ここまでは思い通り
「なんだか揺れが少ないですね」
アシャさんが感心したように言うと。
「ん。足が6本もあるせいなのか? 本当にスムーズに動くのだな」
ガーネットも頷きながら言う。
「びっくりですね。こうしてお茶も落ち着いていただけます」
ノルンはティーカップを傾けている。前にノルンはパペットバトラーでの長距離移動に無理やり付き合わされたから、余計に思うところがあるんだろう。
「ノルンの入れたお茶おいしいですね」
アシャさんの笑顔が眩しい。今、皆が飲んでいるお茶はノルンが入れたものだ。料理をしたこが無いと言っていた彼女だが、嗜みとして紅茶の入れ方は習っていたそうだ。
「パペットバトラーてのは自動で動くんだな。本当に蒼炎たちは付いてきているのか?」
俺に尋ねるラングに対し、後方を映す小型のモニターを指さす。そこには、後ろからついてくる業火たちが映っている。
「見ての通りさ。だいたい、パペットバトラーと呼んじゃあいるが、業火達はゴーレムだぞ、自力で移動できるにきまってる。戦闘するにしても作業をさせるにしても、今はまだラングが操縦するより上手くやるぞ。町の中を歩かせたりしたのはパペットマスターの方が操縦になれるためでもあるんだぜ」
まあ、何をやらせるにしても指示出しは必要になるが。大雑把な指示でも経験から適切な行動を取ってくれるだろう。
「もっとも、町の中を歩かせるのに人が指示を出せない状況はまずいんじゃねえかって思ったのも事実なんだけどな。人に怪我でもさせたら大変だからな。あいつらを解体処分させるような真似はしないさ」
ゴーレムが勝手に人に危害を加えたなんてことになったらそれもあり得るからな。
「なるほど。で、なんでこんなに乗り心地が良いんだ? 自分が未熟なだけかもしれんが、パペットバトラーはこんなに穏やかに進むものではなかっただろ?」
ガーネットの質問に。
「俺がやっても大して変わらないぞ。未熟とか関係なく普通に歩けば揺れるもんだよこいつらは。非効率な歩き方をさせればそれなりにやるだろうけどな。その場合は速度が全然出ない。今は歩いているんじゃなくて、ふくらはぎに仕込んだ車輪で走ってるんだ。駐機姿勢よりも低く構えることで安定して走行する。俺も、これほど静かだとは思わなかったけどな。経験を積んでない割には足の動きでかなりの振動が吸収できるみたいだ」
カップをテーブルに置くと、安定してその場所に留まる。カーブではGが掛かるだろうからカップホルダーは必須だけどな。椅子の肘掛けに取り付けられたカップホルダーに置きなおす。
「はしーるくんと同じと言うわけか? すると、試作2号車と同じような『魔力えんじん』をつんでいるのか? はしーるくんの『風魔術えんじん』では、大きな力は出せないと言っていたものな」
「正解。ガーネットは、はしーるくんに乗るのは好きでも、構造には興味がないと思ってたよ」
「まあそうだな。なんとなく覚えていただけだ」
ガーネットの返事を聞いていると。
「店長、予定地点に到着しました。停止しますね」
おお、スガラトに入ってしばらくたったと思ったが、結構はやいな。
「ああ、アシャさんありがとう。さて、じゃあそろそろ行くか」
そう言ってとべーるくんを手に表に出る。金具を付け。
「じゃあ、俺が先行するからそっちは予定どうり来てくれ」
「はい、気を付けてくださいね」
「店長1人で平気なのか?」
アシャさんとガーネットに言われ。
「スガラトにこのままパペットバトラーで乗り付けるわけにはいかねえだろ。国王はともかく、大臣のサクラントが激怒するだろ? 頭の血管でも切れたら気の毒だからな」
「血管はともかく、気苦労であれ以上禿げさせるのは可哀そうだな」
「ラング何言ってんだ? 国を出てからそれほど経っちゃいねえのに、だれと勘違いしてんだ? あのオッサン禿げてなんかなかっただろ」
「あの大臣はヅラだ。良ーく出来ちゃいるがな。かなり腕の良い職人の手による物らしい」
