」


「それを惨状って言う?」


「じゃあなんて言えばいい?」


私に聞かれても…


「…喧嘩?」


「それじゃあ普通過ぎてつまらないわ!」


他人事だと思って…

もういいよ、なんでも。


「…じゃあ惨状でいいよ。

ところで、優司さんは何か言ってた?」


「泣きそうな顔して、

格好悪いとこ見せてごめんって、

それだけ。

だからこっちは、

意味わからない事だらけで、

モヤモヤして帰ったんだから。

責任取ってよね」


「ごめんね…

顔見たら抑えきれなかった…」


「……」


「本当は…

終わった事だと吹っ切ったつもりだった。

だけど…全然だった。

一瞬であの日に戻ったような気がして…

気がついたら殴りかかってた。

…大好きな人と別れなきゃならなくなった、

その原因を作ったあの人を」


「聖音……」


「優司さんが言った通り、

私は優司さんの弟、

天也と付き合ってたの。

色々あって、

優司さんと知り合って…

その後2人が兄弟だって知った。

優司さんは弟の彼女って事で、

私を妹みたいに可愛がってくれたし、

私もお兄ちゃんと思ってた。

でもね、

それ以上の気持ちは私にはなかった。

誰より天也を愛していたし、

天也も私を思ってくれてたから…。

そんな時、

天也が上京する事になってね。

学校辞めて、ついていく事にしたの。

まともに通えてない学校だったし。

そのまま、いずれ…

結婚するんだって思ってた。

でもその出発の前日…

嬉しさとか、

なんか色んな気持ちでいっぱいになって。

遠足の前日の子供みたいな気持ちかな。

で、眠れなくてね。

散歩に外に出たの。

その時に偶然優司さんも外に出て来て。

コンビニまで散歩して。

帰りに優司さんに誘われるまま、

2人の家に寄ったの。

寝顔見ようと思って…。

天也の部屋に向かおうとした時だった。

油断してたんだと思う。

…優司さんに後ろから抱きつかれて……

そのまま……

抵抗しきれなくて……

優司さんに抱かれた………」


「…もういいよ、

それ以上言わなくて」


京華は泣きながら、

私を抱き締めてくれた。


「お兄ちゃんだと思ってたの…

だから油断して……」


「もういいよっ」


「もう天也の側に居られない。

だから別れた……

でも……っ!

まだこんなに好きなの…

忘れられないの……!」


自分の気持ちを、

こんなに誰かに話したのは初めてだった。


しかも出会って間もない友人に。


優司さんとの再会で、

ここまで追い詰められるとは思ってなかった。


ううん、

口にした事で、

私ははっきりわかってしまったから。


忘れたとか、

もう吹っ切ったとか、

強がっていたけど、

本当は何も思い出になんて出来てなかった。


見る夢はいつも、

幸せだった頃。


無邪気に笑って、

3人で過ごした頃。


私が少し我慢したら、

あのまま続いていたのかな。


……なんて。


「…今の聖音に、

こんな話をするのは酷なのかもしれない。

だけど、言うよ」


私は京華の言葉に、

黙って頷いた。


怖いけど、

今聞かなきゃならない気がしたから。


「私ね、

優司くんの事好きだった」


「うそ……」


衝撃が走った。


でも…好きだった?


「本当。

でね、打ち明けたというか…

告白した事があるんだ。

結果は惨敗だったんだけど…

その時に優司くん言ったの。

俺には好きな子がいるんだって。

でもその子は永遠に俺には振り向かないって。

そんな事ないよって励ましたんだけど、

泣きそうな顔で笑って、

その子は俺の弟の大切な子だからって。

俺の大事な弟と妹だから、

邪魔したくない。

そう言ったの…」


「それ……」


間違いなく私と天也の事だ。


「昨日、聞いた会話で思い出したの。

まさか…それが聖音だったなんて」


今私が思ってる以上に、

京華は複雑な思いしてるのかも。


好きな人にフラれた原因が、

友達だったなんてさ。


だから…その後の一言を聞けて良かった。


それがなかったら、

もう京華と顔合わせられないとか思ったから。


「…でも逆を言えば、

相手が聖音で良かったよ。

女の私でも可愛いって思っちゃう、

可愛い聖音だから。

それにね…

優司くんの事はもう終わったから」


「そうなんだ…」


私が話した事が原因で冷めてしまったのなら、

本当にごめんなさい。


そんな思いが表情に現れてたみたい。


「誤解しないでね?

聖音との事を聞いたから冷めた、

とかじゃないよ?

ただ単に、

違う人に恋したからで。

じゃなきゃ、

友達関係になんてなれないし。

…私も優司くんの気持ち、

少しは分かるからさ。

叶わないとわかってても、

諦めきれない恋ってやつ」


そう言った京華の顔は、

ものすごく大人に見えた。


3つしか違わないのに。


「なんでだろうね。

聖音とはかなり気が合うみたい。

もう何年も前からの友達みたいに思えて、

誰にも話してない事、

べらべら話しちゃうよ」


「私も。

自分の半身みたいに感じちゃう」


私達は、

顔を見合わせて、笑った。


私は京華に話した事で、

ずっとつっかえていた物が取れたみたいに、

気分が軽くなった。


それと同時に、

優司さんの心に触れて、

少しだけ許してもいいかと思えた。


ずっと立ち止まっていたあの日から、

やっと一歩踏み出せた気がした。

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