マニューバース初陣
「さーて、あまりにも予定通りに進んでいて怖いくらいなんだが」
ハーミットのリビング兼作戦室でトクロンが同盟の調印を済ませて戻るのを待っているところだ。
「予定通りって、まだ何もしていないじゃないですか」
アシャさんが言う。
「だからさ、何もできねえから予想通りにいくか不安だったんだ」
俺が言うと。
「ここからは、自分達が介入できるという事だな」
と、ガーネットが。
「ああ、4機のパペットバトラーで50機のゴーレムを倒すっていう簡単なお仕事だ」
「簡単って」
ノルンはあきれ顔だ。
「操縦者や、随伴している兵達はできるだけ殺すなよ。ほとんどのゴーレム核は人で言えば心臓の辺りにある が、都合のいいことにコクピットはパペットバトラーと同じで頭部に有る。十分にゴーレム核だけ狙うことが可能だ。核が壊れて倒れこんだ時に、操縦者がどうなるかまではわからねえけどな」
10mほどの高さから地面にたたきつけられたとして果たして平気かどうか? パペットバトラーはロボ同士の肉弾戦も想定しているから試したときは平気だった。きちんとハーネス締めてなきゃ危ねえけど。
「戦闘不能にすりゃいいんだから、足を破壊するのも1つの方法だな。アシャさんは、ADRで狙うなら腰がいいかもな。いくらオリハルコンで装甲されていても所詮はスチールゴーレムだ。装甲を抜いちまえば」
そう言って、顔の前に握った右手を上げ手を広げながら。
「ボン! 行動不能にできるだろう」
「「了解しました」」
アシャさんとノルンが答える。
「奴らを追返したら、そのまま向こうの王都に乗り込んで同盟を結ばせるのだろう?」
ガーネットが言う。
「そうだ。でなきゃオークタラオ王国は逆侵攻を受ける。砦を壊滅させているんだ。オークタラオ王国の国民が悲惨な目に合うことは間違いない。その前に一気に片を付ける」
「ドルクル王国は自分たちがオークタラオ王国の兵を追返している間に逆侵攻の準備を整えるつもりなのだろう?」
「おそらくな。そんなことをしても無駄に終わらせてやるけどな」
「そうだな。そうしないとな」
「ああ」
俺がガーネットに言うと、みんなも真剣な顔で頷く。
「自分たちのパペットバトラーの装備はどうするのだ?」
とガーネットが話題を変える。
「んーそうだな。各々得意な武器でいいんじゃねえのか? それとも、同じ装備で統一感を出すってのも有りか?」
と答える。ラングは。
「元々、パペットバトラーは色違いなんだ。武器で統一感を出しても意味が無いだろう。だいたい、傭兵なんてのは服装も装備も自分の戦闘スタイルに合わせてるもんなんじゃないか。揃っているほうが変だろ。混戦になったときに敵味方の区別がつくように同じ色のスカーフを頭や腕に巻いたりしてる処は有るみたいだから、そういった統一でもすればいいんじゃねえか?」
「なるほど! ラングのくせに良いアイディアじゃねえか!」
「ラングのくせにってのはなんだ!」
「酷いですよタケルさん!」
ノルンに非難されてしまった。解せぬ。
「だったら、肩の色でも統一するか? 赤はやばいから・・・・・」
俺が考えながら言うと、アシャさんが。
「業火と烈火は炎の模様が入ったラインが有るんですから、それで統一すればどうですか? 蒼炎とハーミットにも炎柄のラインを入れれば綺麗ですよね」
「そうだな、そうしようか」
店に帰ったらそうしよう。
「となれば、装備する武器は。俺はヒーターシールドに、あの短めのツーハンデッドソードがいいな」
短めのツーハンデッドソードってのはクレイモアの事だ。あれは本来は両手剣だが、人間が使う訳じゃないから重さや長さは問題じゃないが、リーチが長くなる分懐に入られると弱い。まあ、ラングなら問題ないだろう。相手の武器がメイスだから盾を持つのは有りかもしれないな。
「あの剣はクレイモアな。短いって言っても本来は両手剣だからなあの剣は。ガーネットはどうする?」
「自分はバスタードソードにヒーターシールドにしよう」
ガーネットは自分が戦う時はヒーターシールドにロングソードだから、少し大きな武器という事になる。力が強いパペットバトラーならではの選択という事だろう。
「じゃあ、俺は太刀の二刀流にするか」
俺もいつもの装備だ。その時ハーミットから声がかかる。
「マスター。お客様方が戻られました」
お、トクロン達が戻ったらしい。タラップを上ってくるトクロン達の後ろを付いて4人の男達もリビングに入ってくる。ただでさえ狭いっつうのになんだこいつら?
