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量産機

「イタタタ・・・? 模擬戦? かまわんが、何だその格好は? おかしな鎧だな」

ラングはそう言って立ち上がり、剣を受け取った。

「ここじゃ狭いな。裏庭に行くぞ」

ラングに背を向け裏庭に向かう。うん、思い通りに動く。まあ、思わないと動かない訳だが。

裏庭でラングと向き合う。

「おい、剣は持たねえのか? ってか、剣持てんのかその格好で?」

「ふっ、ラングくん、このパワードスーツにそんな物は必要無いのだよ」

「そんな物ってなんだよ。お前、剣士だろう? それが何? そんな物? はあ? 訳分かんねえぞ」

「ふふふ。朝の模擬戦で常敗のラングくんを相手にするのに剣など不要だと言っているのだよ。このパワードスーツだけで十分だと言っているのだよ」

「常敗言うな! よーし分った。いいんだな? 本当にいいんだな? これで俺が勝ったら連敗記録ストップだからな!」

「ああ、いいぜ。遠慮なく掛かってきたまえ」

そう言って手の平を上にした右腕を前に出すと指をクイックイッと数度曲げて掛かってこいの仕草をする。ラングは剣を構え、今にも斬りかかってきそうだ。視線をはずすと、アシャさん達が呆れた様な視線を向けている。ほんの少し視線を外した隙にラングが剣を上段に構え飛び込んで来た。

「!」

今までに無いほど鋭い打ち込みだ。送り足で近付きながら振り下ろされた剣の側面を左手の平で叩き右に流す。更に左肘を畳んで、継ぎ足で懐に飛び込みつつ、剣を振りきって開いた胸に肘を入れ・・・ちゃダメだろ! ヤバイ! 間に合わない?

『ゴッ!』

「グハッ!」

ラングが後ろに吹き飛んだ。あちゃー。まともに肘を入れちまった。慌ててラングに駆け寄りながら。

「悪い! つい、やっちまった!」

「うっ」

一言呻いたラングは、肘をついて上体を起こしながら。

「くそ! 今のは自信が有ったんだけどな」

ラングが苦しそうに言う。

「ああ、良い打ち込みだったな。思わず寸止めするのを忘れて本気の肘を入れそうになったよ。アシャさん、エクストラヒールを頼むよ。肺にささってるかもしれない」

ラングに近付いたアシャさんがエクストラヒールを掛けて。

「まったく、なんて事するんですか。当たり所が悪ければ死んでいますよ」

「それくらいで死んだりしねえよ。大体、当てる寸前に止めようとしたし」

「でも、止まらなかったんですよね」

「それだけ、ラングの打ち込みが鋭かったんだよ。仕方無いじゃねえか」

「お兄ちゃん。仕方無いじゃないでしょ」

アシャさんが俺に詰め寄ってくる。

「ラングさんに言う事は無いの?」

そう言われて、ラングに向かって頭を下げながら。

「すまなかったな。怪我をさせるつもりは無かったんだが」

「気にするな、お互い様だ。俺も、本気で行ったからな。今回は、もらったと思ったんだがな。ふふふふ」

「そう簡単にはいかねえさ。はははは」

ガーネットが。

「まったく、2人ともどうかしているぞ。そこは笑って済ますところではあるまい」

ケーナも。

「そうだよ、タケル兄ちゃん。反省しなよ」

反省か。

「後悔と反省はしない主義なんだが。そうだ、ラングにもまもーるくん作るか」

「そんな高い物いらん。必要なら金を貯める」

「仲間なんだから遠慮はしなくていいんだが、・・・そうだ、俺が今使ってるヤツ使ってくれよ。自分用に新しいの作ろうと思ってたから、中古で悪いけどさ。仕舞っておくのも勿体ないからな」

