サバゲ
「まあ、ちょっとだけな」
「ちょっとだけだと! ふざけるな!!」
「ふざけちゃいないんだがな。あんたんとこの王様に、よろしく頼むって言われたから、ちゃんとオークタラオ王国軍をこの国から引かせたろう?」
「殲滅せよと言う意味に決まっているだろう!」
「え? いつ決まったんだ? 具体的なことは何にも言われて無いんだ。それでも、王様の気持ちを酌んで、街も襲われちゃいねえし、国を荒らされる前に追い返したんだ。点数をつけるとすれば100点満点を取った上に、良く出来ましたって加点を加えて120点の出来ってやつだぞ。騎士務省の副省長かなんか知らねえが、勇者3人と1万人で備えた砦を簡単に落とされた軍の偉いさんにとやかく言われるような無様な戦いはしてないだろ? うちの傭兵団員は優秀だからな」
「くっ」
何も言い返せないだろうな。
「貴様、今の話を陛下がお聞きになったら今回の同盟など、すぐさま破棄なさるぞ。それでも良いと言うのだな」
気を取り直したように言う。
「くくく・・・あはははは」
「なっ何を笑っているのだ。笑ってごまかそうとしても、お前の魂胆は露見しているのだ。今更、何を言っても取り返しはきかんのだぞ!」
「いや、ごまかそうとなんかしていないさ。帰って。王様に言ってみるんだな。同盟の破棄か、良いんじゃねえか。オークタラオ王国は同盟に加入すると思うけどな。それがどういう事なのかわからないようなら」
ここで、一旦言葉を切る。
「なんだと言うのだ」
「いや、何でもない。さっきからハッチは開けっ放しだ、出て行かねえなら閉めるけど。さっさと動き出さねえと何をするにも手遅れになるぞ。侵攻軍は、ざっと見たところ3千人程度だ。お宅の軍に比べりゃ大した人数じゃねえから、今なら間に合うかもな。それとも、一緒にオークタラオ王国に行くかい?」
「何だと、付いてまいれ」
そう言って、2人はポポラスの街に向かって歩いて行った。そうなのだ、オークタラオ王国の侵攻軍は3千人程度しかいないのだ。国の存亡がかかった侵攻のはずなのに。あまりに少ない人数だよな。オークタラオ王国にはそれだけの国力しか無いってことなんだろうか? 2人を見送りながらそんなことを考えていた。
「ここからポポラスって30kmくらいあるよな。まあ、日暮れまでには着くといいな」
「タケル殿、いささか、人が悪いのではないか?」
トクロンが言う。
「送っていく余裕は無いんだ。監禁する訳にもいかねえし、帰ってもらえるならその方がいいさ。さて、ラング、ガーネットも自分が倒したオークタラオのゴーレムを集めてくれ。1カ所じゃなくてもいいけど、そこそこまとまってた方が良いな。ノルンとアシャさんも頼む。俺は、向こうの指揮官と少し話してくる。あー、そうだゴーレム核は全部壊しといてくれ、暴れられたら面倒だ。ノルンは核が壊れて動かなくなったヤツだけでいいぞ。残りは俺がやる」
「「「「了解」」」」
撤退の準備を進めている指揮官のモルッツェンを見つけると、業火に駐機姿勢を取らせると、歩いていく。モルッツェンに右手を上げながら近づき。
「自己紹介がまだだったな。傭兵団マニューバースの団長をしているタケルだ。少しいいかい?」
「はい、撤退の準備にはもう少し時間がかかりそうですからね」
「まず、さっきの話だが、残った5体のゴーレムな、そのまま持って帰ってくれ」
「なんですと。良いのですか? して、どのような理由からです?」
まあ、素直にはいそうですか、と言うような奴は遠征軍の指揮官なんか任されるはずはないか。
「壊した45体は俺がもらうが、同行していたドルクル王国の2人が帰ったんでな、日を置かずに逆侵攻の軍がオークタラオ王国に向かうだろう。国境を越えられると面倒だ。ゴーレムが5体有れば、支えられるだろう?」
「国境を守って良いと言うのは、正直ありがたい。ありがたいがタケル殿何を企んで、いや、何をしたいのだ?」
「今回俺達に同行してきたのは、ドルクル王国の連中だけじゃないんでね。と言うか、連中は押しかけて、無理やりついて来ただけでね。本命はスガラト王国の外務大臣のトクロン殿とその部下の片方だ。オークタラオ王国との友好同盟を組むために来ている」
