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第2章・3 カーター処刑

「なあ・・・アレは何ていう鳥だ?」


「見た事ないけど食べれるのかな」


機械撤廃後初めての春。


雪解けの地面からは数年前から咲く事がなかった花が咲き


「ありゃ〜渡り鳥ってヤツだな」


煙もチリも消えたおかげで空気まで清清しく


汚水を垂れ流す事もなくなった事で魚まで戻ってきた。


当たり前だと思っていた生まれ育った街の元の風景。


チリと煙が支配した灰色の世界から色彩豊かに戻り


「じっちゃん!あれは何だ!?」


「あれは蝶だよ」


「じっちゃん!何かいるぞ!」


「これは蟻と言うんだよ」


子供達は初めて見る昆虫を追いかけ元気に走り回り


女の子達は野原の草花でブーケを作っている。


裕福とは言えないが、街中の人の生活はさらに豊かになり


「もう1人出来たって!?お前いくつだよ!」


「もう40超えたな」


「パン屋もらしいぜ?アイツ50超えてんだろ?」


新しい家族も増え出しより一層笑い声が絶えない街全体が温かさに満ち溢れ


工場が吐き散らしたチリと煙の事も忘れ始めた頃に事件は起こった。



「大変だ!エド!」


勢い良過ぎたのか老朽の為か


エドの家のドアを壊してルイスが入って来た。


「何!人の家を壊してんだよ!」


「後で治すよ!それどころじゃないんだ!」


無理やり自転車の後ろに乗せられ


街の集会所までやって来たエドは目を疑った。


「今朝貼られていたんだよ!」


「カーターは?」


「もう連れて行かれたよ!」


「何処にだ!?」


工場が垂れ流していた汚水の為に魚が死に水が汚染された。


煙とチリは空気を汚し木も草も鳥も動物。


さらには人間の体調にまで悪い影響を及ぼした。


これはこの街だけに及ぼした事ではない。


煙は海を越え山を越え。


汚水は海を汚し川を汚し。


はるか遠い異国にまで影響したと思われる。


「カーター!!」


工場の機械化を撤廃し、希望者を全員労働させて賃金を出し


周囲にある街の住人までもが安心して生活できるようになった事は恩恵には当らず。


被告カーターが今まで行ってきた


愚かで自己中心的な考えは決して許せる物ではない。


機械化になった事で解雇された家族が貧しさと飢えに耐え切れず


病になった者。


さらには自ら死を選んだ者。


残された家族までもが死を選ばなければならなかった。


「これは紛れもない事実」


幼い我子に手をかける母親。


母親に手をかけられた子供。


「お前達は今すぐ償わなければならない」


我都市の条例に付き


食料も水も与えられず自ら死を選ぶまで


被告カーターの妻と子供達は島送りの刑。


「被告カーターはこの場で処刑する!」


「カーター!!!!」


カラッとした1発の銃声にカーターはその場に倒れた。


一瞬の事だった。


「ギャー!!!!」


縄で縛られながらもカーターに駆け寄ろうとした妻と子供達が剣で刺し殺されてしまった。


「以上!撤収!」


無残に転がった亡骸をまるで石ころの様に蹴飛ばして仰向けにし持って行く使者達。


柵沿いに崩れ、その亡骸に向かって手を合わせ震える街の住人。


この場で処刑されるとは思っていなかったのか。


一瞬の事で母親も間に合わず


声を上げると自分まで殺されると感じて


目を見開き息を殺す子供達。


誰もが目の前で執り行われたこの惨劇に息を殺してる。


エドもその1人だった。


「ご苦労様でした」


柵の中に聞き覚えのある声がした。


この街の町長。


一瞬こちらを見て何処かの国の使者にまた頭を下げてる。


「無駄な手間が省けたな」


その声の主達がほおり投げたのはカーターの次男。


大きな布を被されていたけれど次男の腕が垂れている。


「出発!」


その手は右左と揺られ


まるでこちらに向かってバイバイと手を振っているよう。


その手から赤い血が垂れた。


青年に近い年齢だけど


まだ子供だというのに


「夏にはセミと言って煩い虫が出て来るんだぞ?」


「本当?」


「本当さ!俺が嘘付いた事あるか?」


「あるよ?マリーさんが私が一番だってエドに騙されたって」


「お前には!って事だ!」


思春期で恋もしてたかもしれない。


今から沢山いろいろな事を経験して夢もあったかもしれない。


どうしてこんな事に!?


「エド。しょうがないんだ」


町長が重い口を開いた。


「工場が他の街まで悪影響を及ぼしていた事は事実」


「だからって!」


処刑を施工した使者が来たのは山を越えた所にある大きな都市。


自分達が住む街とは違いいつも活気に溢れエドが手本にしたい憧れるような美しい街。


「生きてる人間は幸せになれたのは事実。だが」


機械化にならなければ最初から幸せなままだったはず。


自ら死を選んだのは工場の人間だけじゃない。


魚が取れなくなり生活が出来なくなった漁師。


農民・牧場経営者・・・


「原因不明の咳で子供を亡くした母親もおる」


そんな事が起こっていたのか?


「ワシ等には償いきれんのだよ」


償うってどうやって?死んだヤツは誤まれないぜ?


「街に死体をさらすんだよ」


カーター達の亡骸がさらされてどうなる?


「見に行こうと思うんじゃない。その方が幸せだ」


人が死んだらお葬式をしてお墓を作るもんだろ?


それの何が見ない方が幸せなんだ?


町長の言葉の意味さえさっぱり検討も付かなかった。

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