表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
音楽ゲームのアカシックレコード  作者: 桜崎あかり
1/12

第1話:ドラゴンブレード

>更新履歴

5月13日午前1時20分付:行間調整

 西暦2010年代、ソーシャルゲームの当たり年と言われ、さまざまなゲームが世に出回った。


 しかし、それらはコンプガチャ等の問題で衰退、利益を得る事が出来ないと判断されたゲームは運営を終了していく運命をたどる。


 その状況下でもヒットするゲームは必ず存在していたのは事実だった。ネット上では特定のユーザーだけで盛り上げているという話も出ているようだが、定かではない。


 ソーシャルゲームが衰退した理由はさまざまだが、それは運営が上手く『出来ていなかった』と言わざるを得ない。ヒットするゲームがあった以上、言い訳にしかならないというネット上の意見もある。


 それから時は流れて西暦2015年、リアルと言う舞台で行う拡張現実を取り入れた『ARゲーム』が爆発的なヒットを記録した。


 それでも、結局はソーシャルゲームと同じように一部の商法が規制され、衰退していく繰り返しになるとマスコミの誰もが考えていたのだが、その展開は思わぬ方向で裏切られる。


 ―それが、現在のゲーム業界と言っても過言ではない。その一方で、超有名アイドル勢のゴリ押しとも言えるコラボも展開されており、様々な業界が利益を得る為にコンテンツを売ると言う時代となった。


 当然の事だが、こうしたメーカーの思惑だけでファンも放置されたコラボはファン以外の人間からは不評を呼び、該当する商品の値段暴落を起こす可能性も否定できない。


 色々な懸念はネット上でも言われているものの、結局は超有名アイドル勢が他のファンに構って欲しいが為の発言として流される事が多い……はずだった。


 西暦2014年から起こる超有名アイドルをトリガーとした事件の数々は、まるで炎上商法のソレを思わせるような存在である。


 こうした事件の裏側では、週刊誌の売り上げを伸ばそうという出版社側の考え、超有名アイドルの出演している番組の視聴率を上げようと考えるマスコミ等―。


 やはり、悲劇の連鎖は繰り返されるのか? 超有名アイドル以外のコンテンツがヒットする事は許されない事なのか?


 そうした流れに反する動きを見せたのが、アキバガーディアンである。それ以外にもランカーと呼ばれる人物達が協力する事で、超有名アイドル勢の野望は阻止されていく。


 そうした動きも一般市民にとっては全く関心を持たない話題であり、この動きを見て悔しがっているのは一部の夢小説勢やアイドルファン、芸能事務所とパイプラインを持つテレビ局関係者位だった。


 この動きが繰り返されていくにつれて、若干飽きられつつも有名人になりたいと考える人間からすればチャンスとなる。しかし、ネットを炎上させる事、悲劇や惨劇を引き起こす事は本当に有名人となる事に直結するのだろうか?


 ネット炎上勢の行っている事は、単純に自分達の売名行為でしかなく、それによってコンテンツ業界が超有名アイドル以外は存在してはいけないという暗黙のルールを根付かせるのが目的なのだろうか?


 こうしたネット炎上を誘導するまとめサイトに対し、規制法案や悪質なものには管理人の逮捕を請求可能と言った法律の変更を叫ぶ者も多い。しかし、それらの意見が聞き入れられる事はなかった。


 その理由の一つに、管理人の正体が超有名アイドルの芸能事務所に所属するスタッフであり、超有名アイドル以外のコンテンツを歴史から抹消する為に動いているという話も存在する。