「友好同盟? そのために、我々の犠牲を出すことなく撃退したと?」
「ああ、ドルクル王国とは別の意志を持ってここに来ているという事を示す必要があったからな」
「おかげで、1名も欠けること無く帰れると言う訳か」
「全員無事だったのか?」
「怪我はしているが、命に係わるほどの怪我を負った者は1人もいない。これから大変だからな。1人でも多く国に帰れるのは有難いことだ」
「食料不足が出兵の原因なんだろ? 切実だよな。同盟によってスガラト王国やアースデリア王国から食糧支援を受けることができるようになるはずだ。ドルクル王国も逆侵攻なんて馬鹿な真似は出来なくなる」
「なぜだ? 食料支援は有難いが、ドルクル王国の逆侵攻を抑える事などできないだろう?」
「ドルクル王国も同盟に加盟してるからさ」
「なんと! よく、そんなことを了承したものだな」
「オークタラオ王国も誘うなんてことは言わなかったからな」
「だったら、我が国の加入で同盟破棄になるのではないか」
「普通ならそうなるでしょうな」
後ろからトクロンの声が掛かる。怪訝な顔でトクロンを見るモルッツェン。
「これは、失礼しました。スガラト王国で外務大臣をしております。トクロンと申します」
「遠征軍の指揮を任されておりますモルッツェンと申します。して、今は普通ではないと?」
「ええ、今回のドルクル王国の露骨なやり方は、西方のヤマト帝国の侵攻に備えるためのものです。何を隠そう、我が国も全く同じ理由でアースデリア王国に侵攻し失敗しております」
「その、ヤマト帝国に対抗するためには同盟を抜けることはできないと?」
「それもそうですが、オークタラオ王国が同盟に加入した状態では、おちおち逆侵攻などできませんよ。マニューバースが目を光らせておりますからね。その力については、今回の事で近隣諸国に知れ渡る事でしょう。同盟への参加国が増えれば、いずれ加入せざるを得なくなります」
「タケル殿、マニューバースが目を光らせるとは?」
モルッツェンが窺うように俺を見る。
「マニューバースってのはこの辺りの国から武力介入で戦争を無くすことを目的に作った傭兵団さ。このパペットバトラーが主戦力になるな。パペットバトラーの強さは見た通りで、団員は少数精鋭と言ったところかな。このラングは元スガラト王国の公認の勇者だったし、外の3人も強いぜ」
俺が言うと、トクロンは。
「団長のタケル殿は、フェンリルバスターでドレイクバスターですしね」
モルッツェンが、何かを思い出したように。
「では、タケル殿は、あの殲滅の白刃という事ですか」
へ? 隣国でも無い国にまで広まってるのかよ。吟遊詩人、半端ねえな。
「そう言われていますね。もっとも、我が国ではナイトメアオブガーゼルの二つ名の方が有名ですがね」
「なんと、それもタケル殿ですか。そのタケル殿が作った傭兵団ですか、敵わないのも仕方がなかった訳ですね」
「そういう事ですな。マニューバースは近隣諸国で最強の軍隊と言えましょう」
トクロンが言う。俺は。
「そこを目指しているが、実際にはどうだろうな。攻めるのはともかく、今は数が少ないからな。大きな街なんかを守るのには向いていないかな。数に任せて攻め込まれると守りきれないだろう」
まあ、それも解消する見込みは立ってるけどな。
「ところで、そろそろ帰る準備も整うと思うんだが」
オークタラオ王国軍の様子を見て言う。
「ああ、そうだな、国境の守りを固めねばならんからな」
そう言うモルッツェンに俺は。
「俺は、ここでやりたい事があるんで、トクロン殿を任せられないだろうか?」
トクロンを見て。
「こちらは構わんが、元々、物資が無いところで無茶して編成した軍だ。同盟交渉に見えられた他国の重鎮を十分にお世話ができるとは言い難いぞ」
「なーに、観光に行くわけではありません。タケル殿に負担を掛ける訳にもいきませんからね」
「じゃあ、そういう事でよろしく頼みます」
「お任せください。では、ドルクル王国の逆侵攻が始まる前に急いでいきましょう」