「見送りなら外で頼む。見りゃあ分かるだろうが、作戦室は狭いんだ」
あえて作戦室という事で、部外者が入ることを拒絶してみた。どうせ、俺たちに同行するとか言い出すんだろう。まっぴらごめんだ。こいつらが一緒だとうるさくなる。
「見送りではない。我々も同行する」
「無理だ、いやだ、拒否する」
「お前に、拒否権など無い。私は、騎士務省副省長のトラーザーロ。後ろは騎士省の職員と護衛の騎士だ。お前たちが、わが国内において何をどうするつもりなのか、見届けさせてもらう」
トクロンが続けて。
「そう言う訳で同行されたのだ。自国の中で他国の傭兵団のすることを監視したいとの事だ」
言いたい事は分かるが、こいつらが居ると計画に支障が出そうだ。
「そう言っても、こいつに6人の人間を余計に乗せることは無理だ。2人だな、それ以外は馬車で来るかい? もっとも、馬車に合わせていたんじゃどこかの街が落ちるぞ。いいのかい?」
トラーザーロ以外に職員が1人同行するとすれば護衛は乗れない。さて、どう出るかな? トラーザーロは少し考えた後。
「では、私とこのポートルが同行しよう」
あーあ、護衛を連れて行くのかよ。うるさいやつなんだろうな。どうせ、何を言っても着いてくるつもりなんだろうな。だったら。
「押し問答してる時間が惜しい。どうせ上からの命令で引けないんだろうから、条件をだそう。この国の地図を用意してもらおう。地形も分かるような詳しい地図をたのむ」
トラーザーロが顔を赤くして。
「そんな国家機密を渡せるはずが無いだろうが。ふざけるのもいい加減にしろ!」
「それを判断するのは、あんたじゃない。もっと上の連中に聞いてきてもらおうか」
「なんだと!」
「あ、急がないとどこかの街が襲われるかもしれねえ。半刻だけ待とう。こなけりゃ出発する」
「なにを「早くしねえと半刻なんて直ぐだぜ。地図がありゃ反撃の成功率が格段に上がるんだ。誰も文句なんか言わねえよ。俺達に渡せねえなら、トクロン様に貸すことにすればいいだろ。同盟国なんだ。恰好はつくだろ?」
俺が、トラーザーロの言葉を遮って言うと。
「くっ、行くぞ!」
ハーミットから出ていく6人を見送ると。
「連れて行くつもりか? 計画通りに行かなくなるぞ」
ラングが不満そうに言う。
「ふん、いざとなったらコンテナに閉じ込めるさ。どれだけ凄腕の護衛か知らんが、俺達にかなうわけないだろ?」
「ふふふふ。それはそうだな」
トクロン達が俺とラングを複雑な表情で見ている。
「なるほど、砦を落とした連中が襲うとすればこのどちらかの街って事か・・・」
4半刻で戻ってきたトラーザーロを交えて、走り出したハーミットの作戦室で地図を覗き込んでいる。
フルロン砦から100kmに足りない程の位置に大きな街が2つ有る。街の占領を維持するには50体のゴーレムだけでは無理だ。おそらく歩兵を同行させるだろう。歩兵が1日に進める距離は20kmから30kmと言ったところだろう。パペットバトラーで移動する俺達に比べると10分の1にも満たない距離だ。フルロン砦にどのくらいの期間駐留したか分らねえが、街が襲われる前に付けるだろう。
「人口はどのくらいなんだ?」
「おおよそ5万人規模と言ったところだ」
トラーザーロが答える。交易が有るんだから、オークタラオ王国側も知ってることなんだろう。
「駐留兵は?」
「こちらの、サールロンは4千人。そしてこちらの、ポポラスは1千人だ。サールロンは普段はこの数だが、フルロン砦に半分移動させた」
サールロンの方が魔の森に近いから駐留兵が多いって事か。
「どっちから襲うと思う? 兵力を分けて街を占領する時間を掛けるのは得策じゃないよな?」
「そうだな、まずサールロンを襲うだろうな。4千の兵など相手にならんだろうし、占領した街を守るためには相手が少ないほうが良いだろう。4千の兵が居るサールロンを落としてしまえば、ポポラスから奪還の兵は来ない」
