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音楽ゲームのアカシックレコード  作者: 桜崎あかり
9/12

第9話:SuperSonic

5月13日午前1時54分付:行間調整

 武内皐月が目撃した物、それはネット上で噂されていた裏モードとも言われているブレイクオブサウンドのもう一つの姿……裏システムだった。


 彼はARゲームの経験もなければ、アスリートの様な体力がある訳でもない。しかし、初見プレイとは思えないほどのスキルを彼は披露する。


 これには様子を見ていたギャラリーも驚き、更には話を聞こうとしていた長門凛も驚かせる結果となった。


【表も優秀で裏でも優秀と言うランカーが過去にいたのか?】


【裏だけが異常に強い人物ならば見覚えがあるのだが、ここまでの実力者となると指折り数えるほどいるかどうかが怪しい】


【アレが神なのか、それとも人力チートか?】


 つぶやきサイトの反応が別次元のツッコミになっている一方、観客の方は冷静だった。


「裏システムって、アスリートでもクリア困難と言われているのに」


「あれがランカーの真の力か?」


 ギャラリーでもランカーを一種の超能力者や調人等と同類扱いをしている人物も存在し、格闘ゲーマーやSTGプレイヤーからも音ゲーランカーと聞くだけで恐れられるほどだ。


 一方で、裏システムの存在はネット上の噂や都市伝説の類ではなく本物である事が公表された。しかも、その人物は匿名であることを条件に色々と語り出す。


 その人物の正体に関してネット上ではスタッフが流出させたという説も出ていた。しかし、今更炎上商法や煽り商法でユーザー数を増やしていくような作品ではない事、それは周知の事実となっていた。


『我々は知ってしまった。アナザーワールド、そこで起こっている戦いはコンテンツ業界の縮図であり、超有名アイドルの投資家ファンが新たな投資先と考えている場所でもある――』


 動画サイトの生放送で演説をしている人物、それは鎧姿の人物、レーヴァテインである。彼が姿を見せた理由は不明であり、何故にこの姿で演説をする理由が分からなかった。


『そして、我々は宣言する! 無法地帯に近いアナザーワールドにルールを作り、新たなテレビ番組を生み出すと!』


 この宣言は、後に予想外とも言える展開を生み出す事になった。


###


 4月12日午前11時、武内皐月は表でも裏でも何かの異変に気付き始めていた。


「これが、彼女の言っていた警告なのか」


 武内は、ふと数日前に出会った女性の言葉を思い出す。彼女とは竹ノ塚の周辺で遭遇したのだが…。


 4月10日午後1時、武内は裏システムで複数のプレイヤーを何とか撃破する事に成功した。


「……これが、裏モード」


 武内自身も裏システムの恐ろしさが分かり始めている頃である。ダンスゲームで連続プレイが可能な程のスタミナには自信があるのだが、ここまでの体力を使うとは予想外だ。


「ウィキ上では体力を使うと言う説明もあったが、ここまで消耗するとは予想外としか言えない」


 コンビニで購入したペットボトルのスポーツドリンクを飲み、のどの渇きをいやす。しかし、500のペットボトルでも一気に飲み干すという訳ではないのだが、足りない気配だ。


 その時だった。スポーツドリンクの方も残りわずかとなり、ボトルキャップを閉めた所で一人のパワードスーツの人物が姿を見せる。


「あいつに関わらない方がいい」


「超有名アイドルファンにとっての死神だ」


「何故、彼女がこの場所に来たのか―」


 周辺のギャラリーはパワードスーツの人物を知っているらしく、距離を置き始める。次第にギャラリーの数は少なくなり、コンビニを利用する為のお客以外は近づく事さえ出来ない気配となった。


「噂になっている初心者プレイヤー、あなたね。武内皐月……」


 この人物は自分の事を知っていた。メットを外すような事はせず、そのまま話を続けようとしている流れだったが、周囲の視線がない事を確認し、何かのボタンを押してシステムをカットした。


「あなたは一体何者ですか」


 武内の言う事も当然である。ラフな私服姿な為か、正体が分からないというのもあるかもしれない。仕方がないので、彼女は名乗る事にした。


「瀬川彩菜。アキバガーディアンのメンバーでもある」


 瀬川彩菜が名乗った後も武内は何が起きているのかさっぱりという表情で見つめる。アキバガーディアンの行動を考えれば、武内の表情も分からないでもないが。


「自分がアキバガーディアンに対し、何か悪い事でも起こしましたか?」


 この対応は当然の結果だった。アキバガーディアンと言えば、コンテンツ業界に対して過剰介入をして混乱を起こしているというのがネット上での評価だったからだ。


 この評価は炎上系サイト等の物であり、正当な評価であるかどうかも怪しいのだが……。それでも、武内はアキバガーディアンの真相を知っている訳ではないので、このような返答しかできない。


