謁見? 会談? 強請?
「王都をこんなふうにしたくなければ、武器を納めろ!!」
業火に迫っていた兵たちは一瞬の逡巡の後次々に剣を鞘に納める。全員じゃなかったが、間を置かずに見渡せる範囲に居る者達は同じようにする。上官の命令でも出たか? そして、自分達を守る外壁が壊れたのを見た住民達は、王都の中心に向けて逃げ出し始めた。パニックを起こしたか? 整然と逃げる訳にはいかないだろう。怪我人ぐらいは仕方ないだろうが、死人は出ないで欲しいところだ。
「さて、次は、指揮官を連れて来てくれるかな? あ、俺気が短いからなー」
それ程待たされる事も無く1人の男が兵士の間から出て来た。
「俺が、ここの指揮官代理だ」
「代理?」
その男が崩れた外壁を指差しながら。
「ああ、指揮官がそれを見てビビっちまってな。今さっき代理に就任だ。殲滅の白刃のネームバリューは絶大だな」
「それは・・・・・・。おめでとう?」
「別にめでたくはねえよ。面倒事を押しつけられただけさ」
「そいつは、ご苦労さん。上官命令は絶対ってか。宮仕えはつらいね」
「ほっとけ! お前のせいだかんな。で、なんの用なんだ?」
「おう、王都をぶち壊す前に、今回の事情ってヤツを責任者。まあ、王様に聞いてみたくなってな。合わせろ」
「な! そんなこと出来る訳ねーだろうが! あんた、何人殺ったと思ってんだ」
「合うか合わないか、それを判断するのはお前さんじゃない。だいたい、今日は1人も殺しちゃいない」
「今日はって。・・・・・・分かった。今伝令を出そう」
「半刻だけ待とう。それまでは、外壁も町も壊すのは止めよう。ただし、そちらの出方次第で再開だぞ。それから、謁見じゃなく、あくまでも話が聞きたいだけだからな。どっちが上位なのかちゃんと分からせろ」
「・・・了解した。おい、ターナンドお前が伝令だ」
指揮官代理の指示を受けた男が馬で走り去った。外部スピーカーを切って。
「アシャさん、気分は悪く無いかい? ちょっと激しく動いたからな」
「うん、ちょっとドキドキしてるけど大丈夫だよ。ところで、どうやって壁を壊したの? いくら魔道具のシャベルでもこんな風に壊せるもの?」
「魔術が届く範囲はこんなにひろくないさ。大体、このシャベルは強度を上げる記述式しか仕込んでない。夕べ仕込んだゴーレムだよ。壁の中に潜り込ませたんだ。業火がシャベルを叩きつけたタイミングで外壁をゴーレムで乗っ取って、すかさず身体を崩壊させたんだ。50体分で長さは2.5kmってことさ」
「そんな事を。でも、兵隊が外壁を囲んでたじゃない? どうやって、ゴーレムを?」
「一番小さな猫型にして、1匹づつ隙間を抜けさせたんだ。壁を囲んでいるって言ったって、猫が通る隙間なんか幾らでも有ったぞ」
「なるほど。じゃあ今ゴーレム達はどうしてるの?」
「次の壁を壊す為に、待機中だ。壁が崩れたどさくさに紛れて移動させた」
「なるほど。でも、何でそんな面倒なことをしたの? 最初からゴーレムで壊しちゃえば良かったんじゃ?」
「こっちの方がインパクト有るだろ? 同じ事を街にやれると思わせられれば。俺の勝ちだ」
「勝ちね・・・」
「ああ、やってやれない事は無いけど、ゴーレムが壊すところを見せるより、こうした方が相手の心を折り易いだろ? 業火の力がとんでもないって思わせるのさ。5000人の兵士を全滅させたって事がどういうことか、王城に居る連中にも分かりやすく説明してやったんだ。これで、俺が優位に交渉を進められる」
「そうだね」
「国相手に交渉して、自分の思い通りの条件を引き出すんだ。ハッタリは必要だろ? これで、あいつらは王都を壊されるプレッシャーを背負って俺と交渉しなきゃならない」
「でも、それだと。ヤケになって、暗殺されちゃうんじゃ?」
「さっき言ったろ? 今日は誰も殺しちゃいないって。あれで、俺が交渉に来たって事が分かるはずさ。どんな無茶な条件を出されるかと思ってビビってるぜきっと」
