ガーゼルの街
ギルドに再登録です。
これ、なんか変じゃね?
蒼穹の翼のみんなとガーゼルに向かって歩き出したんだけど。なんだか違和感が凄い。俺が頭をひねっていると。
「タケルさんどうしたの?さっきのでどこか痛めた?」
とアシャさんが俺を心配そうに話しかけてくれる。
「いや、そんなことはないよ。ただなにか違和感が.....」
なにが気になってるんだろう。
「違和感ですか?体に違和感があるってことではなくて、なにか気になることがあるってことですか?」
「ああ、そうなんだよねー、なにがそんなに気になるんだろう.....」
そう言って俺は周りを見渡した。そして馬車を引くゴーレムホースを見て違和感の正体に気が付いた。
「馬の歩き方って、こんな感じだったっけ?」
そうなんだ、ゴーレムホースの歩き方がおかしいんだ。実物の馬なんか子供のころに動物園に行った時に見ただけだ。あとはテレビで見たことがあるくらいだから、馬に詳しいわけじゃないけど、これは違うってことだけははっきりわかる。そう、まるで人が2人で入って歩く馬のように歩いているんだ。馬の歩き方ってこうじゃないよな。
「俺は詳しくないけど。もっとこう....しなやかと言うか軽やかと言うか.....だいたい関節の動きとか違うんじゃないか?」
「そうですか?私も馬には詳しくないんですよ」
すると、ヒースが。
「タケル殿するどい観察眼ですね、だから本物の馬に比べてゴーレムホースはスピードが出ないし、馬車を引かせても乗り心地が悪いんですね」
たしかにゴーレムホースの歩き方だと背中が大きく揺れて馬車の揺れも大きいような気がする。
「そうか~?俺は全然気にならないけどな」
「スナフは...そうでしょうね」
「スナフですからね」
「スナフだもん」
「スナフらしいんじゃないか」
「スナフさん.....頑張れ」
ヒース、アシャ、ヴァイオラ、バトロス、俺の順でそれぞれスナフに声を掛けると。
「なんだよ!かわいそうな人を見るような眼で俺を見んな!」
「ぷっ」「ふふふ」「あははは」
本当に楽しそうなパーティーだなー。
自分用のゴーレムホースを作ってみるのもいいかもしれないな。
俺は、ゴーレムホースを良く観察してみる。材質は岩かな?ストーンゴーレムってやつか?足の動き方もおかしいけど、関節部分はどうやって曲げてるんだろうな?曲げる時には柔らかくなるのか?それとも、もろくなるのか?砂のようになるんだろうか?
一度自分でゴーレムを作ってみないとなんとも言えないな。落ち着いたら魔物討伐用に1体作ってみようかな。
周りを警戒しつつも色々な話をしながら歩いていると街道の先に大きな城壁を持つ街が見えてきた。
「あれが、ガーゼルの街だよー」
とヴァイオラが教えてくれる。
「おー、結構大きな街だなー。と言っても他に街なんてアリステアしか知らないけどね」
「ん?アリステアか、昔どこかで聞いたことがあるな、この国とはだいぶ離れてるんじゃなかったか?」
バトロスが聞いてきた。少し俺のことを話してみてもいいかな。
「ああ、たしか.....どこだっけ?ちゃんと聞いたことないかもしれない」
そんなことなんか気にする余裕はなかったしな。
「俺って、山の中のムグミンって村のはずれの方で、祖父ちゃんと2人で暮らしてたんだ。とんでもない祖父ちゃんだったみたいでさ。いろんな技術を教えてくれたんだけど。一般常識みたいなことはゼンゼンでさー。少し前に祖父ちゃんが死んで、近くで一番大きな街に仕事を探しに行ったんだよ」
「そこがアリステアって街か」
「うん、そこで1カ月くらい働いてたんだけど。急に周りの景色が変わったと思ったら、さっきの森のそばに一人で立ってたんだよ。ほんの5時間くらい前はアリステアの街にいたんだよ俺は」
「ちょっと信じられない話だな」
「だよね、俺だって他人に聞かされたら、もっとうまい嘘を付けって思うよ。でも、カード見てくれよ」
俺はバトロスにカードを見せた。
「確かに、ムグミン村の村民ってなってるなー。ムグミン村ってところも聞いたことないな。俺は結構あちこちに依頼で行ってるが聞いたことないな」
「やっぱりそうなのかー、ガーゼルの街に付いたら何とかアリステアに帰る方法を探そうと思ってたんだけどな」
ひょっとしたらアリシアが心配してくれてるかもしれないし。
「あれだけ大きな街だから近くにあれば聞いたことないってことはないと思うんだけど.....、周りの風景が全然ちがうから、魔法的な不思議な力でここに連れて来られたんじゃないかって考えてたところなんだよ」
