英雄症候群
「はー。たまに仕事をしたと思ったら・・・。蒼角のサイクロプスね、小さな街なら半日で消えちゃう魔物よ。タケルは英雄の星に祟られてるのかもね」
アネモネが失礼な事を言う。たまにって何だよ。あれ? そう言えば、前に仕事をしたの何時だ?
「は? 英雄の? 星? 何だいそりゃ」
「タケルが今までやったように、街や国が滅んでしまうような場面に偶然遭遇して、それを解決しちゃうような人の事よ。普通は2回くらいそんな場面に遭遇した場合に。英雄の星にいたずらされるって言うのよ」
「俺の場合は、いたずらにしちゃ回数が多いから?」
「そう、祟られてるんじゃないかって」
「あるいは、ヒロイックシンドロームね」
横から、テラピアが割り込む。
「ヒロイックシンドローム? 何だいそりゃ?」
「その名の通りよ。心の病気よ。英雄に憧れて、自分も英雄になりたいって」
「英雄に憧れるなんて、結構いるんじゃねえの?」
「この病気に罹ると自分の力量も考えずに強い魔物に挑んで行くようになるのよ」
「そんな冒険者が? 討伐対象と自分の力を比べて依頼を受けるもんだろ。ルーキーじゃあるまいし」
「そうよ。でもベテラン冒険者の死亡原因の多くがこれだって言われてるわ。ヒロイックシンドロームに罹ると、そんな基本的な判断も出来なくなっちゃうのよ。タケルも気を付けるのよ」
「ん? 何を?」
「「・・・これに罹った冒険者は長生きできないの」」
真剣な表情のアネモネとテラピアの声が揃う。
「・・・・・・」
英雄願望か、・・・そんなものは無い・・・よな? 今日は、シグの前で良いカッコしようとしていなかっただろうか? それに最近、何と当たる時もぶっつけで戦いを挑んでるな。身体強化が出来るようになって、慢心しているのか? 人も魔物も簡単に倒せるようになって・・・・・・。今日のサイクロプスだって1人で掛かるべきじゃなかった?
「ありがとう。肝に銘じるよ」
心配してくれる2人に心から礼を言ってギルドを後にした。
「無理を聞いてもらってありがとうございました」
「なーに、気にするな。しかし、コイツは何だ?」
ガンドロクの問いに。
「ん? 見慣れてるでしょ? パペットバトラーの手足ですよ」
「確かにパペットバトラーの手足だ。しかし、見慣れた物じゃない。普通の腕が2本、長い腕が6本。そして、長い足が2種類6本。でかいのを3体も作るのか? 腕が2本多いが」
今日はアースデリア王国のガーゼル工房に来ている。数日前に外注に出した新型ゴーレムの部品を受け取るためだ。
「ゴーレムが人型でなきゃいけない事もないでしょう。ゴーレムホースの例も有るんだし」
「ホースでは無くドンキーだろ? 初めて人型を止めた画期的なゴーレムだ」
「え? 人型が基本なんですか?」
「タケルが作ったゴーレムだって人型と馬型だろう?」
「いや、俺は壁型とか猫型も作ってるけど」
「壁型? 猫型? なんじゃいそりゃ?」
「壁型のゴーレムで兵隊を囲んで逃げられないようにしたんですよ」
「ほう。あの時か」
「そうです」
「ふむ。それで、今度は8本腕の6本足のゴーレムを作るのか?」
「ええ、多脚ゴーレムです。虫かクモかエビかカニか、まあ、そんな形のゴーレムになります」
「それは、何と言うか、えーと、何でそんな不気味なゴーレムを作るんだ?」
「後方支援と補給に移動に、ゴーレムを広い範囲で効率的に運用しようとすれば俺達じゃ人出が足りないですからね。人型のゴーレムだと補給物資も大して運べないし。業火達は戦闘用で移動用の乗り物じゃ無いんですよ。自立歩行はするから人間は馬車で移動すればいいんでしょうが。活動する地形を選ばない為には、馬車代わりにどこにでも付いてこられる物が要るって訳です。ついでに長距離攻撃手段を持たせて、戦闘の支援をさせるんですよ」