「・・・・・・お兄ちゃん。悪い顔になってるよ」
「え? ・・・・・・それはまずいな。子供だと思って上手く丸め込めるって思ってもらわなきゃいけないからな」
「見た目で軽く見られるだろうから平気じゃない?」
「まあ、当然だよな。なんたって、友好条約を結ぶだけだからな。軽くあしらえて良かったと思ってくれた方が良いだろ」
「そうだね」
さて、これからが本番だからな。上手くやらないとな。
「さて、そろそろかな?」
俺がいうと。モニターを指差したアシャさんが。
「あの馬車がそうじゃない?」
モニターを見ると随分立派な馬車が通りを走ってくるのが見えた。
「そうだな。フィーア、スピーカーを頼む」
「はい、店長」
しばらく待つと。門の手前で止まった馬車から男が降りてきた。大臣か何かなのか、結構立派な服を着た奴だな。
「国王陛下がお会いになる。馬車に乗れ」
へー、偉そうに命令してくるな。
「おいおい、自分達の立場が分かってるのかい? 乗れじゃなくて、お乗り下さいだろう?」
俺が言うと。いやいや言葉を絞り出すように。
「お乗り下さい」
そう言った。我慢強いか?
「だが、断る!」
俺が言うと。
「何だと! 貴様の言うとおり言い直したではないか!」
激昂して叫ぶ。
「沸点の低いオッさんだな。大体あんた誰だ?」
俺の言葉に。
「私は、内務大臣を務めるサクラント。私が直々に迎えにきたのだ! 大人しく馬車に乗れ!」
「俺は、タケル。ガーゼルで冒険者兼ゴーレム術師兼鍛治師兼雑貨屋の店長をやってる平民だ。その馬車に乗ってるところにフレアバーストでも打ち込まれたら堪らねえからな。この業火で王城まで行かせてもらうぜ」
「内務大臣の私が同行するのだぞ! そんな事をするはずがなかろうが!」
「そうかい? あんたが本物だっていう確認を取る方法がねえし、本物だとしたって、大臣の代わりくらい幾らでもいるだろ。安心できねえな」
そう言って、業火を王城に向けて進め始める。サクラントは顔を歪めたまま馬車に乗る。馬車は業火を追い越し先導するように進み始める。スピーカーを切るとアシャさんが。
「どうせ、王城では降りるんだから同じじゃない?」
「まあね。からかっただけさ。でも、業火を王城に持って行かないといけねえし。王城の中に入ればともかく、外だと本当に上級魔術が飛んでくるかも知れねえ」
用心に越したことは無い。
「こっちは1人なんだ。業火から降りてもそう簡単に殺られはしないけど、一応用心は必要じゃねえ?」
「1人? いいえ、あたしも行くから2人よ」
え? アシャさん、何を言い出すんだ?
「何言ってるんだ。アシャさんは業火の中にいてくれ。流石に危険だ。俺一人なら何とでもなるけどアシャさんが一緒じゃ」
「いやよ。この間も散々待たされて、心配させられたばかりなのよ。もう、待たされるのは嫌よ」
「嫌よって、言われても。危ないだろ」
「平気よ。新しいまもーるくんと、対魔術障壁が有るもの。あたしに危害を加える事ができるのは、お兄ちゃんくらいよ」
「そうかも知れないけど。防御も無限に出来る訳じゃ無いし・・・・・・」
そう言いながらアシャさんを見た。
「分かったよ。だったら、こいつを持っててくれ」
アシャさんの表情から絶対に引くつもりがない事を感じ取った俺は、カバンを渡した。
「何か有ったらこいつを床に置いてくれ。何も無くても、立ち止まったら床に置くこと。良いな」
「はい、お兄ちゃん。でも、これは?」
「アインのゴーレム核だ。万が一の時には、周りの物質を取り込んでアインが出てくれる。必ずアシャさんを守ってくれる」
「うん」
アシャさんは、にっこり微笑んだ。
何事も無く王城に着いた俺達は、案内されるままに廊下を進む。案内するサクラントが大きな扉の前で止まり、衛兵の1人に到着を告げる。扉が開くと、そこは謁見の間なんだろう。真っ直ぐに敷かれた濃い緑色の絨毯が、正面の玉座に伸びている。玉座には誰も座っていない。謁見のつもりなのか? 王様は後から登場って訳か。
