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出撃と言ったら

『コツ・コツ・コツ・・・・・』

倉庫街に俺達が歩く音が小さく響く。

「・・・・・・ここだな」

ガーゼルの街北に在る倉庫街をアインと2人で歩き、とある古ぼけた倉庫にやって来た。時間はそろそろ深夜と呼ばれる頃合いだ。預かっていた鍵をポケットから取り出し、倉庫の端に有る通用口の鍵穴に差し込んで。

『カチャ』

さほど大きな音でも無いが、静まり返った倉庫街だとそれなりに響くな。ドアをくぐった先は複数のランプで不足なく照らされている。表に光が漏れていなかったことから、見た目に反して倉庫はしっかりした作りなのだろう。

「待たせてしまったな」

そう言いながら、壮年の男が1人座っている作業用のテーブルに向かい、正面に座る。

「いや、まだ時間前だ」

低く落ち付いた声で男が答える。男の後ろには大柄な男が護衛として1人立っている。

「早速だが、物を見てもらおう」

軽くうなずき、俺の後ろで大型のトランクを下げたアインに軽く手を上げて合図する。アインはテーブルの上にトランクを置き蓋を開ける。一度俺に見せるような仕草の後、クルリと男の方に反し押し出す。男はトランクの中に入った小箱を1つ手に取り、蓋を開け中にチラリと目を向け、片手を上げて護衛の男に合図をする。

『トン』

護衛の男は無言で俺の目の前に袋を置く。袋の中には金貨が。

『ジャラッ』

机の上に広げる。目の前に金貨が小さな山になる。

『ジャッ』

山から金貨を一掴みして、10枚づつ重ねる。信用できる相手だが、こういう所で金にルーズだと思われるのは得策ではない。俺が金貨を数え始めたタイミングで、向かいに座る男が全ての箱の中身を改めて確認し始めた。途中で『ホウ』とか『フム』とか感心するような声を発している。さほど時間をかけずに金貨は数え終わった。

「確かに」

金貨は160枚、1600万イェンだ。男の方は、3分の2ほど見終わっている。俺はおとなしく待つことにする。その間倉庫の中を観察する。馬車が数台に大量の木箱に樽かなり大きな倉庫だ。そうこうしているうちに男も確認が終わったようで、トランクに小箱を戻しながら。

「あんたの物は相変わらず上物だ」

二コリともせずに、渋い声で言う。

「そう言ってくれると嬉しいね」

「「ふふふふふふ」」

2人の悪そうな笑いが重なる。そこに護衛の男から呆れたような声が掛かる。

「会頭。何時までこんな下手くそな芝居を続けるんですか? 遊んでる場合じゃないでしょう」

「ほ? そんなに、下手だったか? 非合法な品を取引してる悪徳商人の雰囲気が良く出てたよな? タケル殿?」

「はい、アスト会頭の演技はなかなかのものでしたよ。スナフは採点が辛すぎるんだよ」

「別に採点した訳じゃねえ。ルオウ商会の会頭としてどうかと言ってるんです。それなりに大きな取引なのですから、もう少し緊張感を持った方が良いと言っているんです」

会頭と2人で非合法な物の取引をしているような雰囲気ではあったものの、実際には俺が作ったアクセサリーの引き渡しをしていたところだ。深夜の取引となったのは、盗賊の襲撃を避ける為に極秘裏に運搬する必要から情報を伏せる為だ。俺が直にホグラン国まで運べばもっと高く買い取ってもらえるだろうが、いかんせん、人出が足りない。で、せっかく深夜にこんなところで取引をするんだから、少し遊ぼうと鍵を預かる時にアストから提案が有った訳だ。大陸で5本の指に入る大手商会の会頭だと言うのに、茶目っけがある人だ。付き合う俺も俺だが、楽しかった。

