いよいよ訓練開始
『カチャカチャ・・・・・・』
こことここを繋いで、そこにこれを通して。
「向こうのエンジンに比べて構造は簡単な筈だよな。もっとも、ガソリンエンジンの構造に詳しい訳じゃねえしな」
『カチャカチャ・・・・・・』
作業場に機械を組み付ける音だけがしている。
「『えんじん』とは何だ? 今作っている物の事なのか? この間も『えんじん』と言っていたが、全く違う物のようだが?」
「直線運動する力を使って回転運動を起こし、そいつを動力にする装置を俺が勝手にエンジンって呼んでるだけだ。この前のは風力エンジンだからな、動力を取り出すって言う目的は同じだからエンジンって呼んじゃあいるが、原理も構造も全くの別物さ」
「んーーーー。何を言ってるのかサッパリ解らん。しかし、同じ結果を得るために違った方法を採るのはなぜだ?」
「おっ、ラングのくせに良いところに気が付いたな」
「失礼な男だな。最も、お前の説明など全く理解できはしないが」
そりゃあそうだろう。この世界には無かった物の説明なんだ。わからなくて当然だろう。
「簡単に言えば、前のやつではパワーが出しにくかったんだ」
風力エンジンで高出力を得るには、かなり大きな風車が必要になる訳で、とてもパペットバトラーキャリアの動力には使えない物だ。
「なるほど。で、この筒の方が力が出し易いと言うわけだな」
「そう言うこと」
今作っているエンジンは、アインやツァイの関節にも使っている魔力シリンダーで、クランクシャフトを回転させる。まあ、作動原理は全くの別物だが、やらせることはガソリンエンジンと変わらない。
「シリンダーのニュートラルの位置を調節してクランクシャフトへ取り付けてやれば、余計な機構を付けなくても一定方向への回転運動になるはずだから・・・」
シリンダーの取り付け方式はV型4気筒・・・内燃機関じゃねえけど4気筒で良いよな。最初はバイクに搭せる事になるから、バンク角が深く取れるような形がいいだろう。内燃機関じゃないのだから、それ程熱は持たないだろうが、一応空冷式のエンジンのように冷却用のフィンは付けてある。回転数を制御するための魔結晶と動作用の魔結晶を取り付け完成だ。スイッチを入れると。
『ヒューーーーン』
「よし、完成だ」
順調に作動を始めたシリンダーエンジンをひと撫でして。
「しばらく来ないと思ったら。で、今日は何の用だ?」
「用が無いと来てはいけないのか?」
「当たり前だ。この建物は雑貨屋で、ここは俺の作業場だ。客でも無いヤツに居座られてもな」
「ぐっ」
あの勝負から数日たっている。ラングはまだガーゼルの街に居て、毎日店にやって来ては俺の作業を眺めたり質問したりして適当に時間を過し、皆が帰ってくる前に帰っていく。ノルンに会うのが苦手らしい。
「ん?」
ラングが何かに反応し、椅子から立ち上がる。
「それじゃあ、俺はそろそろ帰るとするか。それでは、またな」
そう言って作業場から表に繋がる15mのドアに向かって歩いて行く。
「ゲートオープン」
そう言ってドアを開けてやる。
「今度は客で来い」
「ああ、わかった」
そう言ったラングが左右を確認してドアから出て行く。
「ゲートクローズ」
そう言ってドアを閉めると。
『バーン』
「ただいまー」
「「「「ただいま」」」」
「おう、おかえり。ちょっと会議したいから、着替えたら集まってくれ」
「「「「「はい」」」」」
皆が着替える間に作業机の上を片付け、人数分のお茶を入れるために作業場を出た。
「さて、パーティメンバー会議を開催します」
「会議ですか?」
「何についての会議なのでしょう?」
ノルンもアプリコットも初めてだったな。
「それはだな、ファミーユの今後の活動について、みんなで意見を出し合いましょうって事だな」
「つまり、この前店長が話していた傭兵団のことについて、と言う事ですか?」
「アシャから大まかに聞いたが、店長本人から話が聞けると言う事なのだな」
「まあ、その事に付いても話はするけど、取りあえずはもう少し、身近な話になるかな」
「身近な話ってなに?」
そう言ったケーナだけでなく、他の皆も首を傾げている。
「アプリコットのことさ。ノルンどうだい、アプリコットの修練は順調かい?」
「そうですね、使える魔術は増えてきていますけど、制御が難しいですね。魔力が有りすぎるせいだと思うのですが、どんな魔術を使っても標準的な威力を遥かに上回りますね」
「まあ、魔力量が多いから、そうそう問題にはならないだろうけど。ファイアーボールひとつで森一つ灰にしちまっても困るよな」