「確かに、貴方はアキバガーディアンにとっては非警戒人物。夢小説勢やフジョシの様な危険思想人物でもなければ、炎上勢力に見られる右翼的な思想を持っている訳ではない……」


 瀬川の方も武内をアキバガーディアンが棄権人部として指定していない事は説明する。しかし、瀬川の発言には何かの含みがあった。


「しかし、貴方がアナザーワールドへ介入する事はお勧めできない。この先を目撃すれば、間違いなくコンテンツ業界の闇を知る事になり、純粋にコンテンツ作品を楽しめなくなる」


 瀬川の表情は、何処か上の空というような感じである。他人事で話している訳ではなく、これは武内の為を思っての警告でもあった。


「コンテンツ業界の闇って、超有名アイドル商法みたいなアレでしょうか」


「それは日本政府も推し進めている政策にカウントされているけど、アキバガーディアンが懸念しているのはそれじゃない」


「では、一体何を――」


「推しアイドルは知っている? 自分がお気に入りのアイドルを人気にする為、他のアイドルの人気を下げる事。もっと別の言い方もあるらしいけど……」


 武内は超有名アイドル商法が闇なのではないかと考えていたが、瀬川は違うと否定する。そして、彼女は武内に対して推しアイドルに関して説明する。


「それはおかしいです。他のアイドルの人気を下げてまで自分のお気に入りアイドルの人気を上げるなんて」


 武内は瀬川の言っている事が若干理解できたが、それでも納得できない部分はある。


「しかし、それがコンテンツ業界の現実。テレビ局は超有名アイドルコンテンツだけを唯一無二のコンテンツにする為、他のコンテンツを強制排除しようとしている。それも、ブラック――」


 瀬川が何かを話そうと考えていた矢先、何かの視線を感じた瀬川が該当する方角に向けてビームライフルを撃つ。次の瞬間には、ライフルに撃たれたと思われる超有名アイドルファンが倒れる音がした。


「今の音は……」


 武内も、これには衝撃を隠せない。瀬川が何も躊躇することなく人間を撃ったのである。


「心配は無用よ。ARガジェットには殺傷能力はない。さっきの人物も、少しの間気絶はしているかもしれないけど、怪我の心配する必要性はない」


 瀬川の一言も、今の武内にとっては混乱を引き起こす為のトリガーになっている。


 その後、瀬川は何かを追跡するかのように姿を消した。一体、彼女は何を言おうとしていたのか?


「アナザーワールド……まさか!?」


 ようやく、武内は忘れかけていた記憶を思い出したのである。1年前に起きたアナザーワールド、そこで起きた事故の正体を―。


「全ては、テレビ局側が超有名アイドルを唯一無二のコンテンツにする為の裏工作だったのか」


 あの日から、アナザーワールドとの接し方が変化し、ブレイクオブサウンドの表モードではエンジョイ勢として、裏モードではガチ勢として名前を広めていく事になる。


『お前がネット上でも噂になっている超有名アイドルキラーか』


 目の前にいる超有名アイドルの投資家ファン、彼らにとってはアキバガーディアンだけでなく、単独で動くような反超有名アイドルファンも目の仇だった。


 彼らの装備は基本的にARガジェットと酷似しているが、その中身は全くの別物と言っても過言ではない。それが意味する物、それは外部ツールや違法パーツを使用した非ライセンス商品である。


「あなた方は、ARゲームを何だと思っているのですか? 超有名アイドルの宣伝材料でもなければ、投資家の投資材料でもない。まして、株式市場の様に上昇のタイミングを狙い、人気を下げるような行為も見過ごせない」


 武内の所有しているガジェット、それはアンテナショップからの支給品ではない。瀬川から渡された別のワンオフガジェットである。


 このガジェットの火力は想像以上でもあった。それに合わせ、武内のガジェットスーツも西洋風から北欧神話風にグレードアップ、武装もライフル、ハンドガン、ガンビット等の複数武装に分離可能なマルチランチャーに変わっている。


「これ以上、投資家のような存在を見逃す訳には……」


 次の瞬間、マルチランチャーが分離、ビームランチャーは両肩のハードポイントに装着され、ビームライフルを武内が構える。そして、動きだした投資家ファンと思われるガジェットアーマーを即座に狙い撃つ。


『馬鹿な! あれだけの射撃技術を持って――』


 命中したガジェットアーマーはその場で機能停止し、フィールドからは弾き飛ばされた。この光景はアナザーモードでも特殊なオプションが設定されている為、ギャラリーが目撃する事は出来ない。