「さて、陛下に謁見の栄誉を得たのだ。ここで、武器を渡して貰う」
サクラントが、そう言うと。扉を護っている衛兵が手を出す。
「俺は、謁見のつもりで来たんじゃねえぞ。ガーゼルを襲った連中の親玉に会いに来たんだ。部屋の中に武装した奴が居るかぎり、武装を解除する気はねえよ」
怒りの表情を浮かべるサクラント無視して部屋に入ろうとする。
「まて!」
と言って、俺達の前を塞ぐ様にハルバートが交差した。
『キーン!』
『ゴト』
澄んだ音を立てて2本のハルバートが先端を切られ床に落ちる。軽く殺気を放ちながら。
「次は何を切ろうか?」
信じられない物を見たような目をして固まる衛兵を無視して、サクラントに訊ねる。苦虫を噛み潰したような表情で。
「では、正面を進み絨毯の切れ目で膝を付き陛下の登場を待て」
へー、大分肝が据わった奴だな。さすがは内務大臣って事か。
「何だい、苦虫を頬張ったような顔だな。敬意を持てない相手に何で膝を付く必要が有るんだ?」
そう言ってアシャさんを促し歩みを進める。勿論膝をつくつもりなんか無い。謁見の間の奥には文官や武官そして近衛兵も居る。そして、目付きが鋭く冒険者のようないでたちで俺を睨む男も1人・・・。あいつが残った1人の勇者って訳か? 大股で絨毯の上を歩き、端まで行って止まる。もちろん膝まづいたりはしない。顔をしかめる者、呆れた顔をする者、生温かい目で俺を見る者。様々な顔で俺を見る家臣たち。
「ここをどこだと思っている! 間も無く陛下がお見えになるのだ! 膝を付いてお迎えせんか!」
武官の1人がそんな事を言う。俺は、そいつに態と憐れむような視線を向けて。
「入口のやり取りが聞こえない程そこは遠く無いだろ? それとも、モウロクして耳が遠いのか?」
「何だと!!」
「吠えかかるなよ。子供が場所も弁えず意気がってるだけじゃないか。いい歳なんだ、優しい気持ちで見守ってほしいな」
「貴様!!」
そこに。
「国王陛下の御成りである! 控えい!」
『ザッ!』
片膝をつきその場で敬礼をする。もちろん俺達2人は別だ。右袖の扉が開き護衛に守られるように王が現れた。俺達に一瞥をくれると玉座に腰を下ろす。
「楽にせよ」
王の言葉により、立ち上がる文官達。引き続き俺達を睨む者が多数いる。俺達の方を見た王が。
「お前が、殲滅の白刃か。何やら話が有るそうだな」
「ああ、あんたたちが仕掛けて来たケンカは、俺が買ったからさ、終わらせ方ってやつを相談に来たんだ」
「あれは、不法に占拠されている我が国の領土を奪還するための正当な軍事行動だ。喧嘩などではない」
「国際的に認められた王国を領土とはね、この国の大使館も有ったんじゃねえのか? それって、言ってることが矛盾してるよな」
たしか、アースデリアの王城でのパーティーに大使が出席していたはずだよな。
「そのような事実は無いな」
「あっそ。まあどうでも良いや、勇者を2人も投入してきたんだもんな。アースデリア王国を国とは認められっこねえってことかい?」
でも、アースデリアを国と認めてるのも国際法だよな。元々無理があった訳だな。国際法に批准している国なのにどうなんだろうね。
「さて、ここからが本題だ。どう落とし前を付けてくれるのかな?」
「あの惨状を見ればこちらから言える事は有るまい? お前の要求を聞かせて欲しいな」
「じゃあ、遠慮なく。スガラト王国の国家予算5年分の賠償金、アースデリア王国に友好的な国王に代わってもらって、王族を2、3人人質、それから友好条約をアースデリア王国の言った内容で取り交わす」
国王以外の臣下から驚愕、怒気様々な負の感情が湧きあがる。
「ってなことを女王に勧めたら、そこまでする必要は無いとさ。さて王様、あんたはどうしたい?」
「どうしたいとは?」
