第2章・5 晩餐
ランドリーの上は従業員達の家。
働く女性達全員に囲まれ晩御飯をご馳走になった。
「こんな美味しいの食べた事がないよ!」
「ジョージが作ったのよ」
1度だけ行った事があるレストランの厨房で
ジョージは仕事をしているらしい。
トマトをベースにした彼の作ったスープは絶品だった。
久しぶりに会う故郷の友。
生まれた頃から知っている息子のジョージ。
高級レストランでしか味わえないと思っていた料理。
「エド。ワインはいかが?」
「私はちょっと酔ったみたい」
「勝手に寝なよ!エドは相手になんかしないわよ」
イザベラに酷い事を言い放った3人の女性も
ランドリーの従業員だった。
初対面で呼び捨てされて
最初は良い気分ではなかったけれど
彼女達の顔に悪気はない。
周囲の女性たちもまたエドと呼び捨てる。
そしてイザベラは笑ってる。
名前何かどうでも良い気分になって
「エドってスゴイ男なのね!!」
「そうでもないさ」
「素晴らしい男だって、アーカイブでも有名よ!」
「そうなのかい!?」
彼女達の高らかな笑い声に合わせて
自分の話も手足が付いて大きくなっていく。
彼女達の会話も歌声も
活気に満ちた工場での働きぶりをそのままに
本当に愉快で楽しい時間。
アーカイブに来てからというもの
街の雰囲気に酔いしれ
1人で食事をする事も何も不満に感じた事がなかったけれど
久しぶりに沢山の人たちに囲まれて
人とのふれあいに心が温まる。
「エドもお祭りに行く?」
「エドはお菓子好き?」
女性達の小さな子供達までもが
エドと呼び捨てしてくるけれど
悪い気は全くしない。
「明日は年に1度のお祭りの日なのよ」
「エドも一緒に行かない?」
「お祭りか」
「エドは、きっと驚くわよ?」
「どうしてだい?」
「見る人全てを虜にする最高のパレードよ!」
見た事がある女性達は待ちきれないのか。
子供達までもが大声でハシャギ踊り始めた。
その横で黙々と1人絵を描く男の子。
「お名前は?」
「名前を聞く時は自分から言うんだよ」
「そうだったね・・・」
5歳ぐらいの子供に常識を言われ
知ってるとも忘れてたとも言えぬ苦い時間は
「僕はセイン。おじさんはエドでしょ」
小さな常識者に先手を越された。
「やあセイン。君のお母さんはどの人なの?」
取り合えず会話を探すギコチナイ大人。
「お皿を洗ってる真ん中にいるよ」
「そうか。じゃあ君は」
「ママの髪の色は黒いから君はパパに似てるって言いたいんでしょ」
最後まで言葉を聞かなくても判る少年。
「まあ・・・」
「その次はお父さんは何処って聞きたいんでしょ?」
「じゃあ、そうしようか」
「じゃあって、他に聞きたい事あったの?」
「いや・・・」
「僕のお父さんは居ないよ。居なくなったの」
「居なくなった?」
「そう。ここにいる子供は皆パパがいないんだよ」
「いない?」
淡々と指を刺し家族構成を教えてくれるセイン。
病死・失踪・家出。
「あの子のお父さんは罪人なんだよ」
「罪人!?」
「そう。公開所にね」
「指を刺すんじゃない!」
エドは思わず
イザベラとジョージに向けられたセインの口と指を塞いだ。