第十五話 喪失
天也と別れてからの私は、廃人だった。
家どころか、部屋からも一歩も出ない。
食事もママが持ってきてくれるけど、手をつけない。
無理矢理口に入れられた時もあったけど、喉を通らず、吐き出してしまった。
元々脂肪がつきにくく、太りにくい体の私。
抗ガン剤の副作用でただでさえ落ちていた。
なのに、食べないから、体重は減る一方。
毎日毎日寝たきり。
涙は流しすぎてもう枯れちゃった。
何も食べないから、力も出ない。
――天也と別れて2週間後。
精神的にも肉体的にも限界にきていた。
天也に逢いたい。
天也の笑顔が見たい。
天也のそばにいたい。
そんなことしか頭になくて。
でも・・・もう逢えない。
どんなに求めても、天也には逢えない。
天也のそばには戻れない。
あの日の私には戻れない・・・。
どんなに望んでも、もう叶わない夢・・・。
この苦しみから逃れたい。
でも逃げられない。
もう私は堕ちるとこまで堕ちていた。
――天也と別れて18日。
私は生死の境を彷徨っていた。
ずっと我慢してたママも限界を感じたらしい。
私を引っ張り出して、病院に連れて行った。
その時もう・・・半分意識はなかった。
三途の川を渡りかけていたのかもしれない。
だからここからは聞いた話。
病院に着いたときは意識不明の心肺停止で死にかけていた。
すぐに心肺蘇生と点滴。
先生の懸命な治療でなんとか一命を取り留めた。
でもママは告げられていた。
「万が一のこともあり得ます。覚悟はしておいてください。」
この時点での私の体重は白血病になる前の半分以下。
そして栄養失調。
廃人どころか、死に限りなく近かった。
―もう2ヶ月前になるかな。
この病院を退院したのは。
その時は、こんなになるなんて・・・また入院する事になるとは思ってなかった。
白血病に勝って、天也と2人歩き出したあの日・・・。
―それから私は1ヶ月の入院生活。
食事は食べないことに慣れたせいで、受け付けない。
口からは何も食べられない。
生きることさえも拒むように。
だから点滴で直接胃に栄養を送る。
両腕には抗ガン剤治療の時に出来たものも合わせ、多数の点滴の針の痕。
いつの間にか、注射嫌いも治ってた。
1年半入院し、毎日のように抗ガン剤治療。
退院後も3日に1回の通院で、点滴。
先端恐怖症ももう気にならない。
・・・まぁ、死にかけの人間には気になるはずもないけど。
入院から2週間が過ぎた頃には体重が少し戻っていた。
骨と皮だけから多少はみれる姿に回復。
茶碗5分の1を食べれるようになった。
毎日ねじ込むように食べさせてくれた、ママのおかげ。
そして、ろくな食事や睡眠をとらなかったせいで免疫力の低下。
自宅療養の時に飲んでいた薬より少し強い薬になった。
免疫力の低下は、感染症になりやすくなる。
つまり危険。
完治したわけじゃないからちゃんと薬を飲まなければならないのを、私はずっと飲んでいなかった。
天也と別れてから、もう死んでもいいと思っていたし。
傷つけて、会えないくらいなら・・・って。
私は自分を許せなかった・・・。
優司さんが憎くて、憎くて、許せない。
だけど、自分のことも憎くてたまらない。
優司さんなら大丈夫って気を許してた自分が。
一番憎い。
そう思うとやっぱり悔しくて、情けなくて、許せない。
――2度目の入院生活は自分の愚かさを痛感させられた。
そして自分のしたことを思い知らされた。
なにより・・・傍に天也が居なかった。
天也を失って、初めて、存在の大きさに気付かされた。
天也は・・・私にとってかけがえのない、大事な人だった―。