ラングは少し考えて。

「そう言う事なら、有難く使わせてもらうよ。で、新しいまもーるくんってのは?」

「サースベリア王国に居る友達に作ってやったヤツでさ、ホワイトワームの皮で作った鎧をベースにしたんだけどさ、これが格好いいんだわ」

そう、スバルに作ってやったまもーるくんだ。あれ良かったよな。

「そりゃそうかも知れんが、・・・派手だろ」

「ぐっ」

俺が言葉に詰まると。

「確かに、派手だな。まるで勇者が着る鎧のようだな。ああ、そう言えば、店長も勇者だったな」

にやにやしながらガーネットが言う。

「勇者とか、勘弁してくれ。ところで、パワードスーツがちゃんと思い通りに動かせればあんな事も出来るって事が分ったろ? と言う事で訓練に励んでくれ。もう直ぐ2号機が出来上がるんだ。パペットバトラーが揃っても、パペットマスターが居ないんじゃ宝の持ち腐れだ」

「「「はい」」」

アシャさんたち3人は返事をして店に戻って行く。




それから数週間3人は、どうにかパワードスーツを使えるようになった。とは言え、習熟具合にはバラつきが有る。アシャさんは少し苦手なようだ。とは言え、期待以上に早かった。有効な訓練方法だったって事だろう。ケーナとアプリコットはラングと組んで冒険者の依頼をこなしていた。アプリコットはテラピアを師匠に魔術師としての訓練もしている。なかなか思うようには行かないようだが、慣れの問題なんじゃないだろうか。と言ったようにみんながそれぞれ活動していた。あー、ラングもパワードスーツを使えるようになっている。俺はと言えば、バイクの販売を本格的に始めた。更にパペットバトラーの2号機の監修をしつつ量産機の試作品を作っていた。そして。

「タケル殿、いよいよだな。もう名前は決まっているのか?」

ガンドロクが言う。

「ふっ、まかせてくれ。ゴーレムのネーミングには定評があるんだ」

「魔道具のネーミングセンスはさっぱりですけどね」

「アシャの言うとおりだな」

「アシャさんもガーネットも失礼だな」

そう言って、1次装甲を付け終わりクレーンに吊り下げられたパペットバトラー2号機の前に立つ。

「我が僕よ使役される者よ! いでよ! ゴーレム!!」

これで、ゴーレムは起動した。

「お前の名前は『烈火』だ。よろしくな」

『はい、マスター。よろしくお願いいたします』

コイツずいぶん行儀がいいな。

「烈火かよい名前だな。業火の姉妹機だからか?」

「ああ、初めてゴーレム核をコピーしたんだ。業火とほとんど同じ仕様だからやってみたんだけど、これが成功しないと、量産機を作るのが大変だからな」

「量産機と言えば、大分形が違うな。やっぱり材質のせいか」

「ああそうだ。鋼をメインにしてオリハルコンの使用は最小限に抑えてるから。強度を得る為に骨格の形状から見直してるからな。苦労したんだぜ。そのせいで、そっちの負担も増える訳だけど、そこは勘弁してくれ。重量を抑えて強度を得る為に仕方無くやった事だ。モデリングスキルで行けるし、烈火をこれだけにした技術を持っている皆だ全く問題ない。なあ」

「「「「「「おう!!」」」」」

鍛冶師隊の皆が声を上げる。

「工房も完成した事だし、そいつの納品はいつになるんだ」

「1次装甲は明日中には付け終わるから。動作確認して、そうだな2日欲しいな」

「わかった。さっそく2次装甲を作り始めよう」

「2次装甲はそっちのデザインなんだ楽しみにしてるぜ」

「任せておけ。しかし、今日の所は烈火だ。動くところを見せてくれ」

「ああ」

そう言って烈火に向かいタラップを登る。

「ハッチオープン」

声を掛けると烈火の頭部のバイザーが跳ね上がり頬当てが左右に開く。そしてマスク部分が前にせり出す。業火はマスクがそのまま出てくるが、これは、フィーアが俺よりも体格が小さかったからだ。

