第二十四話 両親
「会わせたい人って、
パパとママだったんだ」
隣の聖斗パパに聞いた。
「そうだよ。
みんなで聖音を祝おうって」
「パパ、ママ…」
私は2人がいることが嬉しくて、
泣いちゃった。
「もう、聖音ったら。
ほんと泣き虫」
「うるさいなぁ、もおっ!」
パパとママがいて。
聖斗パパと音緒ママがいて。
こんな光景、
もう2度と見れないかも。
「はい、お姫様。
座って下さい」
聖斗パパが椅子を引いて、
私を呼ぶ。
「こんな風に揃うの、
いつ以来かしら?」
音緒ママが言った。
「そうねぇ、
もしかしたら初めてかも」
ママが答える。
「百合さんとはよく会っていたけど、
お義兄さんとはあの日以来?」
音緒ママの言葉に驚いた。
よく会ってたの?
「俺も兄さんと会うのは久しぶりだな」
聖斗パパが言う。
「俺だって色々忙しいんだよ」
パパが反論する。
ずっと東京にいる、
パパの方が会ってると思ってたのに。
「まぁまぁ、
こうして会えているんだから」
「そうね。
じゃあ今日は、
それもお祝いだわね」
ママが言った時、
ちょうど店員さんが、
シャンパンを持ってきた。
「あら…頼んでないわよ?」
「こちらは当店のオーナーからの、
サービスでございます」
「まぁ、そうなの?
ありがとう」
「後でご挨拶に伺いますと申しておりました」
「わかりました、
お待ちしてますと伝えて下さい」
「はい、失礼します」
店員さんが去った後、
続々と料理が運ばれた来た。
そして主役のはずの私を完全に放置して。
パパママ達は大盛り上がり。
私はというと、
運ばれてくる料理が美味しくて、
一人黙々と食べていた。
―――「悪い、聖斗。
そろそろ行かないと」
食事が終わり、
尽きない話に花を咲かせているとき、
パパは腕時計を見て言った。
「パパ、もう帰るの?」
「あぁ。
これから人と会う予定があるんだ」
「そうなんだ、大変だね」
「じゃあ悪いが、先に…」
「またね」
パパは私に手を振って、
部屋を出ていった。
「じゃあ俺達も…」
パパが去った後、
聖斗パパが言った。
「そうね」
「お腹もいっぱいだし、
久しぶりに音緒さんと話せて楽しかったわぁ」
「私もよ!」
「みんな酷い…主役は私なのにっ」
私は思いっきり膨れっ面で、
ささやかな抵抗をした。
でもね、本当は楽しんでたよ。
嬉しかったし。
だから、あまのじゃくしちゃった。
「さぁお姫様。
お城へ帰りましょう」
お会計を済ませた聖斗パパが、
私の椅子を引きながら言った。
―――「…今日はありがとう、みんな」
ロビーでタクシーを待つ間。
私はみんなにそう言った。
ママは一瞬、
熱でもあるの?みたいな顔をして。
「聖音、体、大事にするのよ?」
そう言いながら、私に抱きついた。
ママは本当に心配性なんだから。
「わかってるよ」
「じゃあまたね、聖音」
ママは笑顔で手を振っていた。
私達が乗るタクシーが、
見えなくなるまでずっと。
ありがとう、ママ。
やっぱり私、
ママの娘でいられて良かった。
「後何回、
こうして聖音の誕生日を祝えるのかな…」
帰りのタクシーの中で、
音緒ママが呟いた。
「こんな体でごめんね」
健康じゃなくて。
病気だって完治してなくて。
「そうじゃないわ。
いつか、聖音も誰かの一番になるでしょ?」
「へっ?」
音緒ママの言葉に拍子抜けした。
「大切な人を見つけて、
その人と幸せになるでしょう?
それまで、後何回、
こうして誕生日をお祝い出来るかなぁって」
「なんだぁ~、
そっちかぁ」
「まだ行かせないからなっ」
聖斗パパは前の席から言った。
「安心して。
今の私には彼氏どころか、
好きになってくれる人もいないよ」
そう言いながら、
天也の顔が浮かんだ。
やっと癒えてきた傷が、
少し疼いた。
本当はまだ、大好きなの。
忘れられない。
でも私には…
あなたを愛する資格がない。
ごめんね。
「意外だわ。
聖斗、そんな事言うタイプだったのね」
「バカ言え!
聖音だからだよ。
やっと一緒に暮らせるようになったんだ。
まだまだ聖音は嫁には行かせない」
あんまりにも聖斗パパが、
真剣な顔で言うから、
「ぷっ…あっはは!」
私は大笑い。
やっぱり嬉しくて。
それって、
本当に愛する娘を持つ父親のセリフでしょ。
私の事、
手放したくないって、
思ってくれたって事。
凄く嬉しい。
「それは私も思うわ。
でもそれで、
聖音の幸せを取り上げるのは、
親のエゴだわ。
それこそ、
最低の親になっちゃう」
「それもそうだなぁ」
「だから。
今はそんな人いないからっ」
私がどんなにそう言っても、
聖斗パパも音緒ママも聞いてはくれなくて。
結局、勝手に落ち込んでいた。
…今思えば、それは予兆だったのかも。
これからやってくる出来事の。
だけどまだ知らない。