「実際にはその半分しかいないんだ。どちらから襲っても変わらないだろうが、それを奴らが知らなければそうなるか」
ハーミットを操縦するノルンに地図を見せながら。
「サールロンに向かう、ここの分かれ道を右に行ってくれ。念のため、俺はポポラスを偵察してから合流する」
そう言って、上部のハッチからハーミットの背中に立ち、とべーるくんで飛び上がる。
「え? そっちにも行ってないってのか? じゃあ、あいつらはどこに・・・」
しゃべーるくんから聞こえたアシャさんの話に驚いてしまった。ポポラスに飛んで何もないことを確認し、サールロンでの合流を前に連絡を取ったが、結果は両方の街が今も無事だという事だった。何か事情があって出発が遅れたのか。それとも、2つの街を飛ばして・・・。それは考え難いな。
「よし、俺はこのままフルロン砦に向かってみる。そっちも向かってくれ、街道を通ってくれば、偵察後の合流は簡単なはずだ」
『了解しました』
俺は、進路をフルロン砦に向けとべーるくんを全力で飛ばした。
「なるほど・・・・・・。あれのせいで出発が遅れたのか」
フルロン砦に向かった俺が見たものは、崩れた外壁に焼け落ちた建物、そして人を埋葬した後だった。
「50体のゴーレムを使えば難しくは無いだろうが、数が数だったろうしな」
俺は上空からでも確認できるゴーレムの足跡や、荷駄を積んだ馬車の跡を見て連中がポポラス方面に向かったことを確認し、後を追った。
「ふーん、だいたい時速5kmってところか? ポポラスに着くのは明日? 野営をするとなればもっとかかるか?」
もっとも俺達が来たからにはあの軍がポポラスに着くことは無いけどな。行軍するオークタラオ王国軍に追いついた俺は森に紛れて様子を伺っているところだ。この前見たときはゴーレムだけだったが、今日は兵士や荷駄隊も一緒に進んでいる。町を占領する為の軍ってことだな。
「ん? 止まる・・・野営か」
野営の準備に入ったオークタラオ王国軍を確認したところで、アシャさんたちに合流するために戻ることにした。
「向こうは野営中なのだ夜襲をかけるのが最も効果的ではないか。4体のゴーレムで一軍に挑むのだぞ。正面からぶつかるつもりか」
護衛のポートルが言う。
「あんた騎士だろ? そんな姑息な手段でいいのか? 騎士としてどうなんだ?」
「貴様にとっては所詮他国の戦争なのだろう! 不利になったら逃げ出せばいいと思っているんだろうが! この国は私の祖国なのだ。勝てませんでした。はいそうですかと言う訳にはいかんのだ! 相手の戦力を考えてみろ! たった4体のゴーレムでどうにかなる訳がないだろう! 相手はフルロン砦を1日で落とした最新型のゴーレムが50体だぞ。少しでも勝てる手段を講じるのが当たり前だ!」
「おー! そういえば業火よりも新しいんだな。最新型だ」
「だったら!」
ポートルの言葉を手を軽く上げてさえぎり。
「だったら尚更、その最新型のゴーレムよりもウチのパペットバトラーが強いって証明できるじゃねえか。真正面から当たるかどうかは別として、少なくとも人が操縦していないゴーレムを倒したんじゃインパクトに欠けるし、搭乗者がいれば、奇襲をしかけても索敵能力も含めてこっちが上だって証明になる」
「それで、勝てなければ意味がないだろう!」
いちいちうるさい男だな。まあ、真剣になるのは当たり前だけど。
「最新型だか何だか知らねえが、人が乗って命令できるだけのゴーレムに俺達のパペットバトラーが負けるわけないだろう」
「戦ったこともない相手ではないか。その自信はどこかる来るのだね?」
今まで黙っていたトラーザーロが言う。
「自信じゃねえさ。確信だ。業火1機でスガラト王国ではゴーレム40機を一気に壊した。あのゴーレムは旧来のゴーレムだったが、持っている武器は同じくメイスだった。今回はパペットバトラーが4機もいるんだ。どうやったら負けられるのか聞きたいくらいさ」
それを聞いたトラーザーロがトクロンを見る。トクロンは頷いて。