後日、フルロン砦で待ち合わせすることを約束しオークタラオ王国軍とトクロン達スガラト王国の外交官達を見送った。
「さーて、ちゃっちゃと片付けちまおうかな」
業火に乗り込んで、ハーミットが集めきれなかったゴーレムに向かった。邪魔なゴーレム核を壊して回らねえとな。
ゴーレム核を壊しまくった俺たちはハーミットの周りに集合した。
「さて、ノルン。ハーミットのコンテナを切り離して作業モードにしてくれ」
「はい」
ノルンの返事の後に、ハーミットが走行モードより姿勢を低くし、コンテナの底を地面につける。ジョイントが外れ、コンテナとハーミットをつなぐ通路のハッチが閉まる。ハーミットは立ち上がると、通常の腕とは別に作業用の腕が6本立ち上がる。8本腕になったハーミットに向かって。
「原形を留めていないゴーレムを大体1体分ずつに纏めてくれ。ガーネットもラングも頼む」
「「「「了解」」」」
返事を聞いた俺は、まず初めにパイルバンカーでゴーレム核を貫かれ、うつ伏せに倒れたヤツに近づき。業火で、ひっくり返すと、刀を使って胸を切りつけ大きめの傷を作り、両手を添えて、傷を広げる。業火を降り仰向けになったゴーレムに登って、モデリングを使いながら持って来たゴーレム核を仕込んでいく。傷はそのままに、ゴーレムから降り。
「よし、立ち上がれ」
そう声を掛ける。短い足に長い腕と完全な人型とは言い難いオークタラオ王国軍のゴーレムが、俺が仕込んだゴーレム核に記述された情報に基づいて変形を始める。足が細く長くなり、頭部も変形していく。変形が済むと余った材料を横に置いたまま立ち上がる。そこには、アルハーンとはまた違ったフルプレートメイルをベースにデザインされた頭頂部に1本の長い角を立たせたゴーレムがいる。余った材料に手を伸ばすと、ゴーレム術の応用で、弓を作り出した。
「いいじゃん、いいじゃん。この調子でどんどん行くぞー!」
翌日の夕方までには鋼とオリハルコンで作られたゴーレムが45体出来上がった。頭頂部に1本角を生やし弓を持った10体。額から2本角を生やし同じく弓を持った10体。後頭部から3本角を生やし槍とタワーシールドを持った10体。頭の4方から4本角を生やし、片手剣とヒーターシールド持った15体。うんうん、なかなか立派じゃないか。
「強そうなゴーレムだな、店長」
ガーネットが言う。俺は。
「角の本数が部隊番号な。1番隊は烈火の後衛として遠距離攻撃のサポートをする。2番隊は蒼炎のサポートだな。3番隊はハーミットの防御。4番隊はパペットバトラーと行動を共にする打撃隊だ。」
ラングが。
「タケル。矢が無いんじゃないか?」
「あー、それな。おい、ストーンアローを試射しろ」
俺が1体のゴーレムに指示を出す。指示を受けたゴーレムは右膝を地面に付け、弓を持った左手を頭上に掲げるようにする。腰の物入れから矢尻を1つ取り出し地面に落とすと、その側に手を付き引き上げる。その手には先端に鋼の矢尻を付けた石の矢を持っている。そのまま、矢を番え弓を引き絞る。
『ブン!』
大きな風切り音をさせながらすごい勢いで矢が飛んでいく。400m程離れたところに生えている大木の幹を貫き更に遠くに飛んでいく。
「ちなみに鋼の矢尻が無くなったら、石だけで矢を作る。固い相手と戦うために、オリハルコンの矢尻も少しだけ積んでいる」
ふふふ。ゴーレム核に魔力が残ってる限り、矢を射続けることができる。
「矢が切れる心配をしなくてよいのはすごいな」
とラング。
「角の数で部隊を区別するのか、分かり易いな」
これは、ガーネット。
「でも、7番隊とか8番隊とかになったら区別がつきにくくないですか?」
ノルンがさらっと言う。
「ぐっ。・・・・・・その時になったら何か考えるよ」
「何も考えずに角を付けたんですね」
と、アシャさん。
「部隊ごとにいろいろな意匠を考えるよ。今日の処は角でいくけどな」
そうそう、角は暫定的な何かという事で。
「さて、そろそろ晩飯にしようか。明日朝一で出発だ。フルロン砦でゴーレムとの連携訓練をしよう。ドルクル王国の逆侵攻部隊がやってくるかもしれないからな」
