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殲滅の白刃

「きゃーーー!! きゃーーーーーーーー!!!」

「ノルンうるせえ! 怖かったら目え瞑ってろー! 見えなきゃ怖くなんかねえよ!」

「怖くて目なんか瞑れません! きゃーーーーーっ!!」

「アプリコットを見ろ 。落ち着いたもん ・・・」

アプリコットは胸の前で指を組み、一心に何かに祈ってる。あー、落ち着いてるんじゃなくて、落ち着こうとしてる訳ね。今業火は150kmくらいのスピードで街道を爆走している。徒歩以外の移動手段が馬しか無いような世界だ。業火のスピードを経験した事が有る人間はいない。様子を見るとアプリコットも同じようなもんらしい。

「あー、アプリコット、もう少し我慢してくれ」

業火のモニターの視点は、10m以上の高さがある。スピード感はそれ程無いと思うんだけどな。ツァイの方がよっぽど速く感じる。そう考えると、ケーナの順応性はかなり高いんだな。

「店長、建物が見えてきました。国境の監視所ではないでしょうか?」

「おっ、やっと着いたか」

モニターをズームし、監視所付近を確認する。門が閉まってるな。さらに、ご丁寧にも、ぶっとい丸太を使ってバリケードまで作っている。それを見たアプリコットが。

「通せんぼですね」

ノルンは。

「戦争中ですから余計な者や物をアースデリアに入れたくないと言ったところでしょう」

「だな。まあ俺には関係ねえけどな」

「どうするんですか?」

「押しとおる!」

「強引に?」

「飛び越えるだけだよ」

「閉鎖された国境を破る訳ですね」

「時間が無えんだ。スガラト王国の都合に付き合うつもりは無い。もちろんアースデリアの監視所はちゃんと通るよ」

そう言って、アクセルを踏み込む。俺達が近付くと。武装した兵士が、監視所から飛び出してくる。ノルンが。

「タケルさん! 速すぎーーー!!」

兵士達まであと50mの所で、2つのボタンを順番に押し込む。業火の機体が浮き上がった。

『ドーン!』

業火の背中でエクスプロージョンで加速し門を飛び越える。

『ゴッ!』

着地し、そのまま速度を落とし、ブレーキを踏む。

「ちきしょう。やってくれたな」

「「・・・・・・」」

そこには、破壊され燃やされた監視所と殺された兵士が十数人転がっていた。

「フィーア。出力100%だ」

業火を振り向かせる。門を越えてスガラト王国の兵士がこちらにやってくる。ダイヤルを操作しアースウォールを選び、親指でボタンを押しこんで、マーカーを設定する。

「・・・・」

ボタンの操作で、高さ20m直径200mの土の壁が兵士と国境の監視所を取囲む。これでそう簡単には出られない。そして、倒れたアースデリアの兵士達を見まわし。業火に駐機姿勢を取らせる。ハッチに体を乗り出し、魔力を展開する。

「生存者は無し・・・か。フィーア見つかる範囲でかまわねえから兵士たちをこの辺に連れて来てくれ」

「はい、店長」

ハッチから飛び降りて、兵士たちを連れてくるために走り出す。


監視所から一番離れた処に倒れたいた兵士を抱き上げて、みんなの所に戻る。

「その方で最後ですね。まだ、若いのに・・・・」

ノルンの言葉に頷きながら、兵士の顔を見る。俺とさほど変わらない年の兵士だ。背中に矢が数本刺さっている。うつ伏せに降ろして、矢を抜く。仰向けにして他の兵士達の横にならべる。手を取って。

「矢で討たれた後も這ってでもガーゼルに向かおうとしたんだな。地面を引っ掻いて指がボロボロだ。スガラト王国軍の進行を知らせたかったんだろう」

「他の兵士の方々は全員ここに踏み留まって戦ったのですね。皆さん複数の傷がを受けて、ボロボロです」

アプリコットが泣なが言う。

「家族を、国を守ろうとしたのですね」

ノルンも涙を流している。

「おれは、この世界の祈りとか知らねえんだ。ノルン頼む。祈ってやってくれ」

俺の言葉に頷いたノルンは胸の前で指を組み目を瞑って祈りを捧げてくれた。俺とアプリコットもそれに習う。しばらくそうした後に。

「この人たちが必死で守ろうとした場所です。私の力程度では何の役にも立ちません。でも、タケルさんなら、業火なら。守ってあげられますか? 守ってくださいますか。簡単な事で無いのは承知していますが、お願いします」