「職人ね」
サクラントに会う時に気を付けないと頭をガン見しそうだな。
「まあ、会う時には頭を見ないようにするよ。まあ、今回会うのは外務大臣の・・・あれ? あの外務大臣の名前ってなんだっけ?」
「トクロンだな。今回の件は外務大臣の管轄だろうが、一応サクラントにも声はかけたほうがいいだろう」
「そうか? まあ、内務大臣だからな。あのオッサン的には俺に会いたいとは思っちゃいねえだろうがな」
「そうかも知れませんが、それはそれ、これはこれなんじゃないですか? 自分に話が無いことで怒り出すかも知れませんよ」
「アシャさんもそう感じた? そんな感じはしたよな。さて、じゃあ行くわ。向こうで待ってるぜ」
そう言ってその場で飛び上がると、上昇用の魔石とリストバンドにも魔力を流して、とべーるくんのノーズを上向きにし空に飛びあがった。
「お。見えてきた。・・・・・・結構、入待ちの人間が居るんだな」
スガラト王国の王都が見えてきた。南の一番大きな門に接近していく。別に、俺が壊した東門をみたくないから選んだんじゃない。いや、本当に。単に南門が城の正面だから、選んだんだ、あそこに行けば城に話が通り易いんじゃないかと思った訳だ。
「それはともかく。待ちくたびれてるだろうから・・・・・・。よーし! 少ーし、サービスしちゃうぞー!!」
2丁のドラグーンのカートリッジを普段使ってないものに入れ替える。機首をやや下げて、大きく迂回しながら門に向かって突っ込んでいく。高度5mくらいで門の前を通り過ぎる。
『!!!!』
行列を作っている人々の視線を集めたところで機首を持ち上げ急上昇、合わせてドラグーンの引き金を絞るように引く。
『おおーーー!』
雲を引く俺を見た人々から歓声が上がる。そのまま、急上昇から、宙返り。途中でバンクを入れ方向転換し、直進に戻す。再び上昇し、少しづつ速度を落としていく。頂点でカットバックし、速度が完全に死んだところで、落下を始める。緩い錐揉みで背中から地面に向けて落下していく。
『ああーーーー!』
『キャーーーーー!!』
人々から今度は、驚愕の声と悲鳴が上がる。地上まで10mの処で態勢を整え、上昇用の魔石に魔力を流す。地上1mで停止し、そのまま垂直に上昇する。足を大きく振り出して宙返りに入り、4回転した後に、ボード面を下に向け検問している兵士の前に飛び込みながら、上昇用の魔石に一瞬だけ魔力を流し、着地した。とべーるくんの金具を外し、人々に向き直り、胸に右手を当て大きく腰を折り曲げ頭を下げる。その姿勢を数秒取ったあと頭を上げると。
『ウワーーーー!!』
『パチパチパチ・・・・・・』
大きな歓声と拍手が巻き起こる。そちらに向かって両手を振っていると。
「おい! 貴様! 何のつもりだ!!」
背中から声を掛けられ、振り向くと。
「あれー! 指揮官代理殿!」
「え? タケル殿? ってか、指揮官代理殿って何だよ。俺はパックス、守備隊の隊長だ」
「おー、隊長だったのか。出世したのか?」
「馬鹿野郎! 負け戦で当事者が出世するわきゃねえだろうが。大隊長の降格に巻き込まれて一緒に降格だよ。お前があんな事したせいだかんな!」
「あー、悪かったな。違う門から行けばよかったんだろうけどさ。朝日と共に攻撃仕掛けるってなんか良くねえ?」
「知るか! で? 今日は何しに来たんだよ?」
「ああ、外務大臣とかに会いたいんだわ。繋いでもらえるか?」
「それはかまわんが、とりあえずは内務大臣に報告することになるぞ」
「え? あのオッサンには用はねえぞ」
頭に視線が行くのを抑えきれる自信がねえもんな。
「お前さんとの交渉事は、内務大臣が直接担当する事になったんだよ」
「えー。チェンジで!」
「馬鹿言うな。チェンジって、そんなこと出来る訳ねえだろうが! だいたい、VIP待遇だろうが、喜びはしてもチェンジとかありえねえからな」
「だって」
