第2章・1 工場再開
1人工場の中に入ってエドはポケットからマッチを取り出した。
もしかしたら偶然に機械が壊れただけかもしれない。本当にこのマッチのおかげなのか?
箱から1本マッチを取り出し点火した。
「機械よ動け」
願いを唱えられたマッチから1本の白い煙が、まるで生きているかのよう機械の周りを1周した時だった。
ギリギリギリギリギリギリと音を立てて突然正常に作動し始めた。
あ〜大変だ!もう1本マッチを取り出してすかさず点火した。
「機械よ止まれ!」
白い煙が機械に勢いよく飛び掛り機械は停止した。
「何だエド?今機械の音がしなかったか?」
「いやカーター。ちょっと治してみようと思ったんだが、やはり無理みたいだ。」
カーターは賃金の準備が忙しいと言って社長室に消えていった。
本当にコレはもしかして!機械化する前までは沢山の人で賑わったくもの巣だらけの食堂でマッチを点火した。
「さあ!今すぐ使えるようにキレイにしておくれ!」
部屋中に向かって煙が立ち上がった時だった!
ほうきが!雑巾が!テーブルもイスも鍋もフライパンだって!まるでダンスを踊っているかのように動き出し、みるみる部屋も道具もキレイになってあっという間に利用者を待つ空間へと変わった。
素晴らしい!本当に魔法のマッチだ〜!!さあ、こうしては居られない!次々と工場内を機械化される前の状態へと変身させて行った。
「一体どうなってるんだ!?まるで魔法のようだ!本当に素晴らしい!」
褒められれば、誉めちぎられるほど男色に走りたいぐらいエドの気分は最高潮になった。
「さあ、まだまだやる事がたくさんあるぞ!」
エドに全てを任せておけば大丈夫!虜になったカーターは全てをエドに任せると言った。
工場の朝礼台の前には老人から赤ん坊まで!溢れんばかりに人が集まっていた。
以前働いていた人は、新しい男達に指導しながら以前の持ち場を。
新しい女達には食堂でみんなの為に食事を作ってもらう。
「今日ココにいる全員の分を作るんだ!大変だろうがよろしく頼むよ!」と一言気遣いまで飛び出しエドの口はアノ頃にどんどん戻っていくかのようだった。
「じゃあ、小さな子供達はこの部品の中から壊れてたり、欠けてる部品を探してもらう。イイかい?宝探しだ!見つけたヤツには賃金と他にお菓子をあげよう!」
「赤ん坊だってもらえるって言ったわよね!?」
生まれたばかりの赤ん坊を差し出され
「そうさ出すとも!君は立派なみんなの癒し係だ。で!君はこのベビーをお守りするのが仕事さ。さあ、ココが君たちの仕事場さ」とベビールームまでマッチで作っていた。
さあ!次は君!と振り返ったエドの前に恐妻オリビアが立っていた。
「オリビア・・・?昨日は・・・」
「これで帰れなかったのね!本当に素晴らしいわ!」
予想外なオリビアの言葉にエドは夢中で話した。
「そうなんだ!コレが大変でね・・・・もう時間さえ忘れてしまって心配したかい?ゴメンヨ」
何もかも心配事はなくなった。エドは頭の中をフル回転させ次々に必要のない役割も作ってみんなが賃金をもらえるようにした。
工場は活気を取り戻し、昨日までの恨みつらみ事を誰もが忘れたかのように女達は歌を歌いながら、男達は力比べでも競い合いながら、エドが戻りたかった頃の工場以上に理想とする場所になった。
アンテナは見る見るうちに完成していき、無事に船の到着に間に合うどころか早く来てもらわないと置き場がないほどに作られていった。
「エド。本当にありがとう。俺が間違っていた。このお通りだ」
「良いんだよカーター。」
全ての事の間違いに気が付いたカーターは心からエドに謝った。
「じゃあ、おやすみエド」
「あ〜また明日カーター」
工場の敷地を出ると見慣れた町並みは相変わらず静まり返っていた。でも、今日もらった金のおかげだろうか?ところ所の家から子供達の楽しげな笑い声が聞こえた。
子供の笑い声さえも奪ってしまった機械化は終わり、ささやかだけど誰もがまた暮していける。
朝までのみんなの暗い顔が、一気に笑顔に変わり誰もが幸せに満ちていた事を思い出し、家の明かりにさえ愛しいと感じるほどエドはやり遂げた達成感と充実感に心が満ち溢れていた。