「少ないとは言え親しくしてた人もいたから、なんとか帰りたいけどね」
直ぐには無理だよな。
少ししんみりしてしまった空気を変えようとしたのかバトロスが。
「ところで、タケルって17才なんだな。その歳でどうやったらそんなに技術を身に付けられるんだ?」
「だから言ったろ、祖父ちゃんがとんでもない人だったんだよ」
「えータケルって17才なの?あたしの方が2つ年上かー」
「俺より10も年下なのかー若いな」
「え?バトロスって27才なのか?35才くらいかと思ってた」
「なにー、どこをどう見たって「35才くらいには見えるわな」なんだと?そう言うスナフだって俺と同じ年には見えないぞ」
「スナフさんも27なのか......老け顔だね。ひょっとしてヒースさんも?」
「私は26才だよ」
そこでアシャさんを見ると。
「秘密です!!」
だ、そうです。
23才くらいかな?美人すぎて年齢が分からない。
「俺って人を見る目が無いみたいでさ良く分からない」
「そうだな俺が35才に見えたってことは、お前の目は節穴ってことだ」
「いや、そこは正しく見えてたんじゃないのあははは」
「なんだとー!!」
「アシャおね―さーん、35才のオジサンが年甲斐もなく怒ったー」
「もう、ヴァイオラったら」
「それにしても、タケル殿が17才とはな、成人したてくらいかと思っていたよ」
「あーそれあたしも思った」
「俺って、そんな風にみえるのか?」
日本人顔だから若く見えるのかもしれない。
「ほらほら、歳の話はもうお終い。門に付いたわよ」
アシャさんの半ば強引な話題の転換だ。
気がつくと大きな門の前に付いていた。街に入る人の列ができている。列の最後尾に並んでしばらくすると、俺たちの番が周ってきた。蒼穹の翼のメンバーはカードを見せただけで中に入って行ける。俺は兵士に。
「身分証明を見せてくれ」
と言われてカードを見せた。
「名前は、タケル シンドゥ、犯罪歴はないな、....ムグミン村?聞いたことない村だな。この街に来た目的は?」
「村から出て冒険者になるためだ、名前はタケル シンドウだ」
「そうか、街の住民ではないから入るために銀貨1枚だ、高いと思うかもしれないが1度払えば1カ月は出入り自由だ、冒険者ギルドに入ればそれからは払う必要はないぞ」
この世界では街に入るときに名前を間違う決まりでもあるのか?今回もスル―か!
俺は銀貨1枚を払った。
「よし、ガーゼルの街にようこそ」
おれはガーゼルの街に入った。
街の中はアリステアと同じように中世ヨーロッパ風の石造りの建物が石畳の両側に並び奥の方に城が見える。
「ここってアースデリア王国の王都なのかい?」
アシャさんに尋ねると
「いいえ、王都はもっと大きいですよ。ここは王国にいくつかある城塞都市の1つです。王都からは一番離れていますが、王国で2番目に大きな街です。隣国との交易の中心になっていますから発展してますよね」
「ここって冒険者って多いのかな?」
「そうですね、近くに魔の森がありますし、交易する商人の護衛クエストも多いですから冒険者の仕事はたくさんありますね」
「そうかー、だったら食いっぱぐれることはないな」
「タケルさんなら依頼がこなせないってことはないわよ」
アシャさんが笑顔で言ってくれた。思わず見とれてしまったのは仕方がない。美人のお姉さんの笑顔は破壊力抜群だ。
そうこうしてるうちに冒険者ギルドに付いた。
「じゃー俺たちは、クエスト完了の手続きをしてくる。魔核はタケルが持ってたよな?」
「ああ、持ってる」
「ブラッドグリズリーの素材は換金してくるけどいいよな?」
「え?バトロスさんがしてくれるの?」
「心配するなピンはねなんかしねーよ」
「そんな心配なんかしてないけどいいのかい?登録に時間かかるんじゃないかな」
「晩飯を一緒に食う約束だろ?そこまで一緒にいこう」
「ありがとう」
バトロス達はギルドの裏に回るようだ。俺は、受付カウンターの列に並んだ。ギルドの中は、アリステアとあまり変わらない。市役所の受付に食堂が併設されているみたいだ。ここの方が少し広いかも知れない。
しばらくして俺の順番が回ってきた。
「冒険者ギルドガーゼル支所へようこそ。初めての方ですね?」
「は、はい!初めてです!冒険者になりに来ました!」
お、綺麗な女の人が受付をしている。他のカウンターにも綺麗な女の人ばかりが付いている。
ここに転移してから綺麗な女の子?率が上がっている気がする。いや、上がった間違いなく上がった!