「だいたい、そんな事取り次いだら平の隊員に降格どころか首だ! 家族を路頭に迷わす気か! こちとら嫁も娘もいるんだ。おい! ターナンド伝令だ。急げよ!」
「はい!」
伝令が城に向かって走り出した。
「ここで、少し待っててくれ」
「ああ、仲間がもうすぐ着くからな、どっちにしろ待たせてもらうつもりだったんだ。後からパペットバトラーが4体来るからさどうしたらいい?」
「パペットバトラー? ・・・・・・あの時のゴーレムか? しかも4体だと! 絶対に街の中には入れるなよ。そこに置いとけよ」
「おう、了解した。俺だって無暗に街の人達を怖がらせるつもりは無いんだ」
「で、仲間は何人なんだ?」
「俺を入れて5人だ」
「分かった。馬車を用意させる。詰め所で待っててくれ」
パックスはそう言って門の中に入っていった。
「で? なんで内務大臣様が俺の担当なのかな?」
「なんでとはご挨拶だな。こう見えても国政のナンバーツーだ。VIP待遇だぞ、タケル殿。特別待遇ってやつだ。うれしいだろ?」
「ああ、うれしいねー」
「で、何の用があって訪ねてきたのだ?」
サクラントの頭に行きそうになる視線を抑え込みながら。
「傭兵団を作ったんでね。初めての作戦の為の情報収集に来たんだ」
「なるほど、オークタラオ王国とドルクル王国だな。それで、外務大臣に会いたいと言っていたわけか。トクロンも直ぐ来るが、情報部から担当も呼ぼう」
サクラントが付き人? 秘書官? に指示をだしてからしばらく待つと。外務大臣のトクロンと情報部の人間とやらが一緒にやってきた。俺がオークタラオ王国とドルクル王国の情報が欲しいと言うと、トクロンが。
「オークタラオ王国が新型ゴーレムを多数配備したことかな?」
「ええ、やはり戦争の準備でしょうか?」
「間違いなかろう。なんでも、操作者が乗り込むゴーレムだそうだ。タケル殿のゴーレムの情報を入手したのだろうな。単一つの命令しか実行できない為に側で命令ができる土木工事ならばともかく、戦争においては攻城兵器としか使えなかったゴーレムに、操作者が乗り込むことで強大な戦力と成りえる。やられてみれば、簡単な発想だが盲点というやつだな」
「俺にしてみりゃなんで人が乗らねえんだ? って感じだったんだけどな」
「タケル殿は面白いな。で、何のためにそんな物を作ったかといえば、隣のドルクル王国に攻め入るためだ」
その辺は、情報屋で仕入れた情報と同じか。
「やっぱり、穀倉地帯を奪うためか。前々から狙ってたみたいだし。新型を手に入れて野望が再燃って事か。分かり易いな」
「狙いはそこだが、理由は理解できるものだぞ。無茶な要求にも何とか対応し、穀物の価格についても相場より多少高いくらいは我慢するなど、オークタラオ王国は先代国王の治世からドルクル王国との友好関係の構築に最新の注意を払って来た。自国の食糧事情の為にはドルクル王国からの輸入に頼らざるを得ないことをよく分かっているのだ」
「だったらなんで?」
「今年に限っては、ドルクル王国からの要求が度を越していたのだ。例年以上に自国の備蓄をする為に売り渋るだけでなく、価格を異常に吊り上げ、自国を通って輸入される小麦の通行税を法外なものとし。見返りに鉱山の採掘権を求めたのだ」
「それって、酷くねえか」
「そうだな、相手の困窮に付け込んで、唯一と言っていい外貨獲得の手段を要求するなど恥知らずな行為だと言わざるを得ない。とは言え、ドルクル王国の事をどうこう言えないがな。なんと言っても我が国はアースデリア王国に対しもっと直接的な行動に出たのだからな」
「スガラトのことはこの際置いておくとして。来年も不作が続いたらオークタラオ王国はどうしたらいいんだい? 国土以外に手放すものがあるのかい?」
「無いな。オークタラオ王国もそう考えたのだろう。そこに発生したのがナイトメアオブガーゼルと言う訳だな。国力が残っているうちに手を打とうと言うのだろう」
え? 俺か? 俺のせいなのか?