「あれ? 店長、烈火の操縦席は頭に有るのか?」

ガーネットが言う。

「ああ、フィーアのサポートがもう必要無いからな。業火のコクピットもそのうち移すつもりだ」

業火に蓄積されたデータは、すでに運用にフィーアを必要としないところまで来ている。フィーアが必要無くなれば、コクピットは頭部に置きたい。俺はともかく他の人間を乗せる場所は頭部にしたかった。魔力コントロールをする場合は、攻撃を受けた時に思わず庇う場所は人間と同じで頭部のはずで、頭部を庇ったら無防備の胸のコクピットに直撃なんて事になったら目も当てられない。

「戦闘機のコクピットってのはこのくらいの狭さなんだろうな。ストレスで継戦時間が短くなるかな? アクチュエーターの配置に余裕が出来たから整備性は上がったかな」

そう呟きながらシートに座り。

「ハッチクローズ」

コクピットが、頭部に引きこまれバイザーと頬当てが定位置に戻る。ハーネスを締めていると。

『始動前チェック終了。必須部分オールグリーンです』

「ありがとう。さっそくやるぞ」

右腕を顔の前まで持ち上げ、指を曲げ伸ばししてみる。

「うん、業火と感覚は変わらないか」

全く同じと言う事は無いだろうが、まあ誤差の範囲だろう。しばらく指から腕を動かし問題が無い事を確認し。

「次は足だな」

足の曲げ伸ばし、軽い蹴り上げをさせてみる。

「烈火どうだ? 何か問題は?」

『全てトリム調整で修正可能です』

「じゃあ、調整をしてくれ」

コクピットで、少しの間待つ。

『マスター、調整終了しました』

「おう。ありがとう」

さて、スピーカーをオンにしてっと。

「クレーンを外してくれ。動作確認は終了だ。実際に動かしてみる」

『ガッゴ』

音と共にクレーンから外れた。少しの間何の操作もせずに烈火の姿勢制御を感じてみる。うん。フィーアの制御と遜色ない制御ができている。さて、右足を少し引きながら腰を落として左手を持ち上げ右手を腰の横に添えて。

「セイ!」

右手の正拳突きを出す。右手を引いて、左右の前蹴りを交互に出す。振り向いて、左の後ろ蹴りから右回し蹴り。空手の型のような動きをしばらく続ける。最後にガンドロクと鍛冶師隊に向かって親指を立てた右腕を突き出し。

「最高だ!」

「「「「「「「うおーーーー!!」」」」」

大きく頷くガンドロク。両手を上げ歓声を上げる鍛冶師隊の皆に向かって。今度は握り拳を作った左手を高く掲げる。

「「「「「「「ウオーーーーーーー!!!!」」」」」」

更に大きな歓声が上がる。さーて、今度は量産機の仕上げだ。



「ありがとうございました!!」

15台目のバイク、はしーるくんが売れていた。遠ざかっていく後ろ姿を見ながら。

「結構高いと思うんだけどな。そこそこ売れるよな」

市販を始めたバイクは、ガーネットが使っている風魔術エンジンを使ったタイプだ。大きなエンジンに発展しそうもないから、技術が漏れても大した事にはならないだろうと思ってそっちを売りに出した。試作品の1号と2号はカウル無しでセパレートハンドルにシングルシートの昔のレーサータイプだが、市販品は2人乗りのアメリカンタイプにした。こっちの方が乗り易そうだと思ったのと、やはり、2人乗りの方が売れるだろうとの考えからだ。まあ、パワー面では原付バイクに毛の生えた程度しかないけどな。そのうち、スクータータイプのバイクも作ってみるかな。

「さて、もう少しだ」

仕上げをするために作業場に入りクレーンにつり下げられた量産機を見上げる。こいつを作るのは、業火とはまた違った苦労が有った。まずは材質だ。主となる材質を鋼にしなければならなかった、軽く強く粘りが有る骨格にするために、骨格の断面から工夫する必要が有った。丸パイプの中に十字にした板が入った構造を、モデリングを使って継ぎ目なく一気に成形している。H型や角型よりも強靭だ。溶接では無く最初から継ぎ目無く成形することで、様々な方向から力の掛かるロボットの骨格として最適な形になっていると思う。業火のようにオリハルコンやアダマンタイトを使って、強度を頼りに強大な魔力により体を振りまわすような使い方は想定していない。

