表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/91

4国の同盟

「「「「「え?」」」」」

「はい?」

「・・・・・・王女様が?」

「はい」

「王女様が自ら?・・・」

「はい」

「第一王女・・・・様・・?」

「はい」

「王位継承第一位か・・・・・・」

「はい」

「王太女って事?」

「いいえ。都合の良い事に、まだ立太子の儀式は行っておりませんから、王太女ではありません」

都合がいい? どういう意味だ?

「でも、まだ、なだけですよね? そんな方がなぜこんな危険な真似をするんですか?」

俺が、尋ねる。

「トクロン殿にお聞きしました。アースデリア王国に侵攻したスガラト王国が友好条約を結んだ時には国王と王女が出向いたと。経緯はともかく、我が国がドルクル王国に侵攻したのです。同盟を結ぼうと言うのですから、こちらの誠意を見せなければいけません。死ぬかもしれませんが、覚悟はできています」

王太女が殺されては、事態が収まることは難しくなるだろうから都合が良いとはそういう意味か。言いたいことは分かるが、あの時と今回は状況が大分違う。

「オークタラオとスガラト、そちら側からだと状況は同じように見えるだろうが、相手の思惑が正反対だ。アースデリアにはスガラトをどうこうしようと言う思惑が無かったから、友好同盟が結べた。でも、ドルクルはそうじゃねえ。最悪でも鉱山の採掘権、出来れば国土丸ごと自分の物にしようとしていた節がある」

そう言うと王女は。

「確かに。昔からそれなりに厳しい条件を付けてきたようですが、今回のものは絶対に飲める条件ではありませんでした。ですから、一か八かの賭けに出たのです。タケル様のパペットバトラーの噂を聞き付け、操者を乗せたオリハルコンゴーレムの開発に成功した事もあって侵攻に踏み切った訳ですが、結果はご存知のとおりです」

あの条件がの無茶であることは誰でも分かる事だ。しかし、オークタラオ王国にゴーレムが無ければ、その無茶な条件を呑まざるを得なかった訳だ。

「王女殿下が自らドルクル王国に乗り込むなど。人質に取られることも考えられるんですが?」

「王女ではなくリーディアナと名前でお呼びくださいタケル様」

はあ? 小国とは言え一国の王女を名前で? 陛下と言い王女と言い王族ってのはどこでもこうなのか? 俺が戸惑っていると。

「確かにタケル様の言う事ももっともです。んーーーー」

リーディアナ王女は顎に指を当て、何事か考える仕草をした後に。

『パン』

両手を打ち合わせ。

「そうだわ。タケル様が護衛してくださればいいんだわ」

輝くような笑顔になって言う。

「護衛ですか?」

「なるほど、タケル殿であれば護衛として申し分ない」

トクロンが言いだす。

「たしかに、店長程の剣の使い手となればそうそう居ないか」

ガーネットが言う。

「護衛なんかやった事ねえぞ。相手が剣士ならそうそう遅れは取らねえが、暗殺なんかの知識は全く無いんだぞ」

俺が言うと。

「暗殺なんかしやしない。人質にるるなり見せしめにするなり、もっとやりようがある。タケルの得意な方面で護衛出来るだろうさ」

「フェンリルバスターですものね」

ラングにアシャさんまで言い出す。護衛ね、国を代表する者どうしの会談になんか同席するのは気が進まないんだけどな。今回は仕方ねえか。

「わかりました。護衛の依頼お受けしましょう」

まあ、今回の会談は纏まってくれないとまずいからな。こんな所で躓く訳にはいかない。新たにリーディアナ王女一行4人を加えたおかげで手狭になったハーミットを降り、業火に乗り込んだ俺は。

「さて、いこうか」

『『はい』』

『おう』

『ああ』

リーディアナ王女を護衛してきた騎士達を国に戻し、街道をドルクル王国の王都に向かってパペットバトラーを走らせた。



今は深夜と呼ばれる時間だ。明日には王都に着けるだろう。皆にパペットバトラーが見張りをするからと言って休ませはしたが、万が一の事を考えて1徹や2徹くらいなんともない俺は、業火のコクピットで起きていた。