「俺が来るまでに7日有ったんだ、まあ、王子が帰るのに時間がかかったとしても。2、3日は時間が有っただろ。落とし所は考えてたんだろ? まさか、あれだけの事をした男が王都を更地にすると言ったんだ。あれっぽっちの兵で何とかできると思ってたとしたら。随分舐められたもんだな」
「止められんとは思っていた。おそらく、こうして会いに来るだろうとも思っていた」
「わかっていて、4万人もの兵を展開していたってのかい。無駄な事を」
臣下の怒りを煽るような事を言ってみる。
「何を言うのかと思えば。王都の周りには6万人の兵が居るのだ。このまま、王都で好き勝手が出来ると思うな」
へー2万人増員したのか。ああ、侵攻軍の他に防衛用に残す兵も必要だな。それも合わせて、王都の周りに6万人って訳か。さらに、武官の1人が。
「貴様は何を考えているのだ。5千人の兵を皆殺しにするなど有り得ん行為だぞ。そこまでせずとも、2千人程度を戦闘不能にすれば軍は引くのだ」
「そうなんだろうな。だから5千人を皆殺しにしたんだ」
王が俺の意図を探るように。
「あえて、それをしたと言うのだな」
「ああそうさ、2千人でやめたら、5千人しか居なかったから負けたと思うだろう? 次にくるのは2万人かい? それとも、5万人か? そうなったら、何万人殺せば軍は引くんだい? 皆殺しにすると5千人しか居なかったから5千人しか殺せなかったって思ってくれるだろ? 最小限の犠牲で済んで良かったじやねえか」
文官の1人が。
「5千人の命を最小限と言うのか! 良かったなどと!」
「もっとも、これからの話によっちゃ6万の兵を全滅させなきゃならねえかもしれねえけどな。そうなったら、アースデリア以外の周りの国から侵攻されて地図からこの国が消えちまうな」
そこで、国王が。
「殲滅の白刃の言いようからすると。お前も、アースデリアにも我が国に逆侵攻するつもりが無いように聞こえるが?」
「ああ、その通りだ。あの状況で王都を更地にするって言えば、守りを固めると思ったからああ言ったが、外壁を壊したのはただのデモンストレーションだ。やろうと思えば出来るって所を見せとこうと思ってな。実際にやって見せるつもりはあんまりないから安心してくれ。それから、俺の名前は、タケルだ」
「あんな事をやった者が何を言うか!」
「おいおい、今日の俺はまだ大した事はして無いだろ? 門を1つと、外壁2.5km位しか壊してねえし、軍に与えた損害だって、ゴーレム40体くらいだろ。軍を壊滅さた訳じゃない」
俺がそう言うと。王が。
「アースデリア王国との対等な立場での親和条約の締結。私は退位しアースデリア王国に友好的な王位継承者への譲位。賠償金はアースデリア王国と交渉させて欲しい。と言ったところか。タケル殿が言っていた条件からすると随分虫がいい話ではあるが、どうだろう? もちろんタケル殿に対しても出来る限りの事はさせてもらおう」
「フム」
俺は考え込む振りをする。条件としちゃまずまずだな。アースデリアを王国と言ってる事からも、自分たちの領土であるとの主張は最初から無理があるとはわかっていたって事だろう。
「では、国を代表できる人間をアースデリアに遣わしてくれ。交渉はガーゼルの街で待っている王女と直にやってくれ。俺に対しては、俺が率いる人間をいつでも自由にスガラト王国内を通行する事が出来る権利を頼もうか」
「通行する権利? そんなものでいいのか?」
国王が言うと。サクラントが。
「陛下! そんな事を許可しては何をされるか分かりませんぞ」
「サクラントよ。タケル殿はそんな権利など無くとも力に任せて押し通れるのだぞ。許可を求めようとしてくれるだけ増しだ」
「確かに、そうとも言えますが、国として押し通れる事を認める訳にはいきません。大体何のためにそのような権利が必要なのか。密輸でもするつもりではないでしょうか」
そこで俺が口を挟む。
