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戸田賀華太の証言

「まさかワタシが刑事さんのお世話になることになるなんて、生まれてこのかた一度も想像したことがなかったわねぇ。やっぱり人生何が起こるか分からなくて面白いわー。あら、ごめんなさい。こんな時に不謹慎だったわね。

 それにしても、まさか赤貫さんが殺されてしまうなんて、もうワタシ本当に驚いていますわぁ。ちょっと刑事さん、ワタシの話し方が不謹慎だなんて、それは少しひどいんじゃありません。ワタシ、こんな身なりですけれども、心は乙女のつもりなんですのよ。あらやだ、そんなに顔を引きつらせて……。ええ、でもそんな反応ももう慣れっこですわ。今も昔も私のようなオネェに優しく接してくれる人なんて、数えるほどしかいませんものね。ああでも、その点赤貫さんは素晴らしいお人でしたわぁ。ワタシのような人でもほかの人と同じように相手をしてくださって、それどころかトマトジュース発明家の仲間としてワタシのことを……。あらら、少し話がそれてしまいましたわねぇ。ええ、赤貫さんが殺された晩のことをお話すればよろしいんでしょう。

 その日は、ワタクシ、夜の11時に赤貫さんの部屋に来るよう誘われていたのですけれど、ついつい気持ちが急いてしまって、約束の三十分前に彼の部屋にお邪魔したのですわぁ。そしたら彼ね、部屋の隅っこでトマトジュースが入っている瓶と、透明な袋――タッパーのようなものを持って何やらごそごそやっていたのですよぉ。一体何をしているのかと思って声をかけたのですけど、彼ったら照れたような、どこかばつが悪そうな顔をしながら首を横に振って『いや、特にたいした用じゃないんだ。せっかくだから二人だけで最近の研究成果についてでも話そうと思ったんだが……。今日のところは少し腹の調子が悪くてな。悪いんだがまた明日話をしようじゃないか。君も今日のところは部屋に戻ってゆっくりと休むといい』なんて、ワタシの体のことを気遣って、部屋に戻るよう言ってきたんですよぉ。ワタシとしましてはね、おなかの調子が悪いという彼の看病をしたいという気持ちもあったのですけれど、男がいかに見栄っ張りな生き物であるかも分かっていましたから。今日はおとなしく身を引いて、明日ゆっくり話そうと考えなおしたわけなんですよぉ。それでワタクシ明日を楽しみにしながら自室に戻ったのに……早朝に警察が訪れたと思ったら、斗馬斗さんが死んでるなんて……!

 ああワタクシ、明日から何を頼りに生きていけば!!

 グスッ……! あら刑事さん、こんなワタシにハンカチを貸してくださるのね、優しい人。ちょっとどうしたの、突然そんな顔を青ざめさせて?

 うん? まだ何か聞きたいことがあるのね。いいわよ、好きなだけ質問してくださいな。……へ? ワタシが彼の部屋を訪れた時、床が血で汚れてたり、斗馬斗さんの服が血でぬれていなかったかって? まさか! そんなこと勿論ありませんでしたわよぉ。……はい? なぜ斗馬斗さんが持っていた瓶の中身がトマトジュースだと思ったかですってぇ。そんなの、瓶の表面にトマトジュースと書かれたラベルがでかでかと張ってあったからですわぁ。フフフ、変なところが気になるのね、刑事さんっていうのは」


 + + +


「そんなこんなで、刑事さんは多大な精神疲労と共に戸田賀さんの事情聴取をこなしたのでした、と。これで二人目の容疑者、戸田賀華太さんの証言は終わりです。何か質問はありますか?」

「うん、やっぱりレイちゃんは役者、もしくは声優になる可能性を秘めてるね。どうだい、この話が終わったら一緒に演劇部に行って劇の稽古をするのは」

「お前にこんな隠れた才能があったとはな。正直使い道は限られていると思うが、お前がそちらの道に進むというなら、俺は止めたりはしないぞ」

「ちょっと二人とも! 僕の語りじゃなくて話しについての感想を言ってくれよ」

 女性であろうがオカマであろうが、礼人は何の違和感も持たせない語りを行ってみせた。まあ俺は本物のオカマに会ったことはないから、実際そいつがどんな喋りをするのかは知らないが、少なくとも礼人の想像しているオカマ――戸田賀華太の姿を、俺はありありと思い描くことができた。

 礼人の隠れた才能に、俺と多多岐はお菓子を食べる手を止めて、感嘆の息を漏らす。

 しばらく俺たちが礼人の語りについて褒めたたえていると、礼人は顔を真っ赤にしながらうつむいてしまった。だいぶいつもの憂さ晴らしができたところで、俺は軽く思いついたことを言ってみる。

「とりあえずあれだな。このオカマの取り調べ担当の刑事はとても疲れただろうな。お悔やみ申し上げるよ」

「赤貫さんじゃなくて刑事さんにお悔やみ申し上げるの! うー、そこの感想は置いといて、戸田賀さんが犯人っぽいかどうかについてお願いします」

 紅茶の入ったカップを揺らしながら、多多岐が透き通った声で言う。

「なんというか、彼の発言でかなり状況が変わったよね。三美さんが赤貫さんを殺した(?)後、戸田賀さんは生きた赤貫さんに会って会話もしている。まさか戸田賀さんが赤貫さんを見間違えるわけないだろうし……。うーん、なんだかよく分かんなくなったねぇ」

「そうですか? 俺はこの事件の概要が何となくつかめてきましたよ。まあ最後の一人の発言を聞かないことには、詳しいことは何も言えないですが」

「ほほう、千里にはこの事件の真相が見えてきていると。じゃあそんな千里に新しい情報を提供するね。今回は一つだけなんだけど、警察が調べた結果、戸田賀さんが見たという瓶――トマトジュースって書かれたラベルが張ってあったやつ――はトマトジュース館のどこにも見あたらなかったそうだよ」

「ふむ。それは俺の考えの補強になる、な」

「えー、センちゃんだけなんだか分かってるぽくてズルーい。僕なんて赤貫さんが殺された動機が、すっごいトマトジュースではなく、痴情のもつれ何じゃないか? ぐらいしか思いついてないよー」

「ミステリを動機方面から解こうとするのは無謀ですよ、先生。じゃあ礼人、さくっと最後の一人――羽切紀霊の証言について話してくれ」

「了解です!」

 ビシッと敬礼してから、礼人は最後の容疑者、松岡○造似の男の証言を語りだす……


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