「しかし、タケル殿のデザインは今までに無く斬新だと各国の社交界で話題になっている」

「まあ、いずれ真似されるでしょう」

「それはそうだろうが、アドバンテージはタケル殿に有る」

俺が作るアクセサリーは向こうの世界のアニメなんかのデザインを参考にしているため、こちらの物とは一線を画している。アストの斬新だとの感想はそのせいだろう。

「さて、ずいぶんと高値で買ってもらえたので、アフターフォローをしましょう」

「スナフ達護衛が居る。取引内容も秘匿されている。安全だよ」

「俺達だけじゃ不安だって事か?」

スナフがムッとした声で言う。

「そうとは言わない。でも、俺としちゃもっと安全性を上げたい」

そう言って一呼吸置いてから。

「アインを同行させてくれ」

「え!」

スナフが驚く。

「アインさんとは?」

そう尋ねるアストに。指でアインを指しながら。

「俺の相棒。戦闘力はBクラスの魔物を軽く凌駕する。フェンリル程度なら瞬殺できるんですよ」

「フェンリル程度って。お前だけじゃないって事か?」

「アタリマエダヨ。デナキャますたーノ相棒ハ務マラナイヨ」

「ゴーレムが喋った?」

「ウチのゴーレムは全員喋るんですよ。まあ全てのAクラスを倒せるって訳じゃないですけどね。フェンリルとはかなり相性が良いんでね」

「相性が良いだけで倒せる魔物じゃねえんだがな」

「俺が倒すところ見たろ。アインは同じ事ができる」

「そんな凄いゴーレムを護衛に? スナフ達に楽をさせてしまうな」

「おー、いいね。たまにはそう言うのも悪くない」

「では?」

「ああ、よろしくお願いする」

アストと握手を交わしアインを残して倉庫を後にした。




「じゃーーーーーん!」

そう言いながら両腕を広げて皆に振り返った。

「「「「「「・・・・・・・」」」」」」

皆の反応が鈍い? いや、鈍いどころか、反応ない? そこで、俺はさらに両腕を伸ばし。

「じゃっ・・・じゃーーーーーーーーーーーん!!」

「「「「「「・・・・・・・」」」」」」

俺はさらに、背伸びをして。

「じっ・・・じゃっ・・・「「「「「「しつこい」」」」」」え?」

俺はさらに。

「何か言う事はないかな?」

ケーナが。

「何かって?」

と言えば。

「すごーい。とか言って欲しかったんでしょう?」

と、アシャさん。

「ウワー。スゴイネ」

ケーナが棒読みするように言う。

「しかし、デカいな」

ラングが言うと。

「・・・変った形ですね」

ノルンが遠慮がちに言う。

「なんだか乗りが悪いな。新型のパペットバトラーだよ。アシャさんとノルンに任せようと思ってる」

「「え? 私達に? これを?」」

俺達の目の前には、タラバガニを少し細長の流線形にしたようなボディーに6本足で2本の腕を持ち背中にADRを1本背負い後部にコンテナを2個横に並べて付けているパペットバトラーが立っている。さすがに赤やオレンジ色にするのはやり過ぎだと思ったから、色はメタリックブラックにした。強そうだと思うんだけどな。