「それが、多脚ゴーレムか」
「ええ、国が一軍を構えて運用するなら必要ないかもしれないけど、人数の少ない俺達には有効な物になるはずです」
「しかし、地形を選ばず同行出来る補給手段か。研究する必要が有るな。面倒じゃ無ければレポートをくれると助かる」
「ええ、分りました。まあ、あまり色々な情報が得られるような状況になりたくありませんけどね」
「そうだな」
「では、パーツを運びます」
「どうやるんだ? 馬車には積めないだろう?」
「パペットバトラーで抱えて、往復しますよ」
「おう。そういや、ゴーレムってのは作業も出来るんだもんな」
「ええ、重量物の運送も得意ですよ」
「さて、ちゃっちゃとやっちまおうか」
骨格を運び込んだ俺は、ボディーの作製に着手する。当然、白衣を着ている。
「先ずはエンジンだよな。魔力シリンダーエンジンと動力チューブ、車輪は脚に内蔵するからステアリング機構は必要無えな。あ、デフレンシャルギアどうしようか? 脚1本にエンジン1つだから、回転数の制御でいけるかな?」
オリハルコンのインゴットから、エンジンブロックを成形していく。
「このエンジンを骨格の一部として使えば、軽量化も出来るし、場所も取らない。うん、一石二鳥だな」
特に問題も無くエンジンを組み立てていく。脚に組み込む関係上、直列エンジンが都合が良い。この辺も外注出来りゃ良いんだが、この技術は、まだ表に出したくない。
『ドンドン』
「タケル、注文の品持ってきたぞ」
あの声は、ダンカンだな。店の改修をしてくれた設備関係の職人の親方だ。
「ゲートオープン」
俺の声に反応して扉が開いていく。
「早かったな。もっと掛かるかと思ってた」
「タケルからの注文だからな。最優先で仕上げたんだ。感謝してくれて良いんだぜ」
「ああ、感謝する。おかげで、スケジュール通りにパペットが作れる」
「パペット? あのでっかいゴーレムの事だろ? こんな物がゴーレムに必要なのか? ああ、なるほど、ここに泊まり込んで納品スケジュールに間に合わせるって訳か」
「俺の店ではゴーレムは売らない。新型を開発中なのさ。パーツが揃ってから一気に組み上げたくてさ」
「ゴーレムに家具? なんだか奇妙な取り合わせだな」
「新型だからな」
「新型なのか。・・・・・じゃあしょうがねえな」
「ああ」
「さて、そろそろ帰るぜ。順番を飛ばしちまったからな。そっちも急がねえとな」
そう言ってダンカン達は帰って行った。ダンカンと入れ替わるように皆が帰って来た。一緒に晩飯に行こうとすると、シグが。
「タケルさん。話が有るんだ」
「ん? みんな先に行っててくれ」
俺達を残し皆はシルビアの宿に向かった。シグをカウンターに座らせお茶を2人分用意し俺も座る。シグが真剣な顔でお茶を飲む。俺も一口飲んでから、シグを促す。
「で、話って何だ?」
シグが仲間に御なってから数日が過ぎた。何か有ったのか? 仲間になった翌日からシグも修練に参加している。環境が変わってストレスでも感じてるのか? シグは真剣な表情のまま。
「なあタケルさん。修練やり過ぎると、背が伸びなくなるって本当かい?」
え? シグの言葉を聞いた俺は、全身から緊張感が抜けて行くのを感じた。
「だーーーー!」
「なっ、なんだい?」
「はー。俺の緊張感を返せ。まったく、何を言い出すかと思えば」
「だから、何なんだよ!」
「ケーナだな」
まったく、シグも朝の修練だけじゃ物足りないってか。
「うっ、うん。クエストの合間に型のおさらいしてたら、ケーナが、タケルさんが前に言ってたって」
「ああ、俺がいた所じゃ、体が出来上がる前にあんまり筋肉を付け過ぎると背が伸びないって言われてたんだよ」
「本当なのかい?」
「本当かどうかは分らない」
「なーんだ」