「密輸なんかしねえさ。俺が将来作る傭兵団を自由に通行させて欲しいんだ。アースデリアからどこかの国に行こうと思ったら必ずこの国を通らなきゃならねえからな。武装した俺達を自由に通して欲しい」
「禁止された物資の密輸でなければかまわんか」
「陛下そんな事を許せば、我が国が侵略されてしまいますぞ。傭兵など金の為なら何でもやる連中ですぞ」
サクラントの言う事はもっともだが。
「侵略するなら今回やるさ。大体国を治めるなんてガラじゃ無い。金は必要だが、金の為なら何でもやろうとも思っちゃいない」
王が。
「だったら、何のために傭兵団など作るのだ?」
「俺が、どうしてもやりたいことの為って事かな」
「して、やりたいこととはなんだ?」
「それは、俺の手の届く範囲から戦争を無くしたいって事だ。今回の件で国境警備の兵士達を見てそう思った」
「戦争をなくす? それは又無理なことを言い出すものだな」
「そうかい? じゃあ聞くけど王様。戦争をなくす手段って何が有ると思う? 実現可能かどうかは別としてさ」
「過程はどうでも最終的に戦争をなくすというので有れば、世界征服?」
「まあ、途中でどれだけの人間が死ぬか知れないけど1つの方法だな」
「でなければ、何らかの手段で国という国の全てで同盟を組むか」
「それは良いね。人が死なないしな。でも傭兵団ではそんなことはできやしない」
「そうだな、傭兵団で出来る戦争をなくす手段だったな・・・・・・。まさか」
「あ、気が付いたかい? そうさ、戦争行為、いや、侵略行為かな? そいつを仕掛けた方。いや、俺から見て悪い方だな。その国に対して、傭兵団で急襲を掛ける。どちらかに雇われるんじゃなく、義勇軍的に王都に殴り込みを掛けるんだ。強大な武力による介入で戦争を仕掛けた国を叩きつぶすと標榜し抑止力とする事でどの国も戦争なんか出来なくする。今回やって見せたろ? ゴーレムの数を増やして傭兵団にすれば、子供が語る夢物語じゃ無くなる」
「確かにそう言う方法もあるかもしれん。強大な武力についてはそれで良いだろう。では、資金はどうするのだ? 雇われることなく傭兵団を維持する事は不可能であろう」
「悪いと決め付けた方に強請をかけるんだ。本当に王都をつぶしたりしたらその国の領土を巡って戦争が起きるだろ? 莫大な金をむしり取ってもう侵略戦争なんか出来ないようにしてやる。戦争が無くなったら、魔物の討伐をしながら、暮らすさ」
「そんな事をすれば、その国から恨まれるのだぞ。暗殺だって有るぞ」
「今回スガラト王国に1体のゴーレムで攻め込んだ男が、ゴーレムの軍団を作って戦争をつぶしに来ると言う噂が広まれば当面の間戦争はできなくなるだろうぜ。そうなりゃ、実際に戦争を止める為に国を強請る事も無い。俺を暗殺しに来るほど恨まれはしないだろうさ。もし来ても俺はこう見えて、フェンリルバスターだぜ簡単に暗殺なんかできやしないよ」
王は俺の話を聞いて真剣な表情で何事か考え事をしている。
「今回、アースデリア王国に侵攻した理由だが・・・」
と言う王の言葉を遮るように、俺は。
「ヤマト帝国に対抗するための武器製作に必要な鉱物資源を確保するためって所かな?」
それを聞いた王は、発言を遮った俺を咎める事もせず。
「知っているのならば話は早いな。ヤマト帝国は近い将来この大陸の西方を統一するだろう。然る後に、東方の国々に対しても武力を背景とした強引な併合や侵略行為を仕掛けてくるに違いないのだ。その日までに、我が国によって東方の国々を統一しようと考えたのだ。その為の武器を作るには鉱物資源の豊富なアースデリアを我が国の領土とする必要が有ったのだ。初手からつまずいてしまったがな」
「やろうとした事はわかるんだが、幾ら兵士を増やしても、どれほど良い武器や鎧を揃えても。ヤマト帝国の兵器には太刀打ちできないと思うぜ」
「どう言う意味だね?」
「この間ちょっと、ヤマト帝国の兵器と殺り合ったんだ。魔術の攻撃なんかよりも射程の長い攻撃手段を幾つも持った多砲塔戦車だった」
