朱璃&蒼泉の場合
二月十三日は、いつも、とても緊張してしまう。寧ろ、十四日よりも。
蒼泉は朱璃の物なら何でも嬉しい、とは言うが、それでも、出来るだけいい物をあげたい。上手く出いるだろうか、といつも不安になってしまう。
大丈夫だとは、思ってる。セレスや心花が、朱璃に沢山のレシピを教え、一緒に練習もしてくれた。だから、大丈夫なはずなのだ。が、いつも怖いのは何故だろう?
寧ろ、みんなと一緒に練習しているからこそ、一人で作るのが怖い様な……。
今年はチョコレートケーキを作る。セレスが簡単に作れるレシピを教えてくれて。何度も練習して、ようやく一人で上手く焼ける様になった。
蒼泉の為に、心をこめて……。美味しくできると良いな。
十四日。もちろん、シルシィ達のの分だって用意してある。
まず、シルシィ。朱璃の手の中にある袋を見て、パッと顔を輝かせた。それから、中をあけ、トリュフを見ると、嬉しそうに笑った。
シルシィのトリュフは、洋酒が入ってる。外見はシンプルにした。その方が、シルシィの好みに近いと思う。
まあ、正直なところ、シルシィは何でも喜んでくれるのだが。それでも、最高のものを上げたいと思うのは、当然のことだ。
次に颯也。バレンタインであることすら忘れていたらしく、渡してもこう言ったのだ。
「で、これ、何?」
説明すると、顔をあからめて俯いてしまった。忘れていたのが恥ずかしかったらしい。
颯也のトリュフは、中にナッツが入っている。颯也はにこりと笑って美味しいと言ってくれた。
心花は、丁度、ラッピングの最中だった。手先の器用な心花のラッピングは、とても綺麗で。帰ろうかとすら思ってしまったが、心花は笑顔で受け取ってくれた。
心花は可愛いものが好きな為、ホワイトチョコレートと苺チョコレートでコーティングしたものを用意した。少し不安だったが、可愛い、美味しい、と言ってくれた。丁度、今ラッピングしていたうちの一つを朱璃にくれた。
次にエリー。待ってました、とばかりに顔を輝かせるエリーは、とにかくかわいい。
いつまでも子供っぽいエリーには、ミルクチョコレートでコーティングした上に、チョコレートペンでハートと星を書いたものを。
正直なところ、エリーにとって、大切なのは味の方なのだが。美味しい、と言って満面の笑みを浮かべるエリーは、本当に、いつ見ても可愛い。
ティーナも本当に、いつになっても子供っぽい。内面だけ。
ちょっと大人の気分を味わって貰おうかと、洋酒をいれ、コーティングはビターチョコレート。上に少しだけ金粉をまぶした。
ゆらゆらと揺れる尻尾は、嘘が付けない。良く見ていたが、美味しかったようでなによりだ。
次にセレス。彼女は朱璃よりもずっと上手くお菓子を作る。しかし、彼女は朱璃のお菓子をいつも褒めて、その上に改善点を教えてくれる、とても優しい子だ。
そんなセレスには、ビターチョコレートでコーティングし、ナッツをまぶしたもの、ホワイトチョコレートでコーティングし、ピンクのチョコレートペンでWを書き、うえにアラザンをトッピングしたものの二種類を。
今回は改善点なんてない、そう言って笑ってくれた。
次にテオ、と思ったら、其処にはマイもいて。チョコレートは渡し終えたところだったらしい。
邪魔かな、と思ったが、入っていいと言われた為、二人にチョコレートを渡す。
テオにはシンプルにビターチョコレートでコーティングしたもの、マイには苺チョコレートでコーティングし、アラザンを乗せたもの。
邪魔にならないうちにさっさと帰ろう、と思ったのだが、呼び止められ。マイにチョコレートを貰った。生チョコだ。粉糖でハートが書かれている。知らなかった。マイがこんなに器用なのだと。
で、最後にシアン。渡そうとしたら、先に貰ってしまった。チョコレートクッキーらしい。
気を取り直して、シアンのトリュフは。ビターチョコレートでコーティングし、チョコレートペンで花を描いた。とても喜んでくれてよかった。実際、シアンの好みはあまりよく分からなかったのだ。
残りは、一つだけ。一番大切な、本命チョコ。
蒼泉へのチョコレートケーキだ。
「蒼泉くん。いる?」
「うん。朱璃、入っておいで」
蒼泉は、朱璃の持っているケーキボックスを見て、嬉しそうに笑った。
一人で食べきれるサイズの、少し小さめのケーキ。箱を開けて、蒼泉は朱璃を抱きしめた。
「嬉しい! 何作ってくれるのかな、って、ずっと楽しみにしてたんだよ」
「喜んでくれてよかった。食べて」
「……それは、ケーキを? 朱璃を?」
「どっちか選んで、って言ったらどうする?」
「もちろん」
蒼泉は持っていたフォークを置き、朱璃を抱きしめる。
「朱璃に決まってるでしょ」
だから、蒼泉が好きなんだ。そっとキスをし、朱璃をベッドへと導く。
蒼泉の笑顔は、朱璃にとって、なによりのご褒美で。頑張って作って良かった、と思えるのだった。