「タケルのせいだな」
「うん、店長のせいだな」
「まあ、店長のせいとも言えますが、店長がやったことを見てどうするかは、受け取り側の話ですから。店長が気にすることではありませんね」
「わたしもそう思います」
ラングとガーネットが酷いことを言ったが、アシャさんとノルンのフォローのおかげでいくらか気が楽になる。
「タケル殿が気に病む事ではないな。タケル殿がやったことを参考にするとは言え、やった事の責任は自ら取らねばならないのだから。現にこうしてタケル殿達を招き寄せる結果になった訳だしな」
さて、単にオークタラオ王国のゴーレムを倒してマニューバースのデビュー戦にすれば事が終わると言う訳にはいかねえかー。一捻り必要か? 何か考えるか。
「どうする? 派手にゴーレムを叩き潰せばタケル殿の傭兵団の事も、目的も知れ渡る事になる。絶好の機会だな」
サクラントは言う。
「ドルクル王国の行動の原因もやっぱりヤマト帝国の侵攻を見越してのものだよな」
とりあえず、サクラントは無視して情報部の人間に尋ねる。
「はい、ドルクル王国は多少の無理は押し通してもここまでの事はしてこなかったのです。ここまで急な政策の転換の原因として考えられるのはヤマト帝国でしょう。軍の増強に軍事行動に備えた食糧備蓄。元々は、アースデリア王国への侵攻に失敗し5000人の兵士と40体ものゴーレムを失った我が国に対する侵攻のための準備とも取れます。しかし、今は、オークタラオ王国国境付近に有るフルロン砦に兵を移動させている。無理難題を押し付け、応じれば鉱山の採掘権が、戦争になれば国ごと飲み込むつもりなのでしょう。オークタラオ王国を一気に押しつぶした後に、ヤマト帝国に備えるのか、それとも我が国も飲み込むつもりなのか」
「逆侵攻を狙ってるって訳か」
ラングが呟く。
「ドルクル王国には、勇者が居るってことか。オークタラオ王国には勇者は?」
「居なかったはずだな」
すると、他国から非難される事なく、勇者を使って確実に国を落とせるって訳か。
「はい、3人いる勇者をすべてフルロン砦に送り込んでいますね」
「何と言うか」
ノルンが言う。
「せこいな」
ガーネットが言う。
「せこいですね」
アシャさんまで言うか。
「為政者に言わせれば、戦略と言うんだろうが」
「あからさま過ぎて、作戦とも言えねえな」
ラングの発言を俺が引き取る。そうだ!
「トクロン様、部下の中からどなたか1人お借りしたいんですが」
「外交官ですかな?」
「いえ、同盟を結ぶ権限の委任が受けられる人が欲しいです。ドルクル王国とオークタラオ王国の両国と友好同盟を結んでもらいたい。まずは、国王陛下にお伺いを立ててからになるんだろうが」
スガラト王国の3人は驚いて目を見開く。
「何を考えておるのだ? 情報通りなら、開戦間近だぞ。どちらか一方というならともかく両方というのではお互い納得がいくまいよ」
「店長、トクロン殿の仰るとおり、今はそんな事ができる状況とも思えないぞ」
ガーネットの発言に俺以外の人間が頷く。
「なんだ、みんなその意見か。そりゃあ今は無理だろうさ。お互い自分の方が相手より有利だと思って事を進めてるんだ。ところで、スガラト王国とアースデリア王国の友好同盟ってのはどんな内容なのかな?」
サクラントに聞く。
「大まかには、パペットバトラーの技術供与、同盟国のいずれかが侵略を受けた時には、できる限りの支援。災害時の救援。食料不足時の救援などが主になる。そして、ヤマト帝国の侵攻に対する備えだな。この条件で周辺諸国に呼びかけを行っているところだが、なかなか良い返事がもらえないと言ったところだ。我が国がタケル殿に敗れアースデリア王国と同盟関係になったことで、いろいろと疑念を持たれているのだろう。もちろん両国からもよい返事はもらえていない。タケル殿の傭兵団の力が知れ渡れば状況は大きく変わるだろうが」
「俺が陰で糸を引いてるってか・・・・・・。そう考えるのももっともだけど、めんどくせえ」
「で、そのめんどくさい状況で何をしようというのだ」
「まあ、オークタラオ王国のゴーレムの強さによって状況が変わるが、戦争状態のどさくさに紛れて両方が同盟を結ばなきゃならないようにしてしまえばいい」