 その代わりに、フィールドから弾き飛ばされたガジェットアーマーが次々とギャラリーの前に姿を見せる。そして、アーマーから出てきた人物を見て驚きの声を上げる。


「あれは、アイドル投資家で有名な人物だぞ。一体、どういう事だ?」


「向こうには超有名アイドルの追っかけで有名な人物が……」


 ガジェットアーマーの装着者は、その半数が超有名アイドルのファンや投資家、他にも襲撃事件に関与した人物もいた。


 そうした流れもあり、既に警察もスタンバイ済みだったのだ。ここまで手回しが良い事に何かおかしな点も浮かぶのだが、一般ギャラリーは全く自覚がない様子である。


「警察が来るのが早すぎる。もしかすると、今回の場所を流したのはアキバガーディアンとは別勢力か」


 ギャラリーの向こう側、警察が気づかないような場所で双眼鏡を片手に様子を探っていたのは、別の目的でフィールドにやってきた信濃杏だった。


 フィールド内では超有名アイドルファンが次々と武内1名に倒されていった。次第に数は減って、遂には最後の1人となった。


『あり得ない。あのテレビ局、俺たちを売ったのか?』


 最後の1人、あるアイドルファンが思わず叫ぶ。どうやら、彼らはテレビ局の指示で動いていただけらしい。それを聞いた武内は驚きの声を上げることなく、ガンビットを待機状態でハンドガンを突きつける。


「テレビ局?」


『そうだ! 俺たちはテレビ局の指示で、アイドルのドキュメンタリー番組を作ると言う目的で、任務が成功したらアイドルに合わせてくれると――』


「ドキュメンタリー番組ですか。結局、あなた方は超有名アイドルコンテンツ存続の為に、他のコンテンツ人気を下落させる手助けをした」


『他のコンテンツは、超有名アイドルにとっては邪魔な存在とテレビ局に言われたからやっただけだ! 許してくれ――金ならば出す』


「お金で解決ですか。それこそ、超有名アイドルと同じやり方ですね」


 2人のやり取りは続く。アイドルファンは降伏をするのだが、それに対して武内は半分呆れている。


『ならば情報か? 情報が必要なのか?』


 金は必要がないと言われ、今度はアイドルファンが情報を話すので見逃して欲しいと言う。見逃すかどうかは別問題だが、話だけは聞く事にした。


 彼の黒幕、それはテレビ局の人間を名乗っていた。どのテレビ局かは不明だが、視聴率不振に嘆いていた為か、ある程度は特定できるようだったのは覚えている。


『テレビ局としては、スポンサーを集められる番組を作ろうとしていた。その白羽の矢をブレイクオブサウンドに放ったらしい』


「いわゆる客寄せパンダの番組ですか。テレビ局のやりそうな方法ですね」


『そして、有名アイドルがブレイクオブサウンドをプレイする番組を企画したらしいが、運営が拒否したらしい。それで、復讐を仕掛けると言いだした』


「それは当然です。ブレイクオブサウンドの運営は営利関係には、色々と厳しい。二次創作でも非営利ならば問題視しない一方で、営利となると話が変化する」


『知っているのはこれ位だ。頼む、見逃してくれ』


 黒幕がテレビ局の人間だと知り、武内の怒りは頂点に達しようとしていた。しかし、ここで見逃して欲しいという人物を撃つ程の非道ではない。武内は見逃す事にした。


「こちらとしてもゲーム終了状態のオーバーキルが反則になる事は知っています。これ以上の戦闘は不要でしょう」


 そして、武内が彼に対して背中を向けた。その時に――。


 一発の銃声、それは相手プレイヤーのバイザーを破砕する程の威力を持っていた。それを撃った人物は意外な人物だった。


「あなた達のやっている事は、グレーゾーンではない……れっきとしたコンテンツ法違反よ」


 大型のレールガン、それを固定なしの片手で発射したのは、フルアーマーとも言うべき重武装のガジェットアーマーだった。


『コンテンツ法……貴様、アカシックレコードの……』


 次の瞬間、その人物は倒れ、フィールドへ弾き飛ばされた。その後、武内のバイザーにはあるメッセージが表示された。


【バトル終了】


 ここで、武内はあるミスに気が付いた。あの時に見逃そうとしていた人物が、実は背後を振り向いた瞬間に自分を撃とうとしたのは明白だった。


 アニメ作品でも見かける様な典型的な死亡フラグであり、一歩間違えればフラグが折られる可能性もあった。


「危なかったわね。あのパターンのフラグは、創作世界でも成功例が一切ない物。下手をすれば、成功例第1号になっていた所なのよ」


 そして、フルアーマーの人物はバイザーをオープンし、武内に対して素顔を見せる。


「あなたは確か……天城きらり」


 ブラックファンを集中的に駆逐すると言う噂はネット上でも存在した。しかし、その犯人が天城きらりとは、別の意味でも想定していなかった。


「アカシックレコードは加速度的にスケジュールを進めようとしている。簡単に説明すれば、長編小説をダイジェスト化して中編辺りに収める位の速度で」


 きらりの一言を聞き、武内は目が点と言う状態になっていたが、今までの流れを踏まえれば何者かがスケジュールの加速を行っているのは間違いない。

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