「派手な映像表現やプラモなんかの販促の為には必要なのかも知れないが、ロボを変形させるメリットって何なんだろう?」

ケイオスの話じゃ飛行機械は実現不可能だって話だから、尚更変形させるメリットがない。変形する玩具やプラモは手を使って変形させるから機構や動力を必要としないけど、ロボがジョイントや関節が有るだけで変形するはずはないんだ。格闘や作業に必要のない変形だけの為の機構を内蔵するなんて。

「無駄だな。デッドウエイト、デッドスペースでしかねえ。だいたい、関節を余計な角度で動くようにするとか、頭部を格納するスペースを確保するとか、今のサイズでそんな物内臓させたら。パワーが出せないよな。でも、変形や合体はロマンだよな」

そして、どうでもいいようなことを考えていた。

「ん? あれは?」

そんなことを考えていたら、ハーミットの下部ハッチが開き人が降りてきた。魔力を展開しているからハーミットから出てきたのがリーディアナ王女だという事は直ぐに分かったが、何か有ったのか。

「業火、ハッチーオープン」

「はい」

業火の返事と共にシートが前にスライドする。ハッチが開く音は静かな夜には以外に大きく響いたようで、王女が業火の顔を仰ぎ見るように振り向く。俺は軽く身体強化をしてコクピットから飛んだ。

「ベットが狭くて眠れないのかい?」

リーディアナ王女の前に飛び降りてから声を掛ける。

「いいえ、初めての経験ですが、野営よりもずいぶん快適です」

そう言って微笑むが、表情は硬い。

「タケル様こそ、お休みになられないのですか?」

「護衛を引き受けたからな。いくら業火達がいるとはいえ、起きていねえと格好悪いだろ? 俺は2晩くらいなら徹夜しても平気だし。それに、明日移動中に業火のコクピットで寝てりゃあいいんだから全く問題はないさ」

「そうですか。ところで、なぜ私の護衛をお引き受けいただけたのでしょうか? タケル様は戦争を無くす為に傭兵団をおつくりになったとトクロン殿から聞きました。今回我が国は侵略戦を撃を仕掛けました。タケル殿は助ける必要など無いのでは?」

「元々は、戦争の元凶になった国を叩きのめしてしまえば戦争を止められる。強大な戦力を持っている俺達が戦争の当事国を攻めて来るって事が知れ渡れば。そうすれば、戦争は無くせるんじゃねえかって思ってさ。で、マニューバースを作った訳だ」

「元々はですか?」

「そう、元々さ。今回の件でも色々と思うところもあってね。戦争を無理やり止めることは出来るかもしれないけど。原因を取り除かねえと、戦争だけ止めても、そこに住む人達って普通に暮らすこともできないんだよなってさ」

王女が何とも表現できない表情で俺を見つめる。

「原因を取り除くってのは、ドルクル王国を潰すって意味じゃないぜ。オークタラオ王国の食糧事情を改善せずに戦争だけ止めるってのは違うって意味だ。同盟の必要性を改めて実感したってことさ。同盟に加入するオークタラオ王国には物資の支援がされることになると思う」

今度は沈んだ顔をする。あれ? 食糧支援が得られれば、ドルクル王国への侵攻が失敗した今は助かるんじゃねえのか?

「そんなわけで、俺達は同盟を全力で応援するからな。ドルクル王国は、どうせ色々と難癖付けてくるんだろうが、そんなことはさせねえさ」

もともと、同盟加入の返事を渋ってたのだって有利な条件で入りたかったからだろうしな。

「でも、我が国のせいでその同盟も崩れてしまうのでは?」

「ん? 崩れはしないんじゃねえかな? ドルクル王国を除いて三国で同盟を組んで、他の国を取り込んでいけばいいんだし」

「我が国は、言わば陸の孤島です。ドルクル王国を通過ぜずには、物資を輸入する事も出来ないのです。ドルクル王国への賠償は出来る限りの事をしなければなりません。明日、会談となればどのような条件でも呑むつもりでおります。その権限も与えられていますから」

「あー、そう言うのは必要ない。俺の基準で言わせて貰えば、今回の件はオークタラオ王国よりもドルクル王国のやり方が、より気に入らない。例え護衛という立場だったとしても、会談の場に俺が居ればドルクルの思惑どうりに事が運ぶなんて事は有り得ない」

