第1章・6 思い出を語る時間
「あの頃は良かったよな・・・」思わず涙がこぼれ出た。
前社長の思いを捨てて、亡き後の工場を継いだ嫁婿のカーターは全ての作業を機械化した。そのおかげで人材が必要なくなり工場に働いていたほとんどの人たちをクビにしたのだった。最初は老人達。次に女達。そして遂に男達まで。話は消えてしまったが、前社長から
「ワシの次はお前に継いでもらいたい!」という思い入れがあった為か特にエドに対してカーターは何かと目の仇にした。
「こんな工場やめてやる!」何度声に出したかったことか。
でも、ココ以外に働く場所はどこにもなかった。アンテナ工場だけではない。全ての仕事が機械化され人材が要らなかったのだ。僅かな給料でバカ扱いされながらエドは必死に働いた。だが、とうとうエドにもその日が来た。
「クビだ」今日までの給料を渡され、追い出されてしまった。
「昔は鳥もいたよな・・・・」エドの愚痴ばかり聞いていたダニーが口を開いた。
「鳥?鳥の話なんかしてねえよ!」何杯飲み干しただろうか・・・。飲み干しても気付くとそこには満タンに継がれたグラスがあった。
工場が機械化され、ゴウゴウと吐き出される黒い煙。ドロドロと流される汚水に街の景色は一変した。鳥は消え、魚はいなくなり木は枯れ果実は変形。原因は不明だが、奇妙な病まで。街の学者が「全ての原因は機械化にあり!」と叫んでいたが実の所は不明なまま暗殺された。
草木やそれよりも何よりも変わったのが人間だった。次は俺の番か?クビになる恐怖心から媚びたり、人を陥れたり、上下関係をはっきりさせて暴力でねじ伏せ自分の恐怖へのストレスを満たす。こんな酷い事は前社長の時にはなかった。