「量産機は、ある意味では正当なロボって事だよな。・・・でも、名前がねえと呼びずらいな。いつまでも量産機ってのもなー」

とはいえ、ガンドロクさんに名前決めてもらってるからなー。んー・・・・。

「あ、そうだ。開発ナンバー付ければ良いんじゃね? おーそうだよ。その手が有るよな。んー、PR-01で良いか」

プロダクトロボ1型・・・。そのまんまだけど、まあいいか。

「さて、1次装甲を付けちまおう」



「ふむ、力強いな。骨格の時もそうだったが、こうして1次装甲が付く事で更に力強さが益したな。華奢な烈火の骨格とは、全く違った印象だな」

ガンドロクと並んでPR-01を見ている。

「そうかい? 注文通りにフルプレートメイルの兜をモチーフにしたけど」

まあ、縦に数本スリットが入ったバイザーも付けたけどコイツはダミーだ。実際のカメラの位置はスリットの奥では無く、クリアーな視界が得られる位置に取り付けて有る。

「業火のような優美な外見にはせんよ。武骨な形。見ただけで相手を圧倒するような装甲にする」

「で、名前は決まったのかい?」

「おう、アルハーンだ」

「良い名前だな。由来でも有るのかい?」

「ああ、アースデリア王国初代騎士団長の名だ。建国の英雄の1人だ」

「良いのかい? こんな海の物とも山の物とも分らないようなパペットバトラーに、そんな立派な名前なんか付けちまって」

「いいじゃないか。それだけコイツに期待しているってことさ」

「ヤマト帝国の戦車軍団。容易い相手じゃないぜ」

「その前に、対ヤマト帝国同盟を作らねばならん。それがまず大変な事だ。我が国の建国の英雄に肖った名前でも付けたくなるってもんだ」

「なるほど。じゃあ、機体の呼称はそれでいいとして。個々の名前はどうするんだい? ゴーレムを起動した後に名前を付けてやらねえとダメだぜ」

「アルハーン001から通し番号でと指示されている。ちょっと、捻りが無いが当面はこれで行く」

「了解だ。じゃあ、そろそろ始めるぜ」

「ああ、もう2次装甲は出来上がってる。あとは、装着して微調整だけだ、楽しみにしてくれ」

俺はガンドロクに頷くと。ゴーレムの生成呪文を唱える。

「我が母国アースデリア王国を守護する者よ! いでよ! ゴーレム!!」

生成呪文はいつものではなく、少しアレンジしてみた。要は俺のイメージが重要で文言の問題じゃねえからな。

「さあ、ガンドロクさん名前を付けてやってくれ」

「うむ。お前の名は『アルハーン』だ、国の為尽くしてくれ」

『はい、ガンドロク様』

「よし、動作確認だ。サクッと済ませちまおうか。ハッチオープン」

俺の言葉に反応し、バイザーが大きな角度で頭上に跳ね上がりマスクがせり出す。タラップを登りコクピットに乗り込む。

「ハッチクローズ」

コクピットが、頭部に引きこまれるバイザーが定位置に戻る。ハーネスを締めヘルメットを付けヘッドアップディスプレイを下ろす。倉庫内の風景がクリアに映し出される。この辺りは烈火と同じクオリティで作られている。

『始動前チェック終了。必須部分オールグリーン』

アルハーンか告げる。そう言えば、ガンドロクさんは001って付けなかったな。まあ、唯一俺の工房で作られたアルハーンタイプだ。名前はオリジナルで良いかもしれないな。

「了解。さっそくやるぞ」

俺は、魔力コントロールで指先から動かし始めた。


一通り動作確認を終えると。

『全て狂い無く作動しています』

よし、調整の必要は無いか。アルハーンの報告を受け外部スピーカーをオンにする。

「ガンドロクさん。動作確認完了。全て正常に動作するぜ。工房に運ぶから、向こうで受け入れ準備を頼む」

「おう! 任せておけい!」

そう言って、工房に戻って行く。

「ゲートオープン」

正面ドアを開け魔力操作では無く、スティックとペダルを使ってアルハーンをガーゼルの王国工房に移動させるべく操縦する。荒っぽい動きをさせ通り沿いの家を壊してしまう事のないように通りをゆっくりと歩かせる。10m程の高さから見る街並みはやはり中世ヨーロッパの都市の様だ。