 それらをコンテンツ業界のディストピアと例える者もいるが、それが正しい表現なのかは疑問視されているのが現状だ。


 その中で起きた西暦2016年の事件、それは超有名アイドル市場の壊滅寸前まで追い詰めた一件でもあるのだが―。その真相は謎のまま、1年という歳月が流れた。


###


 西暦2017年4月1日、秋葉原の裏路地、そこには歩行者天国などのにぎわいとは全く別のフィールドが展開されていた。


 そのフィールドはビル街から半径500メートル、フィールド外にはバリアが展開され、流れ弾等が一般市民に当たらない仕様になっている。


 これらのフィールドは『ARゲーム』と呼ばれる拡張現実を利用したリアルフィールドで行われるゲームに、よく使われている仕様だ。


 このゲームに限って言えば、他機種の『ARゲーム』とは全く違う部分も存在している。それは、プレイヤーの使用しているガジェットにあった。


 一般的な『ARゲーム』で使用されるガジェットは、基本的にコントローラーに該当するメインガジェットと安全対策用のスーツガジェットの2種類に分かれる。


 しかし、この『ARゲーム』はスーツガジェットを用意する必要性が全くなかったのだ。メインガジェットも携帯ゲーム機を思わせるような機械が変形する物である事も、他の作品と大きく違う。


 これに関しては画期的と言われる一方で、プレイヤーの安全性が疑問視されていた。その為、スーツに関しては任意で用意すると言う事で運営が譲歩、現在の形に至っている。


『これはサバゲやFPSと違うのか?』


 あるプレイヤーが操作方法を確認しながら手さぐりに何かを攻撃する。ターゲットは普通の的にも見えるのだが、シューティングゲームで見かけるような形状ではない。


『また失敗か……』


 別のプレイヤーがタイミングに合わせてターゲットを撃つ。しかし、思うようにいかない。シューティングゲームやガンシューティングの様な要領で当てる事は出来ないのか?


『ただ撃ちまくっているようなゲームとは違う。これは、流れている曲のリズムに合わせないと……』


 更に別のプレイヤーが手慣れた動きでターゲットを撃破していく。どうやら、これも音楽ゲームの一種らしい。


 彼らが操作方法に戸惑いを感じるのも無理はない。一般的なサバゲやFPSなどと違い、このゲームでは流れてくる楽曲のリズムに合わせて的に弾丸を命中させる必要性があるからだ。


 リズムに若干ずれて命中する分には問題はないのだが、大幅にずれると演奏ミスと言う事でゲージが減少する仕組みになっている。それに加えて、相手プレイヤーの攻撃でもゲージは減少するのだ。


 音楽ゲームによってはお邪魔システムが実装されている為、それが相手プレイヤーの攻撃と言うべきだろうか。


『おい、どうした?』


 あるプレイヤーとの通信が途絶え、他のプレイヤーも慌てだしている。これはサバゲではないのか―と。


『1名が倒されたようだ。誰か、様子を見てきて欲しい』


 リーダーと思われる男性が、他のプレイヤーへ指示を出す。この指示に従った3名ほどが様子を見る為に該当エリアへ向かう。


 そして、リーダーはマップで相手プレイヤーの場所を把握しようとバイザーに表示するのだが、本来は表示されるはずの赤いマーキングが表示されない事に疑問を持つ。


『まさか、たった一人のプレイヤーにここまでやられてしまうのか?』


 この時、3人を向かわせただけでは足止めにならないと考えたのだが、既に後の祭りだった。


『しかし、弾丸無制限とはいえ、サバゲと違って撃つのにもタイミング重視とは―』


『これだったら、弾丸制限があってもサバゲの方が楽しめるかもしれない』


『一体、このゲームに誰が誘ったのか―』


 3人は若干の不満がありつつも、レーダーに表示されているエリアへと移動を始める。しかし、出てくるターゲットは曲のリズムに合わせて撃たなければならない為、そこだけが不満のようだ。


『他のARゲームならば、もっと楽なのだろうが―』


『基本無料だから、この辺りは仕方がないだろう』


『基本無料のARゲームと言うのもおかしな話だ。一体、何の目的で……』


 しばらく話をしていると、目的地に到着をする。そこはビルとビルの間と言うような道であり、陣形を確保する事が出来ない幅である。


 それでも車4台分位の横幅は確保されており、宅配便のトラックも数往復する姿が今も確認出来る。


 もう一方、先ほどのプレイヤー達とは別に動いていた人物もいた。こちらはソロプレイヤーと言う事で、パートナーはいない。


 外見は特撮ヒーローよりはパワードスーツに近く、彼女の手元にはビームサーベルが握られている。どうやら、先ほどの1名を撃破したのは彼女のようだ。その証拠に、目の前には倒れた男性の姿がある。状態は気絶しているだけであり、刺された等ではない。