「でも!」

「安心は出来ないだろうけど、疲れた頭じゃ上手く行くモノも上手くいかなくなっちまう。それに、夜更かしは美容に良く無いっていうぜ。お休み」

リーディアナ王女の言葉を遮って言うと。業火に飛び乗りハッチを閉めた。

「・・・・・・」

しばらく業火を見上げていた王女は、困った顔で一つため息を付くとハーミットに戻って行った。




「さて、何て言って言いくるめようか?」

『正直に言えば良いのではないか?』

とガーネット。

『そうです。もう決着は着いたので、軍を引くように言えば良いじゃないんですか?』

これはノルン。

『オークタラオ王国軍を国境まで押し戻したと言えば、そのまま逆侵攻しそうですけど?』

アシャさんが言う。

『追返せばいいんだ。ガーゼルの時のように、壁型のゴーレムで囲んでエクスプロージョンを40個程浮かべれば言う事をきくだろうさ』

「ラング。それは脅迫って言うんだ。そんな事をしたら後々面倒なことになる」

同盟関係に悪影響が出るかもしれないじゃねえか。

『だったら、説得するのか? タケルがやるのか?』

『店長には一番向かないのではないか?』

『そうですね、無理ですね』

「何気に失礼だな。ああ、説得してやるさ。俺の交渉力を見ているがいいさ!」

ラングにガーネットそれからノルンも言いたい事言いやがって、見てろよ、バッチリ決めてやろうじゃねえか。業火に駐機姿勢を取らせ地上に降りた俺は、こちらに向かって進軍してくる2万ものドルクル王国軍を待つことにする。


無用なトラブルを避けるために全てのパペットバトラーとゴーレムに駐機姿勢をとらせ、それを背に俺が立っていると。500m程手前で停止した先頭を中心に軍が展開していく。まるで俺達と戦争でも始めるようだ。

「んーーーー。トラーザーロの奴、どんな報告をしやがったんだ?」

『事実を報告したんじゃないか?』

と、ガーネット。

『主観に基づいて克明に報告したんでしょうね』

ノルンが言う。

「克明にね・・・。好意的な内容だったはずだな。なんたって、俺はオークタラオ王国軍を追い払った功労者だからな。だったらどうしてあんな風に軍を展開させるんだろう? 上司が無能なのか?」

『本気で言ってないでしょうね? ポポラスまで30km歩かされた人がどれくらい好意的な報告をするか考えるまでもないでしょうに』

『アシャが言うとおりだな。侵攻してきたオークタラオ王国軍を倒しはしたものの、ゴーレムの一部と兵を全員逃がし、さらに同盟加入を働きかけている。あのまま勝手をさせてはオークタラオ王国を併呑する機会を逃すって言ったんだろうさ』

ラングの言葉に。

「それって、事実じゃん?」

そうだ。そう言うのは事実がきちんと伝わってるって言うんだろうな。

『だったら、オークタラオ王国とスガラト王国が呼応して、ドルクル王国を挟撃し王家を廃して国土を分割統治するつもりだ。早急にオークタラオ王国に攻め入り奴らの思惑をつぶす必要がある。とかか?』

と、ラング。

「おー、それくらい言ってねえとあの反応はねえよな」

『いやいや、報告の内容がさっきの事実ってやつだったとしてもあのくらいの事はするだろうさ。逆侵攻のチャンスなんだ』

なるほど、王都まで後数十kmはあるんだから、王都の防衛って訳じゃねえだろうしな。取りあえず説得ってやつをする事にしようか。

「業火だけ付いて来てくれ。他はこのまま待機な」

もう少し近付いて、業火の外部スピーカーを使うか。まだ陣形を整え切っていない軍に向かって業火を従えて歩いて行く。この辺ならまだ、射程外かな? 200m程まで近付づく。慌てて抜剣した連中を見て、歩みを止める。これ以上進むと突っ込んで来るか?