「えー、威力が強いのは良いことじゃないか。修練だってちゃんとやってるんだから、そのうち出来るようになるよ 。アプリコットは頑張ってるよ、タケル兄ちゃん、アプリコットを虐めないでよ!」
「あたし頑張りますから。もっともっと頑張りますから。ファミーユに居させてください。お願いします」
「私の教え方が悪いんです。アプリコットは悪くないんです!」
「いや、別にアプリコットを責めてる訳でも無いし。追い出そうとか思ってもいないぞ」
「では、店長は何が言いたいのだ? 確かに口調は攻めているようには聞こえないが、言っている事はアプリコットを攻めているようにしか聞こえないぞ」
「店長には、何か考えが有るんじゃないかしら。魔術がうまく使えないくらいで、アプリコットをどうこうするような店長じゃない事は皆も分かってるでしょ?」
アシャさんが言うと、皆が俺の方に顔を向ける。不安そうなアプリコット、不信げな顔のケーナ、怪我んな顔のガーネット、何かを期待するようなノルンとアシャさん。
「絶対に効果が有るとは言いきれないんだけど、一つ試して見たいことがある。ノルンは、上級魔法も使える魔術師だから、魔力量も多いし威力も凄い。だけど、あくまでも普通の人間の範疇から飛び出してる訳じゃ無いだろ? でも、アプリコットは規格が違うと思うんだよ。規格内にいるノルンじゃ規格外のアプリコットに何か教えるって言っても限界があるんじゃないかって事さ」
「言いたい事は分かるが、じゃあ具体的にどうすれば良いと?」
「エルフってのは魔力量が多くて、魔術の技術も進んでるんだろ? 魔術の制御だって上手いんじゃないかと思うんだよ。アプリコットに合った修練だって、ノルンよりもノウハウが有るんじゃねえかな?」
「たしかに、タケルさんの言うとおりかも知れませんね」
「だとしても、どうやってエルフに修練をしてもらうのだ? だいたい、簡単に他種族に教えてくれるものでもあるまい」
「エルフの国まで行くということですか? 教えてくれるかも分からないのに?」
「いやいや、エルフの国まで行く必要は無いさ。もし行くことになっても、確実に教えてもらえるって事にならなきゃ行く意味がない」
「じゃあ、どうするんですか?」
アプリコットが、真剣な表情で訪ねてくる。
「身近に居るじゃん。魔術師のエルフがさ」
「「「「「??」」」」」」
皆が、不思議な顔をする。
「てらぴあダネ。ますたーハ貸シガアルカラ、てらぴあハ断レナイヨネ。流石ますたーハせこいね」
「「「「「!」」」」」
皆が驚いた顔をしているけど。
「わざわざ、シュバルリからガーゼルまで借りを返しに来てくれたんだ。いつまでも待たせるのは悪いだろ?」
「確かに、彼女なら適任かもしれませんね。第一印象は最悪でしたけど、良い人なのは、ギルドの受付を通して分かります」
アシャさんが言う。
「しかし、店長には借りが有っても、アプリコットに魔術の修行を付けるのとは、別の話なのではないか?」
「言ってみれば分かるさ。どうせ、他に当ては無いんだ。他のエルフに紹介状でも書いてくれれば御の字さ」
「だけど、お兄ちゃんの周りにこれ以上女の人が・・・・」
アシャさんが何か小声で呟いたが聞き取れなかった。
「さて、アプリコットの事はそれで良いとして。次は、傭兵団の話だな。アシャさんから聞いてるかもしれないが、戦争を力尽くで無くす為の傭兵団を作ろうと思ってるんだ」
「うむ、しかしあれでは傭兵団と言うよいも盗賊団の方が近いのではないか?」
「そうですね、いくら侵略国とは言え、やることは脅して言う事をきかせて、その上金品を巻き上げるんですから盗賊団ですね」
「良いんだよ。戦争が引き起こす悲劇に比べたらずっとましな筈だ」
「でも、その途中で兵隊とか殺さなきゃならないんでしょ?」
「けーな、ますたーハ、ソンナ事ハ承知ノ上ナンダヨ。ソレデモヤラナキャイケナイッテ思ウカラヤルンダカラ。ソレクライノ覚悟はデキテルヨ」
「傭兵団員は新たに集める事になる。俺の思いに賛同してくれる人間は少ないかもしれないけどな。まあ、気長に行くさ。パペットバトラーだって、直ぐに用意できるわけじゃねえしな」
「なんだ? 自分達は傭兵団に入れないって事なのか?」
「アシャさんは、入るって言ってくれたけど、皆に強要するつもりはないよ。アシャさんだって、これからよく考えて決めてくれて良い。時間はあまり無いけど、それほど、切羽詰まっている訳でもない」