俺が言うと。ガーネットが。
「トクロン達が戻るより早かったらどうするのだ?」
「その時は戦闘を避け、オークタラオ王国に向かう。移動速度が違い過ぎるからな、例え、騎馬でも追いつけはしない。同盟結べてしまえばこっちのものだ。そのまま、ドルクル王国の王都に向かえばいい」
「素直に、通してくれるとは思えんが?」
「少なくとも、スガラト王国と同盟を結んでからくるんだ。現場の指揮官程度ではどうしていいか判断は付かないはずだ」
「店長が、同盟の事をばらしたのだろう? だったら、その扱いを任された者が現場指揮を執るのではないか?」
「あ、それもそうだな」
「店長、あじゃないだろう。どうするつもりなのだ」
「何か考えておかなきゃな。みんなも考えておいてくれよ」
「「はい」」
「ああ。しかし、その手の事を考えるのはタケルの役目だろ。団長さん」
ラングがからかうように言う。
「どうしようもなくなったら力押しするからいいさ」
「結局それか。店長らしいな」
「俺らしいってどう言う意味だガーネット?」
「今までも、行き当たりばったりで色々やってきたではないか」
「うっ・・・・・・、否定できないところがつらい」
「まあ、明日も早いことですし、食事を摂って早めに休みましょう。慣れない戦闘訓練が始まるのでしょう?」
アシャさんの言う通りだな。
「この規模の砦を1日で落としのか。3000人の兵で出来ることじゃねえんだがな」
ラングが無人になったフルロン砦を見ながら言う。元国公認の勇者だから状況判断は正確だろう。
「実際には、50人ですけどね」
これはアシャさん。
「戦争のやり方が変わってしまったと言う事か。パペットバトラーが普及すればいったいどうなってしまうのだろうな」
ガーネットが俺を見ながら言う。
「たしかに、戦争の規模は大きくなるだろうな。街に襲い掛かれば人が大量に殺されることになる。俺のせいでそうなるんだ。友好同盟の加入国を増やすことと、パペットバトラーの普及には気を付けてもらわないとな」
「確かに、そういった側面は有るのだろうが、店長が見たヤマト帝国の兵器に対抗するためには必要な装備なのだろう? どれほど強力な兵器だとしても、所詮は道具だ。使い方次第と言ったところだろう。パペットバトラーが広く普及し、冒険者でも持てるようになれば魔物の討伐で命を失う者は減るだろう。国が有効に使えば、魔の森の開拓にだって使えるかもしれない」
「その為にも、友好同盟を大きくして、ヤマト帝国とも戦わずに済むようになるといいですね」
「ああ、アシャさんの言うとおりだな」
「侵略の道具ではなく、魔物などの危険から人々を守るための道具か。甘い理想だな。冒険者が持つようになれば、盗賊だって持つようになるだろうさ」
「「「あ」」」
ラングの指摘にアシャさんたちが初めて気が付いたように驚く。
「国が持つパペットバトラー、そして俺たちのパペットバトラーはずっと高性能のものにするくらいしか思いつかねえんだよな。為政者の良心に期待するなんてことは楽観的過ぎるからな。お互いに牽制しあって、おかしなことをするやつが出ないように監視しあってもらわねえとな。そのための同盟でもあるわけだ」
「それは、だいぶ先の話だな。今はヤマト帝国だ」
ラングが言う。
「そうだ。もっと身近な事を言うと、今回作ったゴーレムを有効に運用する事ができるようになれば、当面は最強の軍を持つことになるからな。戦争の無い世の中ができればいいな」
「実際には、結果が悲惨過ぎて戦争なんか出来ない世界という事になるんだろうがな」
続けて言うラングの言葉に。
「無くなろうと、出来なくなるだけだろうと、人々にとっての結果は変わらねえさ。戦争によって引き起こされる不幸が無くなりゃ良いんだ」
「「そうですね」」
「「そうだな」」
「じゃあ、トクロン達と合流するまでゴーレムの運用訓練と行こうか」
「「おう」」
「「はい」」
そうして、訓練をしながらトクロン達とオークタラオ王国の使者を待つことになった。ドルクル王国の逆侵攻軍が来る前に何とか間に合うと良いんだがな。