「業火、駐機姿勢を取ってスピーカーをオンにしてくれ」

業火に指示を出す。

『あー。本日は晴天なり、本日は晴天なり。只今マイクのテスト中』

気勢を削がれたのか、微妙な表情を浮かべるドルクル軍の兵士達を見て声をかける。

『こちらは、マニューバースのタケルだ。オークタラオ王国の進行を止め王都に報告に向かうところだ。敵対の意思はない。速やかに陣形を解き通して貰いたい。同盟に加入を希望するオークタラオ王国の代表団をお連れしている。繰り返す。速やかに道を空けて貰いたい』

俺の言葉を聞いて戦闘付近が慌ただしい動きをし始める。暫く待つと、中央部ちょうど俺の真正面の兵士が左右に動き後方から、指揮官だろうか? 高そうな軍服に身を包んだ男とトラーザーロが現れた。

「何を言うか! この、裏切り者めが! こちらは、オークタラオ侵攻部隊である! 道を開けるのは貴様らの方だ!」

トラーザーロが言う。

『何だか誤解があるようだが、俺達は元々、ドルクル王国とは無関係に行動してるんだ。裏切るも何も無いだろうが』

「陛下よりオークタラオ王国軍の討伐命令を受けたではないか! それを、違えて奴等を逃がしただけで無く同盟の代表団を連れてきただと! ふざけるのも大概にせんか!」

『国王に何かを命令された覚えは無いな。ただ、宜しく頼むと言われたから、軍を引かせて同盟の代表団を連れて来たところだ』

それを聞いた高そうな軍服の男が。

「オークタラオの奴等とやらをこちらに引き渡せ! そ奴らを血祭りに上げて、侵攻の景気付けとしてくれよう!」

『聞こえないのか? 同盟の代表団だと言っている! 代表は王女だ。血祭りになどと言って良い相手じゃねえぞ! いいから、道を開けろ! 本来ならあんたらが護衛に付かなきゃならねえ相手のはずだ!』

「ふん! 我々はオークタラオ侵攻部隊である! そのような命令など受けてはおらん! 良いから引き渡せ! 言う事を聞けぬと言うなら、力尽くで行かせてもらう!」

『何が、命令を受けてはいないだ! 状況が変わってるんだ、あんたに権限がねえんじゃ王都に戻って、お伺いを立てりゃあいい』

「オークタラオ王国の扱いについては全権を任されておるのだ! 貴様の世迷い言に付き合う必要は無い!」

そう言って踵を返してしまた。兵達は陣形を戻し進軍を始めた。ありゃりゃ、説得には失敗したらしい。とすれば・・・。考える間も無くエクスプロージョンが数十発飛んできた。上級魔術じゃねえから、業火の装甲は十分保つだろう。身体強化をし、業火のコクピットに乗り込んでハッチを閉じる。

『『『『『『ドゴーーン!』』』』』』

外部スピーカーを切って、業火に呼び掛ける。

「被害状況を」

「エクスプロージョン9発着弾しましたが、損傷は有りません」

「よし、3番隊と4番隊を前面に展開し、魔術を防げ。1番隊2番隊もつづけ。フォーメーションナイトメアオブガーゼルだ。囲め! 震え上がらせてやれ!」

俺の命令を受けたゴーレム達はドルクル王国軍に向かって走り出す。先頭を走るゴーレムに集中してエクスプロージョンが当たる。

『おおーーー!!』

ドルクル軍から歓声が上がる。先頭のゴーレムが崩れるように倒れたせいだろう。元々ゴーレム核を中心にスチールとオリハルコンで形作られたゴーレムだ、あの程度の攻撃でやられたりはしない。倒れたゴーレムは自前の金属と周辺の地面を削り取った土を使って高さ5m長さは100m以上の壁になる。続くゴーレム達は左右に分かれつつ同じような壁を作る。

「悪夢ってやつを見せてやるよ」

身長12mのゴーレムが走っては地面に倒れこみ、次々と壁を作っていく。パペットバトラーに比べると大した速度では無いものの戦闘装備をした人間の足では勝負にならない。45体のゴーレムが変形した4.5kmの壁でドルクル王国軍を取り囲むのは時間の問題だろう。

