第1章・11 1本目の願い事
何かを掴んだままの右手に力を与えるかのように左手が包み込んだ。まさか・・・・。震える両手で少しづつ。少しづつ離れた指の隙間から1つの箱が見えた!
「夢だ!」
両手を握り返しエドはまた仰向けに倒れこんだ。とうとう頭までイカレチマッタのか?そんな訳ないだろ?あれは夢だ。そう・・・・夢。どうしてイイか判らなくなって。何でも良いから助けて欲しくて。俺はただ逃げたかっただけで。力が入るにしたがってエドの手に四角い物体は己の存在をアピールした。
ギリギリ・ガッシャーン
ギリギリ・ガッシャーン
どれぐらい時が経ったのだろう。体に降り積もるチリは、小さな山を作り始めたが、エドは遠くに見えるアンテナ工場を、ただじっと見つめていた。
ギリギリ・ガッシャーン
ギリギリ・ガッシャーン
かすかに聞こえる金属音。ゴウゴウと立ち上る黒い煙。こんなに離れた場所にまで降り続ける灰色のチリ。
ザザー
積もったチリの重みに耐えかねたのか。葉が垂れてチリが落ちる音にエドは振り向いた。その光景は、木が生きる為にチリを必死に払いのけようとしているかのように見えた。
ポキッポキ
今度は別の木がエドを呼んだ。地面に降り積もったチリの影響で栄養も水分も取れず枯れた木の枝がチリの重さに耐え切れず小枝から折れた。
(お前達もこうなっていくんだよ)木の思いを聞きエドは町の方を見た。まるで生から死へ埋葬されていくかのように見える生まれ育った町を瞬き1つせずに見つめた。
「この街は死んでしまう。木も人も何もかも・・・」
夢か嘘か幻なんてもう考えなかった。もう迷いは無い。遠くに見える煙突に視点を合わせエドはマッチ箱からマッチを1本取り出した。
シュボッ!
「アンテナ工場の機械が全部壊れますように。」
(はい。ご主人様)とでも言いたげに願いを聞き終えた炎は1本の煙となって天高く上っていった。