「タケル殿には何か策があるという事か」
「策と言えるほどのものではないし、上手くいくとも限らない。一つ予定が狂えば瓦解するような策しかない。ただ、パペットバトラーとまではいかなくても、操作者が乗り込んだゴーレムはかなり強いはずだ。オークタラオ王国がフルロン砦を落としてくれれば」
サクラントはいぶかしげに。
「タケル殿は、戦争を無くすために傭兵団を作ると言っていた。なのに、今度は戦争を歓迎するような言動に思える。あの時の話は、我々をだましたのか?」
「だましたつもりは無いが、言葉が足りなかったか? 最終的には俺の手の届く範囲から戦争を無くすのを目標に傭兵団を作ろうとしていたけど、あの段階では夢想と言われても仕方がなかったし、現に戦争を止める力なんか無かった。だが、マニューバースを作った今は、住民が巻き込まれ、犠牲になる戦争くらいなら止められそうだ。が、兵士の殺し合いまで止められる程かどうかわからない」
「詭弁だな。たった1機で5000の軍を消滅させたパペットバトラーが4機、タケル殿にその気があればドルクル王国に侵攻する前にゴーレムを殲滅させることもできるだろう。なのに、戦争になるのを待つと言うのだな。戦争に巻き込まれる人々を無くしたいのではないのか?」
「そうさ。ただし、兵隊は別だ。金をもらって人を殺し財産を奪おうって連中だ。そいつらの事までどうにかしようと思ったら、オークタラオ王国は地図から消える。まあ、それが国民にとって不幸かどうかは別の話になるけどな」
「兵士は仕方がないとはいえ、その兵士にも家族が、親、妻、子供がおるのだぞ、その家族が不幸になるのは構わないと?」
さらに言うサクラント。下手な言い訳は通じないと言ったところか。
「親を選べない子供は気の毒だと思うが、それ以外は、自分でどうにかする手段があったはずだ。家族に兵士をやらせている時点で俺は気にするつもりは無い」
サクラントは、俺を少しにらんだ後に。
「良い覚悟だな。トクロン殿、同盟を調印できる者を選んでくれ」
「3国、いや、アースデリア王国に了解を得て4国間の同盟を結ぶことになるのだ。私が行こう」
その後、細々とした打ち合わせをし、外務大臣と数名の部下をハーミットに乗せ、スガラトの王都を出発した。
ドルクル王国の王都に宿を取り、トクロンは王国との話し合いの準備に入る。
「じゃあ、打ち合わせ通り。明後日から打ち合わせに入ってくれ」
「うむ。オークタラオ王国の侵攻は早ければ3日、遅くとも5日のうちには行われるだろう。フルロン砦が抜かれるのに、どれほどの日数がかかりますかな?」
「早ければ早いほどインパクトがある。そのほうが、良いんだが、3日もかかるようなら俺達の出番は無いだろう。この国の軍でどうにかするだろうさ」
オークタラオ王国のゴーレムの力次第ってことだ。まあ、あんまり強いと業火達で追い返せないかもしれないが。
「俺は偵察に行ってくる。同盟の件よろしく頼みます」
「まあ、そちらは何とかする。タケル殿こそ、偵察とは言え戦地に行くのだ、くれぐれも気を付けてくれ」
「ああ」
トクロンの部屋を退出し、アシャさん達と別れ、俺はとべーるくんで王都を後にした。
「へー、あれがオークタラオ王国の新型ゴーレムか。さすが外務大臣状況判断が適格だ」
双眼鏡タイプのみえーるくんを覗き込みながらつぶやく。国境を越え、オークタラオ王国の領土に少し入ったところにキャンプを張り3日たったところでゴーレムの進軍をとらえた。全高は10mを超えるが業火をそれ程上回ってはいないようだ。しかし、足は太く短めではあるが大地を力強く踏みしめ、巨大なメイスを携える手は大きく腕は太く長い、反対の腕にはカイトシールドを装備している。逆三角形の体の上に頭は無く。代わりに、ヘリコプターのキャノピーの様に視界の良い形のコクピットが付いている。
「誰のデザインだろうな。なかなか、合理的なデザインじゃねえか」
ゴーレムのデザインは基本的には人型をしている。ハーミットのデザインを聞いたガンドロクの反応を見ても、当たり前の事なんだろう。それなのに頭を廃して、見晴らしの良いコクピットを付けるなんて、なかなか出ない発想だろう。面白いやつがいるな。そのうち会うこともあるかな?