「10分も掛らずに全員囲めるか?」

それ程待たされる事もなく直径が1.5km近く有る円形の壁が出来上がる。もちろん逃げ出せた者などいない。壁に向かって魔法が撃ち込まれるが、オリハルコンの壁に土が張り付いているせいで壁を破壊することは出来ない。それじゃ仕上げだ。

「みんな、柵に近づいて最大出力のエクスプロージョンを10個浮かべてくれ。間違ってもぶっ放すなよ。説得するんだから」

『なんだ、結局俺が言った通りにするんじゃねえか』

『まあ、店長の交渉力などこの程度だと言う事だな。日頃の言動を見ても、権力者側とは相性が良いとはとても言えないからな』

『やっぱり、無理でしたね』

ラング、ガーネット、ノルンの順に言ってくる。

「何言ってんだ。諦めなきゃ試合は終わらない」

『ゲームセットです。諦めてください。この状況で何を言っても相手は脅迫としか思いません』

アシャさんが止めを刺しに来た。しかし、俺は4人の言う事を気にせず。業火を介して壁になったゴーレムに命令する。

「さーて、囲みを狭めろ」

諦めたのか更に大きなのを準備しているのか分からないが魔法による攻撃は止んでいる。動き出すゴーレム達を眺めながら。

「直ぐに準備は整うはずだ。そうしたら交渉再開だ」

『まだ交渉って言い張るんですね』

ノルンが言った。


「準備は整ったな」

業火を壁の側に寄せながら上空に10個のエクスプロージョンを浮かべる。外部スピーカーをオンにして。壁の内側を覗き込むと不安な表情の兵士たちが見える。

「先ほどは不意打ちの魔法をありがとう。おかげでこの状態でエクスプロージョンを撃ちまくることにも、良心を傷めずに済む。でもその前に、さっき攻撃を命令したヤツと話がしたい。ここに来てくれないか。なーに、心配することはない。でてこないならエクスプロージョンをぶちかますだけだ」

でてこないな。しょうがねえな。

「話は変わるが、ナイトメアオブガーゼルって知ってるかな? 俺がこの業火で5000人のスガラト王国兵士を焼き殺した。もう二度とやりたくないと思っていたんだが仕方ない。オークタラオ王国への侵攻を止めるためだし? 先に俺達マニューバースを攻撃して来たのはドルクル王国軍だ。オークタラオ侵攻部隊を皆殺しにした後に王都に侵攻する事になるが。・・・・・・指揮官との話如何ではこのエクスプロージョンを引っ込めないこともない。10数える間だけ待ってもいい」

俺がそう言うと。数を数えるまでもなく兵士たちは左右に分かれていく。その先には引きつった顔を青くした、高そうな軍服に身を包んだ男とトラーザーロがいた。



『大した交渉力だな。タケル』

ラングに褒められた。

『皮肉だからな。褒めてねえからな』

なんだ、照れてんのか?

『まあ、事が済むまであそこで野営訓練をしてくれると言うのだ。殿下これからが本番です』

『はい』

ガーネットの言葉にリーディアナ王女が返事をする。



「やっぱり、まずは謁見室からスタートなんだな。同盟の締結なんだぜ。会議室に案内されるのが普通なんじゃねえのか?」

「私は、敗戦国の王女です。王と謁見できるなんて特別なことです。むしろ手枷が填められていない事が不思議なくらいです」

「その表現は不正確だな。オークタラオ王国はドルクル王国に敗れた訳じゃないだろ。今回は俺達マニューバースの一人勝ちだ」

「この国の人達はそう思っていませんよ」

謁見の間に向かう途中で交わしている俺とリーディアナ王女の会話にアシャさんが割り込んでくる。

「自分たちが戦勝国なんかじゃねえってことは、これから思い知ることになる」

「タケルさん。なんか悪い顔してますよ」

ノルンが言う。俺は両手で顔を撫でまわしながら。

「え? そう? まずいな、俺の見た目で舐めて欲しいんだけどな」

「タケルさんと一度話しているんですよね。どうせ、普通に話したんでしょうから。今更見た目でごまかせないのでは? ごまかせるようなら、どんな顔をしていてもごまかせますよ?」

俺と普通に話すとどんなことが分かると言いたいんだ?