「事実です。我が国のゴーレム40機程を、それこそあっという間に倒し、魔術師団からの攻撃も効果は無かったそうです。タケル殿が確信と言っているのは誇張ではないでしょう」
「納得したかい? じゃあ、ポポラスと奴らとの間で、隠れやすいところ・・・。ここだな。移動するぞ」
地図の1点を指さして言う。
「さーて、明日は忙しくなる。みんな寝ようぜ。移動だけならハーミットだけで問題ない。なあ?」
ハーミットに声を掛けコンテナに向かって歩き出す。
「はい、マスター。お任せください」
ハーミットの返事に振り向かずに右手を上げて答える。
「おい! まて!」
ポートルの呼びかけを無視してカプセルホテルのベッドのような寝室に入り、リビングに向かって声をかける。
「明日はいつ寝られるか分らねえんだぞ? 寝とけ」
そう言って頭から毛布をかぶった。
「ほれ、ラング。それから・・・こっちも」
『おう』
蒼炎にクレイモアとヒーターシールドを手渡す。ハーミットが背負ってきたコンテナの一つは宿泊施設。そして、もう一方は倉庫だ。数種類の武器にシールド、それから補修用の材料を積み込んでいる。作戦によって、複数のコンテナを付け替えることができる。一度に積めるコンテナは4つまではいける。リビング兼作戦室に車長席に座るアシャさんは、いずれ部隊指揮官だ。つまり、ハーミットは文字通り移動基地として作られている。ガーネットにバスタードソードとヒーターシールドを手渡し、業火の為に太刀を2本取り出し装備する。
「さて、そろそろかな? 相手がどんな隊列でやってくるかによって、こっちの行動も変わってくるぞ。歩兵を護衛するように一緒に行軍してくれば、一当てしてから少し引きゴーレムを引きずり出して殲滅する。歩兵の後からゴーレムが着いて来るようなら一度やり過ごし後ろから襲い掛かる。そして、ゴーレムを前面に出し後から歩兵がついて来るようなら・・・・・・」
「来るようならどうなんだ?」
俺の溜めを作った発言にラングが尋ねる。そのタイミングでオークタラオ王国のゴーレムが見えてきた。どうやら前面にゴーレムを立てて進撃して来たようだ。中程が膨らんだ槍を取り出し、倉庫のハッチを閉じて。
「来たみたいだ。正面から叩き潰すぞ。マニューバース出撃!!」
「「おう!」」
「「はい!」」
業火、烈火、蒼炎そしてハーミットの順に隠れていた森から街道に向けて歩き出す。街道に出て向き合うように止まる。彼我の距離は2km程だ。俺は業火に槍を構えさせると。
「それ!」
投てきした。槍は先頭のゴーレムの100m手前まで飛んで地面に突き刺さった。直ぐに軍の進みが止まった。俺はマイクに向かって。
「傭兵団マニューバース推参」
投てきした槍にはしゃべーるくんとおおごえくんが組み込んである。今の声は向こうに伝わったはずだ。マイクを切り業火に。
「業火、ADRセットアップ」
「はい、マスター」
『ウィー・・・・・ガシャ』
音と共に。
「セットアップ完了です。マスター」
「ADR、射撃位置に移動」
「はい、マスター」
その声を聞いて。マイクのスイッチを入れ。
「このまま、おとなしく国に帰るなら、この場は見逃そう。ドルクル王国は逆侵攻の準備をしているぞ。国に戻って守りを固めることをお勧めする」
それを聞いたせいかどうか分からないが、ゴーレムがゆっくりと進みだす。
「この槍を踏み越えた時が戦闘開始だ。一応忠告はしたぞ。あっ、そうそう、戦闘開始後でもいいから、降伏するなら武器を収め両手を上げろよ。そうしたら、攻撃はしない」
槍につながったマイクだけを切って、業火にADRを構えさせる。
「アシャさん、ADRの準備よろしく。業火が撃ったら続けてくれ。烈火と蒼炎は左右に分かれて突っ込んでくれ。そっちが接触するまで撃ったら、ハーミットは下がってくれ。万が一にもお客さんに怪我をさせる訳にはいかない」
ゴーレムが歩き出し、先頭の1機が槍の脇を通り過ぎた。
『ドグォーーーーーン!!』
