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第三十話 偶然、必然

「お疲れ様でしたー!!」


「お疲れ様でーす」


2日目の収録も無事に終わった。


今日は2回NGを出してしまって、

もう最悪。


特別難しい場面でもなかったけど、

セリフがね…。


久しぶりにヤンキー姿したら、

なんか色々、

封印してたのが解かれちゃって。


セリフ思いっきり飛んじゃった。


今日は反省会だわ。


「おーい、聖音!」


スタジオの出口で、

京華が私を呼びながら、

手を振ってた。


「ごめん!」


急いで駆け寄った。


「そのまま行くよね?

多分もう待ってると思う」


「うん。

楽屋に行って鞄取ってくるね」


「オッケー。

後で私の楽屋に来て」


「わかった」


京華は先に楽屋に向かった。


私もスタジオを出て、

楽屋に戻った。


「お疲れ様です、

聖音さん」


「陽流さん!?

待ってて下さったんですか?」


陽流さんには、

今日は先に帰っていいと伝えてあった。


でも楽屋で待っててくれたみたい。


「やっぱり、

お疲れ様って言いたかったので」


「ありがとうございます」


陽流さんにぺこっと頭を下げた。


陽流さんは手帳を開いて、

「明後日は…

聖音さんの出番は午後からなので、

正午すぎにお迎えに上がりますね」

と言った。


「わかりました、お願いします」


「では、失礼します。

くれぐれもスキャンダルはなしで。

私は女優聖音を、

スキャンダル女優にする気はないですから」


陽流さんは楽屋を出ながら言った。


「それは大丈夫ですよ。

問題ありません」


そう。


私には、

今は恋愛する気はない。


目の前の女優という仕事だけを見つめて、

頑張りたいの。


だから、なんにも問題ない。


それに、

会うのは京華の彼氏だろうし。


この時の私はそれを1ミリも疑ってなかった。


「お待たせ、京華」


京華の楽屋に行くと、

マネージャーと話してる最中だった。


私の顔を見て、

京華のマネージャーは部屋を出ていった。


「あぁ、聖音。

ちょうど良かった。

もう出れる?」


「大丈夫だった?

話してるとこだったよね?」


「あ、うん。

もう終わったから平気。

車回してもらうから」


「そうだったんだ」


「じゃあ行くよ」


「うん」


そう言って、京華は先に歩き出した。


「彼氏、どんな人?」


エレベーターの中で、

思いきって聞いてみた。


返ってきたのは、

思いがけない答え。


「彼氏?誰の?」


「え!?」


「ちょっと待って。

聖音は、

私が彼氏を紹介すると思ってたの?」


私は黙って頷いた。


違うの?


「あははっ!

残念だけど、

彼氏いないの。

今日紹介するのは、

ただの友達よ」


「なんだぁ~、

そうだったんだ」


「もう、勝手に勘違いしないでよ」


「ごめーん」


私は平謝り。


ちょうどエレベーターが地下に着いた。


「まぁでも、

すっごいイケメンのモデルだから、

聖音も惚れちゃうんじゃない?」


京華はそう言いながら、

車に乗った。


イケメンかぁ。


それは目の保養かも。


ちょっとだけ、

わくわくしてきた。


業界の知り合いが増えるのは、

悪い事じゃないし。


「すいません、

お世話になります」


私は運転席にいる、

京華のマネージャーに挨拶して、

後部席の京華の隣に座った。


車はゆっくり動き出した。


テレビ局からそのお店までは、

10分ほどで着いた。


「ありがとう。

帰りはタクシー拾うから、

先に帰ってね」


京華はサングラスをかけて、

車から降りた。


「わかりました。

では明後日は、

8時にお迎えに上がります」


マネージャーは、

私が降りてドアを閉めると、

走り去った。


「待ち合わせです」


京華は店員にそう告げると、

奥の個室に向かった。


「ここよく来るの?」


こそっと京華に聞いた。


店員とのやりとりの感じがなんとなく。


「たまに、だよ。

ここは完全個室があるし、

他にも業界人は結構来てるみたい」


「へぇ~」


言われてみれば、

落ち着いた雰囲気だし、

高級感もある。


しかもよく見れば、

あの一番奥の席に座ってる人、

前にテレビで見たような…。


サングラスしてるから、

違うかもしれないけど。


「入るよー?」


京華は扉をノックして、

中に向かって言った。


そして、

扉を開けた瞬間、

私は凍りついた。


「京華ちゃん、久し…」


その人も私と目が合った瞬間、

言葉を失った。


「優司さん…」


「…聖音」


そこにいたのは、

天也の兄、優司さんだった。


私を助けてくれた人。


そして、

私を無理矢理抱いた人。


あの日の事が、

鮮明に蘇る。


「…帰る!」


私は背中を向けて、

外に向かって走り出した。


「ちょっ、聖音っ!?」


京華の叫び声は、

今の私の耳には入らない。


もう2度と会いたくなかった。


全てを壊した元凶。


だけど、

油断した私も悪かったの。


わかってるけど…


恨まずにはいられない。


大好きな人と、

良く似た顔と長身のあの人を。


「頼む、待ってくれ!!」


結構走ったつもりだったのに、

呆気なく追い付かれた。


「放してっ!!」


掴まれた腕を、

必死で振りほどこうとしたけど、

やっぱり勝てない。


「そのまま…後ろ向いたままでいいから、

話を聞いてくれ」


「…自分勝手すぎるよ。

私は話すことなんかない…」


「俺の事じゃない、

天也の事だ」


大好きな人の名を聞いて、

私は抵抗を止めてしまった。


「…もう私の事なんか、

忘れてる。

こんな最低な女の事なんか…」


そうだよ。


一方的に別れを告げて、

逃げた私の事。


きっと忘れてる。


「…自分の愛した(やつ)が、

そんな奴だと、

本気で言ってんのか?」


優司さんは、

ちょっと怒ってた。


「え…」


「だとしたら、

俺はお前を許さない」


「はぁっ!?逆ギレ?」


優司さんの言葉に、

私もついに頭に来た。


「自分のしたこと棚に上げて、

意味不明な事言ってンじゃねぇよ!!」


掴まれてない右手で、

優司さんのシャツを掴みかかった。


「きゃあっ!!聖音!?」


そこへ、

遅れて追いかけてきた京華が現れた。


その声ではっとして、

掴んでいたシャツを離した。


優司さんも、

掴んでいた手を離した。


「どういうこと!?」


京華は何が何だかさっぱりで、

混乱してる。


「…ごめん、

痛かっただろ?」


優司さんも冷静になって、

私の腕を見ながら言った。


「これくらい平気」


少し跡がついてるけど、

痛くはない。


「とりあえず店に戻ろうよ。

店員が呆然としてたわよ?」


「……うん」


あまり気は進まなかったけど、

冷静さを取り戻せてたから、

首を縦に振った。


「ほら、優司くんも」


京華に背中を押されて、

よろけた後、歩き出した。


物凄く腹が立つし、

顔も見たくないし、

殴りたい衝動に駆られてる。


だけど今は、

多分聞かなきゃいけない事が山ほどある。


「お騒がせして、

申し訳ありませんでした」


「あ、いや…大丈夫ですから」


店に戻って、

店員に頭を下げた。


一応、迷惑かけてしまったから。


思ったより、

怒ってはなかったみたいで。


ほっと一安心して、

奥の個室に入った。


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