「タケルは成人したかしないかくらいにしか見えねえからな。子供がどんな悪い顔してても微笑ましいだけだ」

「うっせ! ラングのくせに」

「ラングのくせにとか言うな!」

リーディアナ王女が俺達の会話を微笑みながら見ている。そうこうしているうちに謁見の間についたらしい。大きな両開きの扉を2人の護衛が挟んでいる。

「武器をお預かりします」

「はいよ」

俺はそう言って、腰の剣を鞘ごと引き抜いて護衛に渡し、腰の後ろでベルトに刺した短剣を抜き、そいつも手渡す。さらに、投てき用のナイフを5本懐から取り出し、両袖から2本づつ同じ物を取り出す。ブーツに刺した棒手裏剣を5本づつ抜き。

「どうした?」

呆れた顔の護衛に尋ねながら、剥ぎ取り用のナイフも外して襟の後ろから小型の折り畳みナイフを取り外す。護衛の両手はすでにいっぱいなので床に置いた。それから腰のポケットを探っていると。

「まだ武器が?」

「ん? ああもう少しだ」

鋼の飛礫が入った袋を取り出し、これも床に置く。呆然とする護衛に。

「これで最後だ」

そう言って、振り返ると皆も武器を手に持っていた。まあ、俺ほどじゃなかったけど。

「・・・・・・」

無言で扉を開ける護衛の横を笑いをかみ殺しながら通り過ぎる。

「店長、悪趣味ですね」

そう言うアシャさんに肩をすくめながら。

「こっちは停戦の為の話し合いに来てんだぜ、戦争はまだ終わっちゃいないんだ。渡された武器が多いからって、すべて預かったって思いこんで油断したあいつの方が悪い」

そう、素直に武器を出したからって身体検査もせずに通す方が甘い。玉座に向かってゆっくり歩きながら小声で話す俺に、リーディアナ王女が。

「武器を全て渡したのでは?」

「俺は護衛だぜ、丸腰になるわけにはいかない。接近戦なら武器は必要ないからな。返ってこなくてもいいように、店で安い鈍らを買ってきたんだ。重かったなー、やっと楽になった」

とりあえず、チーフが1丁あれば魔術師がいても何とかなるからな。腰の後ろに刺した小型のリボルバーワンドは軽く少々頼りない重さだが、人間相手なら十分な威力だ。もっとも、使わずに済めばそれに越したことはない。さーて、どうなるのかな? 俺達は玉座の前まで進むと敬礼しマースクラン3世の入場を待つ。

「国王陛下ご入場!」

王の入場を告げる声の後、謁見の間に人が入ってくる気配がし、しばらくして玉座に座る。

「面を上げよ」

玉座にはマースクラン3世、武官や文官、そして、護衛の騎士に魔術師か。

「そなたが、オークタラオ王国の王女か」

「はい、リーディアナと申します。国王陛下にはご拝謁いただきありがとうございます」

「私が、ドルクル王国国王のマースクラン3世だ。さて敗戦国の王女が、どのような講和の条件を持ってきたのかな?」

何だ? この勘違い野郎は。あんたの処の兵士は何にもしちゃいないだろうに。リーディアナは。

「はい、我が国の「チョーットイイデスカー?」」

俺は、リーディアナの言葉を遮った。自ら敗戦国だなんて認める発言をされちゃ困る。

「ここには敗戦国の王女も戦勝国の国王も居ない。同盟国の王女と国王陛下なら居るようだけどな」

俺が続けて言うと。

「誰が発言の許可をだした! 無礼であろう!」

武官の1人が言う。

「国王ヘーカが何やら勘違いしてるみたいだから訂正してやったんだ。ヘーカの勘違いを正せないあんたらこそ無礼なんじゃねえか。それから、そんな怖い顔で怒鳴るなよ。俺は気が小さいんだ」

俺が言うと、マースクラン3世が。

「オークタラオ王国と同盟など結んだ覚えはない。逆侵攻の兵も送り出している」

「あー、言いにくいんだが、その逆侵攻の兵達は野営の訓練中だ、2泊くらいして来るんじゃないかな? 俺の説得のおかげで同盟国に攻め込まずに済んでよかったな」

「同盟国などでは無いと言っている」

「アースデリア王国から全権を委任されたスガラト王国がオークタラオ王国と同盟を結んだ。ドルクル王国とも同盟を結んでいる。同盟国の同盟国は同盟国さ。言ってなかったの?」

