第12話:I'm so Happy
>午前10時53分付
誤植修正:数不運後→数分後
>5月13日午前2時2分付
行間調整、ピクシブの方でもEND表記をしたので、こちらでも追加。
7月1日、アカシックレコードに集められた武内皐月を初めとした人物、彼らにある選択を迫った人物、それは吉川シズカだった。
「アカシックレコードに記された技術、それを使用した事で歴史は変化していき、超有名アイドルに制圧されると言うバッドエンドは回避できた」
吉川は言う。しかし、他のメンバーにとっては突拍子過ぎて把握できない気配である。その中で、唯一の事情を知っていたのは信濃杏だった。
「超有名アイドルコンテンツのみが存在でき、それ以外を排除しようと言う炎上商法。それが最悪の結果になったのが、アカシックレコードでも記されている」
杏の一言を聞き、吉川は軽くうなずくが、それ以上の事を発言する事はなかった。話す気がないという訳ではなく、単純に話したとしても受け入れられる現状ではないからだ。
「人は過ちを繰り返す。手を変え、品を変え……流血を伴う争いは起こすべきではない。その平和を願う祈りが具現化した物、それがアカシックレコードに書かれていると思っていた」
吉川は杏の言葉に応じるかのように話し始めた。流血のシナリオを止める為にアカシックレコードが存在し、その記述が争いを止める手がかりになっていると彼は考えていたのである。
それから数分後、吉川は色々と語り始め、そこでアカシックレコードを悪用すれば大量破壊兵器を容易に生み出せる事も話した。
「――戦争の火種となる可能性があるARガジェット、この技術を使い続けるべきか、超有名アイドルの様な悪用を防ぐ為に封印するか? どちらにすべきか、君達の意見を聞きたい」
それを踏まえた上で、吉川は他のメンバーにどうするかを選んで欲しいと。
「一応、自分の意見は先ほどまでで述べたとおりだ。戦争に利用される位ならば、封印もやむ得ないと考えている。全てのARゲームを封印する訳ではなく、今回はアナザーワールドのみで考えて欲しい」
吉川は封印する選択を考えている。多数決ではなく、自主性を尊重して意見を話して欲しいという事らしい。
最初に口を開いたのは天城きらりである。彼女は真剣な目つきで、反対を主張するのだが、その理由は……。
「超有名アイドル、フジョシ勢、夢小説勢、自分達の利益しか優先しないような人物がいる限り、同じような事件は繰り返される。それならば、封印した方が悪用を防げる。それでも無理であれば、国会で規制法案を通すべきよ」
その口調は何かに追い詰められているような気配さえ感じる。それ程の威圧感を持っていたと言っても過言ではない。
「超有名アイドル勢の悪用だけで済めば、それは国内で何とかすればいいだけの話だ。しかし、海外へ輸出となると……軍事転用される可能性は否定できない。ネットでの情報拡散を考えると、封印は当然と言うべきか」
きらりの意見とは別の理由だが、赤羽凪雲も封印を妥当と考えていた。
「私も封印は妥当と考えるわ。軍事転用はARガジェットに限った話ではないけど、あれだけの能力を見せ付けられた後には封印は妥当と考えたくなる」
軍事転用はガジェットに限らす、さまざまなシステムにも当てはまる。そう考えていたのは長門凛だ。
しばらくして、吉川のスマートフォンに着信が入る。この場には来られないという事だった瀬川彩菜からである。
「話の方は、かいつまんでだが全て話してある。ARウェポン、ARガジェット、アカシックレコードの技術をどうするか……。今は、その意見を聞いている所だ」
『長々と話していたら、それこそ超有名アイドル商法議論や炎上商法、ネットを悪用したデマ拡散、推しアイドルに関しても説明する必要背がある。そこまでやって、彼らが直感の意見を出せるとは思えない』
「では、君の意見は依然と変わらないという事か」
『当然だろう。軍事転用されると言う最大の懸念は存在するが、それを行えるような技術は日本上にも世界にも存在しない。過剰にネガティブな意見だけを拡散し、恐怖を与えるような事は日本にとってベストとは言えない』
瀬川の話はパイプテーブルに置かれているスピーカーから流れており、他のメンバーにも聞こえている。ただし、通話に関しては吉川の付けているインカムのみで他のメンバーの声は瀬川に聞こえない。
「それ程、君は日本という国を信じていると。政治でも芸能事務所との裏金疑惑が週刊誌に取り上げられ、歴史認識に関しても――」
『今の彼らに不必要な意見を流す必要性はない。いま重要なのは、玩具やゲームで世界征服を考えようと言う人物が存在しない中で、ARガジェット規制を考える芸能事務所に操られた政治家を生み出さない事だ』
「それこそ、飛躍しすぎた意見だと考えるが……」
『ここまで想定しているからこそ、アキバガーディアンの必要性を別の角度で訴えてきたのだ』
「意見の方は確認した。そちらも忙しいだろう?」
そして、吉川は通話を着る。瀬川が忙しい理由は不明だが、ここへ来られないことと関係があるのだろうか?