業火のADRが火を噴き、ゴーレムの胸部装甲に大穴が開き崩れ落ちるように倒れこむ。さあ、戦闘開始だ。
『ドグォーーーーーン!』
隣で、ハーミットのADRが火を噴き、ゴーレムの腰が砕け散り派手に倒れる。さすがに、自動照準だな。残ったゴーレムが走り出した。動作はゆっくりだが、サイズがサイズだそれなりの速度は出ているだろう。烈火と蒼炎が走り出す。俺は、ADRを撃って崩れた姿勢を戻すと、業火の右腕を引きADRのレバーを動かし次弾を装填する。今度は右足太ももに照準を合わせるトリガーを引いて。
『ドグォーーーーーン!!』
右足を失ったゴーレムが倒れこむ。続いてハーミットも。
『ドグォーーーーーン!』
しかし、砲弾はゴーレムを外し、土砂を大量に巻き上げる。
「あら、外しちゃいました」
「走っている相手に当てようと言うのだもの、そうそう上手くいきませんよ」
「そういう事だ。焦る必要はないぞ。ラングとガーネットの討ち漏らしだけ相手にすればいい。接近戦は避けてくれ、まだ2人には接近戦は無理だ。ハーミットの逃げ足は、あのゴーレムよりも早いからな。多くの敵が殺意を持って向かってくる怖くて当たり前なんだ。足がすくんで逃げ遅れるなよ」
『ドグォーーーーーン!!』
言いながらADRを撃つのを忘れない。
「そっちにはお客さんが乗ってるんだ。くれぐれも無茶はするなよ」
「「はい」」
さて、そろそろ2人が向こうさんに接触するな。敵のゴーレムは2つに分かれ烈火と蒼炎をそれぞれ囲むように展開している。
「2人とも、相手が包囲しようとしている。囲まれるとちょいとまずい。いなしながら1機ずつ削ってくれ」
「「おう!」」
まあ、正直ラングの事は全く心配していない。パペットバトラーでの戦闘は初めてだが、元は国公認の勇者だ戦闘勘は素晴らしいものを持っている。ガーネットに関しては、初の実戦で少し心配だが、パペットバトラーを一番上手く扱うのが彼女だ。
「お、接触したな」
ADRの操作をしながらモニターを眺める。蒼炎のクレイモアが一閃しゴーレムの持つカイトシールドを跳ね上げ反す刀で胴を薙ぎ払う。ゆっくりと倒れこむゴーレムを顧みることなく次の獲物に食い付く。烈火はシールド同士を打ち合わせ弾き、バスタードソードを胸に突き入れる。力なく崩れ落ちるゴーレムから剣を引き抜き、一歩下がって、ヒーターシールドを構える。2人ともやるもんだ。囲まれることを嫌い左右に開くように迎撃していくガーネットとラング。その時。
『よし、開いたぞ! 第3、第4小隊は中央を突破して奥の2機を倒せ! 遠距離攻撃用の機体だ。接近戦闘に持ち込めばこっちのものだ!』
烈火か蒼炎のマイクが相手の声を拾った。無線では無く、外部スピーカーで連絡を取り合うようだ。おおごえくんでも使ってるのか? 自分たちで開発したのか? まあ、どっちでも良いが。
「接近戦でもそっちの物じゃねえんだがな」
ハーミトだって2人が操縦に慣れれば格闘戦も立派にこなせるようになる。
「もっとも、コンテナは降ろさなきゃならねえだろうが」
ハーミットの砲弾がゴーレムの持つカイトシールドを跳ね飛ばす。
『ドグォーーーーーン!!』
続けて業火の撃ったADRの砲弾がそのゴーレムの胸を穿つ。足をもつれさせて転ぶゴーレムに後続の1体が巻き込まれて転ぶ。
「アシャ! カイトシールドでは足元までは隠せない」
「はい、お兄ちゃん」
業火とハーミットが続けてADRを撃つ。2体のゴーレムの足が吹き飛ぶ。
「向こうのゴーレムの足が意外と速い。ノルン、後退しろ。業火ADR格納だ」
「はい、タケルさん」
「はい、マスター」
返事を聞いて少し待つと。
「マスター、ADR格納完了しました」
「よし」
ハーミットの後退を確認てから、正面を見据える。迫ってくるゴーレムの群れを見ながら。ファンクションキーを操作し、アースウォールを選択する。
『もうそこまで寄せている。怯むな、こちらの間合いに入ってしまえば後は容易いぞ!』
