第2章・2 忘れていた約束
町中の人々は機械化廃止により職ができ、活気を取り戻しつつあった。
隣の町からも次々と働き手がやって来て、その度にエドは新しい職を作ったが、このままでは、逆に工場が赤字になってしまうという心配は
「給ったお金でまた店を再開させる事にしたよ!」
「このお金でお店を開く事にしたわ!私の夢だったのよ!」
閉店した町の店が次々に再開し、工場から去って行く者。そして、その店に雇われていく者。
「子供達は伸び伸びと遊ばせてやらないとね!」
宝探しに飽き始めた子供達も工場から姿を消し、広っぱで優々と走り回り笑い声が絶えない日々に変わった。
何もかもが順調で、エドもみんなに祝福されクリスマスには工場長という役をもらった。
毎日が輝いて、仕事があるという事が、誰もが幸せになるという事が、これほど心まで満ち足りる事だと知りエドは神に感謝した。
「本当に神様ありがとうございます」
いや・・・あれ?神様だっけ?
違う!全ては、このマッチのおかげ。
「ありがとう!ダニー!」
そう。このマッチをダニーがくれなかったら。
そうだよダニー。お前は死んでしまったんだよな?
どんなに探したって見つからないお前を今こそ探し・・・?
エドはダニーとの約束を思い出し慌てて工場を出た。
工場が再開される日も、ダニーの妻イザベラと息子ジョージを見ていない!
あれから何日経ってる!?大変だ〜!!
町のみんなへの挨拶もせずに、必死に自転車で走り隣のダニーの家に着いた。
「イザベラ!!」
扉を叩こうが誰かがいる様子はない。
「あらエド?どうしたの今日は早いのね」
「オリビア!イザベラはどうしてる!?」
「そう言えばココ数日は見てないけど」
きっと行方不明のダニーを探し続け、悲しみと飢えで餓死してるんじゃないか!?悪い方向にしか考えられず力ずくで引っ張った凍ったドアのぶと共にエドの体は吹き飛んだ。
「ちょっとエド!?何をしてるの!」
オリビアが慌てふためいて死に物狂いで扉にぶつかりまくるエドに駆け寄った時、扉は大きな音を立てて家の中に倒れた。
「イザベラ!」
誰もいない事を確認するのは1つしかない狭い家だから容易い事だった。静まり返った小さな家の中の桶の水は凍り、ダニーとエドが子供の頃と変わらないまま家具も配置されていた。
イザベラに失恋して以来入った事がなかったダニーの家。ただ1つ違ったのは、写真立てに飾られたイザベラとダニーの結婚式と愛息子ジョージと2人の写真。
霜が降りて薄ボケて見えたその写真を指でなぞると笑顔のダニーの顔がくっきりと見えた。
「ダニーごめん・・・俺、約束守れなかった」
涙が溢れ出し、懺悔と後悔の思いで立っている事が出来なくなったエドの体は床にひれ伏した。
「みんなの前でカッコ付けて事が進むのがさ、面白くてさ!お前がくれたのにな。許してくれ」
家の壁に頭をぶつけ泣きじゃくるエドを正気に戻したのは、オリビアが引っ掛けた桶の冷たい水だった。
「どうするのよ!人の家を壊して!」
ブルブルと震えながら暖炉の前で命を繋ぐエドの単なる勘違いだった。
イザベラとジョージは2つ隣の街から呼ばれて出かけたと言う。
「みんなダニーの死体が上がったんじゃないかって言ってるわ」
2つ隣の街といえば、ダニーとオリビアが結婚の記念に旅をした場所だと言う。
そんな事さえ知らないほど、エドはダニーの事を拒否していた日々を思い出した。
話しかけてくれようが、挨拶すらダニーに判る様に無視し続けてたのに。ジョージとは遊ぶな!と愛娘リサにダニーに聞こえるように言った事もあったのに。イザベラがお菓子を作って持ってきたのを受け取らずに付き返した事。
いつもいつも悪いと、止めようと思う心は、体と口には思うようにならず。ダニーを傷つけ欺け続けた。
それにも拘らず「愛する弟」と言ってこのマッチを俺にくれた。
残りの全てのマッチをダニーの愛するイザベラとジョージの為に使おう。
後は俺が好きなようにと言ってたけど、俺は好き勝手に使わせてもらって工場長の座にも着き、以前より暮らしも豊かになり何も他に思いつく物はない。
2人が帰ってきたら、俺は全てを話してこのマッチをジョージに渡そう。きっとダニーも喜んでくれる。これが、愛する兄ダニーに出来る最大の恩返しだ!
エドは燃える炎の温かさに痺れる手でマッチを握り締め、そう心に決めたのだった。