そう言いながら、トクロンを見る。

「これから言おうとしていたのです」

悪びれることなく言う。

「わが国に侵攻して来た国と、同盟を結んだ? スガラト王国は何と不誠実なのだ」

今度は文官の1人が言う。マースクラン3世は。

「そんな事なら、この度の同盟の話は受けられんな。我が国が同盟から抜ければオークタラオ王国が同盟に加わる意味は無くなるぞ。食糧支援の為の馬車など通過させる訳にはいかんからな」

「それは残念だ。ドルクル王国の未来は真っ暗だな」

「どういう意味だ?」

尋ねてくるマースクラン3世に。

「ドルクル王国を通らなくとも食糧支援はできる。パペットバトラーが護衛について、魔の森を通ればいい」

「国境を破るつもりか」

さっきの文官が言う。

「業火はバシリスクロードを単独で討伐した実績がある。森の中に10kmくらい入ってしまえば国境の警備なんかしてないだろ? 誰も見てなきゃ国境破りを見過ごしても誰かが責任を取る必要はない。そんな事より、パペットバトラーで無理やり魔の森を踏破するんだ。逃げ惑う魔物達が、森の浅い方に逃げ出すかもしれないなー。逆侵攻なんかしている場合じゃねえな。10往復もする頃には王都はどうなっているかな?」

「貴様! 脅すつもりか!」

叫ぶ文官を無視して。

「脅しじゃない。事実だ」

「くっ」

「それに、同盟国で無いなら。オークタラオ王国の侵攻軍を追返した報酬をもらおう。そうだなー国家予算1年分。いや、そんなにいっぱい貰えないな、軍事予算5年分でいいや」

「馬鹿なことを言うな! 5年分の軍事予算は年間予算を超えるではないか」

「それだけ搾り取れば軍を維持することも出来ねえだろ? 俺達の傭兵団はさらに戦力を増強した。お宅の砦を落としたゴーレムの材料を使って、あれより強化したヤツを45体だ。この王都を更地にするのに1日はかからないな。ああ、これは脅しじゃない。強請だ」

「国家相手に強請を掛けるのか」

「ああそうさ。マニューバースは武力で近隣から戦争を無くす為に俺達が作った傭兵団だ。戦争の責任が有る国を直に強請って多額の活動資金を得るとともに戦争をする国力を削ぐのさ。だから、今回はあんたの国から調達させてもらう」

「何をふざけたことを。いきなり侵攻をしてきたのはオークタラオ王国だ。我が国は被害者だ」

「ヘーカ、オークタラオ王国に無理な条件を提示し侵攻に踏み切らせ、国境側の砦に1万の兵と3人の勇者を配置、侵攻を待ち受けて撃退し逆侵攻を行おうとした。オークタラオ王国を併合し国力を上げ、同盟の中での立場を良くしようとでもしたのか? 戦争の原因はドルクル王国にある」

「何の証拠もないではないか」

「状況証拠が揃ってる。それに、俺達は法の執行者でも正義の味方でもねえ、傭兵団だ。もともと、証拠なんか必要ねえのさ。俺達が判断した原因国に強請を掛けるだけさ。でだ、今回はあんたたちが悪い。もっとも、オークタラオ王国には新型ゴーレムを45体もらったけどな」

「なっ」

絶句するマースクラン3世。すると、トクロンが。

「陛下、タケル殿は同盟離脱などせずに、オークタラオ王国の侵攻を水に流し同盟への参加に異議を唱えないで欲しいと言っているのです。ドルクル王国を害するつもりなら、すでに王宮はおろか王都は灰燼に帰していることでしょう。タケル殿は自分の手の届く範囲から戦争を無くすために傭兵団を

作ると言っていた。武力により戦争当事国を屈服させ、脅威を感じた国々が戦争に踏み切れないようにすると。そして、タケル殿が作ったマニューバースは正にそれを実行できる力を備えている」

