シャベル・・・・・次に使う事はあるのか?
アシャさんとキスしちゃったぞ! それにしてもアシャさんがアリシアだったとは。
「んー、元々美少女だったけど、あれほどの美人になるとは」
変われば変わるもんだ。主に胸とかバストとか。あんなになってくれるとは、お兄ちゃんは嬉しい。
「ん? 待てよ。昔アシャさんを助けた男って俺の事じゃね? 心に決めた人って・・・」
俺か? 俺の事だよな!
「うわー。アシャさんが俺を?」
そうだよな。ずーーーーーーっと好きだったって言ってたしな。椅子から立ち上がって拳を振り上げ。
「よっしゃーーー!!」
思わず叫んだ。だとすれば。
「さっきは、もっと色々なことをやっても、OKだったんじゃね? ・・・・・・イヤイヤ、お兄ちゃん的にはダメだろ」
・・・でも、抱きしめるくらいはオッケーだったかな。
「まあ、今はやることやっとかねえとな」
時間もあんまり無い事だしな。
「俺、この戦いが終わったら。アシャさんに自分の気持ちを伝えるんだ」
さて、バカな事言ってないでゴーレム核作っちまおう。
「タケル兄ちゃん! 部屋に居ないと思ったら。こんな所で寝て、風邪ひいちゃうよ」
「んが? あ、ケーナおはよ」
「オハヨじゃないよ。宿に居ないからどうしたんだろうと思ったら。こんな所で寝てるんだから」
あー、ゴーレム核が出来上がって、砲弾作ってる途中で作業台で寝ちまったのか。
「んーーーー」
作業台から顔を上げて伸びをする。
「寝ちまったんだな。まあ、作業的には順調だ。予定の範囲内で遅れてるけど、まだまだ挽回出来るな」
「挽回出来るならちゃんとベッドで寝なよ」
「わかったわかった。コレからはそうするよ。それにしても腹が減ったな。シルビアさんの所で朝飯食って来るかな」
と言った時。目の前にバスケットが差し出され。
「シルビアさんに作ってもらいました。取りあえず顔を洗ってきてください」
一緒に差し出されたタオルを受け取って。
「アリガト」
ぎこちなくアシャさんに礼を言う。
「イエ、オチャヲイレテオキマスカラ」
アシャさんが顔を赤らめてぎこちなく返事を返してくる。俺の顔も、似たようなもんかもしれない。受け取ったタオルを下げて洗面所で顔を洗う。冷たい水が気持ちいい。
「で、店長、今日の自分達の予定は。昨日アシャ達がやっていたように魔物から魔核を取って来ればいいんだな?」
「ああ、それで頼む。俺は店で装備やら何やら作ってるから。今日はガーネットもアプリコットもそっちに行ってくれ」
「「「「「「はい(ハイ)」」」」」」
「アプリコットはあんまり無理するなよ。徐々に慣らしていけばいいんだから」
「はい」
「あいんニオマカセダヨ」
「ああ、頼んだぞアイン」
皆を送り出した俺は、業火を見上げ。
「さて、ADRの弾は、今日の分の魔核がきてからにするとして。業火の改造と装備を作っちまおうかな」
元々トランクだった、補助席を1つ潰してゴーレム核を積めるようにしないとな。ランチャーを納める程の大きさは無いが、収納と出し入れを自動でやらせる魔道具があれば十分だ。その前に、もっとちゃんとしたシートにしないとな。
「よし、始めるか」
倉庫の奥からアシャさんのマネキンを出してきた。こいつに合わせてバケットシートを作らないとな。全力で戦闘する業火の中で体をきちんとホールドするにはそれでもちょっと不安だ。
「何かいい方法はねえかな? 俺は身体強化するから平気だったが、結構なGが掛かるからな」
本当は水槽に入ってスクーバダイビング用のレギュレーターでも咥えて欲しいところだが、そうはいかないよな。まあ、やってみねえと分らねえけど、俺が魔力操作で身体強化してみるか。いずれは魔道具で出来るようにしたいな。
「よし、まあこんなもんだろう」
ゴーレム核の収納用魔道具にバケットシート、そして。
「完璧な出来だ。業火が持てば似合うよな」
「ただいまー!」
作業場のドアが開きケーナ達が帰って来た。
「おう、おかえり」
「タケル兄ちゃん。お客さんだよ」
そう言われて振り向くと。
「おー。久しぶりだなダルニエル。元気だったか」
そこには、ケーナ達に交じって、ダルニエル達のパーティも揃っていた。