『『『『『『『『ビューン』』』』』』』』』
矢と言うより、矢羽の付いた槍。いや、矢尻と矢羽が付いた電柱と言った方が良い物体が数十本
唸りを上げて飛来する。
『『『『『『『『ゴッ!』』』』』』』』』』
『『『『『『『『ギャン!』』』』』』』』』』
一列に隊列を組んで並んだ3本角のゴーレムが下側を前に出し斜めに構えたタワーシールドで全ての矢を逸らし弾く。すかさず隊列の中程が開き。
『ドグォーーーーーン!!』
ハーミットのADRが火を噴く。500m程向こうで弓に矢を番えようとしていたゴーレムの1体が頽れる。それに構わず、残ったゴーレムは弓を射る準備を進める。矢が射かけられる前に、隙間は閉じ隊列を戻す。
『『『『『『『『ギャン!』』』』』』』』』
間を置かずに射掛けられた矢はタワーシールドを1本も貫くことなく上方に逸らされる。まるで、その音を合図にしたように4本角のゴーレム10体を前面に出し、蒼炎が走り出した。ゴーレムはあっという間に全速に届いたようだ。まあ、パペットバトラーに比べると半分の速度も出ていない。1本角と2本角のゴーレムは4組に分かれて順番に矢を射続けている。ハーミットにADRを撃つタイミングを与えない作戦だ。
『ドグォーーーーーン!!』
4本角のゴーレムが150m程進んだ所でハーミットのADRが火を噴く。ちょうど蒼炎とハーミットを直線で結んだ位置を走っていたゴーレムが停止し倒れこむ。続く2体のゴーレムがそれに巻き込まれ転倒した。少し、速度を緩め隊列を整え再び速度を上げる。ヒーターシールドを構え直すが、あれではADRは防げない。それが分かっているから蒼炎はゴーレムを盾にしているんだろう。
『ドグォーーーーーン!!』
三度、ADRが火を噴く。ゴーレムが1体倒れる。今度は巻き込まれるゴーレムはいなかった。それを合図にしたように、矢を射るゴーレムの後ろから烈火が飛び出す。蒼炎とは反対を回り込むように走る。タワーシールドを構えるゴーレムの後ろから5体のゴーレムが走り出し、迎撃に向かう。1体が先頭に立ち、4体がフォローするように付き従う。その間も蒼炎はハーミットに迫る。
『ドグォーーーーーン!!』
近距離から放たれるADR。また、1体のゴーレムが行動を止める。そこを中心に前後に分かれたゴーレムの後ろ半分はタワーシールドを構えるゴーレムに襲い掛かろうと走る方向を変える。その時、烈火に向かったゴーレムのうち先頭を走るゴーレムはヒーターシールドを体の前にかざし片手剣を振り上げ烈火に切りかかる。烈火はバスタードソードでヒーターシールドをはじき、ヒーターシールドでシールドバッシュを叩きこむ。はじき飛ばされたゴーレムに追い打ちを掛けようとする烈火の前にゴーレムが2体割り込みシールドを構え防御姿勢を取る。烈火を足止めするつもりのようだ。
「蒼炎と合流させないつもりか。なるほど」
視線をハーミットに戻すと、槍と片手剣とで切り結ぶゴーレム達が見えた。蒼炎は3体のゴーレムと一緒にタワーシールドを持つゴーレムを回り込もうと動く。そのゴーレムを防ごうとタワーシールドの向きを変えながら動くゴーレム。混戦になったせいだろう、矢の攻撃は止んでいる。片手剣をタワーシールドに叩き付ける3体のゴーレム。防ぐ方の槍は近すぎて、柄で殴る事しかできず、致命傷は与えられない。そのゴーレム達の後ろを回り込み蒼炎がハーミットに襲い掛かる。
『ドグォーーーーーン!!』
間一髪のタイミングでADRが火を噴く。蒼炎は動きを止め、その場に跪く。もっとも、今ハーミットが撃っているADRは空砲だ。弾道計算をさせ、当たり判定をさせていた。実弾なんか使ったらゴーレム核を破壊するだけじゃなく、パペットマスターが死ぬ。
「・・・・・・ヒットー。・・・・・・タケル、昨日から気になってはいたんだが、この掛け声はなんなんだ?」
ラングの声がスピーカーから聞こえてきた。
「ん? サバゲ用語?」
「店長は、時々訳の分からない事を言いますよね」
アシャさんからの指摘に。