ホッとしたような顔をするシグに。
「分らないけど。成長期が終わってから、筋肉を付け過ぎたせいで背が伸びなかった事が分っても手遅れだってことさ。今のところは朝の修練だけにしとけ」
「・・・・・分った」
そう言うシグは不満顔だ。
「ふっ。直ぐに強くなりたい気持ちは分かるんだけどな」
「だったら、沢山修練しなきゃ」
「そうなんだけどさ、武術をやる上で、体格が良いってのはかなりのアドバンテージなんだよな」
「体が大きい方が強いって事? それじゃ武術なんて意味無いじゃないか」
「意味が無いなんて言ってないさ。でもな、実戦では多少の技術の差なんか、体格でひっくり返っちまう事は多いんだぞ。俺とシグの体格考えてみ? シグの攻撃が届かないところから俺の攻撃は当たるだろ? 当り前だよな? 俺の方が腕が長いんだ。単純だけど、結構重要だ」
「うん」
「そんな顔するな。今、同じ年のヤツより強くてもあまり意味がねえだろ? シグには、5年、7年後の強さを見据えて修練して欲しいな」
「・・・・・・うん」
何となく誤魔化されたように感じているのかな? シグの頭に手を置きグリグリとこねまわしてから。
「さあ、飯に行こうぜ」
「うん」
2人連れだってシルビアの宿に向かった。シルビアの宿に着いてドアのノブに手を掛けたところで中から人の泣き声が聞こえた。
「ん? 誰だ?」
「どうしたんだい?」
「いや、中から泣き声が聞こえる」
そう言いながら、ドアを開ける。
「うっ、ううっ」
ロビーに入ると、アリアちゃんがアシャさんにすがりついて泣いていた。
「アリアちゃん?」
俺の声が聞こえたのか。ビクリと型を動かしたアリアちゃんが、アシャさんに更に強くしがみついて。
「タケルさんが、タケルさんが! うっわーーー!」
ロビーに居た皆が俺を振り向く。ラングは面白い物を見るような眼で俺を見ているが、女性陣は皆が汚れた物を見るような目だ。あ、シルビアさんは生温かい眼差し? 俺何かやったのか? 俺は前に出した両手を広げ勢い良く振る。
「俺は無実だ。何もやっちゃいない」
「店長、往生際が悪いぞ」
ガーネットが言うと。
「お兄ちゃん。信じたいけど、これを見ては庇えませんよ」
アシャさんもそんな事を言う。
「タケル兄ちゃんサイテー」
ケーナ君何を言ってるんだ。
「タケルさん。責任は取るべきじゃないでしょうか」
ノルンも。
「タケルさんがそんな人だったなんて」
そんな人ってどんな人だって言うんだ、アプリコットよ。
「タケル。逃げるとは、男らしくねえな」
ラングーーー。
「・・・・・・」
シグ。そんな目で俺を見るな。
「あー、アリアちゃん? 俺、何かしたかい?」
「「「「「はあー? 何かしたかい?」」」」」
皆の声が揃う。俺は迫力に押されるように1歩下がる。
「「「「「逃げるの(か)?!」」」」」
「うっ、ううう。タケルさんが・・・・」
俺が?
「タケルさんが、宿を出ちゃうって。家を買うって」
え? 俺が?
「「「「「え?」」」」」
一度アリアに向いていた視線が俺に集まる。
「あらー、ファミーユの皆が泊ってくれないとうちの宿の経営が苦しくなっちゃうわねー」
シルビアさんが言う。確かに、シルビアの宿に俺達以外の宿泊客はめったに泊まらない。職人街に商用で来た人間が泊まる事が有るくらいだ。確かに俺達が宿を引き払うと宿の収入は激減するだろう。ここは街の中心からかなり外れてるからな。
「何言ってるんですか。もともと、食堂としての収入で十分経営が成り立ってるでしょうに」
職人街に近いせいで、職人達から大変な人気だ。
「あらー、うちは宿屋ですからねー。本業の経営が行き詰まるのは困るわー」
まったく困っていないような口調でシルビアさんが言う。
「やっぱり、あの話は本当だったんだね。うわーーー!」
あの話?