「ああ、久しぶりだな」
「お前達も防衛に来たのかい?」
「ああ、シュバルリ領にも出兵命令があったしな。何より私はこの国の勇者だ。とは言っても間に合わなかった訳だけどな。タケルが居なければこの街は蹂躙されていたところだ」
「結果としては何とも無かった訳だし、これから本隊が襲ってくるかもしれない。ガーゼルを守ってもらわなきゃならねえんだ。今からでも遅くは無いさ」
「そうか。しかし、本当に1人で乗り込む気なのか? 私も行こう」
「俺1人でいい」
「侵略戦争の追撃戦なんだ勇者の逆侵攻は認められている正当な行為だぞ」
「俺が出かけた後のガーゼルを守ってもらった方が良い。向こうの軍が俺と行き違いになったら俺が帰る場所が無くなっちまうからな」
少しだけ考えてから。
「わかった」
頷くダルニエルが俺の後ろを見て。
「ところで、タケル。そいつは何だ?」
「ん? パペットバトラーの業火だ。前に言ったろ? 巨大ロボを作るって」
「いや、業火の活躍は聞いたから知っている。そうじゃなくて、ゴーレムの足元に有るそれだ」
振り返った俺の目には。
「あー、この辺にはシャベルって無いのか?」
「いや、シャベルなら有る。有るんだが、そんなに大きな物は見たことが無い」
「業火用のシャベルだ。こう見えて魔道具なんだ」
「店長、スガラト王国の王都を更地にするって言うのは、それでやるんですか?」
アシャさんが言う。
「こいつでそんな事をしようと思ったら無茶苦茶時間がかかるし、大体本気で更地にするわけ無いだろ。今回の件はあの国に責任を取ってもらうつもりだけど、国民に被害を出す気はないよ」
「だったら、何でそんな物を作ったんだ?」
今度はガーネットだ。
「こいつは魔道具だって言ったろ。バシリスクロードの角の魔術回路をそのまま記述して見たんだ。オリハルコンの剣を折った強度の角に付いてた回路だ。魔力を流したこのオリハルコンのスコップは世界一硬いと断言できる」
「だったら、盾でも作れば良かったのではないか? なぜシャベルなのだ?」
「ダルニエルいい質問だ。白兵戦において、シャベルの有用性は俺が居たトコじゃ実証されているんだ。匙の部分に刃を付けているからな。突いて良し、切って良し、鈍器として殴ることも有効だ。そして何と言っても」
ここで一旦言葉を切り。タメを作る。
「「「「「「何と言っても?」」」」」」
みんなの声が揃ったところで。
「高周波ブレードのおかげで、サクサク穴が掘れる!」
「シャベルなら穴が掘れるのは当たり前よね」
「甘い! 甘いぞターニャ君。このシャベルはさらに、穴を埋める事すら出来るのだよ!」
「「「「「「はあーーー」」」」」」」
ため息を付く皆を気にせず。
「フィーア、業火にシャベルを持たせて構えてみてくれ」
『はい、店長』
業火がシャベルを持ち上げる。足を開き、腰を落として両手でシャベルを構える。
「んー。いいねー。良いよ! 右肘の角度といいシャベルの傾きといい完璧だな。業火、かっこいいぞ。なあ、皆もそう思うだろ?」
俺は皆を振りかえる。ダルニエルが。
「確かに美しいポーズだ。だが、剣や槍ならともかくシャベルだぞ。そんな物を格好付けて構えられてもどう反応したらいいのか。正直わからん」
ガーネットが。
「だいたい業火は女性型ではないか。それがシャベルなど構えていても、違和感しか無いぞ」
「そうか? 時代は土木系女子を求めていると思うんだよ」
「土木系女子? タケル兄ちゃんは時々変な事言うよね」
「変か? 長すぎるって言うなら。んー、土木系女子・・・。略して『ドボジョ』で、どうよ!」
「どうよ! って。まあ、そう聞かれたら。センスが無いとしか言いようがありませんけど」
「そうだな。アシャの言うとおりだ」
ガーネットの相槌に残りの皆が大きく頷く。
「・・・仲間の理解が得られないと言うのは辛いものだ」
「タケル兄ちゃんのネーミングセンスって理解するの大変だよ」
「理解しようとする努力はしてみますけど、期待はしないでください」
ケーナに続いてアシャさんが言う。
「後ろ向きな意見ありがとう」