「もっとも、中世ヨーロッパの街並みなんか全然知らねえけどさ」

『中世ヨーロッパとは何ですか?』

「ああ、何でもねえ独り語とだ。気にするな」

『はい、マスター』

マスター? 俺の僕として起動させた訳じゃねえんだけど?

「アルハーン、俺をマスターと呼ぶのか? お前はアースデリア王国所有のパペットバトラーだ。俺の所有物じゃねえんだぞ」

『操縦者はパペットマスターなのです。ただ、それでは呼び名が長すぎますので、マスターとお呼びしました』

なるほど、そういうことね。

「わかった。これから2次装甲を付けて完成だぞ」

『はい、楽しみです』

楽しみか。・・・こいつにも感情が有るのか。感情が有るゴーレムか。フィーアのように戦いを居やがるヤツとか出て来ねえだろうな。少し心配になりながら通りを進んだ。


ガーゼルの王国工房か、ウチの店の何倍有るんだ? ガーゼルの北の外れに外壁を大きく拡張し広大な敷地を確保して作られた工房を見てちょっと驚いている。

「でかいな。何体くらい同時に作れんだろうな? まあ、整備する場所も必要だからな」

この場所で作られたアルハーンがこれから大陸中で活躍する事になるんだろうな。そしてこれからアースデリア王国と同盟を結ぶ国々では、同型機が使われる事になるって訳だ。大きく開いたゲートの前にはガンドロクを始め鍛冶師隊の皆が揃ってこちらに向かって大きく手を振っている。

「いずれはここで、お前の性能を上回るパペットバトラーが次々と開発されるんだろうな」

『そうなるでしょう。でも、そう簡単に主力機の座を譲るつもりはありません。それに、そうなっても全ての量産型パペットバトラーの基は私です。もっとも全てのパペットバトラーの基は業火姉様ですけど』

「はははは、そうだ。そうだな」

皆に迎えられ工房に入りアルハーンをハンガーに入れた俺は、ガンドロクにアルハーンを引き渡した。装甲は既に作り始めているそうで、2日程で試作品が出来るとの事だが、すり合わせも必要だしな。

「ガンドロクさん、そろそろパペットマスターになる人材を呼んでくれないか。ゴーレムを操縦するのは気に入らないかも知れないから、騎士でなく兵士でも良い」

「何を言うんだ。タケルの扱う業火の戦果を知らぬ者はおらんよ。一騎当千どころの戦果ではなかったのだ。皆が皆手を上げているんだ選ぶのに苦労する状態だよ」

「そうか、取りあえずは10人だな。そいつらが教官の候補って事だ。それを勘案して人選してくれ」

「わかった。騎士団長が苦労しそうだな。がははは」

「その人選で、アースデリア王国のパペットバトラー部隊の性格が決まっちまうんだ。出来るだけ柔軟な思考が出来る人間が良いと思うぜ。なんせ、新しい兵器を運用するんだ。今までの戦い方に拘るようなヤツはいらない」

「なるほど、新しい兵器には新しい発想の用兵が必要と言う訳だな」

真面目な顔で頷くガンドロク。さて、どんなヤツらが集まるやら。

「そうそう、俺の言う事を素直に聞ける事も重要だぞ。なんてったってこんな若造に物を習おうってんだからな」

「何を言うんだ? お前さんは救国の英雄だぞ。騎士団長だろうとタケルの言葉に耳を貸さないなんて事は無い」

「え? そんな事になってんの?」

「当たり前だ。自分が何をしたか自覚が無いのか?」

「だって、ガーゼルじゃ今までどおりのの扱いだぞ? 特に人が押し寄せる事も無いし」

「ガーゼルは特別だ。元々ガーゼルの英雄と呼ばれ、さらにフィフスホーンを追い返しているんだ。今更アースデリアの英雄になった所で、人々の対応は変わらんよ。それに、お前さんの邪魔をしないようにとの領主様の通達が回っている」