「アリアちゃん。あの話って? ひょっとして、俺が家具を注文したって話か?」
「うん。そうだよ。スン」
「誰から聞いた?」
「ボーンさんだよ」
「その、ボーンって、ひょっとして家具職人だったり?」
「うん、そうよ」
「ダンカンの所の職人かな?」
「タケルさん知ってるの? グス」
そう言うことか。
「アリアちゃん。確かに俺は、ベッドやらテーブルやらキッチンなんかをダンカンに作ってもらったけど。別に引っ越す為じゃねえぞ。新型のパペットバトラーの内装だよ」
「え? パペットバトラーの? え? じゃあタケルさん宿を出たりしないの?」
「ああ、ここの飯は美味いし、店にも近い。別に出て行く理由が無い」
「ホント?」
「ホント」
「タケルさん!」
叫ぶように言ったアリアちゃんが俺の首に飛びついてきた。落ちないように抱きかかえると。
「はい、アリアちゃん。離れましょうね」
アシャさんが素早く俺とアリアちゃんを引き離す。
「あ、ごめんなさいタケルさん」
「いやいや、全然平気。気にしないでくれ」
「お兄ちゃん」
アシャさんが俺を軽く睨む。
「いや、俺なにもしてないよね?」
うん、抱きついてきたのはアリアちゃんの方で、俺は転んだら危ないから腰に手を当てて支えてただけだ。アリアちゃんは慌てたように。
「あ、タケルさん達晩御飯だよね。すぐ準備するね」
そう言って食堂に走って行った。シルビアさんが。
「料理を褒めてくれてありがとう。いつまでも泊まっていてね」
そう言ってアリアちゃんの後を追いかけて食堂に入って行った。
「ゴーレムは人間が逐次細かな指示を出さなければ臨機応変な行動が取れない事は周知の事実だ。つまり、刻刻と状況が変わる戦場において、戦闘に使おうと思えば操る者が近くに居なければ効果的な運用は出来ないと言う事だな。戦闘しながらゴーレムに指示出しなど出来る訳が無い。よって、ゴーレムは城壁に向かって突っ込んで行くような運用をせざるをえないと言う訳だ」
ここで一度言葉を切り、室内を見渡す。皆真剣な顔で俺の話を聞いている。パペットマスターの教官候補として選ばれた10人の騎士達がガーゼルの街に到着したのは昨日の事だ。アルハーンの数が揃うまでの数日間は座学だ。俺は言葉を続ける。
「そこで、ゴーレムの操者が安全に指示出しができる環境は? 場所はどこだ? と考えた場合ゴーレムに乗り込むという結論になった訳だ」
実際には俺がロボに乗りたいだけなんだが、そんなことはお首にも出さず、言い切る。騎士の1人が手を上げて発言を求めてくる。俺が許可をすると。
「ゴーレムは、魔術によって核を破壊する事が基本戦術な訳だが、ゴーレム核の他にも、操縦者を守らなければならなくなるのではさらに使いにくくなるのではないだろうか?」
もっともな疑問だ。俺のゴーレム核のようにオリハルコンや硬化の処理など行わず、核の周りに素材を組み付けていく。アインを初めて作ったときは俺もそうしていたしな。
「パペットバトラーは核も縦者もオリハルコンで守られている。今までのゴーレムとは違う。ゴーレムへの指示にしても、言葉だけでなく、もっと直接的な指示が出せるようになる。目の前の壁を壊せと言う指示しかできなかった処が、壁のどの部分をどんな方法で壊すのか瞬時に指示ができる。魔術にしたて、自分に向けて飛んでくるのをおとなしく待つ必要なんかない。避ければいいんだ」
それから、マニュアルを使った操縦方法のレクチャーに入った。
「さーて、もう少しで完成だ」
骨格にシリンダーが付いた状態の多脚ゴーレムを見上げながらつぶやく。コイツは業火達とは違って、状況に応じて外装を変える予定は無い。このまま装甲を取り付け、状況に応じて装甲に付いたラッチに様々な装備を装着させるつもりだ。スモークデスチャージャーや対空攻撃兵器なんかも有りかもしれない。フェンリルが使っていた炸裂するアイススピアとか良いよな。
「よし! やっちまうか」
作業用ゴーレムだけでなく、業火に烈火にも手伝わせよう。今度のはデッカイからな。俺が1人で組み付けるのは大変だ。
「さあ、作業開始だ。皆たのむぞ」
俺の指示に従って業火達が支えた装甲を作業用ゴーレムと俺が骨格に組み付けていく。