「ああ、2人には業火達の操縦はまだ難しいだろ? だから、こいつを任せようと思ってさ。カッコいいだろ?」

「カッコイイ・・・・」

「・・・・ですか」

「なんだよ。カッコイイじゃないか。2人とも乗りが悪いな。こいつは2人乗りなのに」

「2人乗りって」

「操縦者と砲手兼車長の2人でこいつを操るんだ」

「なんだか、ヤドカニみたいだね」

ケーナが言う。

「ケーナ、ヤドカニじゃ無いヤドカリだ」

「えー。タケル兄ちゃん間違ってるよ。ヤ・ド・カ・ニだよ」

「いやいや、ケーナが間違ってる。なあみんな?」

「いや、ケーナが正しいヤドカニだ」

ガーネットが言うと、ラングが頷く。ノルンは。

「あたしは、ヤドカリだと思います」

アシャさんは頷く。これで、3対3だ。皆がシグを振り返る。

「おっ俺は、食い物が無い時にはあれも食ってた。ヤドカニだ」

「多数決でヤドカニに決まりだね。タケル兄ちゃん残念でした」

ケーナが自慢げに宣言する。

「いや、俺達が決めるんじゃないだろ。事実は1つだ調べれば分かる」

「もう決まったんだから良いじゃないか。諦めなよ」

「いいかケーナ、そう言うのを数の暴力って言うんだ。お前には多数意見が必ずしも正しくないって事を思い知らせてやろう」

そんなどうでもいい事を言い合っていると、ラングが。

「おいタケル。そっちのアルハーンはもらってきたのか?」

多脚パペットバトラーの隣に立っているのは。アルハーンそっくりの青いパペットバトラーだ。。

「アルハーンのフレームをベースにオリハルコンで作り直した。コイツは業火のフレームに比べて10%ほど軽い。業火のフレームも軽量化はしてるけど、1からやり直した方が効率が良かった。これから作るパペットバトラーのフレームはこれで行く。アルハーンの宣伝を兼ねて装甲は同形状にしてみた。おかげで、重量は業火と同じくらいになったが、バランスもそれ程違わないから操縦性もあまり変わらないはずだ」

「メインパペットマスターは? 俺? 俺だろ? 俺だよな? な?」

烈火は業火と同型で女性型だからな、男性型と言うよりフルプレートメイルっぽいアルハーンの方がラングの好みに合うのかもな。

「ああ、お前が使え。烈火はガーネットがメインパペットマスターだ」

「了解だ」

ガーネットが嬉しそうに答える。

「やっぱり専用機が良いだろ。ゴーレム核は学習するからなパートナーは固定の方が効率が良いだろう」

「タケル兄ちゃん。あたし達のパペットバトラーは?」

ケーナだけじゃなく、アプリコットもシグも期待のこもった視線を俺に送ってくる。

「まだ早い」

「「「えーーー」」」

3人の声が揃う。

「えーーって何だよ。当り前だろうが。パペットバトラーは魔物を討伐するために作ったもんだけど。人殺しも出来る。これからはそっちの使い道の方が増えるだろう。そう言う事は大人になってからでいい」

「でも、魔物の討伐に使えるだろう」

シグが言うと。ケーナが頷く。

「GランクとFランクの冒険者がどんな魔物を討伐するってんだ。この辺の魔物を討伐するならAMRで十分だ。パペットバトラーなんかいらねえだろうが」

「うーーー」

ケーナが唸るが、いまのところこいつらに人を殺させるつもりは無い。

「なあ店長、彼らを起こしてやったらどうだ?」

「ああ、そうだな」

まず、多脚パペットバトラーからだ。

「我が僕よ使役される者よ! いでよ! ゴーレム!!」

これで、ゴーレム核は稼働を始めた。続けて。

「お前の名前は、ハーミットだ。よろしくな」

「はい、マスターよろしくお願いします」

「礼儀正しいゴーレムだな。それより、魔結晶は繋いでいないのに喋れるんだな」

ガーネットが言う。

「ゴーレム核の方に仕込んだからな」

「今までのパペットバトラーとは名前の感じが違うんだね」

ケーナが言う。

「ああ、ハーミットクラブタイプの1号機だからな、そのままでも良かったんだがちょいと長すぎるだろ? 意味が変わっちまうが、ハーミットって隠者の事だからな後方支援用のパペットバトラーになるから、それほどおかしな名前でも無いだろう」