「へー知らなかった」

「お前さんが知らなかっただけだ」

そんな事になってるなんて。

「ははははは」

ガンドロクは力なく笑う俺の肩を叩いて。

「そう気にする事でも無いさ。タケルは今までどおりにすればいい。どんな肩書きが付こうとお前さんはお前さんさ、中身が変わる訳じゃない」

そりゃそうだ。その後、今後の打ちあわせをして工房を後にした。



「それにしても・・・・・」

そう呟くガーネットに。

「それにしても何だよ」

「派手すぎると言いたいんだと思いますよ」

アシャさんが言う。何だそんなことか。

「そうか? カッコいいだろ?」

「カッコ悪いとは言いませんけど」

ノエルも微妙な顔をしている。

「いいな、こいつには俺も乗れるのか?」

「ああ、ラングもパワードスーツが使えるようになったしな。パペットマスターになってもらうよ」

俺達5人が見上げる視線の先には2次装甲を装着した烈火が立っている。烈火のシルエットは業火とそれ程変わらない。ただし、ボディカラーが逆になっている。つまり、朱色のフルプレートメイルに緩いカーブを描く漆黒のライン、漆黒の炎のようなグラデーションで「烈火」の文字が書いて有るのは肩では無く左胸だ。それ以外の違いといえば、業火の左腕には物理障壁を張れるソードストッパーが付いているが、代わりに烈火の左腕には固定武装としてオリハルコンで作った長さ1.5mのパイルバンカーが付いている事くらいだ。こいつはシャベルに使ったバシリスクロードの角の魔術回路が組み込んである。エクスプロージョンで打ち出すから、おそらく貫けない物は無い。下手な物理障壁くらい打ち抜くだろう。

「さて、業火と合わせてゴーレムギルドに登録に行こうか」

「なんだ? 業火の登録をしていなかったのか?」

「ああ、バタバタしててさすっかり忘れてた。はははは」

「「「「「やれやれ」」」」」


ゴーレムギルドに来れば必ずイベントが発生していたが今日はそんな事も無く無事に登録が済んだ。で、ギルドで会ったオルストロークと小さな会議室で向かい合っている。

「やっと、タケル殿と話す機会を得られましたな。色々忙しいようでしたので、遠慮しておったのですが、直にお会いすると我慢ができませんで。無理を言って申し訳ない」

「いえ、かまいませんよ。今回国と契約してパペットバトラー部隊の設立に協力する事になったんで、話を通さなきゃと思っていましたしね」

「そうそう、ギルドにも協力させて欲しいとも思いましたが、仕方ありませんね。事は秘密を要するのでしょう? ゴーレムギルドから情報が漏れないとは言い切れませんからな。残念ですが、しかたありません。でも、いずれパペットバトラーに勝るゴーレムを作ってみせますよ」

「そう言ってもらえると助かる」

「それにしても、業火の戦い凄かったですね。ゴーレムにあれほどの可能性があったとは。正直悔しくも有りますが、ワクワクした気持ちが抑えきれませんよ」

「その事で、お願いが有るんだ」

「タケル殿の願いで有れば、何としても叶えましょう」

オルストロークが気合の入った顔で言う。

「いやいや、それ程大した事じゃ無いんだ。各国のゴーレム部隊やゴーレムギルドの動きが知りたいんだ。俺の業火の働きを聞きかじった国が、何らかの動きを見せるかもしれない。その情報が欲しいんだ」