さて、準備は終わった。後は、スガラトに向けて出発するだけだ。
「しかし、見送りが凄かったなー」
「本当ね。みんなお兄ちゃんの事心配してるのよ」
俺達が街を出発する時に、まるで街中の人間が総出で見送ってくれたのではないかと思えるほどに、門の周りが人であふれかえっていたからな。それまで全く無関心に見えた街の人々は、スガラト王国に向かう準備で忙しいであろう俺の邪魔にならないように訪問を控えていてくれたようだ。
「あんな事した後だったろ。ダルニエル達しか来なかったから・・・」
「嫌われてると思ってた?」
「嫌われてるとまでは思いたく無かったが、恐れられ、避けられてるのかとは思ってた」
「あの街の人達を見くびってたんだね」
「ああ。なんたって俺は、所詮少し前に街にふらりと現れたよそ者だからな。そんなヤツが、大量殺人をしたんだ。やっぱり危ない奴だったんだって思われるのが当たり前だと思うぞ」
「でも違った」
「ああ、俺なんかをあんなに心配してくれるなんてな・・・」
「もうっ。俺なんかなんって言っちゃダメだよ。お兄ちゃんはなんかじゃないよ。自分を卑下しないで。ガーゼルの英雄だもの。それにあなたは、あたしのお兄ちゃんだもの。」
あたしのお兄ちゃん・・・・か。
「それから、もう自分の事をよそ者なんて言っちゃダメだよ。ガーゼルは兄ちゃんの街だよ」
「俺の事を良く思っていない奴だって結構居る筈だぞ」
「それは誰だって同じでしょ。街の住人全員が知り合いだなんて人も、皆に好かれてるなんて人も居る訳無いもの」
「・・・・・・そりゃそうだ。とすれば、俺は普通の住人ってことか」
「普通では無いと思うよ」
「どうして。どこから見ても普通じゃないか」
「普通の人は、業火なんて持って無いわ」
それはそうだな。
「さて、この辺にするかな」
俺達はスガラト王国に入り、パコナの街を大きく迂回し王都まであと少しの所まで来ている。まあ、地図によればなんだけど。
「そうですね、日も暮れましたし今日はこの辺で野営にしましょう。明日には王都なのでしょ?」
「ああ」
業火に駐機姿勢を取らせ、野営の準備だ。準備をしながらアシャさんに話しかける。
「晩飯を食ったらちょっと出かけてくる。業火が居れば問題ないとは思うけどアシャさんはフィーアと留守番しててくれ」
「かまわないけど。どこにいくの?」
「一度王都に言って来る。明日の仕込みだね」
「仕込み?」
「もう、人を殺したくは無いからね」
「はい」
晩飯を済ませた俺は2人を残し、とべーるくんで王都に向かった。チータ形態の50体のゴーレムが静かに俺を追いかけるように走りだした。
「おかえりなさい。お兄ちゃん」
「ただいま」
偵察と仕込みを済ませた俺が野営地に戻ったのは日を跨いだころになってしまった。王都までの距離は20km程だ。業火で走れば20分とかからないだろう。
「王都はどうだった?」
「いやー凄い凄い。数えきれない程の兵士が王都を囲むように布陣してたよ。かがり火を焚いて。野営をしてた」
「数え切れないほど・・・・・。大丈夫なの?」
「予告したのは明日だからな。いや、もう今日なのか。奇襲に備えてんじゃないかな、もっともザルだったけどね」
「普通は空から様子を見に来るなんて思わないわ」
「いや、ゴーレムを仕込んでも気が付かないくらいだったしな」
さすがに、大型のネコ科の姿のままでは見つかると思って、ネコサイズにして潜り込ませたけどな。
「さーて、明日は日の出前に起きなきゃならねえからな。寝ようぜ」
「はい」
お手たちは同じテントに入りそれぞれ寝袋に入った。そう! それぞれだ! 俺って臆病。
「日の出まであと少し。予定通りですね」
「うん。でも、門の所まで5kmくらいか? もう少し近付かないと直撃は厳しいか?」
俺達は、王都を見降ろせる小さな丘の上に来ている。アシャさんが言った通り、夜明けが近いせいか空が白んできた。それによって目の前の風景が暗闇から墨絵のように浮き上がり始めた。スガラト王国の王都は大きな平原の真ん中に作られた巨大な都市で、直径10km程の円形をしており10m近い高さの外壁に囲まれ堅牢な佇まいだ。中心にこれまた巨大な城が建っている。ヨーロッパを舞台にしたおとぎ話に出てくるような城だな。