受付のお姉さんは。
「はい、新規登録ですね。では身分証明を提示してくださいね。そしてこの登録用紙に必要事項を記入してください。代筆は必要ですか?」
「代筆はいりません」
俺はカードを渡し登録用紙に記入した。
お姉さんは登録用紙を見ながら何やら魔道具を操作しカードを返してくれた。カードの職業欄を見ると、(職業:冒険者・ランクG-)と表示されている。正直またかと思ったのは仕方がない。
「お待たせしました、これで登録は終了しました。続いて冒険者ギルドの仕組みについて簡単に説明しますね。お時間平気ですか?」
綺麗な女の人の笑顔って素晴らしい。しかももう少しその笑顔が見れるんだぞ!当然!
「はい、お願いします!」
この返事以外の返事はあり得ないよな。アリステアのギルドとはルールが違うかもしれないしな、うんうん。
「冒険者ギルドは冒険者の方々と依頼主の間に入ってクエストの斡旋をしたり、素材を買い取ったり、冒険者の税金を管理したり様々な便宜を図っています。この大陸内の全てのギルドは統合されていますので、今お返ししたカードさえあればどこのギルドでもクエストを受けることができます。」
え?ギルドが統合されているだって?統合はいつになるか分からないって言ってなかったか?
「ギルドが統合されたって言いました?....あ、田舎で祖父ちゃんと2人ぐらしだったので、ギルドのことって祖父ちゃんに聞いただけなもので」
思わずお姉さんの話を遮ってしまったが、お姉さんは嫌な顔一つしないで答えてくれた。
「なるほど、今から10年ほど前になりますので、地方のお年寄りには情報が届いていなかったのですね。以前から統合に向けて準備は整っていたのですが、国や貴族の中には反対する者も多かったのです。戦闘力の高い武装した集団が国を越えてつながるのですから危険と考えていたのでしょう。詳しくはお話出来ないのですが、ある出来事とある事件と災害が重なった結果、とある国の領地が崩壊寸前になってしまったのです。住民に多大な被害を出したことを重く見た各国と冒険者ギルドの代表が話し合い双方の合意を得て統合が実現したんですよ。商業ギルドや鍛冶ギルドやゴーレムギルドなどはすでに統合されていたのですから決定してからは速やかに統合されたそうです」
10年前だって.....。
「以上が説明となります。おわかりいいただけましたか?」
他の部分はアリステアで聞いたものと同じだった。
「はい、なんとか理解しました」
お姉さんはにっこりわらって。
「では、これからよろしくお願いいたします」
「はい、よろしくお願いします」
と言って俺はカウンターを離れた。
なんてことだ、チュートリアルステージから転移してのは場所だけじゃなくて時間もなのか。
今からアリステアの街に戻ってもアリシアに合える可能性はかなり低いってことか?いや、おれの年齢がそのころのままなんだから、別人扱いされるのに決まってる。アリシアに恩を売るわけじゃないんだから、アルトガイストでの生活をここから始めれば良いってことか。
「まあいいか、考えても答えが出ることじゃね―しな」
「どうした?登録は済んだか?」
バトロスたちが待っていてくれたようだ。
「ああ、今日から冒険者ランクG-だ、先輩方よろしく頼むよ」
「まかせろ!まずは晩飯を一緒に食おう。時間もちょうどいい。さっきも言ったが上手い飯を食わせてくれる店があるんだ」
そう言えば、前に食事をしてから大分時間が立ってるな。
「早く行こう!」
冒険者ギルドがある地区から結構歩いていると、バトロスが。
「ほら見えてきたぞ、あそこ『シルビアの宿屋』だ、宿屋だけど1階の食堂で飯も食えるんだ。煮込み料理とか最高に美味いぞ。この辺は職人街だから冒険者相手の店じゃないが、職人ってのは食い物にも煩いんだな、この辺で流行ってるんだから味も量も補償つきだ」
俺はそこで重大なことに気が付いた。
「あーー、今日の宿決めてない!」
思ったことを文章にするって難しいですね。