第十二話 豹変
出発前日の夜のことだった。
明日からは天也とずっと一緒にいられるんだっ♪
そう思うと嬉しくて。
眠れなかった。
散歩でもしよう。
最後になるかもしれないから、
しっかりこの風景を憶えていこう。
私は外に出て、歩き出した。
すると、天也の家の前に人影があった。
近づくと、優司さんだった。
「優司さん・・・?」
「うわっ!」
暗闇から声が聞こえたから驚いたんだろう。
そして大きな声を出すから、私も驚いて。
「きゃあっ!!」
悲鳴に近い声を出した。
それから数秒おいて話し始めた。
「聖音ちゃん?
ビックリしたよ〜。」
「ごめんなさい。」
「こんな時間にどうしたの?
あ、天也?もう寝てるよ。」
「違うの。てか優司さんこそ。」
「俺は・・・ちょっとな。
コンビニへ。」
「私は散歩。
だってもう見れないかもしれないから。
この風景。」
「そっか・・・。じゃあ、歩く?」
「つきあうよ。コンビニ。」
「また〜。狙いはアイスだろ?」
「ばれた?」
冗談ぽく言ってみる。
「わかるって。顔に書いてある。」
「んな訳ないッ!!」
「嘘だよ。」
「もうー、バカッ!!」
言い合いしながらもコンビニへと歩き出した。
優司さんとこうして言い合うのも、
最後かぁって思うと、
なんだか寂しい。
一人っ子の私にはいいお兄さんだったから。
―「はい。今日はこれな。」
コンビニでレジを済ませて優司さんが出てきた。
そして私にパフェを渡した。
「うそぉーっ!ありがとぉ!!」
私の大好きなチョコパフェ。
「餞別の代わり。それで勘弁してくれよ。」
「十分だよっ♪いただきますっ。」
家に向かって歩きながらパフェを食べる。
そういえばこれを食べるの、久しぶりかも。
入院中、何度か優司さんがお見舞いにくれたっけ。
・・・モノでつられた感が否めない。
まぁいいです。
お見舞いってのは気持ちが一番だし?
――それから10数分後。
優司さんの家の前に到着。
「じゃあね。私帰るよ。いい運動になった♪」
「・・・パフェがっついたくせに?」
「言うなッ!!」
いつまでも憎たらしい男。
そう思いつつ、家に帰ろうとした時だった。
「待てよ。」
優司さんに呼び止められた。
「何?」
「あがってけば?まだ時間あるし。」
「え?・・・うん。」
いきなりで驚いたけど、
まだもうちょっと話したいなって気持ちもあったからOKした。
天也の寝顔も見たかったし。
ほんわかしたかわいい寝顔。
大好きなのよね〜。
――「そこに座ってて。
お茶でいいよな?」
「うん。」
いつものように定位置のソファに座った。
兄弟2人きりで暮らしてるとは思えない程、
いつも綺麗に片付いてる部屋を見るのも、
今日で最後なんだ。
ってしみじみとしてると、
優司さんがお茶を持ってきた。
「はい、どうぞ。」
「ありがと。ねぇ、優司さん。」
「何?」
「優司さんはどうするの?
私達が東京行ったら。」
「別にどうもしないよ。」
「でもさ、この家に1人きりじゃん。」
「ガキじゃあるまいし。
1人のほうが楽だしな。
自由に使える。」
「そんなこと言って。
ほんとは寂しいんでしょ?」
顔に書いてあるよ。寂しいって。
「・・・聖音、俺。
最低の男かも。」
優司さんは俯いたまま呟いた。
変なのっ。
「??
私、天也のとこへ行ってくるね。」
―後ろを向いた瞬間だった。
「きゃ・・・ッ!」
いきなり抱きつかれた。
「ちょっ・・・優司さんッ!!
放してッ!!」
「放さない。」
「冗談やめてよ。
ねえ、優司さん。」
「冗談なんかじゃない。
俺は・・・。」
優司さんは、私を抱き上げ、
隣の部屋へと連れて行った。
「もう・・・ッ!!
ねえってば!!」
「俺は、あの日からずっと、
お前が好きだったんだ。
今放したらもう。」
優司さんは少し悲しそうな顔をして言った。
「優司さん・・・。」
「好きなんだよ、お前が。」
「やだ・・・ッ!
嫌ぁっ!!
やめて・・よッ。」
「聖音。」
「優司さんッ。やめてッ!
・・・嫌。いやぁーーーっ!!」