ここまでで封印に反対している人物は瀬川だけだが、封印に反対している人物はもう一人いる。
「ARウェポンも、ARガジェットも下手に封印や規制をかける事で炎上を狙う勢力もいるかもしれない。それこそ、便乗商法の思う壺だ」
反対意見を出した人物、それはシャロ=ホルスだった。シャロの意見を聞いた封印に賛同する他のメンバーは、武内以外は動揺をしているような気配である。
しかし、吉川が動揺をするような表情は意地でも見せない。これは、下手に動揺して自分の意思が揺らぐと言うよりは、他の意見を述べたメンバーが自分の決断をひっくり返すという事も考えての策だった。
「便乗商法か。批判合戦を誘導し、第3者が漁夫の利を狙うような展開もあり得る……と考えたか。ネット住民が何を考えるのかは分からないが、彼らはフィールドを荒れ地にするだけで放置し、再構築は他人に丸投げする。そう言ったやり方が気に食わない」
封印反対派に回った人物、そのもう一人は信濃杏だった。杏はアカシックレコードの全貌をわずかだが目撃をした事がある数少ない人物であり、今までの強運もアカシックレコードによる物とネット住民からは言われていた。
「アカシックレコードは超有名アイドルが全世界を支配する為の力に悪用される可能性が否定できない。それでも、あの力を使い続けると言うのか?」
赤羽が訴えるのだが、結局は同じことの繰り返しなのではないか…という風が吹き始める。
そして、最後に発言したのは武内皐月だった。
「自分も危険な力に関しては封印をすべきと考えます……」
これによって封印が確定すると思われたのだが、武内は話を続ける。単純に封印すべきという意見とは違うようでもあった。
「しかし、いくら強大な力であろうと単純に悪用されるからという一言だけで封印を選ぶのは……酷だと思います。もう少し、話し合いの余地を残せるはず」
この一言は、吉川にある判断を下すきっかけとなり、最終的にはブレイクオブサウンドの裏モードもシステムを調整したうえで、翔体制ではなく一般開放される事になった。
その後、数日の内に様々な意見が運営に集約され、それを元にシステム調整が行われた。
「わずか数日で、ここまでの物が集まるとは思えない」
スタッフの一人は要望の数が5000通以上という状況に驚きを隠せない。
「こうなる事は既に織り込み済だったとしか、思えないだろうな」
別の男性スタッフはメールの数に驚くのではなく、要望の中身が細かい部分にまで及んでいる事に驚いていた。
【超有名アイドル等に悪用されないような外部ツール対策強化】
【ガジェット類の重さを軽くして欲しい】
【初心者対策をもう少し行って欲しい。今の状況では初心者狩りが横行するのは目に見えている】
【超有名アイドル、アイドル投資家、芸能事務所関係者の参加を拒否するべき】
一番多いのは、この辺りの意見だ。この他にも難易度調整案は出ているが、今すぐには対応できない案でもある。
初心者救済案は可能かもしれないが、これに関してはさじ加減を間違えるとバランスブレイカーになりかねないだろう。
【ガジェットの動作が遅いように思える】
【システムが重いという訳ではないが、軽く出来る部分はスマートにするべき】
この辺りの意見は想定されていたらしく、メンテナンス後に対応する事になったようだ。
【現状ではギルドの様なシステムは実装されていないので、何とかして欲しい】
【パーティープレイは実装希望】
【システム的にソロプレイメインなのかもしれないが、なんかしらの交流要素はあってもよいと思う】
【交流を二次創作オンリーみたいにせず、運営からも何かしら動きを見せるべき】
交流要素に関しては複数の意見があるのだが、下手にこの辺りを緩和すると炎上する可能性も非常に高い物という考えがあるらしい。