 これらのアーマーや武器は『AR』と呼ばれる拡張現実によって作られた映像なのだが、質量も持っているのが他の『ARゲーム』と差別化されていた特徴でもある。


 質量を持った画像自体は別の『ARゲーム』でも試験的に導入されたケースが存在、それらを利用したレースゲームやアクションゲーム、サバイバルゲーム等もロケテストが行われている最中だ。


 しかし、この技術自体が試作品と言う事もあって、他の『ARゲーム』では質量を持たない拡張現実として利用されている。ジャンルとしては音楽ゲーム、ロボットアクションゲーム等と分野が限られてしまうのは、この為である。


 3人組が宅配便のトラックを通過した直後、そこにはターゲットとなる人物が目の前にいた。バイザーの方でも警告表示がされており、そこで彼らは異変に気付く事になる。


『何だ、あいつは? お邪魔キャラだと言うのか?』


『こんな時にリズムやタイミングと言っている場合ではない!』


『あれはお邪魔キャラではない、俺たちの取っての敵……対戦相手だ!』


 先ほどの倒されたプレイヤーは、彼らのパーティーに所属していたらしい。そして、他のメンバーの合図を待たずして攻撃を始める。


 次の瞬間には、彼らは音楽ゲームのルールを無視してハンドガンを撃ちまくるのだが、それが目の前の彼女に命中する気配がなかった。


『馬鹿な! 攻撃が無効化されている?』


『バリアだと言うのか』


 目の前の彼女に展開されていたのは、透明な壁の様な物だった。いわゆるバリアとは違い、彼らのバイザーにはインフォメーションメッセージとして【MISS】と表示されている。


『あれはチートとは違うのか?』


 彼らの攻撃が無効化されている事に対して、驚愕の表情を浮かべる。これでは目の前の相手を倒す事も出来ないだろう。慢心と言うよりは、彼らの焦りであるのは間違いない。


 一方で相手の攻撃方法を見て、彼女の方は少し呆れ気味だった。攻撃が命中しない理由、それは曲のタイミングに合わせていない為である。


「百の鉄砲、数撃てば当たる……サバゲでは通じるかもしれないけど、ここでは全く通じないわよ」


 彼女は手持ちのビームサーベルを振り回すまでもなく、目の前で攻撃が無効化されている現実を見る。それに対して呆れていたのは、彼らがルール無視でバトルでも始めようとした事が理由ではない。


『貴様が対戦相手か?』


「その通りよ」


 彼女の方はビームサーベルの方を収納し、背中にマウントされていた実体剣に似たようなブレードの方を構える。


『ならば、おまえを倒せばゲームが終わると言う事か?』


 3人組の1人が彼女に向って突撃をするが、それを避けるような姿勢を彼女は取っていない。それをチャンスと思い、彼は隠し持っていたアサルトライフルを撃とうと考えていたが―。


【プレイヤーロスト】


 突撃したはずの男性のバイザーに表示されたメッセージ、それは自身のゲージが0になった際に表示される。つまり、あの実体剣で切られた事になるのだが、彼の方は全く斬られた実感がない。


 今の状況を見て、2人が冷静でいられるわけはなかった。がむしゃらに銃を乱射するのだが、それらが無効になるのは先ほど実践したばかりである。


「基本無料に釣られ、裏モードに参加した結果……」


 彼女が何かをつぶやいたように思えたが、その声は2人には聞こえているはずがなかった。


「仕方がないわね。少し、本気を出さないと」


 バイザーに何かが表示され、それにせかされるような流れで彼女は武器をビームライフルに変更、聞こえてくる楽曲のリズムに合わせて相手プレイヤーを撃つ。


『こちらのゲージは減っているのに、向こうはほとんど減っていないぞ!』


『まさか、リズムやタイミングが重要というのは―!』


 この2人が自分達の行動が敗北につながったと理解するのは、このバトル終了からしばらくしての事である。


 楽曲が終了し、生き残ったプレイヤーのバイザーにはリザルト画面が表示されている。攻撃命中率、ターゲット撃破率、残りゲージ、スコア等がリザルトにあるのだが、それを見た相手リーダーは思わず驚きの声を上げる。