「どう言う意味? あたしの気持ちは変わらないよ! お兄ちゃんにだけ重荷を背負わせたりしない!」
「俺がやろうとしていることは、独善的で独りよがりで一方的な正義の押し付けだ。人々の共感なんか得られるとは思ってないし、得られる訳がない。自分に降り掛かった不幸でなければ、それを力尽くで解決しようなんて奴は、忌避されるぞ。人々から石を持って追われる事になる。そんな事に付き合う必要なんか無いんだぜ」
「それでも! それでも、あたしはお兄ちゃんについて行くよ! 誰が何と言ってもお兄ちゃんのやりたいことはあたしのやりたい事だよ!」
アシャさんは、感情的になると口調がかわるな、今は少し冷静じゃ無いな。
「自分も、入れてもらわなくてはな。もともと冒険者になった時の思いは、住民の平穏な暮らしを護りたかったからだ。護る範囲が少し広くなった程度で、その思いが変わるものではない。タケルが何と言おうと付いて行くぞ」
そうだな、ガーネットはそう言うだろうなと思っていた。
「わたしも傭兵団に入れてください。パペットバトラーをメインに使うのでしょうが、魔術師にも活躍する機会はあるでしょう。なにより、わたしも戦争は大嫌いです」
ノエルが言うと。
「あたしも戦争は嫌だ」
「あたしもです」
ケーナもアプリコットもノルンに同調する。この2人も入ると言い出すんだろう。
「2人は、まず修練してからな。これから色々な事を見て聞いて、自分で判断できるようになってから。その時になっても、俺達の傭兵団に入りたい。傭兵団の考えに賛同できると思ったら入団しろ」
「「・・・・・・はーい」」
「よし、いい子だ」
「俺の様子がおかしいと思ったら。傭兵団をやっていて、おかしくなったと思ったら。無駄な人殺しをするようになったと思ったら、遠慮なく言ってくれ。言う事を聞かないようになっていたら、どんな手を使っても止めてくれ」
「店長は変わらないと思いますよ」
「そうだな、自分もそう思うが、もし、そんな事が有ればそうさせてもらう」
「タケルさんに救ってもらった命です。そんな事になったらこの命にかえて、止めてみせます」
なんか、ノルンの覚悟が凄いな。
「さて、傭兵団のメイン装備になるパペットバトラーだけど。俺1人で作るのには限界があるんだ。で、人手を増やしたいって訳なんだ。パペットバトラーの情報が多少漏れる事は覚悟の上だ。でも、ゴーレムギルドのオルストロークか、アースデリア王国の鍛冶長のガンドロクくらいしか当てが無いんだよな」
「おそらく、この国で最高の技術を持った2人に向かって、くらいしかとは、店長かなり贅沢な事を言ってるぞ」
「そうか? オルストロークは、この機会に情報を入手出来るとなれば、話に飛びつくと思うし。アースデリアにはパペットバトラーの技術供与を約束してる。それ用の工房をガーゼルの街に作るって言うんだ。パペットバトラーを直接いじって、技術を覚えられるとなれば、まず断ることは有り得ない」
「どちらにしても情報の漏洩の可能性があるって事なのだな。ゴーレムギルドを巻き込めば、情報は漏れ放題になるんじゃないのか?」
「ガーネットもそう思うよな。少なくともガンドロクなら、アースデリアの中から漏れる情報は少ないはずだ」
「そうだな、どんな組織にも金にだらしない人間はいるだろうからな」
「そう言う事だな」
そう、情報は漏れるだろう。ただし、俺達のパペットバトラーの中枢部は俺が作るし、人出が必要なのは、技術供与する物とも基本的に一緒だ。
「と言う訳でテラピア。例の貸しだけど」
「何が、と言う訳なのか分からないけど、なにかトラブル?」
「いいや、体で返してもらいたい」
騒がしかったギルドの中が水を打ったように静まり返る。テラピアは少しだけ呆けた後、顔を赤く染め自分の肩を抱くように両手を胸の前で交差させる。
『ゴキ!』
俺は頭を抱えてしゃがみ込む。
「ぐわ! まるで、スタッフで後頭部を思いっきり殴られたように、頭が痛い」
「アシャ・・・・・・。タケルは平気?」
「ゴメンなさいね、店長がおかしな事を言って」
「ひでえなアシャさん。何もスタッフで殴らなくても良いじゃないか。テンプレだろ? 様式美ってやつだよ。条件とか出す時に、態と勘違いしやすいように言うのは、お約束ってヤツだ」
俺が泣き言を言うと。いつの間にか、ギルド内には喧騒が戻っている。
「店長? テラピアに言う事が有るんでしょ?」
笑顔で言うアシャさんの目が笑っていない。正直に言って怖い。
「あー、テラピアすまない。言い間違えた。実は、アプリコットの魔術の師匠になって欲しいんだ。引き受けてくれねえかな?」