様々な意見を取り入れ、7月8日に大規模メンテを行い、9日に再起動する事を公式ホームページで発表する。
【裏モードが正式実装なのか?】
【裏モード自体は運営も存在を否定していたのに、これで存在を認めたという事か】
【表モードはショートメンテで終わりそうだが、裏モードは大変そうだ】
【ほとんど作り直しと言うか……新規要素が多すぎる気配もする】
【その間は裏モードの招待状も停止するようだ。メンテあけに参加希望者にはキーを配布するらしい】
ネット上のつぶやきは、裏モードが公式化する事に驚きを隠せない。
【この動きは、もしかするとユーザー側へ歩み寄っている証拠なのか?】
【ブレイクオブサウンドは超有名アイドル勢力への対抗手段として作られたという側面が大きいからな】
【今回の動きは音楽ゲーム全体を見ても、かなりの変化を生み出す事になりそうだ】
ネット上では、今回の裏モード公表は否定的ではなく肯定的な意見で受け入れられており、さまざまなシステム変更に関しても今までが良かったという意見もある一方で、歓迎すると言う意見がそれを上回った。
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7月6日午前11時、竹ノ塚の歩行者天国をフィールドにしてバトルモードの発表が行われていた。
本来であれば裏モードとして残す方向もあったのだが、武内の発言等を踏まえ、モード名称の変更、ルール改訂を含めて調整が行われ、今回の発表に至る。
「今回のシステムリニューアルは、新たな第一歩と考えます」
スピーチを行っているのは、今回の新システム導入で運営側に参加する事になったシャロだった。
「今、皆さんは幸せですか? 今回のブレイクオブサウンド大幅リニューアルが、我々にとっても皆様にとっても……」
シャロのスピーチは続く。
その一方で、それを遠くから見詰めている人物がいた。裏システムには興味がないという長門凛である。
「両方のモードを極めるという手もあるかもしれないけど、今の自分にはこちらが似合ってるかな」
凛の手元にはタブレット端末があった。今の彼女にとって、裏モードは高嶺の花ではないのだが、表モードを一段落させてから……という事らしい。
同日午前12時、竹ノ塚のゲームセンターに姿を見せたのは武内皐月だった。
「よく来たな……と言いたい所だが」
武内を入口で待っていたのは信濃杏だ。彼女も別の人物とゲーセンで待ち合わせをしているのだが、現れる気配はない。
「自分に合わせたい人物とは……」
武内も詳細は聞かされておらず、誰かと合わせたいという杏の話に乗っかっただけである。
奥の音楽ゲームコーナー、そこの待合い用のいすに座っている人物、その人物は私服姿の瀬川彩菜だった。
「貴方が武内皐月ね。話はシャロやきらりから聞いているわ」
そして、瀬川はある話題を早速切り出した。その話は、武内にとっても重要な話である。
「ブレイクオブサウンドを守る為、アキバガーディアンに協力をして欲しい」
それを聞いた武内は、やっぱりと言う表情をする。結局、悲劇の連鎖は繰り返される……それを感じた瞬間でもあった。
「超有名アイドル勢力、彼らに流血のシナリオを起こさせない為にも……と言いたい所ですが、お断りします」
武内は瀬川の願いを断った。その理由として、悲劇を繰り返す事は許されない行為であり、流血を伴う物はあってはならない。
しかし、それでも悲劇を繰り返すのを防ぐ為に過剰防衛を行う事も違うのではないか、という事なのだ。
「自分はブレイクオブサウンドを純粋に楽しみたい。アキバガーディアンや超有名アイドルも関係ない所で」
武内がブレイクオブサウンドで真の強さを発揮する背景には、他のユーザーが考え付かないような物を彼が背負っているのも理由なのかもしれない。
STORY END