リーナ&ラザールの場合
普段あまり料理をしないリーナにとって、バレンタインはとても困るものだった。
しかし、年に一度しかないのだ、精一杯心をこめてお菓子を作る。
今年はカップケーキを作ることにした。チョコレートのカップケーキだ。作り方は、アンジェラに教わった。
生地を混ぜていると、アリスがひょこっと顔を出す。
「バレンタインですか?」
「うん。えっと、これでいいのかな」
「……。ふふ、頑張りますね、リーナ様」
「え? ……だって、ラザールさんに、喜んで、欲しいから」
リーナは恥ずかしそうに笑みを浮かべる。それを見て、アリスもにこりと笑った。
当日。三人の子供たちにお菓子を上げると、嬉しそうに笑ってくれた。それだけで満足しそうになるが、ラザールに渡さなくては意味がない。
いつもは忙しいのだが、今日はきちんと休みを取ってくれたらしい。毎年のことだ。それが、とても嬉しくて。
二人の仕事は、魔物の調査。新しい魔物が発見されれば、強さを確認しに行く。そうでない魔物も、定期的に新しい情報にしていく。
リーナはそこそこ休みが取れるが、ラザールは忙しく、なかなか家に居ない。一日中家にいるのは、大きな行事の時のみだ。
「ラザールさん」
「リーナ。子供たちは?」
「アリスに預けてきたの。二人きりだよ」
そう言うと、ラザールはにこりと微笑み、隣に座るように言う。
造花で飾られた桃色の箱を渡すと、ラザールはいつもありがとう、と言ってほほに軽くキスをくれた。
「開けても良い?」
「うん」
「えっと……。カップケーキだ。美味しそう」
「そうだといいのだけれど」
「きっと大丈夫だよ」
そう言うと、一口。感想の代わりに、リーナの頭を撫でてくれた。
食べかけのカップケーキは机の上に置き。ラザールはリーナをそっと抱きしめた。
「ごめんね、いつも忙しくて。寂しいよね」
「ううん……。私は大丈夫。頑張ってくれて、ありがとう」
「そんなのは良いんだよ。今日は、僕に甘えて」
リーナは小さく頷くと、ラザールの肩に頭を乗せ、そっと囁く。
「あのね、私、キスマークが、欲しい」
「何処に欲しい?」
「……此処」
リーナはそっと胸元をあける。ラザールは小さく頷くと、そっと口を付ける。
今まで、痕を付けて貰った事はなかった。しかし、ずっと欲しいと思っていた。
自分が、ラザールの物であると、実感できるから。離れていても、安心出来る。
「これで、良い?」
「うん。キスして。甘いの、頂戴」
「もちろん」
とろんとした目で、リーナはラザールに抱きつく。ラザールはそれを受け止め、キュッと強く抱きしめる。
リーナが小さく「ベッド、行こう」と呟くと、ラザールはリーナを抱きかかえたままベッドへと向かった。
「今日のリーナ、いつもより可愛い」
「だって、ずっと、楽しみにしてたの。ラザールさんと会えるの。うれしくて」
「ふふ……。この様子だと、浮気はしてないね」
「ラザールさんも」
リーナは、分かっていた。ラザールも、リーナと会うのを楽しみにしていて。甘えて欲しくて堪らないと。自分と同じ気持ちなのだと。
リーナはキスを求める。ラザールはすぐにそれに応えた。柔らかい感触。愛してやまない、ラザールの物。
「ん、んん……。もっと、もっと。私を、ラザールさんの物にして」
「ふふ……。脱がしちゃおうか」
「うん」
ラザールに、全てを任せる。いつもは着けないような下着を見て、ラザールはそっと笑みを溢す。
たまにしか会えないからこそ。会える時には、精一杯愛して欲しい。
高鳴る鼓動を合わせ、心を合わせ、愛を重ねる。
カップケーキなんて、どうでもいい。食べて欲しいのは、そう。
「ラザールさん。私を食べて?」