「なるほど、タケル殿にマニューバースか。戦争を無くす為に戦う傭兵団。矛盾した存在だな。お前達ならフルロン砦の兵士達を殺すことなく、戦いを止められたと言う事だな」

マースクラン3世が俺を睨むように見る。

「出来なかったな。今の俺達ではな。今は、戦争に関わらない住民が戦争に巻き込まれないように、犠牲にならないようにするので精いっぱいだ。兵士の事まで手が回らなかった。だいたい、砦が落ちなきゃ俺達にやらせようなんて思わなかったろ? 砦が落ちなきゃ俺達は戦力にもならないゴーレムを50体壊しただけで、人が乗り込んでも、やっぱりゴーレムは使えなかった。それだけで終わっちまって、俺達の戦闘力をアピール出来なかったろう? 今回の件はデモンストレーションと割り切らせてもらった。俺達の力が知れ渡り、戦争の抑止力となれば兵士も死ななくて済むようになるだろう。当面は、そこを目指している。同盟国を増やし、ヤマト帝国の侵攻を止められれば良し、戦争になっても、一方的にやられはしない。そして、ヤマト帝国との事にケリが付けば大陸から戦争は無くなる」

マースクラン3世は玉座の上で力を抜き。

「なるほど、スガラト王国はそんな夢物語を信じているという事かね?」

「信じられるだけのものを残していますから。それに、同盟国を増やしパペットバトラーを増やさないことにはヤマト帝国の侵攻を防げない事は明らかです。同盟国の意志が1つになり、ヤマト帝国に拮抗する力を持てば、簡単にはこちらに手出しはしないでしょう。各国がバラバラに兵力を増強しようとしても無駄です。同盟に加入しなければパペットバトラーを揃えられませんしね」

「そういう事だな。我が国を大きくしヤマト帝国に対抗しようとしたが、時間も装備も人員も足りんしな。・・・・・・分かった。今回の件水に流し、同盟の為に力を尽くそう。目指す場所は同じだしな。いつ実現し、いつまで続くのかすら分からんが、戦争の無い世界が叶った時に、当事国に我が国がいないのでは子孫に顔向けができん」

トクロンから俺に目を向け。

「マニューバースは同盟の指揮下には無いと言ってたが?」

「ああ、命令される立場には無いが、今のところ強い協力関係にあると思っている。同盟の敵にならないように、今の志を忘れないように見張っててくれるとありがたい。戦争が無くなって傭兵の仕事が無くなり、気楽に冒険者をやるのが理想だ」

「では、タケル殿も同盟がおかしな方向に向かわぬように見張りを頼もう」

「まあ、ヤマト帝国との事に決着がついた後が心配だけど、その心配ができるようにしたいところだな」

「うむ。では、正式な調印を4国で結ぼうではないか。トクロン殿、我が国の文官と詰めてくれ。周辺諸国への発表をするには場所はスガラト王国が良いと思うが、準備を頼めるかな?」

「はい、お任せください」




「ずいぶん街を開けちまったな。店はどうなっていることやら」

「ケーナちゃんがいくつか魔道具を作れるようになったみたいですし、フィーアも居るんですから、心配はいらないですよ。でも、注文は溜まってるかもしれませんね」

アシャさんが言う。まあ、そうかもな。注文が溜まってるってのは、ちょっと面倒だな。

「自分は早く、はしーるくんに乗りたいな。あの風を切る爽快感がたまらない」

ガーネットは走り屋への道をまっしぐらか。

「同盟国は増えそうだな。あの模擬戦を見た連中はかなり驚いていたぞ」

ラングが言う。4国の同盟調停の後、例のサバゲ形式の模擬戦を各国の大使連中の前でやって見せた。同盟加入に弾みが付けばいいんだが。

「きっと、いい方向に向かいますよ」

「ええ、ノルンの言うとおりですよ。ああ、ガーゼルの門が見えてきましたね」

アシャさんが言うとおり・・・・・・。ガーゼルの街の門が見えてきた・・・・・・。あれは? フィーアか? フィーアが全力で走ってくる。俺達はハーミットから降りて走ってくるフィーアを待つ。少し距離が有るので大きく声を掛ける。

「ただいまフィーア! どうしたんだ?!」

「店長! ケーナちゃん達が行方不明です!」

「「「「「え?」」」」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