隊長だろうか。部隊を叱咤する声が聞こえてくる。
「まあ、そう思うかもな」
ハーミットがきちんと後退したのを後ろを映すモニターで確認し、アースウォールを展開する。
「アシャ、ノルン。アースウォールを回り込んで、ガーネット達の援護をしてくれ。ここは業火で抑えきれる」
「「はい」」
『両端4体づつは6本足に迎え。残りは黒いのを討つ』
いい判断だ。ガーネット側から向かうハーミットに向かったゴーレムに襲い掛かるために、業火を突進させ、さらに、エクスプロージョンも使って一気に追い付く。居合一閃、右手で抜いた刀で先頭を走るゴーレムの背中を袈裟斬りにし、振り向きながら左手で抜いた刀でもう1体のゴーレムの胴を薙ぎ払う。
「遠距離戦専用なんて、言った覚えはねえんだがな。数だけは有利なんだ、かかって来い」
外部スピーカーをオンにして言い放つ。業火の動きに驚いたのか、停止していたゴーレムが、メイスを振りかざして突っ込んで来る。エクスプロージョンを4発地面に撃ち込んで、砂塵を巻き上げ即席の目眩ましをすると業火を突っ込ませた。いくらなんでも、囲まれるのは嬉しくない。エクスプロージョンが炸裂する前の配置を思い出しながら、業火を飛び込ませる。周りが全部敵なんだ、砂塵の中に薄く見えるゴーレムの間を抜け、振り向きざまに背中から袈裟斬りにする。
「1つ・・・・2つ・・・・3つ・・・・4つ」
砂塵が落ち着き辺りが見えるようになると、業火の周りには4体のゴーレムが転がっている。
『貴様! 卑怯者』
そう言いながら1体のゴーレムが突進してくる。距離が30mを切った所で、メイスを振り上げ、投げつけてきた。右手の刀で危な気なく払う。そのゴーレムは、更に数歩進んで今度はシールドを投げつけて来た、モニターに広がるシールドを左手の刀打ち落とすと。彼我の距離は数メートルまでになっていた。上半身を低くし、飛び込むように腰にタックルをかけてきたゴーレム。
『今だ! 私が封じているうちに打ち込め!』
なるほどな。刀を振れる距離じゃねえな。向かってくる複数のゴーレムを見ながら。刀を持ったままの左手を、組みついているゴーレムの背中に当てると、スティックのボタンを押し込んだ。
『バシュ! ドン! ・・・バシュ! ドン! ・・・バシュ! ドン!』
ボタンを続けて3度押し込むと。破裂音と硬いもの同士がぶつかる音が3度し、組みついていたゴーレムが、力を失って地面に伏せた。近づいて来たゴーレムを迎え討つ為に、両手を大きく広げ膝まづくように1回転する。4体のゴーレムが弾き飛ばされる。2体はシールドごと跳ね飛び、2体は両足を切られて倒れこんだ。残りのゴーレムが怯んだように立ち止まる。刀を構えた業火を進めながら。
「メイスを持った相手に、ソードストッパーもどうかと思ってな。パイルバンカーに変えといたんだ。
狙いは良かったが残念だったな」
言いながら、2本の刀でシールドを弾き上げながら胴や足に切りつけて行く。
「ん? あんたは隊長か何かか?」
最後に1体だけ残ったゴーレムは、他のと違って、両肩に青いラインが入っている。
『この化け物が!』
そう叫ぶと、シールドを構えメイスを振り上げて殴り掛かってきた。俺は左手の刀でメイスを受け、右手の刀を胸に突き刺した。両膝を落とし跪くゴーレムに向かって。
「化け物か。褒め言葉と受け取っておこう」
そう言って、ガーネットたちの方を見た。ラングは、自分に向かっていたゴーレムを倒し、ガーネットに向かっていたゴーレムを倒していたらしい。烈火と蒼炎に挟まれて、最後の1体が倒れた。アースウォールを解除し土の壁を崩すと、2人に向かい。
「こっちは片付いたぞ」
と声を掛ける。
「こちらも今終わったとこだ。なかなか、大変だったぞ。やっぱり、数は重要だな。囲まれないように立ち回るのは大変だったぜ」
と、ラング。続いてガーネットが答える。
「自分は囲まれてしまった。烈火の丈夫さに助けられた。あと、ラングにも」