「ん? 情報ですか・・・。つまり、ゴーレムを中核として戦争を仕掛ける。と言ったような?」

「そういうことさ。そう言う動きを察知したら教えて欲しい。俺がやっておいて何だけど、ゴーレムを巧く使えば、国を落とすなんて難しい事じゃ無い」

「なるほど。分りました。タケル殿の言う戦争の無い世界の実現の為ですかな?」

「ああ、そう言う事だ」

「わかりました。私も魔物退治や冒険者の為にゴーレムを使いたいですからな。タケル殿の意見には賛成です。積極的に情報収集してみましょう」

オルストロークと握手をし分れた。


「さて、ガーネットどうだい? やれそうか?」

ゴーレムギルドを出て、その足で街の外に出てきた。ガーネットの乗り込んだ烈火の横に立つ業火の中から尋ねる。

「とにかくやってみる」

ガーネットから返事が来た。

『ズン。ズン。』

地響きを立てて、烈火が歩き出す。初めてとは思えないほどスムーズに歩いて行く。烈火の身体制御は完ぺきだ。もっともフィーアの制御がそのまま生かされているんだから当然だな。

「よし、走ってみろ」

「わかった」

烈火が走り出す。200m程走って立ち止まりこちらを振り向く。

「良い感じじゃねえか」

「ああ、魔力コントロールで動く」

「今度は体を動かしてみろ」

烈火が腰を落としファイティングポーズを取ると、左右の拳を数度打ち出す。更に、前蹴りからかかと落とし、回し蹴りに繋げていく。すげえな、ここまで魔力コントロールが出来るのか。やっぱりパワードスーツを使った訓練で正解だったな。もっとも、ラングはともかくアシャさんとノルンはここまで出来ないだろうな。やはり、体を使った戦闘に慣れていないと魔力コントロールは難しいらしい。しばらく動きを見ていたが。

「よし、良いぞ。戻ってラングと交代だ」

「了解だ」

ラングにも適正はあると思う。アルハーンもそうだが、魔力コントロールをしなくても、ペダルとスティックにファンクションキーで十分戦闘はできるんだけどな。まあ、次に作るパペットバトラーは業火や烈火とは全く違う物にするつもりだ。そいつは、魔力コントロールは必要無いと言うか、出来ない物になる。さて、ラングも十分動かせる事が分ったし。

「ラング。アシャさんと代わってくれ」

「おう!」

ガーネットもラングも動きが良かった。やっぱり、普段から無意識とは言え魔力による身体強化をしているせいだろう。次いで、アシャさんにノルンも操縦したが、ぎこちないな、まあ、訓練次第でできるようにはなるだろう。直ぐに人数分のパペットバトラーが準備できる訳でもないから、じょじょに出来るようになってもらえれば良いだろう。明日からはファンクションキーを使った訓練をすると言う事で今日の所は店に戻ることにした。


業火で烈火のエスコートをして店に戻った俺達はカウンターでお茶をしながらマッタリとしている。

「それにしても2人は凄いわね。初めてのパペットバトラーをあんなに上手に動かすんですものね」

ノルンが言うと。

「そうでもない、かなり制御に助けられていたように思う」

ラングが言う。

「そうだな、あれのおかげで動かせたのだろうな」

そして、ガーネットも同意する。

「俺だってフィーアの制御のおかげで最初は動かせたんだけど、慣れてくれば制御はほとんど必要なかったぞ。フィーアがそう言ってた」

「だったら、私達も店長のように自由に動かせるようになれるんでしょうか?」

そう言うアシャさんに。

「そう言う事だ。ただ、アシャさんとノルンには別のパペットバトラーを任せる事になる。次に作るヤツは、形からして全くの別物になるからな。魔力コントロールはそれほど必要ないと思うよ」

