第1章・5 美しい妻から恐妻へ
アニーはエドが働くアンテナ工場に勤めていた。別に愛していた訳ではない。人気者のエドの恋仲の1人であった。エドの気分で2人は情事に溺れた。エドはそれ以上の関係は望んでいなかったがアニーは他の女の存在よりも何よりもエドが愛するオリビアの存在が気に入らなかった。
「オリビアさえいなくなれば!!」
自分の誕生日の夜に会えない淋しさからアニーは町中のみんなにエドとの情事さらにある事ない事を付け足してぶちまけた。
噂はすぐに広がった。が!「俺もエドみたいになりたいね〜」男達はうらやむだけ。「私も抱かれたいわ〜」と女達。アニーの望む用には行かなかった。
エドが町中のみんなに避難をされ、オリビアも去って行き私だけが彼を・・・。きっとエドに愛想をつかされたのは私は話してしまった事への後悔をしていると。
トントン。
トントントン。
誰かがアニーの部屋のドアをノックする。
「誰?」
トントントン。
「エド?」
エドかもしれない!嫌われてもいい。今アナタに会えるなら・・・。と甘い期待は飛んだ。
「オリビアと言います。アニーさんですか?」
町中に広がった噂はオリビアの耳にも入った。いつもの美しい妻の顔が、悪魔に取り付かれたような恐ろしい形相を見て、エドは必死に取り繕うとした。
「本当に?」
「本当さ!2度と他の女になんか目もくれない!僕が愛するのはオリビア君とリサだけさ!」
可愛い我子リサとオリビアさえいれば、もう何もいらない!この命投げ出してもイイ!いつものように滑らかな饒舌でオリビアへ愛の言葉を投げまくり抱き寄せた。
「エド。私も愛しているわ。私とリサさえいれば、何もいらないのね?」
「そうさ!本当だよ」オリビアはエドの胸を突きはねた。
「でも信じられない・・・。」
「本当だよ!もし君が望むなら僕はこの2本の足だっていらない!」
「この足もいらないのね?」
「こんな足いるもんか!どんなに君が変わってしまおうが僕は絶対に君だけを愛し続けるよ」
「本当ね?」
「本当さ〜」
「じゃあ、目をつぶって?」
「あ〜いいよ。判った。何をするんだい?」
「なくしてしまうのよ」
一瞬の出来事だった。
「ウギャー!!!!!!」
オリビアは煮え繰り返った鍋の湯をエドの股間にぶちまけた。
足はなくならなかったもののエドは男としての機能を失った。自分の裏切りから出た災難とは言え、以前のように心からオリビアを愛する事はできなかったが、
次は何をされるか!!考えただけでも恐ろしくなりオリビアのご機嫌だけを伺いながらの生活になった。
アニーは?と言うと本当の所は誰も判らなかった。最後に部屋を訪れたのはオリビアとまで判っているのに。自殺と言うには、あまりにも不可思議な所が多かったが身寄りのない娘の事等、小さな町としては早く消し去りたい事だったのだろう。
「次は私かもしれない!?」
何をしでかすか判らないという恐怖からオリビアが関っている!と判っていても誰も口にする物はいなかった。
この一件でエドの創作溢れる才能も停止。新しい商品の開発もなく売り上げは落ち仕事も低迷。じいちゃんに続きばあちゃんまで事件から逃れるように息を引き取り活気に溢れる男達の声も。子供たちの幸せな笑い声もエドの家だけではなく街から消え去った。