「タホートーセンシャとはどんな物だね?」
「対人戦闘用の武器が接近戦用や中長距離戦闘用の武器を複数積んでいる。長距離用の武器は、俺がさっき門を破壊したような武器だ。俺はさっき5km先から門を壊したが、同じような事が出来る筈だ」
「攻撃用の魔術などよりも遠方からの攻撃と言うことか」
「そうだ、しかもそいつは、魔術師でないどころか、ある程度専門的な訓練さえすれば騎士や街の商人だろうとある程度の戦果が見込める物だ」
「それはつまり。タホートーセンシャを作れば作るほどただの兵士が普通の魔術師などより強力な戦力になるということだな」
「そうだ。つまり、アースデリア王国を占領し鉱山からどれだけ鉱石を掘り出し、どんな武器や防具を作ったって無意味だってことさ」
武官の間に驚愕が広がり、その中の1人が。
「そんなバカな。そのような相手に対しどのように戦えば良いというのだ。戦争の概念が根底から変わる事になるのだぞ」
「ああそうだ。でも、どんな事情が有るのか知らねえが、未だサースベリア王国に対し戦争を仕掛けていないなら。戦車の量産はまだ出来ないんだろう。あくまでも、まだだろうけどな」
あの国は脅されて併合されるなんて事は無いだろうからな。
「センシャとタホートーセンシャは違う物なのか?」
「戦車の括りの中に多砲塔戦車が入っている。俺が見たのは多砲塔戦車だけなんだが、それが有るなら他の種類の戦車も有るはずだ」
「準備が整わないから大規模な戦争はまだ起きないだろうと言う事だな。では、準備が整えば」
「さっき王様が言ったように西方の国々を併合して、東に向かって攻め寄ってくるって事さ」
「なるほど。タケル殿は先ほど、やり合ったと言ったな。つまりあのゴーレムなら、そのセンシャに対抗できると言うことか」
「そうだ、そうするためにも傭兵団を作らなきゃならないってことさ。最も、国レベルの軍隊に対抗できる数を揃えるのは無理だ」
「では、どうするのだ?」
「俺の傭兵団で近隣から戦争を無くし、その後アースデリア王国と友好を結んだ国に対し、パペットバトラーの設計図を提供する。パペットバトラーは戦車よりも強いとは言い切れないが、俺には戦車を作る事は出来ねえ。パペットバトラーは1体作るのにも時間が掛かるし、操縦を覚えるのも簡単とはいかない。でも、俺にはそれ以外にヤマト帝国に対抗する手段が無い」
「わが国も、アースデリア王国と友好条約を結ぶ事で、パペットバトラーの設計図を手に入れる事が出来るというのか?」
「ああ、そう言う事になるな」
「アースデリアに侵略を仕掛けたのだぞ」
「それでもだ、力を付けなきゃならねえ、ヤマト帝国に対抗出来る為の準備は必要だ」
「しかし、それでは戦争を無くすと言う言葉と矛盾するな」
「そうでもない。俺達がヤマト帝国に届く前にこちらが壊滅してもらう訳にはいかない。防衛用の戦力だ」
「なるほど。先程の戦争を無くす方法だがな。ヤマト帝国の脅威に対抗するために同盟を組むと言う事も考えられるのでは無いか?」
「まあ、それも有りかも知れないが、具体的な脅威にならなければ難しいだろうさ。奴らが西方を統一し此方に向かって来る事が確実になったとしたって、この国のように自国だけで何とかしようとするだろうさ。国が幾つか滅んでからじゃ遅いぜ」
「確かに、その通りだな。友好国と協議し準備を始めるくらいは出来るか? よし、アースデリア王国とは是非友好条約を結ばねばならんな。出来れば同盟関係の方が望ましいか」
国王は、ヤマト帝国のやり方に危機感をもっていたって訳か。
「では、タケル殿。護衛を頼めるだろうか? 私がアースデリア王国に向かう事としよう」
武官達が慌てて。
「陛下! 危険です。自らアースデリアに向かうなど。しかも、このような者に護衛をさせるなど。何を考えておられるのですか!」
もっともな意見だよな。
「わが国は一度侵略の為の軍を送っておるのだ。ここで軍など連れて行くなど、例え護衛と言えども許されまい。それに、タケル殿以上の護衛などおるまいよ」