「ハーミットクラブってどう言う意味さ?」

「ヤドカリ。まあ、見たまんまだな」

「さっき、ヤドカニって決まったじゃないか」

「多数決で決まるわけねえだろう。さて、次だ」

アルハーンベースのパペットバトラーの前に移動し。

「我が僕よ使役される者よ! いでよ! ゴーレム!!」

続けて。

「お前の名前は、蒼炎だ。よろしく頼む」

コイツは反応しない。ゴーレム核は業火と全く同じだからな。

「今度のは火じゃなくて炎なんだな」

ラングが言う。

「業火達のフレームは火タイプと呼ぶ。で、名前に火を入れる。蒼炎は炎タイプのフレームってことさ」

「なるほど」

その時。

『コンコン』

倉庫の扉がノックされた。入ってきたのはオルストロークだった。

「タケル殿・・・・・」

そう言ってパペットバトラー達を見上げ言葉を失って固まってしまった。この人は本当にゴーレムが好きなんだな。

「えーと、オルストロークさん?」

俺が声を掛けると、急に動きだし。

「あっ。そうだ、タケル殿。オリハルコンゴーレムです。正確に言うと。オリハルコンで覆われたスチールゴーレムが大量に作られたとの情報が入って来たのです」

「大量って?」

「ああ、50体程です。しかもそいつは命令者が乗り込むタイプです」

「え? パペットバトラー?」

「パペットバトラーの定義を知りませんから何とも言えませんが。人が乗り込み言葉で命令する訳です。命令を随時出せるのですから、画期的なゴーレムであることに間違いは無いですね。私達もその線で研究を進めていたところですから」

操者が安全なところで常にゴーレムに命令出来る、か。パペットバトラーの活躍を知ったヤツが概要だけ調べて作ったのか。

「どこが作ったんですか? もう使われたんですか?」

「オークタラオ王国です。まだ、ロールアウトしただけで、これから軍を編成してドルクル王国に戦争を仕掛けるんでしょう」

「オルストロークさん。相手がどこかなんてわかるんですか?」

「オークタラオ王国は、アースデリアと似たような国なんです。3方を高い山に囲まれ、鉱物資源が豊富です。隣接する国はドルクル王国のみ。ね? 似てるでしょ」

「そうですね」

「ただし、平地が狭いので、食料に関しては輸入に頼らないと少し厳しいと言ったところが違いますかね。ドルクル王国は肥沃な穀倉地帯を持っている農業立国なので、お互いに足りない部分を補完し合う関係だった。と言えますね」

「だった? オークタラオ王国が、穀倉地帯を切り取る為に?」

「さてどうでしょう? スガラト王国を挟んで反対にある国ですから、詳しい情報は持っていません。命令者が乗り込むゴーレムの情報が入って来たので急いで来たんですよ」

「ありがとうございます。しかし、ゴーレムに乗り込む事の有用性に気付いたと言う事なら、俺のせいで戦争が起きてしまうって事ですか・・・・・・」

なかなか、思い通りにはいかないもんだな。いや、俺達がデビューする最高の舞台になるかも知れないと考えるか? 

「タケル殿のパペットバトラーの活躍のせいで今までの関係を見直す気になった可能性はありますが、それは、遅かれ早かれ何かの切っ掛けで起り得たことでしょう。どちらかと言えばヤマト帝国の影響のほうが大きいのでは?」

「とにかく、戦争は止めたいですね。情報ありがとうございました」

「いえいえ、ゴーレムは魔物を倒す為にこそ使うべきだと思っていますからな。ゴーレムの性能を上げると言う事は戦争の道具になる事も考慮すべきなのですね。気に入りません。仕方の無い事なのでしょうか」


オルストロークが帰ったところで。

「さて、今聞いたとおり、ご近所で戦争が勃発しようとしている。こいつに介入して俺達の傭兵団のデビューを飾る。俺達の目の届く範囲で戦争なんて言うふざけた事を始めるヤツがどうなるか。力尽くで示す」

そう皆に向かって言う。皆は黙って頷く。続けて。

「準備が整い次第、出撃する。ラングとノルンで情報屋を当たってくれ、両国の関係、戦争を決意するきっかけ、両国の思惑。アースデリアの情報屋がどこまで情報を収集しているか分からねえが、無ければ無いで調べる方法は有るから依頼までしなくて良い。手持ちの情報だけ買って来てくれ。金に糸目はつけなくて良い」

