第1章・7 星を見せたいんだ
「ジョージとリサに星を見せたいんだ」
ダニーがまたポツリ口を開いた。ダニーの1人息子ジョージはエドの娘リサよりも1つ年上だった。
「リサが男の子だったらな!昔のオレ達みたいだったかもしれないな。女の子って小さな頃から男同士とは違うよな。まだ7歳のくせに最近なんかは色気っていうの?妙にジョージの事を意識しちゃってさ!・・・・・・・・・・・星はもう見れないだろうな」
機械化された工場が出す煙は町中全体を覆った。新しくできた街の条例により午前8時〜15時までの時間は工場の業務は停止する。この間だけが街の住人が外出できる時間なのだ。
この時間だけは工場のチリも煙も見た目には影響はなかったが、マスクをしていても体が弱い子供や老人は何故か呼吸困難で倒れてしまう。その時間以外の外出は厳重に防護マスクをはめる。モクモクと立ち上がる黒い煙に覆われた上空からは雪のようにチリが降り、次の朝には全てが灰色に変わっている。
ジョージとリサは憶えているだろうか。
「ジョージは憶えてないの?」
「憶えてないな。星の王子様を読んで星の意味が判らなかったようだ」
「そっか・・・。」
昔2人で流れ星を探したっけ。ビュンビュン落ちまくる星に
「願い事言ったぜ!」
「落ちるまでに3回言えなきゃ叶わないんだぜ!」
「言ったよ!」
「嘘だね!」
何度もつまらない事でケンカしたな。エドはダニーと星を見たくなった。
「なあ。星見に行こうか」
「絶対に見えねえよ。」
「だよな・・・」当たり前に思っていた事が、不可能になった事に気がつき少し淋しさを感じた。
「エド・・・。イザベラは元気か?」
「そうだよ!お前どこに行ってたんだ!?」
自分の事ばかりで忘れてダニーの事を思い出したエドは声を荒げたが時が止まったかのように寡黙なダニーの横顔を見て消沈した。
「泣いてたよ。判らないって」
「そうか」
「もしかしたら死んでるんじゃないかってさ。夜もず〜と探してたぜ」ダニーは何も言わなかった。
「でも、イザベラの事だから怒りはしないって。オリビアだったら俺殺されそうだけどね。さあ、帰ろう。心配して待ってるんだ安心させてやろうぜ」
「お前帰れるのか?」
「帰れるって何がよ?」
「クビになったって知ったらどうなるのかって事だよ」エドは立ち上がろうとしたイスに沈んでいった。