「それにしてもでかい城だなー。アースデリアの城でさえでかいと思ったけど。こいつは桁が違うな」
「それはそうですよ。スガラトとアースデリアでは国力も歴史も比べ物にならないわ」
「ふむ。俺はアースデリアの方が好きだけどな」
「ふふ。あたしも」
アシャさんは、全然緊張した様子が無い。目の前には4万人もの兵士が王都を囲むように布陣しているってのに。俺を信用してくれているのかな。見ているうちに兵が移動を開始した。俺達の目の前に見える東向きの門の前に向かって隊列を整えながら集結し始めている。
「さっき帰って行った偵察隊が戻ったみたいだな」
よく訓練されているのだろう。速やかに移動している。まあ、直径10kmにも及ぶ街を守るために展開していたんだから、そう簡単に集まれる訳は無い。
「かと言って、向こうの都合に合わせてやる必要は無いよな。おー、ゴーレムがあんなに居るぞー! あれは、スチールゴーレムか?」
人より速度が早いゴーレム達が走ってくるのが確認できる。攻城兵器扱いのゴーレムでどうにかできると思っているのか? 俺がちょっと嬉しそうに言ったせいだろう。
「業火は平気なの? 幾ら強くても数の力はバカに出来ないわよ」
「アシャさんの言いたい事は分るんだけどね。あの、ゴーレムが幾らあっても力にはならないんじゃないかな。ゴーレムは疲れないからね。そうは言っても、集まるまで待ってやる事は無いよな。フィーアADRセットアップだ」
「はい、店長」
業火がADRを展開していく。
「ADR射撃位置に移動を完了しました」
「ありがとうフィーア」
そう言ってからスティックを操作して正面に見える門にマークを付ける。
「もう直ぐだな」
王城を上ら徐々に朝日が照らし始める。俺はボタンを押し込む。
『ドグォーーーン!!』
狙いどおり東門の上半分が炎を上げ砕け散り、王都に砲声が響き渡った。
「フィーアADR格納」
「はい、店長」
「さて、蹂躙だ」
ADRの格納を待って朝日を背に業火をゆっくりと進め始めた。門が破壊され慌てたんだろう。ゴーレムが完全に終結するのを待たずに40体ぐらいが業火に向かって走りだした。俺はアクセルを少し踏み込む。徐々に業火の速度が上がりゴーレムとの距離がちじんで行く。ファンクションキーをSに合わせ左小指のボタンを押しこむ。業火は腰からシャベルを取り外した筈だ。もちろんファンクションキーのSはシャベルのSだ。
「お兄ちゃん、どうしてシャベルなの? 剣は使わないの?」
「せっかく作ったんだし、戦闘用のモーションも色々登録したんだし、使ってみたいじゃないか。それに、このシャベルは強度を極限まで上げた魔道具だからね。攻めて良し、守って良しと言う無茶苦茶便利な道具なんだぜ。たぶん」
「たぶんね。まあ、あたしは業火の事は分からないから、お兄ちゃんの判断にまかせるけど」
「ああ、まーかせてくれたまえ」
そうこうしているうちにいよいよゴーレム達との距離がつまった。よっぽど慌てて指示を出したんだろう。隊列を組む事も無く、ただやみくもに向かって来る。得物は柄の長めなメイスだ。
「あれなら、細かい技術は必要ないからな。携帯武器のチョイスとしちゃベストかもな」
とにかく相手に当てるだけでダメージを与えられる。業火と違って器用に道具など使えないゴーレムにふさわしい武器って事だな。
「セイ!」
シャベルの匙を水平にして先頭を走るゴーレムの核を貫く。
『グワシャーン!!』
大きな音を立てのけぞるように倒れ込むゴーレムの脇をすり抜け次のゴーレムに向かう。
「ヤー!」
俺は掛け声を掛けながら、タイミングを見てボタンを押しこむ。次は、上段に振り被ったシャベルを振り降ろし匙の背で頭を叩いた。頭が半分ほど体にめり込んで膝から崩れ落ちる。胸に入っているゴーレム核を潰されたのだろう、そのゴーレムは停止した。相手がバラけているのを良い事に10数体を次々に破壊し歩を進める。
「おー、囲まれたか」
3体のゴーレムに囲まれたので、その場で素早く1回転し、あっという間に3体のゴーレム核を壊した。
「ヨシッ!」