そう言って、例の情報屋の場所を書いた地図を渡す。

「分かった」

ラングが言い、ノルンが頷く。

「アシャさんとガーネットは食料を買って来てくれ。保存食を頼む。途中の街で宿泊や食事は出来るだろうからな」

「はい」

「ああ」

2人が返事をする。

「俺は、ハーミットの動作テストと運動パターンの登録をしてくる。さて、行動開始だ」

俺がそう言うと。

「あたし達は?」

「何をすりゃいいんだ?」

ケーナとシグが言う。アプリコットも何かを待つ顔だ。

「今度の事は傭兵団がやる事だからな、ケーナ達を巻き込む訳にはいかない」

そう言う。

「「「え!?」」」

3人は驚いた顔をして。

「なんでさ! あたしだって傭兵団に入るよ!」

「オレだって!」

「あたしもお手伝いします」

まあ、こいつらならそう言うだろうな。

「傭兵団は冒険者パーティとは違う。今回の事もそうだが、国を相手に喧嘩を売るんだ。下手すりゃお尋ね者だ。そんなバカな事に成人していないお前らが付き合う必要は無い」

他から見たら同じかも知れないが、形的にはファミーユと傭兵団は別物と言う事にしておきたい。積極的に人も殺す事になるだろう。そんな事に子供を巻き込めるか。傭兵団の事には全く係わらせないと言う事で、関係者では無いと思っていたい。

「俺は、お前達に人殺しをさせたくない。その手伝いもだ」

シグとアプリコットは神妙な顔で俯いた。ケーナは。

「じゃあ、成人したら入れてくれるの?」

「そうだな。成人になった時に、まだ団員の募集を掛けてたらな。お前ら3人なら面接は必要ない」

「だったら、それまでに傭兵団の名前決めておいてね」

あ、そうか。

「確かに名前が無いと不便だよな」

「タケル兄ちゃんのネーミングセンスはチョットあれだから。他の人に頼んだ方がいいんじゃないかな?」

ケーナが失礼な事を言う。

「ゴーレムの名前以外は、壊滅的ですしね店長は」

「ちょっと失礼じゃね? だったら、そう言うアシャさんが決めてくれてもいいぜ」

「わたしは自信が有りません。他の人に聞いてください」

「自分も自信は無いな」

「私もです」

ガーネットとノルンもだ。

「俺も自信は無いな。だいたいそう言うのはリーダーのタケルが決めるべきだろ。よほど酷いネーミングでなければ文句を言うつもりは無い」

ラングが言う。酷ければ文句を言う訳ね。ケーナにシグそしてアプリコットも期待のこもった目で俺を見る。

「機動・・・これは入れたいような気がする・・・。機動騎士・・・、モビルナイト・・・ロボの総称のようなネーミングだな。機動隊・・・何か違う。戦闘機動・・・隊とか付けたほうが・・・」

考えながら呟く。うん、これで良いか?

「マニューバース。・・・・でどうだろう?」

「マニューバースですか。語感は悪くないですね。どう言う意味なんですか?」

ノルンに尋ねられる。

「ああ、俺が前に居たところで戦闘する機械が格闘戦をする時の技の総称だな。戦闘機動の事をマニューバーって言うんだ。ロボで戦闘する者達って感じをイメージしてみた」

「いいんじゃないか」

「なんか、カッコイイです」

「マニューバース、いいですね」

ガーネット、アプリコットにアシャさん。他の皆にも概ね好評なようだ。

「さて、マニューバース最初の行動の準備にかかろうか」

「「はい」」

「「おう」」

アシャさん達は、それぞれ用事を済ますために店を出て行く。俺はハーミットに乗り込んで街の外をめざした。

「あれは?」

ちょうど冒険者ギルドに差し掛かったところで、知り合いを見つけた。



「さーて、どうだった?」

それぞれの用事が済んだところでシルビアの宿の食堂に集まった俺達は、オークタラオ王国とドルクル王国の事を調べに行っていたラング達から話を聞く事にした。

「やはり、ガーゼルの情報屋では大した情報は持ってなかった。」

まあ、そうだろうな。売れもしない情報なんか集める訳ねえもんな。

「とは言え、ありきたりな情報は手に入った。まずは、元々食料自給率がギリギリのオークタラオ王国だが、ここ数年不作でドルクル王国から穀物を輸入していた。だが、対外的には、今年はドルクル王国も輸出する穀物が無いほどの不作だとのことだ。しかし、収穫量は例年並みに有ったらしい」