「アプリコットちゃんの? ノルンが居るでしょ? あの子、かなり腕の良い魔術師よね?」
「そうなんだけど、アプリコットがアレすぎて、魔術の制御を教えられないって事になって。エルフのテラピアなら行けるんじゃねえかと思ってさ」
「んー、魔力量が多い? 威力の制御が出来ないって事かしら?」
「そう、それだ。よくわかったな」
「エルフの子供にも良く居るのよ、生まれつきそういった子供がね。でも、人間では聞かないわね」
「規格外なんだよアプリコットは」
「ふーん、いいわよ。じゃあ、いつでもいいから、アプリコットちゃんを寄こして。一度ちゃんと話を聞いてみないとね」
「よろしく頼む」
「ええ」
「何をしている!!」
早朝の職人街にラングの叫び声が響き渡る。
「何って? 修練しているように見えないか?」
俺とケーナそしてガーネットの早朝の修練は毎日続いている。最初は作業場でやっていたんだが、物が増えてきた今は店の裏庭に移っている。ガーネットと打ち合っていたところだ。
「修練と言うからには毎日やっているんだろ? 俺とは1度しか戦わないと言った癖に、ずるいだろ!」
「ずるいとは何だ。自分達はタケルとパーティを組んでいるのだ。ウチのパーティは店長の能力が高すぎてバランスが悪すぎるんだ。修練して少しでも力を付けねばならんのだ」
「そうだよ。あたしだっていつか強くなってタケル兄ちゃんと肩を並べて魔物の討伐が出来るようになるんだ」
それを聞いたラングは。
「確かに、パーティメンバーの能力が揃っている事は理想だが、タケルの能力が高すぎる。しかも、その若さだタケルの力はもっともっと上がる。いつまでたっても追いつけないぞ」
「「うっ・・・」」
2人は言葉に詰まってしまう。ラングの言う事に納得しちまったのか?
「そんな、少女を今から鍛えているようでは、お前の言っていた傭兵団を作るなどいつになるかわからんぞ」
「そう馬鹿にしたもんでも無いぞ。ケーナの冒険者としてのランクはF+だけど、クエスト達成数は3桁だし、達成率は100%だ。俺なんかよりずっと凄い。それに、剣術だけで冒険者の実力が決まる訳じゃないさ。大体、冒険者パーティのメンバーで傭兵団を作る訳でも無いぞ」
「その少女は、魔術師か? だったら尚更、魔術師に剣術を教える意味が分らん。魔術師の武器ならメイスなんかの打撃武器で良いだろうに」
そりゃそうだ。アシャさんだって、スタッフの他にメイスを持っているし、ノルンもそうだ。
「ケーナはそんなんじゃねえよ。お手伝いクエストも多くこなしちゃいるが、討伐だってギルドランク以上の魔物を狩れる。条件さえ整えばCクラスの魔物をソロで狩れる」
AMRを使わせれば、俺よりも命中率が高い。徹甲榴弾を使えばブラッドグリズリーだって500m先から倒し放題だ。ラングはケーナの様子を覗って。
「・・・・・・嘘では無いようだな。まあ、こんな少女がCクラスの魔物を倒せるとかちょっと信じられないところだがな」
「ケーナもガーネットも上達してきたからな。傭兵団の装備を作るのにだってまだまだ時間が掛かる。これからだよ。全部これからだ」
「そうか。・・・・・・えーと、その・・・・・・。何だ」
「何だ、お前は、ファミーユに入りたいのか?」
「そうじゃない」
「だったら、タケルの傭兵団に?」
「それは・・・」
「ひょっとして、自分達と一緒に修練がしたいのか?」
「そっ、そんな事は!」
・・・はっ! これは、まさか仲間になりたそうにしているってやつか?
「何だ、そうじゃないのか。ならなぜ自分たちの修練に割り込もうとするのだ」
「そうじゃないとは、言って無い」
「面倒なヤツだな。どうなのだ、はっきりしろ。それとも、単に修練に混ぜてもらいたいだけなのか?」
ラングは、そっぽを向いて。
「そりゃあタケルに稽古を付けて欲しい。今は、全く敵わない、しかし、このままでいるつもりは無い。それに、タケルの傭兵団。戦争を無くすと言うその考えには同調するし、出来る事なら一緒にやりたい。例え武力により、兵士の命を奪い一時的な平和を得るだけの行為だとしても。単なる住民が巻き込まれる戦争が繰り返される状態よりよっぽど益しだ」
そう言って俺を真っ直ぐ見つめ。
「タケルの傭兵団。俺も入れて欲しい」
ラングは、アースデリア侵攻に参加していない。止める事は出来なかったが、自分の評価や立場が悪くなるにも係わらず、侵攻に参加しないと言う態度で自分の意思を現わしたって事か? 俺の考えに近いのか?