「まあ、俺が住んでいたところで普通にやられてたゲームだよ。よーし、昼飯にしようぜ」
「「はい」」
「「了解」」
「ノルンのパスタ美味いな。美味いんだが・・・・・・」
「何だよ、ラング何か文句でもあるのか?」
「文句なんてねえさ。ただ、ちょっとバリエーションが・・・な?」
「なるほど、ラング君はノルンの料理に飽きたと言いたい訳だね?」
「いや、そんなことは・・・・・・」
「ごめんなさい、まだ、パスタを数種類しか覚えていないの」
「なに言ってんだ。ノルンは謝る必要は無い。毎回暖かい料理が皿に乗って出てくるんだぞ。毎回感謝してるんだ」
「俺だって感謝してるさ」
「ラングは国公認の勇者だったからな、遠征にはちゃんとした料理人とか同行してたんだろ?」
「まあそうだが、今は冒険者だ。普通の冒険者の食事が硬いパンに水だってことは分かってるさ。俺達はノルンやアプリコットのおかげで別世界の環境にいる」
「そうだな、自分では硬いパンと具の無いスープしか用意できない」
「わたしも同じです」
ガーネットとアシャさんが言う。
「2人はまだマシだろ。パンは温められてるし、バスケットに盛ってある、暖かいスープも有難いさ。温めようとして黒焦げにしてからは、俺はパンはそのまま手渡しだし、飲み物は水だ。めいめいのカップくらいは使うけどな」
俺が言うと、ラングは。
「俺もタケルと同じだ」
「つまり、食事を当番制にすると、5回に4回、さらに2回はとっても残念な食事になるという事だな。ノルンには申し訳ないが、食事はお任せしたい」
「ええ、これからもっとアプリコットに習う事にするわ」
「今でも、毎回微妙に味に変化を付けてくれてるじゃないか、ありがたい事さ」
俺が言うと、3人も大きく頷く。
「えーと、同じ味にならないのよ。作るたびに味が変っちゃうの。料理なんてしたことが無いから」
自嘲気味に言うノルン。
「ノルンはすごいわ。私には食材を無駄にする才能があるみたいなんだもの」
「自分も同じだ」
「頑張るわ」
ノルンが笑顔で言う。
「さて、検討会だ。さっきの模擬戦はずいぶんいい出来だったと思うぞ」
俺が言う。
「ゴーレムに出す指示もずいぶん的確になってきたろ」
「そうだな、ラングだけじゃなくてガーネットもアシャさんもノルンも大分慣れてきてるよな」
4人が嬉しそうな顔をする。
「でも、それぞれ少しづつミスをしている。そのミスが少なかった方が勝ったゲームだった」
「自分はどこがまずかったのだ?」
「ガーネットが弓ゴーレムに出した指示は良かったぞ。4隊に分けて絶え間なく矢を射かけた。遠距離攻撃ができる相手が1体だったからな。ゴーレムを前進させながらやっていれば完璧だろうな、プレッシャーを掛けながら、烈火が走る距離も短くすることができる」
「なるほど」
ガーネットが相槌を打つ。
「ラングも、もっと近付いてから飛び出せれば、剣ゴーレムの数はもっと多く残せたはずだ」
「そうだな。他に俺がすべきことは?」
「最後に盾ゴーレムを回り込んだ時だな。エクスプロージョンで加速してりゃADRの発射は間に合わなかっただろう。成功する確率は上がったはずだ。ゴーレムの後を付いて走っていたせいじゃねえか? 速度を抑える方に意識が向いてたか?」
「あ」
ラングは今気が付いたという反応をした。
「アシャさんとノルンも最後の処だな乱戦になって、矢が飛んでこなかったんだ、あそこでスモークデスチャージャーを使いながら下がれば、あんなギリギリのタイミングで迎撃するようなギャンブルは犯す必要はなかったかな。あれは、結果的に成功したが、ラングがきっちり仕事をしていれば、勝者は変わってただろうな」
「そうですね」
「でも、最初に比べたらずいぶん上達している。2日であれだけできるようになれば上等さ」
4人を眺めると、嬉しそうな顔で頷いている。
「マスター。オークタラオ王国方面から接近する集団を視認。距離1kmです。馬車2台、騎馬
12騎、ゴーレム2体です」
「おー、来たか。以外と早かったな」
どうやら、トクロンがオークタラオ王国を加盟させることに成功したらしいな。