「どう言う事です?」

「価格を釣り上げる気なのか?」

アシャさんとガーネットが尋ねる。

「いえ、輸出する事が出来ないほどに備蓄に回しているらしいわ」

ノルンが言う。

「戦争の準備か? オークタラオ王国はその事実を知って略奪する準備を始めたって事か?」

「穀倉地帯を喉から手が出るほど欲しいってのは昔からみたいだ。昔から小競り合いは絶えなかったようだが、先々代の国王からは友好的な政策に切り替え十分に機能していたらしい」

「それなのに、かたやゴーレムを大量に作り、かたや穀物の大量備蓄か。何が有ったのか? なんて、考えるまでも無いか」

俺が言うと。

「ヤマト帝国の脅威ってことか」

ガーネットが言う。

「たぶんドルクル王国の備蓄はそうかも知れない。しかし、オークタラオ王国の方は、ドルクルの備蓄を知って侵略を考えたんじゃねえかな? でも、ゴーレムを作って戦力を増強しようって発想は、業火のせいかも知れない」

「確かに業火のデビューは鮮烈だったからな」

「そういうことだ。ただ、もっと複雑な事情が有るんじゃなええかな」

「だとしても、ガーゼルでつかめる情報はここまでだった」

と言うラングの言葉を受けて。

「だったら、スガラト王国で聞いてみりゃいいんじゃねえか?」

「タケルはスガラトの情報屋にも伝手が有るのか?」

「そんなところで金を無駄にする必要はねえだろ?」

「ん? どう言う意味だ?」

「王宮なら情報を持ってるだろ? なんたって隣の国の話だからな。あそこの王宮なら伝手がある」

「向こうは嫌がるだろうけどな」

「いや、友好同盟を結ぶ国が増える事になるかもしれない。情報はもらえると思うぞ」

「なるほど」

ラングの言葉に合わせてアシャさん達も大きく頷く。




「さて、留守番頼むぜ」

俺が声を掛ける。

「うん、わかった」

「任せてくれ」

「頑張ります」

「お気を付けて」

ケーナ、シグ、アプリコットにフィーアだ。

「じゃあ行ってくる。取りあえず、パペットバトラーの起動前のチェックだ、取りかかってくれ」

俺が言うと。ガーネットは烈火に、ラングは蒼炎に、そしてアシャさんとノルンはハーミットに向かった。

「「「「「ハッチオープン」」」」」

5人揃ってパペットバトラーに乗り込む。

「さて、業火。チェック開始だ」

「はい、マスター」

・・・・・・。しばらくして業火は。

「チェック終了。オールグリーン。業火いつでも起動可能です」

「業火起動!」

「はい、マスター」

業火から返事が返ってくる。

「オールグリーン。蒼炎、起動するぞ」

「烈火オールグリーン。起動する」

ラングとガーネットの声スピーカーから聞こえる。

「ハーミット、オールグリーンです。起動します」

少し置いてアシャさんだ。ハーミットのチェックには少し時間が掛かるみたいだ。

「業火。出撃シークエンス発動」

「はい、マスター」

『ポロン』

業火の返事の後に、倉庫のスピーカーからリュートの音がして歌声が流れだす。

「タケル。なんだ? この音楽とワンダって歌声は?」

ラングが問い掛けてくる。

「ラング惜しい! ワンダじゃ無くワンダバだぞ」

「だから何なんだそれは!」

「前、俺が居た所では戦闘メカが出撃する時にはこんなBGMを掛けるんだよ」

「いつの間にこんな物を用意したんですか?」

アシャさんの質問に。

「昨日ハーミットの動作テストに行く時に知り合いの吟遊詩人に合ったから、無理を言って録音してもらったんだ。いいだろ?」

そんな事を言っていると。出撃シークエンスは進み。

『ブーッ! ブーッ!』

『メインゲートオープン。メインゲートオープン』

ブザーの音と放送の後にメインゲートがゆっくりと開き始める。