王国のガーゼル工房の前の広場に11体のアルハーンが整列している。んっ、大変素晴らしい光景だと言わざるを得ない。
「やっぱり、ロボはいいなー。量産機が整然と並ぶ姿には、えも言われぬ趣があるよ。なあ、ダレフもそう思うよな?」
「自分に趣がどのような物かはよくわかりません。しかし、11台のアルハーンが並ぶ姿、これからの国防を担う力を感じます」
ダレフが姿勢を正し答える。こいつ、まるで違う人間みてえだな。ダレフはガーゼル領主のザナッシュの息子だ。王都の騎士団から派遣された10人の騎士達の中にダレフが含まれていた。俺は、ダレフと再会した時の事を思い出した。
王都から派遣された騎士達は、中隊長2名と小隊長8名。そんな優秀な騎士達を引き抜いてしまって大丈夫なのかと思ったのだが。
「なーに、心配はいりません。女王陛下も最重要と位置付ける今回のプロジェクトですからな。これは我が国だけでなく周辺諸国の命運を賭する重要な物です。そのような重要次案に参加するのは、いえ、参加できると言う事は騎士たる者の誉でありましょう。志願者が多く、私も選ばれた事に責任と喜びを感じているところです」
年上の中隊長が俺の疑問に答えてくれる。元中隊長と元小隊長で構成された2小隊。それが、俺が直に指導する研修生になる。その中にダレフがいたのだ。初顔合わせの後に、先の事を謝罪され俺はその謝罪を受け入れた。本人いわく己の未熟さ将来への焦り根拠のない肥大した自尊心、そう言ったものに押しつぶされそうになった結果と言った事らしい。しかし、元中隊長が言うには。
「ただの騎士から数カ月で小隊長に任じられた。これは異例な程の短期間での事であり、本人の努力たるや並ではなかった。その姿には鬼気迫る物があったな」
との事。さらに。
「小隊長に任命されるには、戦闘技能だけではなく、指揮能力、人格等々認められる必要がある」
んー。あの頃のダレフからは想像もつかないな。
「男子三日会わざれば刮目して見よって事か」
・・・と、まあこんな感じだ。
「ダレフってば、硬い! 硬いなー。もっと、こう、『メッチャカッコイー』とか言えねえの?」
「そんな事は言わん! あっ」
「やっと地が出たな。講義や訓練以外の時はそんな風に話してくれ。俺は上司じゃねえんだから、あんな丁寧に話されたら、背中がむずむずしちまう」
「・・・・・・はあー。分りました。いや、分ったそうさせてもらう」
「おう、頼むぜ。さて、そろそろ始めるか」
俺はダレフから離れパペットバトラーに向かう。
「アルハーン! 全機、駐機姿勢!」
『ザッ!』
俺の掛け声で、11機のアルハーンが一斉に駐機姿勢を取る。
「総員。搭乗!」
「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」
騎士達が大きな返事と共にそれぞれが担当するアルハーンに駆け寄り素早く搭乗して行く。膝を付いた左の腿に足を掛け左手の手の平に飛び乗る。肘関節の内側に足を掛け、肩のハンドルを掴んで体を持ち上げる。頭部の横に乗り上げ。
「「「「「「「「「「ハッチオープン」」」」」」」」」」
一斉に声を掛ける。シートに着座し。
「「「「「「「「「「ハッチクローズ」」」」」」」」」」
一糸乱れず、搭乗する騎士達。俺が組んだアルハーンを使っての訓練の成果だな。
俺が作ったアルハーン元機を使った訓練を始めたのは数日前だ。
「良いか! 貴様らは将来の教官や部隊長の候補としてここに来た。しかし! 今は、俺の生徒だ! 俺の指導が受けられんと言うヤツは今直ぐ申し出ろ。今なら幾らでも替えの人材はいる。残ると決めたからには俺の方針に従う意思を示すと言う事だと心得ろ!」
皆が俺に注目している。ここを去ろうと言うヤツは1人も出なかった。人周り見渡した後に。
「いいか、俺は単なる冒険者に過ぎん、翻って貴様らは騎士であり貴族だ。その貴族に対しこんな口調を採る俺に不満も有るだろう。ただし、事パペットバトラーに関しては貴様らは全くの素人だ! しかし、俺は業火をネジの1本からこの手で作り、Aクラスの魔物であるバシリスクロードを単騎で討伐した事も有る。こいつが出来る事、出来ない事、俺以上に詳しい人間は居ない。半端に扱う危険性を一番わかっているつもりだ。貴様らが1人前になるまではこのままで行くからな。そのつもりで取り組め!」