王がそう言うと武官達も何も言い返せない。
「と言うことで、ギルドに指名依頼を出させてもらう。受けてくれないだろうか?」
「構わないが、俺達のパーティは護衛なんかしたことないぜ」
「誰にでも初めては有るし。そうだとしてもタケル殿以上の適任者などおらんだろう」
「了解した。出発はいつだい?」
「明日、2の鐘を合図に出発としたい。東門の前に来てくれ。あそこは、通れるようにしておこう」
「了解した。で、ギルドにはいつ行けばいい?」
「2刻程で準備させよう」
「了解した、夕方にでも行ってみよう。朝から何も食って無いからな。宿を取って飯を食いたい」
「でも、タケルさんがあんな事を考えてたなんて」
「ん? 無理だと思う?」
「そうですね。普通に考えたら戦争を無くすなんて無理でしょうね。でも、業火を使うタケルさんが言うと出来るかもしれないと言う気がしますね。でも・・・・・・」
「でも?」
「タケルさん1人では無理ですね。わたしも手伝わせてください。パペットバトラーの操縦だって覚えますよー」
「いいのかい? 戦争を無くすと言いながら、自分は戦争を仕掛けるんだ。人が戦争で死なない為に、俺は人を殺し続ける事になる。そんな事に付き合う必要なんか無いんだぜ」
「わたしだけでは無いと思いますよ。ケーナもガーネットも、おそらくノルンにアプリコットも、わたしと同じ事を言うと思いますよ。タケルさんだけに辛い思いはさせません」
「だったら、アシャさん専用機作らねえとな」
「ふふふ。素敵な機体を作ってくださいね」
「ああ、まかせてくれ。さて、ここか?」
王城で冒険者ギルドに近い宿を聞いてきたんだが、さて、俺を泊めてくれるかな? 一応国からの紹介状を貰っては来たものの、あんな事をやったあとだしな。
心配したようなトラブルも無く部屋を取ることができた。勿論1人部屋を2つだ。・・・・・・俺ってヘタレだし。で、宿の食堂で遅い昼飯にしようって事になった訳だが。
「遅いな」
「そうですね。あら? あそこのテーブルって、私達より後から来たのにもう料理が届いてますよ」
料理を注文してから1時間程経つが、俺達のテーブルには水の入ったコップすら届いていない。
「これは、あれだな」
「あれ、ですか?」
「ああ、嫌がらせだ。俺が、ガーゼルでやったことが気に入らない奴らも多いって事だろ」
「でも、宿は取れましたよ」
「紹介状が無きゃ、それも怪しかったってことじゃねえのかな。気持ちはわかるんだけど」
俺は、厨房まで聞こえるような大声で。
「やり方が、セコイというか。国が卑怯な不意討ちしか出来ねえと思ったら。そこに住んでる連中も、人間が小せえよなー」
その声を聞いて、食堂に居た客たちが俺を睨む。冒険者風の男の中には立ち上がる者も居る。そこに、厨房から男が出て来た。
「お前は殲滅の白刃だろうが! お前なんかに食べさせる物は何もねえ! どのツラ下げてこの国で料理の注文なんかできるというんだ!」
そう怒鳴ると。涙を溢しながら。
「息子はアースデリア攻略に従軍した! でも、戻っちゃこなかった! お前が殺したんだ! 何がガーゼルの英雄だ。人殺しが! 人間のクズが!」
なるほど、そう言う事か。俺は、何でも無かったように。
「アースデリアから帰って来なかったんなら、あんたの息子を殺したのは俺だな。俺しか人は殺しちゃいねえからな。あんたの息子は騎士だったのかい? それとも、兵士だったのかな? どっちでもいいが、人殺しを仕事にしたんだろ? ガーゼルには、俺の家族や仲間、友達も居たんだ。勿論、兵士でも騎士でも無い唯の住民だ。その人達を守るために金を貰って人殺しをしようってヤツらを。殺し屋を返り討ちにしただけだ。責められる謂れはねえな。これから先はともかく、俺は、今まで金のために人殺しをした事は一度もねえんだ。まだ、そこまで腐っちゃいねえよ」