「まあ、最初なんだ。敵の数が多すぎた仕方がないさ。しかし、こっちが4機だと言うのに、戦力の逐次投入でもして来るのかと思っていたんだが、最大戦力で一気に潰しに来たな。なかなか、やるじゃないか。向こうの指揮官は」
ラングの言葉に俺は同意する。
「確かにな。さて、仕上げに行くか。もう、1戦有るかもしれねえ、ハーミットはこの場で待機だ」
俺が合流し、アシャさん達を残して敵の歩兵に向かって進む。少し移動し歩兵を守るように立ちふさがる5体のゴーレムと対峙する。歩兵部隊の護衛に残した分だな。
「これ以上戦闘する必要は無いだろう。さっきの忠告どおり、武器を放棄するならこれ以上の攻撃はしない。ゴーレムは破壊したが、できる限り搭乗者は殺していない。そいつらを救出してこのまま国に帰るなら、追撃はしないと約束しよう。もっとも、俺達マニューバースはしないってだけで、早く帰らねえと、この国の軍隊が来ちまうぞ。俺達はあちらさんとは無関係に動いているからな。事情の全てを知ってるわけじゃねえが、今回の件について心情は理解できる。戦争で解決しようとしたところには同意できねえけどな。だから俺達はドルクル王国に協力する気はさらさら無い。と言って、妨害する訳にもいかない」
するとゴーレムがメイスを放り投げた。まあ、順当な処だな。ゴーレムの後ろから、指揮官らしい男が進み出てきた。
「私は、今回の遠征軍指揮官のモルッツェンだ。これ以上の戦闘は無意味だ降伏しよう。本当に国に帰ってよいのか?」
「ああ、いいのいいの。煩いことを言いそうな奴らは、あそこに置いてきた」
だいぶ離れたところで待機するハーミットを指して言う。
「ゴーレムの搭乗者は本当に救助してよいのだな」
「ああ、ここに来て手を出すようならもうやってる。それだけの人数を捕虜にするにはこちらの手が足らないだろ? だいたい、交渉事なんかしたことないんだ、ちゃんとできる自信がない。ただし、残ったゴーレムは破壊させてもらう」
男は、考える素振りを見せたが。
「まあ、当然だな」
「じゃあ、ゴーレム搭乗者を救助した後に破壊させてもらおう」
「え? 救助の後?」
「ああ、ゴーレムがないと救助できない奴がいるかもしれないからな」
男は頭を下げ。
「感謝する」
そういうと部下に指示を出し、撤退の準備とゴーレムの操縦者の救出を始めた。残った5体のゴーレムを動けないようにするまでは、パペットバトラーから降りる訳にいかない俺たちは、一度ハーミットの周りに集まり、救助の様子を眺めている。すると、アシャさんから通信が入った。
「店長、ドアを叩く人がいて煩いんですけど」
ん? あー、無理やり乗ってきた2人組か。
「アシャさん。リビングにつないでくれ」
「アシャ・・・さん・・・・・・。はい」
アシャさんの操作で、リビングと回線がつながった。
「ここを開けろと言っている! あけんか!」
「どうしたんだ? ルームサービスなら後にしてくれ、今取り込み中だ」
「貴様! 何をしているんだ! 連中を取り逃がすつもりか」
「はあ? 何言ってるんだ? 負けを認めた相手がおとなしく帰るって言ってんだ。邪魔する理由がねえだろ」
「馬鹿者!! 捕えろ!! 捕虜にせんか!!」
「俺は軍人じゃねえからな。ハーミット駐機姿勢を取って下部ハッチを開けてやれ。どうぞ、捕虜にでも何でもすりゃあいい。止めやしねえから勝手にやってくれ」
「なんだと! 貴様ら傭兵団だろうが! 受けた依頼は完遂しろ!!」
「俺たちは、そんな依頼なんか受けちゃいねえ。トクロンさんが、ドルクル王国とオークタラオ王国に同盟を結ぶ交渉に行くっていうから、同行させてもらってるだけさ。ドルクル王国に行く途中でちょっとした行違いから戦闘になったが、今和解したところだ。俺は、この同盟にはあからさまに賛同してるからな」
「なっ、何だ、貴様! 初めから裏切るつもりだったのか!!」
「裏切ったつもりなんかねえな。予定を全部言わなかっただけだ」
「謀ったな!!」
ちょっとだけかな。