「ああ、一緒にやろう。ただ、さっきも言ったように傭兵団を作るには時間が掛かる。それまでどうする? ・・・・・・ファミーユに入るか? もっとも、皆が了解しなきゃならないけど、まあ大丈夫だろう」
「そうだな、自分はOKだ」
「うん、一緒にやろうラングさん」
「・・・ああ、よろしく頼む」
「なんで? なんで、あたしより高ランクなの?」
「元とはいえ、スガラト王国公認の勇者なんですから、G-ランクからとか有り得ないでしょ」
「あたしなんかいつまでたってもF+なのにーーー!」
「あのね、成人前なんだから仕方無いのよ。ギルドの規約なんだから。ケーナちゃんなら成人したら直ぐにEランクよ」
アネモネさんが、ケーナに説明している。しかし、成人までは危険なクエストをソロでは受けられないようにしてるって事か。ちゃんと考えてるんだな。
「残念だけど、そう言う決まりじゃしょうがないな。こんな事にめげずにクエストがんばれよ」
「そう言うタケルは、もっとクエストやらなきゃダメでしょ」
アネモネさんの話を聞いたラングは。
「なんだ、タケルはあまりクエストしないのか、ランクは?」
「そうだな、あんまりやらねえな。でもいいんだ、俺はそう言うの気にしねえから」
それを聞いたアネモネさんは。
「あんまりやらないって言うのは、もっとクエストをやってる人の事を言うんです! タケルは、ほとんど
やらないでしょ。普通の冒険者程度にクエストやってれば、Aランクだって夢じゃないんだよ!」
「いや、冒険者になって1年にもならないのに。Cランクなんだぜ、出来過ぎなくらいじゃね?」
「じゃね? じゃないでしょ。ゴブリンの氾濫を防いでフェンリルを討伐してるのよ。クエストの達成回数さえあれば、もっともっとランクは上がってるわよ」
「タケルもがんばれ」
「タケル兄ちゃん。頑張らなきゃ」
「タケルは頑張らなくてもいいから、普通にクエストしなさい」
3人に押されるように、1歩下がって。
「おっ、おう。普通に頑張ろうかな―。と思ってみたり、みなかったり」
「ちゃんとしなさい!」
「はい」
「意外と早かったですね。というか、向こうは平気なんですか?」
「平気だ。うちの部下は優秀だからな。もっとも、副長以外の主力はこっちに連れてきちまったがな。なーに、いつまでも、わしが鍛冶長と言う訳にもいかんからな。いい経験になるだろうさ。それに、こっちの方が断然面白そうだしな。パペットバトラーか。戦っているところを是非みたかったな」
パペットバトラーの技術供与の申し出を受け入れた王国が、ガーゼルにパペットバトラーの工房を作る事になり先発部隊が到着した。俺の店にその部隊がやって来た。と言っても取りあえず7人。俺はと言えば責任者として着任したガンドロクと話し合っているところだ。
「じゃあ、工房の準備が出来るまでは、俺の所で研修と言う名の手伝いで良いんですね?」
「ああ、なにぶん初めて扱う物だからな。こちらとしても有難い申し出だった。しかし、鍛冶隊だけでよかったのか? ゴーレム隊は連れてきていないぞ」
「ゴーレム核は、俺が作るから問題ないですよ」
ガンドロクは、隊員達に向かって。
「俺達の部隊は、このタケルの工房で当面の間パペットバトラーの作成を手伝う事になる。が、実際には研修だ。何事も初めての事ばかりになるが、お前達ならやり遂げられると信じている。今後の国の行く末を決定する事になる技術だ。皆、心して励んでほしい」
「「「「はい!」」」」
つづけて。
「この工房の中で見る物は、全て最高の国家機密と同等の価値が有ると心得よ! 言うまでも無い事だが、情報漏えいは国家反逆罪となる事を肝に銘じて欲しい」
「「「「はい!!」」」」
え? そこまで、大げさに考える事も無いと思うが。国がパペットバトラーを作るようになれば、遅かれ早かれ情報は漏れる。
『ゲートオープン』
ん? ガーネットの声だな。戻ったのか。作業場のドアがゆっくりと開いてゆく。
「「「「「おお!!」」」」」
開いたドアの方を向いたガンドロク達から驚きの声が上がる。
「ん?」
何事かと思って振り向くと。バイクにまたがって、ゆっくりと作業場に乗り入れるガーネットがいた。
「なんだ? 自分が何か? あ、邪魔をしてしまったか」
そう言うガーネットはと言えば、何かあったら危険だからと俺が言ったせいで、まるっきりビキニアーマーのまもーるくんを着ている。セクシービキニでバイクにまたがっている姿は、そのままバイク雑誌の表紙のような感じと言えばわかり易いだろう。かなりセクシーだと言う事だ。眼福である。