そう言って男を睨みつけてやると。男は睨み返してきた。
「息子は、国を守るために兵士になったんだ! 殺し屋なんかじゃ無い!」
「そうかい? スガラトの軍はアースデリアに侵攻する時に国境警備の兵士を皆殺しにしてる。5千人で16人に襲いかかったんだ。確かにあんたの息子は手を出す暇も無かったかもな」
「16人に5千人で・・・・・・」
「国を守るって言い訳は素晴らしいな。何も考えずに言われた事してりゃあ良いんだもんな。国境で殺してなきゃ殺し屋にならずにすんだな。そしてこの先も人を殺さずに済む。俺のおかげだ。感謝しろとは言わねえが、文句を言うのは筋違いだ」
そう言って席を立ち。
「息子が殺し屋になるのを止めもしないで、返り討ちになったら文句を言って嫌がらせをする。最低だな」
「ぐっ・・・・」
男は何も言えないようだ。周りの連中は複雑な顔をしている。
「さて、ここに居ても飯は食えそうもねえな。空気も悪い。どうせ、飯だって食えたもんじゃねえんだろうさ」
そう言い残して宿を出る。
「辛辣ですね」
「言われなきゃ分からねえこともあるだろ」
「そうですね」
俺達はさぞ浮かない顔をしてるんだろう。少なくともアシャさんはそうだ。
「お前が殲滅の白刃だな」
突然目の前に6才くらいの少年が飛び出してきてそう言った。右手には木の棒を握っている。
「いや、人違いだ」
そう言って少年の横を通りすぎようとする。
「嘘を付くな。ゴーレムから降りるところを見てたんだからな」
「知ってんなら聞くな。俺は、その呼ばれ方は好きじゃない」
「煩い、父さんの仇め」
そう言って棒を振り上げ俺に打ちかかって来た。慌てて止めようとするアシャさんを手を上げて制止し、子供に討たせるままにする。
『ドン、ドン、ドン・・・・・・ドン、ドン』
十数回振り下ろしたところで息を切らし膝まづいた。
「ハア、ハア、ハア・・・」
息を整えて、もう一度棒を振りかぶった。
「何をしているの!」
母親だろうか、飛び出して少年を抱きしめる。
「こ、こいつは、父さんの仇・・・なんだ」
「何度言えばわかるの。お父さんは戦争に行ったのよ。お父さんを殺したのは戦争なのよ、誰かに殺された訳じゃないのよ」
「だって、皆が、こいつが殺したって。仇だって・・・」
母親は涙を流し。
「違うのよ。そうじゃないの」
その言葉を聞きながら、2人の横を通りすぎる。2人を置き去りにして少し歩くと。
「言われなきゃ分からないんじゃ無いの?」
「あの母親が育ててるなら平気なんじゃね?」
「そうですね」
しばらく無言で道を歩く。
「あ、ここですね」
「うわ。でかいな」
目の前には周りの建物に比べてはるかに大きな建物がある。ガーゼルはおろか、アースデリアの王都に有るものに比べても遥かに大きな建物だ。
「大きな街ですからね。さあ、入りましょう」
アシャさんに促されてドアをくぐる。規模が大きなだけで作りはガーゼルの冒険者ギルドと大きく変わった所は無い。奥に受付カウンターがあり、右手にテーブルが、左の壁には依頼票を貼るボードが有る。依頼票はそれなりに貼られているが、中は閑散としている。俺の為に防衛用に動員されたのかも知れない。
「閑散としてるな」
「誰のせいでしょうね」
「さあ」
その辺の事は気にせずカウンターに向かう。
「冒険者ギルドにようこそ。どのようなご用でしょうか?」
受付にカードを出しながら。
「ガーゼルの街で冒険者をしてるファミーユのタケルだ。俺当てに指名依頼が入ってるはずだ」
「殲滅の白刃? 若いな。本物か?」
「軍隊潰し・・・・」
「ナイトメア オブ ガーゼル」
「あんな子供が?」
数は少ないが、ギルド内にいる冒険者達がざわめく。受付の女性は驚いた顔をしたが。
「はい、これが依頼書になります。内容を確認の上、お受けになるならサインをお願いいたします」
おー、凄いな。幾ら王家の依頼と言っても破格な依頼料が書かれている。迷惑料込みかな?