『そんな馬鹿な―。こちらのプレイヤーは、まだ残っていると言うのに―』


 相手側の方は数十人単位で参加、その内の数人が撃破されただけでゲームが終了したのには納得がいかない様子だった。


【ゲージロスト】


 彼らのゲージ残量を示すリザルトには、ロストと記載されていた。つまり、音楽ゲームにおける演奏途中のゲージ0と同じ状態である。


『根本的な戦術がサバゲ等と違うと言う事なのか―』


 今更気付いても遅いのかもしれないが、リーダーの方も自分達の失策を認め、今回は引き揚げる事にした。


 数十人単位のプレイヤーを相手にしていたのは、たった一人の女性である。組もうと思えば、ランダムマッチング等で彼女と組む事は可能だった。


 しかし、相手側がチームマッチングを選択し、彼女の方がチームを組まないオプションを設定した為、このような変則マッチングが成立している。


「本当の意味で、このゲームの価値を知らない人間にとっては―基本無料でも、時間を無駄にする事になる」


 アーマーが解除され、そこから姿を見せたのは黒髪のセミロング、身長166センチ、ラフな服装にヘッドフォンという女性だった。


「これもネット炎上勢の刺客なのか……」


 空を見上げ、彼女はフィールドを後にした。その後、周囲に展開していたバリアは解除され、別のエリアで似たようなフィールドが展開される。


「どちらにしても、スコアを微妙に上昇は出来たのか」


 彼女がスマートフォンでマイページを確認すると、そこには楽曲名と難易度、現在のスコア、評価が表示されている。


【ドラゴンブレード・EXT:977500・SS】


 難易度はノーマル、アドバンス、エクストリームの3段階、楽曲評価はSSS、SS、S、A、Bの5段階に分かれているのだが、これはあくまでも音楽ゲームのリザルト。


【ドラゴンブレード・AA:98%・SSS】


 こちらはアナザー、ダブルアナザー、トリプルアナザーとAの数が増える程に難易度が上昇する。そして、スコアとは別に達成度が設定されているのだが、評価は楽曲評価と共通だ。


「どちらにしても達成度100%は難しいと考えて、それ以外の部分を伸ばすべきか」


 彼女は音ゲーマーではあるのだが、STGやFPSと言ったようなジャンルは未プレイである。そのはずなのだが、彼女は『このゲーム』の適応能力はFPS経験者のソレとは比べ物にならなかった。


 1回のゲームプレイで約5分、『ARゲーム』としては非常に短いプレイ時間は賛否両論だが、1日で数回程度ならば無料でプレイは可能である。


 一定回数以上の連続プレイをする際は、いわゆる課金アイテムが必要となる。しかし、それらを使う事無く1回のプレイで見切りを付けて辞めてしまうプレイヤーは後を絶たない。


 それ程に『このゲーム』のプレイヤーレベルが非常に高いか―。他の『ARゲーム』では100円~300円で最大20分はプレイできるだろう。


【また例のランカーか】


【そのようだな。これで何人目か?】


【何人目とカウントは出来ない。それ以上の展開になっているのかも】


 ネット上では、今回出現した女性ランカーに関する話で盛り上がっている。それに加え、この裏モードに関しても賛否両論だが、それらが大きく取り上げられる事はない。


 同日午前11時、上野駅のジャイアントパンダ前で何かを待っている一人の男性がいた。赤髪で背広姿の人物だが、仕事の待ち合わせではないらしい。


【基本無料のゲームを見つけた。気晴らしにでもどうだ?】


 彼は誰かにURLを添付したメッセージを送信する。その内容は基本無料のゲームを薦める物だった。


「基本無料の音楽ゲームは最近になって増えてきているが、これはどうだろうか……」


 若干心配そうな表情をしているが、メッセージの方は無事に送信され、後は返事を待つのみ。


 5分後、メッセージの返事が彼のスマートフォンあてに来る。メッセージの詳しい内容は確認していないが、ゲームの方をダウンロードしている所だと言う経過報告らしいのは分かった。


「武内にとっては、このブレイクオブサウンドがどのように映るかどうか」


 彼の名は赤羽凪雲あかはね・なぐも、音楽ゲームアプリ『ブレイクオブサウンド』の中堅ランカーの一人でもある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