「タケル殿。その乗り物はなんだね?」
ガンドロクの問いかけに。
「俺が作ったバイクの試作品です。まあ、人を乗せて走るだけの魔道具です。ゴーレムではないので、全て自分で操作してやらないと、全く動きません。ヤマト帝国が所有する戦車の動力はどんな物なのかと想像して作った動力の実用試験をするために作った実験機の1号機です。そこの奥に停めてある2号機と合わせてそのうち販売しようと思ってます」
俺の指差す先には、魔力シリンダーエンジンを搭載した2号機がある。こっちの方がパワーがダイレクトに後輪に伝わるし出力も有る。ただし、風力エンジンを搭載した1号機と違って、フレームを上下に分けていないので乗り味は硬い感じになる。ガーネットは、1号機の方が気に入っているみたいだ。
「ほう、『ばいく』と言うのか? どんな意味があるのか解らんが。タケル殿なら、『はしーるくん』とでも付けるところではないか?」
「あ、それ良いですね。売る時はそれで行きます。あはははは」
「がははは」
俺につられてガンドロクも笑う。そうだ、この国で初めての自走する車両と言う事になるんだな。俺の技術を見せるにはちょうど良いかも知れねえな。
「どうでしょう? 俺の技術を見てもらうにはちょうどいい。試走会でもしますか?」
「おう、それは良いな。わしも初めて見る魔道具だしな。皆も興味が有るようだしな。お願いしようか」
隊員達はさすが技術者と言ったところか目を輝かせている。
「タケル殿。これは素晴らしいものですね」
「オートマタの技を使うとこんな物も作れるのですね」
「タケル殿の店で売るとの事でしたが、いつ頃になるのですか?」
「いくらになりますか? これほどの物です。とても私になど手がでないほどの値段なのでしょうね」
「金を貯めて自分の物にしたいものです」
試走ではなく試乗会になってしまった。結果は、好評だった。しかし、値段か。ゴーレムドンキーが30万イェンくらい。馬車と合わせて40万イェン。それから考えると・・・・。
「そうですね、実際に売るとしたら。10万イェンくらいでしょうか? 1人か2人しか乗れませんし、荷物も大して積めませんしね。このままの形で売るならそのくらいでしょうか」
「おー、こんなすごい魔道具がその値段で買えると言うのですか」
「ちょっと頑張れば買える値段ですね」
「もっと、ずっと高価な物かと思っていました。今から予約してもよろしいですか?」
「おー、お前そんなに蓄えが有るのか?」
「鍛冶に没頭してたからな。その程度の蓄えはある」
やはり、魔道具は高価な物と思っているらしい。でも、ゴーレムホースや剣なんかと違って、競合他者が居ないんだから、そっちに配慮した値段設定にする必要は無いので、そこまで高価にはならない。早馬よりも速度も出るし、乗り手に掛かる負担も小さい。様々な用途に合わせた半オーダーメイドにでもすればそこそこ売れるかな? ただし、車輪を使う関係上道は選ぶ事になる。
「さて、こいつがパペットバトラーを操縦する為の訓練機だ。取りあえず3台作ってみたんで使ってみてくれ。こいつは訓練用に作ったもんだけど、使いこなせるようになれば、クエストをこなす時にも使える便利な道具のはずだから、取りあえず使えるようになって欲しいんだ」
鍛冶師隊がパペットバトラーの部品を作ってくれている。骨格のパーツが完成し、今はダンパーとシリンダーを作っているところだ。そいつが完成したらい骨格の組み上げに入れる。おかげで時間が取れたので、ここ1週間でパワードスーツを作る事が出来た。全体の印象は、宇宙服をモチーフにしたユルキャラのような感じか? 頭部はフルフェイスのヘルメットを3倍くらい大きくしたサイズで、内側にスクリーンを取り付けパペットバトラーを操縦する時に違和感が無いように考慮している。体は球体っぽい関節の間を蛇腹で繋いだ感じで、使用者の体格の違いをある程度カバーできる構造になっている。と言っても、ガーネットが使えるサイズだから、さすがにケーナやアプリコットには使えない。もっとも、あの2人がパペットマスターになる頃には、体も成長してるだろうからこのままで平気だ。そして、あまり太っていると着られない。太ってさえいなければ胸のサイズはかなり大きくても行ける! そう、行ける! まあ、1週間のやっつけ仕事だから機能優先でデザインは全くダメだが、皆が使いこなせるようになるころまでにはバージョンアップで、カッコイイデザインに変更しよう。