『パペットバトラー出撃します。パペットバトラー出撃します。メインゲート周辺から人員は退避してください。メインゲート周辺から人員は退避してください』

開いたゲートの前の庇の下で青いサイレンが回転している。

「マニューバース出動!」

「「「「了解!」」」」

俺の掛け声に4人の声が返ってくる。

『ズン!』

アクセルとレバーを使い手動で業火を発進させる。

『『『『ズン! ズン! ズン!』』』』

4機のパペットバトラーが次々と倉庫から現れる。

『おおーー!!』

放送を聞いて何事かとこちらを見ていた住人達から驚きの声が上がる。その前を、業火、烈火、蒼炎そしてハーミットの順に並んで進む。モニターで後ろを確認すると、ケーナ達3人が大きく手を振って見送ってくれている。業火の手を大きく振ってこたえる。


「よし、この辺で良いだろう。停まってくれ」

ガーゼルの街を出たところで、皆に声を掛け、俺は業火に駐機姿勢を取らせる。

「ここからはハーミットで行く」

そう言って業火から降りる。犬が伏せるような駐機姿勢を取ったハーミットのハッチが開いてノルンが顔を覗かせながら。

「今、乗降ハッチを下ろします」

体の下面の一部が口を開けタラップが下ろされる。中に入ると、そこにはテーブルを囲んだリクライニングタイプの椅子と簡単なキッチンが有る正面には大きなモニターを配置している。

「ほー。こうなっているのか」

そう言いながら俺の後からラングが入ってくる。それにガーネットが続く。操縦席と砲手兼車長席を仕切るドアが開き、アシャさんとノルンも入ってくる。

「なぜ、パペットバトラーの中にこんなリビングルームみたいな物を作ったんです?」

アシャさんの質問に。

「遠征や長期の作戦行動中にいちいち天幕なんか張っていられないし。安心して休める場所が必要だろう? 後ろのコンテナの1つは寝室だ、ベッドは人数分以上に有るから後で場所決めをすればいい」

と答える。皆は頷いて了解の意を示す。アシャさんが続けて。

「休める場所ですか、それにしては、ソファーにはしなかったんですね」

「お客がいたり、俺たちが居るまま戦闘になったときに体を固定できないと危ないからな」

そう言って、椅子に座りハーネスを見せてから、背もたれを倒す。

「こうすれば、体を休めることだってできる」

その後、コンテナに向かう。

「なんだか、鳥小屋みてえだな」

ラングが失礼な事を言う。そのまんま、カプセルホテルだからな。こっちの世界では鳥小屋と言われても仕方がないか。

「たしかに狭いが、いちいち天幕を張り釜戸の準備をしなくてよいのだ。効率的に旅ができる。それに、下手な宿のベッドよりも寝心地はよさそうだぞ」

ベッドのクッションを確かめながらガーネットが言う。まあ、閉所恐怖症でもなければ快適な旅ができるだろう。可動式のパーティションで男女に区切ることも可能だ。

「さて、そろそろツーリングモードにして出発しよう。長距離を移動する場合は交代で担当する事にするとして、まづは俺がやって見せよう」

俺は操縦席に就き、ハーミットに指示を出す。

「ハーミット。ツーリングモードだ」

「はい、マスター」

そう返事をした後に、モニターに映る風景の視点が下がりだした。ハーミットは駐機姿勢よりさらに低く屈み、脛の辺りに付いた車輪を大地に下したはずだ。

「マスター、ツーリングモードに変形完了しました」

ハーミットの返事を聞き。

「よし、出発するぞ。念のため椅子に座っててくれ。ハーネスも付けてくれよ。業火、烈火、蒼炎ちゃんとついて来いよ」

『『『はい、マスター』』』

業火達から返事が返ってくる。開けたままになっているリビングのドアから後ろを伺い皆が着席していることを確認し、アクセルを踏み込む。

「とりあえず、スガラトに向かう!」

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