「全くの?」

「別物ですか?」

4人が首をひねる。

「ああ、業火と烈火は近接戦闘寄りのパペットバトラーだけど、後方支援タイプも作りたいんだ。人型にはしないから魔力コントロールは必要ない。・・・と思う」

「「「「思う?」」」」

「まあ、腕くらいは動かしてもらうかもしれない。それでも、大分簡単になるだろ?」

「そうですか?」

「魔力で動かす事に変りは無いのでは?」

アシャさんもノルンも納得できない顔だ。

「少なくとも、細かい動きは必要ないからさ。大丈夫だよ。それに、練習すれば2人とも烈火を使えるようになるさ」

「「はい・・・」」

2人は自信無さげに答える。

『バン!』

店のドアが勢い良く開いた。ん? ケーナが戻って来たか。

「ただいまー! はあはあ・・・・」

入口に目を向けると、走って来たんだろうか? 珍しく息を弾ませたアプリコットが立っていた。

「「「「「おかえり(なさい)」」」」」

皆が返事を返す。笑顔のアプリコットに向かって。

「どうしたアプリコット? 何だか嬉しそうだな? なにか良い事でも有ったのか?」

「はい。魔力の制御は及第点だって、師匠が!」

顔中で嬉しさを表現するような笑顔だ。

「おー。おめでとう。やったじゃないか」

「「「おめでとう。アプリコット」」」

アシャさん、ガーネット、ノルンの3人が声を揃える。

「ちょっと見せてくれよ。そうだな。ライトが良いな。そろそろ店の中暗くなってきたし」

「はい」

アプリコットはそう言って。

「輝け、照らせ、ライト」

『ピカ』

部屋をちょうどいい具合に照らし出す明かりが、頭上に現れた。

「出来るようになったな」

俺が言うと。

「ちょうど良い感じですね。頑張ったわねアプリコット」

ノルンが自分の事のように嬉しそうに言う。少し涙ぐんでるか? アシャさんとガーネットは良く分からないようだ。最初のライトを見ていない2人反応はこんなもんだろう。

「なあタケル? ノルンはどうしたんだ?」

天井付近に留まるライトの明かりを指差して。

「ただのライトの魔術じゃねえか?」

「まあ、ラングは見てねえからな。修練する前のアプリコットのライトはな、目の前に突然太陽が現れたような光が出たんだよ。しばらく目が眩んで何も見えなくなったんだ。ライトには必要ないほどの魔力を使ってたんだ。で、テラピアの所で魔力の制御を習ってたって訳さ」

「そんなにすごかったのか」

指をいっぱいに広げながら。

「ああ、こんなに太い蛇口からコップ1杯の水を汲むようなもんだろうからな。かなり苦労したと思うぞ」

「なるほど。何となく納得した。おめでとうアプリコット」

「ありがとうございますラングさん」

その時入口のドアが。

『バーーーン!!』

大きな音を立てて開いた。

「アシャ姉ちゃん! 助けて。ハイヒールしたけど目を覚まさないんだ」

そう言って店に飛び込んで来たケーナの後から人を背負ったアインが続いて店に入って来た。

「こっちに連れて来て」

あわてることなくアシャさんが、奥の部屋に有る仮眠用のベッドを示す。アインが後を付いていく。

「で、どうしたんだ? あれ」

「うん、クエストの帰り道で、倒れてる所を見つけて。何度もハイヒールしたんだけど・・・・」

そこまで話したところでケーナが崩れるように倒れ込む。ハイヒールを使いすぎたってところだろう。床に落ちる前に抱き上げベッドの脇のソファーに横たえた。

「まったく。シロといい変なもんばっか拾って来るヤツだな」

そう言ってケーナを見る。

「だって、ほおっておけないじゃないか」

そう言うケーナ。アシャさんが。

「怪我はしていませんが、かなり衰弱しています。しばらく何も食べていなかったみたいです。スタミナポーションを飲ませましたから、間も無く目を覚ますでしょう。誰か、シルビアさんに消化の良い物を作ってもらって来てください」

「俺が行こう」

そう言ってラングが店を出て行った。

「ケーナにもマナポーション飲ませておくか」

「自分がやろう」

ガーネットがポーションを取りに行く。

「頼む」

ガーネットに声を掛け、行き倒れの方を向く。ん? あれ? こいつ。

「アプリコット、ノルンちょっときてみ」

「はい」

「どうしたんです?」

部屋に入ってきた2人にベットを示した。

「あら?」

「シグ君?!」

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