「アイン達とは全く似ていないゴーレムだな」
「ずいぶん、ズングリしたゴーレムですね。今まで店長が作ってきた物達とはずいぶんデザインが違うんですね」
まあ、中に人が入るんだ。ガーネットとアシャさんの言うとおり、アイン達とは全然似ていない。全くコンセプトが違うんだから当り前だ。
「時間が無かったからそっちの方は煮詰めて無いんだ。今後の魔改造に期待してくれたまえ」
「店長。魔改造って、どんな改造をするつもりなのだ?」
「色々だな」
「「「「「色々ね」」」」」
「ああ、色々だ」
「ますたー、コノ子タチハ何? 普通ノごーれむジャナイネ」
「そうですね、あたし達や業火ともずいぶんちがいます」
「あたしは、これ可愛いと思いますよ」
「アプリコットもそう思う? あたしも可愛いと思うよ」
「ケーナ達の言うとおり、自分も可愛いとは思うが、なんなのだこのゴーレムは?」
「ふふふ、聞いて驚け。これは魔力操作を覚える為の訓練機。そして、魔力操作が出来るようになったら、パワードスーツとして運用できるゴーレムだ。まあ、小さなパペットだな」
「小さなパペットですか? これに乗るって事でしょうか? どこに乗るんですか?」
ノルンの疑問ももっともで、こいつの身長は2m程しか無い。だいたい、乗るんじゃなくて、着る物だ。しかも、中に人が入る関係上、アイン達のように内骨格系ではなく外骨格系のロボだ。見た目が全く違うのはそのせいだろう。胸に付いているレバーを捻って胴体の前面を跳ね上げて。
「ここから入って、着る事になるね。取りあえず、アシャさん、ガーネット、ノルンの3人用だから、着てみてくれ。あ、その格好だと、服が引っ掛かるから、まもーるくんに着替えてくれ。アシャさん達はケープとスカートははずさないと着れないからね」
「え? そんな格好で着るんですか?」
「恥ずかしいです」
恥ずかしいかも知れないが、関節部分に咬みこんだり、ハッチからはみ出したりしちまうからな。体にぴったりとフィットした服でないとパワードスーツは着られない。けっして、俺が見たいから、そんな格好をさせる訳じゃないんだ。ただ、結果的に素晴らしい光景が見れる事になるだけだ。
「着チャエバ表カラハ見エナインジャナイカナ? ますたーノ考エル事ダモン、ドコカ抜ケテルネ」
「アインうるせえ。乗り込む時と、降りる時に見れるから良いんだよ。・・・・あ! いや、その、そんなつもりは全く「あるよね。タケル兄ちゃんのスケベ」」
ケーナに、言葉を遮られた。
「何を言うんだ、ケーナ君。ソンナツモリハマッタクナインデスヨ。ホントウダヨ」
皆が俺を見る目が冷たいような気がしてならない。
「そうですよ、乗り込む時には店長が立ち会う必要は無いんですから」
「え? ・・・・・・いや、俺が居ないと着方わからないよ?」
「ちゃんと説明してもらえれば平気ですよ。ねえ?」
「うむ、そうだな。もっとも、自分は見られても一向にかまわないがな」
「「ガーネット(さん)!」」
「ガーネット姉ちゃんのまもーるくんカッコイイよ」
「うん、カッコイイです」
「そうだろ?」
ガーネットは最近はバイクに乗る時もまもーるくんを着てるからな、抵抗が無いんだろう。
「タケる兄ちゃん、もう入っていいよ」
「ああ、どうだ?」
倉庫に入ると、3体の宇宙飛行士が・・・・・。ゆるいな、なんか不思議な光景だ。
「まるで、イベント会場だ」
「いべんと? なんだいそれ」
「いや、何でも無い。どうだい、パワードスーツの具合は?」
「こ、れ、は、な、ん、な、の?」
アシャさんがぎこちなく言う。動きはもっとぎこちない。
「まったく動けません」
ノエルは、ゆっくりと両手を上げて万歳しようとしているようだ。
「ノエル。この程度で動けないとは情けないぞ。いくら後衛だと言っても、鍛え方が足りないぞ」
「そんな事言ったって、これじゃ足を出しただけで倒れそうです」
ノルンが泣き言を言う。
「しかし、店長。このパワードスーツは凄い! こいつを着て自由に動けるようになれば、その名のとおりパワーが付くな。でも、パペットバトラーの操縦とはそれ程力が必要なものなのか?」
「いやいや、体を鍛えてパワーを付ける為のスーツじゃねえからな? 動きをトレースして、力を増幅させるのが、本来のパワードスーツだぞ」
「ん? 全く増幅された感じがしないが? 壊れてるんじゃないのか?」
ああ! そう言えば説明してなかった。