俺が止まっている間に走って来たゴーレムがメイスを振り上げた。
『ガゴ!』
低い姿勢を取り、振り下ろされるメイスを掻い潜り、右足を叩き斬る。
『ドーン!』
大きな音を立てて仰向けに倒れたゴーレムの胸を業火の右足が踏み抜く。動きが止まったゴーレムを見て。
「脆いな。スチールゴーレムじゃ無いな。アイアンゴーレムしかも鋳造だなこりゃ。手抜きもいいところだな、装甲の中は空っぽじゃねえか」
それだけ、当てにされてないって事なのか。そんな事を考えながら、作業的にゴーレムを壊して行く。
「これで! 終わりだ!」
シャベルを振り抜き、2体のゴーレムを壊した。こっちに向かって来るゴーレムはまだいるだろうが、一応近くにいるヤツはこいつらで最後だ。
「アシャさん、どうだった? 気分とか悪く無いか?」
「うん、平気だよ。凄い勢いで振り回されてる筈なのに何ともないよ」
ガーゼルの街を出てからの口調が幼くなってる気がするが、見た目がお姉さんのアシャさんとのギャップが何とも言えない良い感じなので指摘はしない。黙って身体強化を掛けているけど、違和感はないみたいだな。アシャさんの席は俺と違って、業火の中心軸からズレているから、かなりGがかかってる筈なんだけどな。その時フィーアが。
「店長、2時の方向から大きいのが来ます」
業火を向かせると。フレアバーストが大きな放物線を描いて飛んで来るのが目に入る。エクスプロージョンくらいなら直撃しても全く問題無いが、上級爆炎魔術のフレアバーストではどうなるか分からない。テストしてないんだよな。ノエルが使えるかも知れないから今度頼んでみよう。よける時間が無いので。シャベルを構え、魔力を流す。フレアバーストの中心に向けて。
「おりゃー!」
『ズッガーーーーン!!』
シャベルの匙でフレアバーストを迎え撃つ。緩く湾曲しているため、中心に力が掛かったかもしれないが、
匙の後ろには衝撃はこなかった。巨大な炎を上げて爆発したが、勢いよくぶつけたせいか、力負けはしなかった。
「王都を守るんだ、そりゃあ上級魔術が使える奴も居るか」
炎が収まる前に業火を走らせ、敵兵の最前線まで進めてしまう。これで、大きな魔術は使えないだろう。マーカーを合わせ、今回のために調整した土魔術を発動させる。ボタンをおしこむと。幅60m奥行き200m厚さ20cmの地面が真ん中から割れ持ち上がって行く。左右に持ち上がって30度の坂になる。
「「「「うおーーー!?」」」」
30mの坂を騎士も兵士も関係なく滑り落ちて行く。その間を業火が走り抜ける。
「この魔術は?」
尋ねるアシャさんに。
「高さ20cm幅30m奥行き200mの平べったいアースウォールをアーススピアで持ち上げただけだ。即席の滑り台だ。持ち上げた角度は大した事ないから滑り落ちても死にはしないだろ」
まあ、運が悪ければ分からないが、そこまで考える余裕は無い。持ち上がった地面の間を業火で走り抜ける。1組みが、たったの200mしか無いし、高さも業火の全てを隠しはしない。騎士達を除けちまったから向こうには上級魔術を躊躇う理由は無い、次々に地面を持ち上げ続けないと良い的になっちまう。
「一気に決めるぞ!」
さっき半壊させた東門が直ぐそこまで迫っている。俺の行動によっぽど驚いているんだろう。予想していた攻撃魔術は一発も飛んでこない。
「さて、ここまでは計画通りだな。フィーア。外部スピーカーに繋いでくれ」
「はい、店長」
東門の真横の外壁に突っ込む勢いで壁に接近し、右足で壁を蹴りつけ急停止、一歩下がってシャベルを構える。
「いくぜ!」
シャベルを外壁に叩きつける。
『どごごごごごごーーーーーーーーーー!!』
シャベルを叩きつけた場所から外壁が一気に崩れて行く。取りあえず、2.5kmは崩した。どんな上級魔術を使ってもせいぜい5分の1程度しか壊せないはずだ。業火を攻撃しようとしていた兵たちは動きを止めている。今の魔術が自分達に向くかもしれないと思ったのか、それとも自分達の攻撃が業火をはずれ王都の街を壊す事を恐れたのかもしれない。なんにせよ好都合だ。こいつをアップカードにブラフを仕掛かける事にする。