第二話 出会い
ある日、いつものように部屋でゴロゴロしていると、
窓の外が騒がしい。
レースのカーテンをそっと開け見ると、
どうやら引越しのようで。
よく見る作業着を着た人は、
よく見るマークの書かれた、
トラックいっぱいの荷物を運び入れている。
確か隣は空家だった。
昨日までは。
でも、住人らしき人は見当たらない。
どんな人かな、かっこいいのかな、なんて思ってる私。
今気付いたけど、私ってロマンチスト??
ちょっと違うか・・・。
―その日の夜も、次の日も、その次の日も、
隣に越してきた人は姿を見せず、挨拶にも来ない。
だから余計に気になって、眠れない。
結局、私はロマンチスト・・・。
―3日後。
隣の人は、もう5日も経つのに、未だ姿を現さない。
そんな中、一通の手紙が届いた。
宛先は『朝日奈天也様』と書かれていた。
・・・おかしい。
何でおかしいかって言うと、答えは簡単。
うちには「天也」なんて人いないんです。
あっ、ごめんなさい。
自己紹介がまだでした。
私は朝日奈聖音。
聖なる音と書いて、せね って読みます。
珍しいかな?
そうでもないか。
うちの家族は、パパ・ママ、
それに愛犬のセロリで4人(3人+1匹)家族なの。
そして、パパ=修斗、ママ=百合。
な訳で、うちには「天也」ってゆう人は居ません。
ママに手紙の事を言うと、
「あぁ、多分隣よ。置いてきて。今忙しいの。」
だぁって。
私はもちろん、
「絶対嫌っ。寒いじゃん」
冬だし?
そしたらママったら、「夕飯抜きっ」だもん。
行くしかないでしょ。
食欲に負けた自分が悲しい・・・。
―そして今。嫌々外に出た。
「うぅ。寒っ。」
フツーに置いて来いなんて言ったけど、
外真っ暗だよ?
ありえない親だよね。
こんな時間に、娘を外に出すなんてさ。
しっかし、成長期の子に夕飯抜けとは・・・。
やっぱりうちの親は変わってる。
私の事、どうでもいいのかもね。
「あぁっ。寒すぎッ。」
お隣とはいってもうちの塀と建て方のせいで、
遠回りしなくちゃいけない。
そんなにめちゃくちゃ変わる訳じゃないけど、
気分的に、凄く遠くに感じる。
―ブツブツ文句を言っている間に着いた。
そして表札を見ると、
本当に(疑ってた訳じゃないけど)
「朝日奈」とだけ書かれていた。
うちも同じ。
間違うのも仕方ないか。
そしてそして、よく見るとわりとデカイ家。
でも、人の気配はない。
恐る恐るチャイムを鳴らす。
―シ〜ン。応答なし。
なんか幽霊屋敷に、幽霊が引っ越してきたみたいに。
「もう一度鳴らして、出て来なかったら、帰ろう。」
ポストが無いから、置いて行けないし。
何より、怖い。怖い。
ピンポンダッシュするみたいに、
手を震えさせながら、チャイムを鳴らした。
―その時だった。
「誰?」
怒りが混じっているようにも聞こえる、低めの男の声。
私は・・・恐怖を感じ、悲鳴を上げた。
絶叫にも近い声で。
「き・・・きゃぁぁぁぁぁぁっ」
すると男は、「うるせぇーっ」と同じ位大きな声で言った。
その声に動きがピタッと止まった。
金縛り状態??
男は続けた。
「そこどけ。俺んち。入れねーじゃん。」
ここの人?じゃあ・・・。
「あのぅ、朝日奈さん?」こわごわ聞く。
「そうだけど?」
ビンゴ!!
「あ、あのね?えっと・・・。」
「上向いて話せよ。」
ずっと下向いたままだった。
「すいません・・・。」
恐る恐る顔を上げる。
するとそこには・・・めちゃくちゃイケメンで長身の男!!!
一発KO。
心拍数が悲鳴を上げた時の3倍!
「で、何?用があったんじゃないの?」
そうだった。忘れてたよ。
「あのっ。この方いらっしゃいますか?」
封筒を見せつつ言った。
すると男は「あぁ〜。それ俺。」
とフツーに言った。
「そうですかー。ってえぇぇっ?」
何言ってんのぉ?私・・・。
「失礼な奴だなぁ、お前。名前は?」
ナンパか?
「人に名前を聞くときは自分からって教えてもらってない訳?」
だからぁー。
何言ってんのぉ。私。
説教するなんてっ。
終わったな・・・。
嫌われたかも。
ううん。
変な奴って思われた。
「ぷっ。お前面白い奴だな。」
笑うなよッ。
人が悲しくなってる時にぃ。
「お前じゃなくて、せねって名前があります。」
名乗っちゃったし。
「せね?どんな字?」
「聖なる音で聖音。」
完璧言った。
「ふ〜ん。いい名前じゃん。
あ、俺天也。」
「天也?」
「そ。朝日奈天也。」
「私も朝日奈。だからだね。
その手紙、うちに届いたの。
安心して。中は見てないから。」
私、ちゃんと会話してんじゃん。
「そっか。悪かったな。ありがと。」
「じゃあ、ちゃんと届けたんで。失礼します。」
寒いから、さっさと帰りたい。
「あ、待って。
お礼したいし、
もう少し話したいから、上がってけよ。」
・・・えぇぇぇぇぇぇっ?!
うそーーーっ。
「そんな。お礼なんていいですよ。」
「いいからっ。なんもしねぇよ。」
・・・怖い。
「・・・じゃあ、少しだけ。」
い、行っちゃうの??
―数分前までは、嫌で嫌で。
これが、運命の出会いになるとは、思っても居なかった。
天也。あなたとの出会いになるとは・・・。