「えーと。そのパワードスーツな、パペットバトラーの操縦訓練用だから。動きをトレースしないんだ。自分の体を動かしながら、自分の体の動きを意識的にスーツに伝えないとダメなんだ。パペットバトラーを操縦する時は自分の体ではレバーやスイッチを操作しながら、頭の中で動きを指示しなきゃいけねえんだけどさ、とりあえずは、指示どおりにパペットバトラーを動かす訓練として、体を動かしながら、同じ動きをスーツに指示できるようになってくれ」
「わかった」
「「わかりました」」
あれから、1時間。ノルンが腕をパタパタ・・・ただし、ゆっくりと動かしている。あれは、明日腕が上がらなくなるんじゃねえかな? アシャさんは、ラジオ体操みたいな動きをゆっくりと繰り返している。アシャさんも筋肉痛確定だな。
「ぐぎぎぎぎぎ・・・・うぉーーーー!!」
ガーネットは、叫び声をあげながら歩き回っている。ただし、ゆっくりとしか動けない。あれは、明日ベットから出られねえに違いない。とにかく、誰も魔力コントロールはできてない。まあ、当り前だ。そう簡単に出来るようになるなら、そもそもパワードスーツなんか作りゃしない。
「あーーーーー!!」
『ドーン!』
大きな音に目を向けると、アシャさんが着るパワードスーツが床で、ゆっくりとジタバタしている。
「アシャさん、大丈夫? 怪我してない? 起き上がれる? 訳は無いか」
「あんまり大丈夫じゃありません。まもーるくんのおかげで怪我はありません。重くて起き上がれません」
性格なんだろうか? アシャさんが律儀に答えてくれる。美人な上に可愛い人だなー。
「ちょっと待ってて」
作業用ゴーレムに指示して、アシャさんを起こしハンガーに立たせる。
「ありがとう」
「いやいや。アシャさん疲れたろ? みんなも少し休憩しよう」
ノルンはハンガーの前から動けていないが、歩いては戻れねえな。作業用ゴーレムに移動を指示する。
「店長、このパワードスーツは本当にちゃんと動くのか? もう1時間も動かしているが、全く手ごたえが無いぞ」
ガーネットは自力でハンガーまで戻れる。まあ、倒れたら自力では起き上がれないだろうが。中身が空だけど、アイン程の重さはある。フルプレートメイルなんかとは比べ物にならないくらい重たい。俺だって身体強化しないと持ち上げられない。
「当たり前だろ。俺だって、魔闘流を習ったから出来るようになった事だぞ。ウチの流派習い始めてから10年掛かってんだ。それを1時間やっただけで、出来ねえとか動かねえとか失礼じゃねえ? まあ、取りあえず、除装して休もうか」
「デモますたー。本当ニ動ク所ヲ見セタホウガ、ワカリヤスインジャナイノ?」
それもそうか。
「よーし、皆が休んでる間に、俺がやってみせようじゃーないか」
『『『シュ』』』
パワードスーツの胸部ハッチが開く。3つ並んだ・・・。素晴らしい! 素晴らし過ぎる!
『『『カシュ、カシュ、カシュ、カシュ』』』
残りのハッチが次々に開いて行く。
「「「ふーーーー」」」
外に出た3人が揃って息を吐いた。
「!」
すげえ眺めだ。アシャさんは、アシャさんは、・・・・・・胸だけじゃなかったーーー! 括れたウエストから腰にかけてのライン。う・つ・く・しー!! ス・バ・ラ・シー!!!
「ますたー、あしゃノオ尻ヲ眺メテナイデ、早クヤッテミセテヨ」
「エ? ソンナモノミテイナイヨ。アインハナニヲイッテルノカナ? サーテ、パワードスーツニノリコモウ」
「タケル兄ちゃん、フィーアの時みたいに。ゴーレムの生成呪文を唱えて無いとか?」
「はあー? ケーナ君良いかね、そう言うネタを2回使っちゃダメなんだ」
「そうなの?」
「ただし、毎回やるなら、それはそれで有りなのかもしれない」
そんな事を言いながら装着する。球体関節を繋ぐ蛇腹が伸びて俺の体格に調整されていく。ほーら、ちゃんと生成呪文を唱えて有ったじゃねえか、じゃなきゃ蛇腹の調節とかしねえもんな。さーて、行ってみよー。その時。
「もどった」
ドアを開けラングが入って来た。
「「おかえり」」
「「「「おかえりなさい」」」」
部屋の中を眺めたラングは。下着よりは水着に近い格好をした3人を目にして。
「どわーーーー!!」
思いっきり後ろに跳びのき。
『ゴン!』
「ぐわっ!」
後頭部を壁に叩きつけ床にうずくまった。
「なかなか面白いリアクションありがとう。ところでラング。模擬戦するぞ」
修練用の剣の持ち手をラングに付きつけながら言った。