第十七話 本当の娘じゃない
「なあ、そろそろ言わないか。」
「まだ早いわ。約束の日まで。」
「もう聖音は大人だ。
ちゃんと受け止めるよ。」
「だけど・・・。」
「俺達が思ってる以上に大人だよ。
きっと大丈夫。」
「・・・。」
「そうやってずっと隠してていいのか。」
「そんな事は思ってないわ!
ただ・・・。」
「どのみちいつか、
事実を知らなくちゃいけない日が来るんだよ。」
「・・・わかった。でも1日でいい。
時間が欲しい。心の準備をしたいの。」
――パパとママの話し声が聞こえた。
パパが帰ってきた次の日の夜。
もしかしたら日付が変わった後。
無性に喉が渇いて、目が覚めた。
なにか飲もうとリビングに降りてきたら、
部屋が明るくて、パパとママが話してた。
私は2人に気付かれないように身を潜めた。
そして、話を聞いていた。
何のことか分からなかったけど、ただ一つ。
私に関係することだっていうのはわかった。
でも・・・事実ってなに?
約束の日??
どういうこと?
もしかして私・・・。
――その時。
ガタンッ!!
と大きな音を立てて横に積んであった荷物が倒れた。
やばいっ、と思って部屋に戻ろうとした時はすでに遅かった。
「聖音、いたのか・・・。」
パパがリビングの戸からこっちを見ていた。
漫画みたいな展開だなぁ〜、
なんて呑気に思ってる余裕もなくて。
私は部屋に戻るのを諦めて、パパに言った。
「ごめんなさい。
・・・聞こえちゃった。」
「そうか・・・。」
パパは分が悪そうで。
後ろに見えたママもヤバいって顔してた。
だから、一気に怖くなった。
さっき思ったことが頭をよぎる。
・・・もしかしたら私、
今度こそ死んじゃうのかなって。
それ以外思い浮かばなかったから。
「聖音、座りなさい。
・・・もう潮時だな。
百合・・・言うぞ。」
「仕方ないでしょ、聞かれたんだから。」
ママは立ち上がり、キッチンの方へ行った。
そして3人分のお茶を持って戻ってきた。
テーブルにそれを置いてさっき座っていた場所に座り直した。
「・・・何から話そうか。」
「パパ。私は大丈夫だから。
隠さずに、全部言って。」
「今から話す事は、
聖音を傷付ける事になるかもしれない。
それでもちゃんと受け止めてほしい。」
「・・・覚悟はできてる。」
「聖音は・・・・・俺たちの大事な娘だ。」
「そんなのわかってるよ。」
「でも・・・聖音、
お前は・・・・・・俺たちの本当の娘じゃない。」
「え?今なんて?」
「聖音の本当の親は俺たちじゃない。」
「嘘だ・・・。」
「これだけは変えられない真実なんだよ。」
「そんなことないッ!
ねぇ嘘だよね?ママ。」
「・・・・。」
ママは黙ったまま。
パパは唇噛みしめて堪えていた。
「嘘、じゃないんだね・・・。」
「でもな。
俺たちは今までお前を、
本当の娘として育ててきた。
約束とか血とかそんなのは関係ない。
お前は俺たちの大切な娘。」
「・・・・・。」
「だから、ちゃんと全て、
真実をお前に伝えるから。」
「真実・・・・。」
私。
本当にパパとママの子じゃないんだ。
――どんなことよりショックだった。
今まで思ってきた親が本当の親じゃない。
本当の娘じゃない・・・。
私は本当の親に捨てられたって事でしょ?
そんな真実なら、隠しててほしかったよ。
聞きたくなかった。
知りたくなかった。
覚悟はできてた。
何を聞いても大丈夫だと思った。
だけど・・・
本当の娘じゃないという事実だけは知りたくなかった。
そんなこと聞いて平気でいられる程、
人間できてない。
ちょっとでも気を許したら、
狂いそうなくらい。
だけど、ちゃんと受け止めなきゃ。
パパとの・・・約束だから。
本当の親じゃない。
でも、私にとってパパはパパ。
ママはママ。
今まで育ててくれた。
本当の娘のように愛してくれた。
そんなパパとの約束だから。
「お前の本当の親は・・・俺の弟だ。」
「え・・・兄弟いないって・・・。」
パパは一人っ子だって言ってたのに。
「それも全てはお前を守る為なんだよ。
そして、約束なんだ。」
「約束?」
「そう・・・弟と交わした約束。」