「とは言え、美しくはないわな」
キャンプを撤収するか。とりあえずドルクル王国に戻ろう。あのゴーレムの戦闘力を少しは見ておきたい気もするが、砦がすぐに陥落すればタイミングを逸するかもしれないからな。
「人間相手の戦闘を見ても大して役にはたたないだろうしな」
荷物をまとめて、ドルクル王国にとべーるくんで向かう。
「貴殿が、あのガーゼルの英雄タケルか」
「はい、タケルです。よろしくお願いいたします」
ドルクル王国王城の謁見の間で国王のマースクラン3世と謁見中だ。
「若いな。しかし1人でスガラト王国5000の軍勢を退け。更に、アースデリア王国とスガラト王国の友好同盟を結ばせるなどトクロン殿の話を直に聞いてもいまだ信じがたい話だ」
「それも、これも、パペットバトラー有っての事でございます」
俺が答えると。
「そう、それだ。パペットバトラーとはそれ程強い物なのか? オークタラオ王国の新型ゴーレムにも勝てるのか?」
「普通のゴーレムなどは相手になりませんが、さて、新型ゴーレムとはどんな物なのでしょう? やってみなければわかりません」
「自信が有るようじゃな。分からんなどという顔ではないぞ。同盟を結ぶことで、そのパペットバトラーの技術供与を受けられると聞いたが?」
揶揄するように俺に言った後、トクロンに尋ねる。
「はい、我が国の鍛冶師もアースデリア王国において研修を受け始めたところです。そう遠くないうちに量産できる見込みです」
「そのパペットバトラーの力、いかほどの物か。是非見てみたい物だな」
俺を試すように横目で見ながらトクロンに言う。
「今回は、冒険者としての依頼を受けた訳じゃないんです。ちょっと、こっちに来る用事があってトクロン様に同道させていただいただけでして。パペットバトラーを持っては来ましたが、使う予定は無いんです」
俺が言うと、トクロンが。
「タケル殿は、我が国とアースデリア王国との友好同盟を結ぶにあたり、キーマンとなった方ですからね。今回、こちらの方面に御用がおありとのことでしたので、こちらにお話を持って来るにあたりご一緒いただこうと思いましてね。依頼によってここにいる訳ではないのですよ。私はお願いを聞いていただいた立場でして。パペットバトラーで何かせよなどと命じることができる立場ではありません」
「そうか。残念だが、そう言う事ならあきらめよう」
マースクラン3世がそう言うと。トクロンはすかさず。
「さて、ご要望どうりタケル殿をお引き合わせいたしました。先日よりご相談しております、同盟の件、お返事いただけますでしょうか?」
なるほど、俺みたいなヤツが王城に呼ばれたのは王様が望んだからか。マースクラン3世は少し考える様子を見せた後。
「トクロン殿、こちらは今少しゴタゴタしておってな。もうしばらく時間をもらいたい。なに、それほど待たせはせんよ。数日で片が付く話だ」
へー、確かに戦力差を考えれば数日かもな。でも、兵士の人数で戦争の勝敗が決定する訳でもあるまい。多分、ゴーレムの事を使えない兵器の代表とか思ってるんだろうな。新型ゴーレムの戦力を高く見積もっているのなら、俺を使うために、同盟に参加するだろう。それをしないってことは、オークタラオ王国に逆侵攻を仕掛け、併合したうえで、その威勢をもって有利な条件で同盟に参加しようとでも考えてるのか?
