第十六話 未来をみて
2度目の退院から1週間後。
パパが帰ってきた。
普段東京で暮らす、パパが。
東京に本社を構える会社の代表取締役のパパ。
こっちの会社に用事があるとき以外滅多に帰らないパパ。
だから最初はママは言った。
「会社、潰れたの?」って。
でも、そんなことはなくて、パパは凄く怒った。
「簡単に潰してたまるか。
一代でここまで築き上げた会社を。」
それを聞いてママは、ほっとしてた。
私は何を聞いても驚くはずがない。
だって私の為に帰ってきてくれたんだから。
―それは退院の2日後のこと。
入院中もずっと感じてたこと。
ママが、弱ってる。
無理矢理笑顔を作って、
そしていつものように怒ったりしてた。
だけど、私の前を離れると、
凄く辛そうにしてた。
白血病の完治もしてない。
栄養失調。
ママは言わなかったけど、先生に聞いた。
“余命宣告”
万が一のこともあり得る。
そう告げられていたけど。
入院から1週間後。
ママは先生に改めて告げられた。
「運ばれてきた時よりはだいぶよくなりました。
ですが、娘さんはもう永くないかもしれません。」
しばらく黙りこんだ後ママは先生に言った。
「それでも最後まで諦めないでほしい。
娘にも。だから、この事は娘には言わないでほしい。」
この話を聞いた時、涙が止まらなかった。
枯れたはずの涙が、溢れた。
自分勝手で迷惑かけた。
ママは一番近くで、私よりもずっと苦しんでた。
それが凄く伝わってきた。
でもその苦しみはきっと私だけじゃ消せない。
だから、退院が決まった時、パパに無理を言った。
帰ってきて欲しい、と。
パパは・・・帰ってきてくれた。
私からのSOSをちゃんと受け止めて。
後は任せたほうがいい。
私は部屋に戻った。
でも、もう閉じこもりはしない。
あんなママをもうみたくない。
前を向かなきゃいけないから。
ねえ天也。
私、今でも気持ち、変わってないよ。
天也が変わってしまっても、私は変わらない。
過去も含めて愛してくれるのは天也、
あなただけだと思うから。
でも、未来をみて生きてくね。
天也に笑われないように・・・。