1号から10号のアルハーンは急ピッチで仕上げられている。出来上がるまでは元機、アルハーンオリジンを使って、まずは搭乗訓練だ。
「いいか。前線で、最も無防備になる時は搭乗している時だ。パペットバトラーの正面に背中を向けなきゃならない。弓にせよ魔術にせよ狙い放題だ。ここを狙われない為には少しでも早く確実に搭乗する必要が有る。こいつが出来なきゃ戦闘にすらならん!」
俺の言葉を聞いて順番に訓練を始める。さすがに身体能力が高い騎士達だ、多少の差はあっても2日で実用レベルまでになった。
皆が搭乗するしたのを確認し、俺も乗り込む。
「では、まずは起動前点検から開始する」
了解の返事を聞きながら、俺もアルハーンに指示を出す。
「アルハーン。起動前チェック開始」
「はい、マスター」
それ程待たされる事も無くアルハーンから返事が来る。
「機体状態オールグリーン」
次の指示を出す。
「魔結晶接続」
「はい、マスター。・・・・・・接続完了。出力既定値で安定」
アルハーンの答えに続いて。騎士達から接続完了の報告が届く。
「よし、アルハーン起動。立ち上がるぞ!」
「はい、マスター」
アルハーンは異音も立てずに立ち上がる。
「まずは、歩行訓練だ! 俺と同じ速度で並走しろ! 行くぞ!」
右手のスティックを少し前傾させ、右足で軽くアクセルを踏み込む。スティックの前傾角度が歩幅を、アクセルが足を動かす速度を調節する。かなりアナログな制御だ。本来は、パペットバトラーに一言命じれば済む話ではあるし、実戦ではそうする事になる。しかし、機体を自由に操れるようになるには、自由に動かしていたのではダメだ。矛盾するようだが、型どおりの動きを自然にこなせるようにならなければいけないと思う。その為の訓練からはじめたと言う訳だ。俺は、掛け声を掛けながら、数分ごとに速度を微妙に変え、単なる歩行を繰り返した。
「どうした? 訓練内容が不満って顔だな?」
食堂で昼飯を食っている騎士達の座るテーブルの1つに、トレーを置き座りながら尋ねる。
「不満は無いが、疑問は有る。人が乗り込んで直に操れるとは言え、アルハーンはゴーレムだ。今日やった事など、一言命じれば容易くこなすだろう。となれば、もっと実戦的な訓練をした方が良いのではないかと思うのだ」
ダレフの言葉を肯定するように頷く騎士も何人かいる。
「あんた達は、将来の教師候補だ。そんな優秀な人材を預かったんだ。能力に見合った仕事はしてもらおうって事さ。アルハーンに搭載されているゴーレム核は優秀なのさ、信じられないかもしれないが、自我を持つ数少ないゴーレムだ。単なる戦闘をするだけなら、人が操る必要が無いくらい優秀だ」
一呼吸置いて話を続ける。
「あんた達には、その優秀なゴーレム核ですら出来ないような操縦を無意識にこなせるようになってもらわなけりゃならない。その為には基礎をみっちりやってもらう。貧弱な基礎の上にはどんな名工であろうとも城は作れない。ロクに歩けもしない雛鳥に、飛び方を教える親鳥は居ないって事さ」
そう言って、皆を見渡し。
「あんた達には、ゴーレム核を越える動きが出来るようになってもらわなきゃならない。より高く飛び上がる為には、より低く屈む必要が有るってことさ。期待しているんだぜ、経験が長いだけ、知識だけはたっぷりなんて教官になってもらう訳にはいかない。俺が直に教える最初で最後の生徒だ。最強のパペットマスターになってもらう」
「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」
騎士達の返事が揃う。ラング達のように、パワードスーツを使って促成栽培的に魔力操作を覚えさせるのではなく。スティック、ペダル、ボタンと言う入力装置だけでパペットバトラーの性能を引き出してもらわなければならない。誰でも使える兵器として集団戦闘に使うパペットバトラーとはそう言う物でなくてはいけないと思うからだ。
「と言う訳で、午後も歩行訓練だ。ただし、蛇行も加える。なかなか難しいぜ、付いて来れるかな?」
「「「「「「「「「「・・・おう・・・」」」」」」」」」」
「力無い返事、ありがとう」
まあ、演説なんか、柄じゃあねえけど、士気は上がったかな?