「では、本日はお暇させていただきましょう。城下に逗留いたしますので、良いお返事をお待ちしております」
「予想した最短時間でしたね。3日でトクロン様を呼び出すとは」
ノルンが言う。
「そうだな、あの砦からだと早馬を飛ばして2日ってところだ。1日で落ちたって事だろ。やるよなー。オークタラオ王国の新型ゴーレム」
「やるよなーじゃねえよ」
ラングが言う。
「本当ですよ。私たちのゴーレムは4機です。本当に勝てるんですか?」
アシャさんの言葉に。
「やってみなきゃわかんねえ」
「勝つだけでよいと言う訳ではない。圧倒的な強さを見せつけねば、次の同盟国が続かないであろう」
まあ、ガーネットの言う通りなんだけど。
「相手がいることだからな。こっちの思い通りになるとは限らねえよ。現に、ドルクル王国の今回の企みは見事に失敗だろ? いい見本だ」
『コンコン』
「トクロン様からの使いです」
城からの呼び出しか。
「さて、よく来た。早速だが、パペットバトラーの力見せてみよ。奴ら卑怯にも奇襲にてフルロン砦を落としよった。取り返して見せよ」
宰相のアングルスが俺に命じる。トクロン経由で王城の会議室に呼び出されたところだ。俺の横にはトクロンも一緒に座っている。
「えーと、言っている意味が分かりませんね。俺は、この国の家臣じゃねえんだが」
「傭兵団を率いておるのだろうが。雇ってやろうと言っておるのだ。成功報酬として、1000万イェン出そう。報酬としては十分であろう」
「マニュバースは金に困っちゃいねえんだ」
俺の言い方が気に入らないのだろう、顔をゆがめると。
「トクロン殿。オークタラオ王国を追い返したならば、友好同盟加入してもよいと陛下が仰っておられる」
「アングルス殿。タケル殿は我々の同盟に深く関わっておられます。しかし、配下な訳ではないのです。対等な関係なのです。依頼を出せば手伝ってもくれましょうし、同盟国の為なら依頼すら必要ないかもしれません。ただし、それはあくまでもタケル殿の自由意志によるものです。加入させたければ戦争に加われなどと命令できる関係ではないのですよ」
『バン!』
その時会議室のドアが開き、マースクラン3世が会議室に入ってきながら。
「では、強制依頼を出す! そやつは冒険者なのだ。戦争参加の強制依頼だ」
俺は。
「俺は、冒険者ギルドから戦争の強制依頼は免除されています。ガーゼルに拠点が有る間はと言う条件ではありますが、俺はまだこの国でギルドの依頼を受けていない。免除は有効です」
拠点とする街以外のギルドで続けて3回依頼を受けると拠点を移したことになる。つまり、護衛依頼を受けて行った先の街で、旅費稼ぎの為の依頼を1回、そして帰りの護衛依頼を受けることまでなら拠点を移した事にはならない。3回目の依頼を受けたところで拠点を移した事になる。マースクラン3世はムッとした顔で。
「では、徴兵するとしよう。兵役の報酬は手柄を立てられれば高額になるぞ。オークタラオ王国に領土を与えることも考えよう。大した働きができなければ、強制依頼の報酬の方が高いであろうが、自慢のパペットバトラーだ。稼ぎが大きいほうが良いという事だろう?」
と言う。アングルスが続いて。
「なるほど、領土か。平民には、ちと、過ぎた願いではないか?」
「お言葉ですが、タケル殿はドレイクバスターです。他国の子爵扱いですから、徴兵はできません」
「「・・・・・・」」
言葉を無くす2人に。トクロンは続けて。
「先日出した条件にて同盟に加わるとして、まずは我が国と調印していただければ、アースデリア王国との調印を待たずとも同盟国となりましょう。そうなれば、同盟国の危機に手を貸すことを厭いはしないでしょう。ただし、命令でも依頼でもなく自由な意志でと言う事ですが」
と言って俺の方を見る。2人も俺に目を向ける。そんな目で見られましても・・・。
「オークタラオ王国の新型ゴーレムの数は?」
アングルスが。
「50機程との報告を受けておる。1万の兵と3人の勇者が守る砦を落とすのに1日しか掛けず、1万の兵は壊滅、3人の勇者は2人が死亡、残る1人は再起不能となった。ゴーレムは1機も欠けることなく、フルロン砦への兵の到着を待って進撃して来るだろう。もうすでに、移動は始まっているだろう」
「1機のパペットバトラーで5000人の兵と2人の勇者を1刻で殲滅した俺と戦ったらどうなるんだろうな」
マースクラン3世は。
「同盟に加入させていただこう。調印の準備を」
「はっ」
返事をして、アングルスが席を立つ。
「して、タケル殿。マニューバースの戦力は如何程だ」
「団員5名、パペットバトラーは4機です」
マースクラン3世の問いに答えると。
「10倍余りの数だな勝てるのか?」
「心配ですか? 相手のゴーレムの武器はメイス、翻って俺達のパペットバトラーは剣で武装しています」
「メイスの方が破壊力があるな」
「そういう見方もできますが、パペットバトラーの方が器用に道具を扱うという見方もできます。振り回すだけで武器になるような道具しか使えないようなゴーレムと比べてもらっては困ります」
「行ってくれるのか?」
「ただし、そちらの軍に編入はされません。パペットバトラーの移動速度は馬の数倍になります。足並みが揃いません。どこまでやるかについても、指図は受けません。よろしいか?」
「うむ、承知した。オークタラオ王国の事、よろしく頼む」
「はい」
さーて、ここまでは思い通りに進んだな。