「ああ、できる限りの事はやらせてもらおう」

そう言って、2人を唸がし業火に乗り込む。魔物や獣に荒らされないよう監視所ごとアースウォールでドーム状に囲む。

「すまねえな。埋葬の作法も知らねえし、遺品を回収してやる時間も無いんだ。すぐに決着を付けて人を寄こすから待っててくれ」

業火を全力で走らせ始めた。今度はノルンも悲鳴を上げなかった。

「業火を作っては見たが、具体的に何かをしようとは思ってなかったんだ。ロボを動かせれば、魔物の討伐だろうと、それこそ土木工事だって良いと思ってた。でも、さっきのを見て嫌な気分になった。俺は、業火の力を使って、この戦争を一刻も早く終わらせる」

「「はい!」」


「クソ! もう始まってやがる」

モニターに映る光景を見る。スガラト王国の軍はガーゼルに向けて展開されている。1部はガーゼルの街の外壁に取りつこうと進んだところで停止しているし。ゴーレムが十数体先行し、ガーゼルを守るゴーレムと格闘中だ。ガーゼルのゴーレムの方が数が少ないため押されているが何とか持ち堪えている。未だガーゼルの街は無事のようだ。

「オルストロークさん。いい仕事してるな」

スガラト王国軍の中枢はー? あれか? 普通の兵士に比べ派手な軍装の人間が集まっている場所をズームし。

「ノルン、俺はこっちの戦争って初めて見るんだけど。あれが本陣か? 影武者とか使ったりするのか?」

「影武者って何ですか?」

「重要な人物がどこに居るか分らないように偽物を仕込むって事」

「夜襲を警戒する場合にはそう言った事もやりますが、戦っている最中はそんな事はしません。騎士や兵士達は総大将が自分達を見ていると思うから戦場で怯むことなく戦うんです」

「すると、あそこで座ってるヤツが総大将か?」

「そうだと思います」

「フィーア、ここで待機だ。俺が一旦軍を引かせる。このままじゃガーゼルに帰れない。何とかしたら呼ぶからな」

「はい、店長」

「タケルさん。軍を引かせるってどうやって」

「危ない事はしないでください」

「始まっちまった戦争を取りあえず止めようってんだ。無茶をやる」

「でも、どうやって」

「総大将の命を盾に取って脅す!」

「「え!!」」

そう言って、驚く2人を置いて、ハッチに立ち、身体強化をして本陣に、一番派手な格好をした奴に向かって飛び出した。空中で刀を抜いて接近する。

『ドン!』

「よお、あんたが総大将かい?」

着地の大きな音に驚いた総大将の首に刀を突きつける。そこには金髪碧眼の偉丈夫っていうのか? なかなかのイケメンだ。そいつが頷く。

「「「な!」」」

こちらを振り向き声を上げ近付こうとする騎士達に向けて。

「動くと斬る!!」

その声に騎士達は動きを止める。

「頼みがあるんだ。ちょっとの間でいいんだ。一度軍を引いてくれねえか?」

刀を突き付けられた男は怯える様子も見せず。

「少しの間で良いのか? 私を殺せば軍は完全に引くかも知れんぞ」

「総大将の代わりくらい居るだろ? あんたを殺したって軍は引かないだろ。指揮官が変わったら、引かせるのが面倒になるだけだ。だったら、あんたがいいな。周りの奴らより偉そうだから、ひょっとしたらあんた王族だろ? 旅から戻ったらこんな状態でね。一度荷物を置きに戻りたいんだ」

面白い物を見るような眼で俺を見た男は。

「合図をしろ! 一度軍を引く! 急げ!」

「はっ! 軍を引く合図を!!」

命令を受けた男の指示で太鼓とラッパが鳴らされた。

「しかし、一度引けとは。私を人質にあの街を助けて欲しいと言う話では無いのかね?」

「そんな話を聞いてもらえるのか?」

「無理だな。私とて命は惜しいが、事ここに至ってはもう引けんよ。私を殺したところでどうにもならん。ここに居る5千の軍がガーゼルを落とす」

「まあ、やってみればいいさ。ただし、俺が街に戻ってからにしてくれ」

「せっかく街の外に居るのにわざわざ戻るとは、面白い男だな。自分が戻れば状況が変わるとでも思っているとしたら。若さから来る根拠の無い自信と言うやつか? せっかく助かる命を無駄に散らすことも無いと思うがな」

「世の中には、やるまでも無く結果が見えてる事も多いって事は知ってるよ」

「では、なぜ戻るんだ」

「結果が見えてるからさ」

「その見えている結果とはどんな結果なんだね?」

「スガラト軍が全滅するのさ」

男が目を細める。俺はそう言って刀を突き付けたまましばらく待つ。

『店長、軍が引きました』

フィーアの声がインカムから聞こえてきた。

「さて、お願いを聞いてくれてうれしいぜ。ついでに、もう1つだけ。四半刻まってから進軍してくれると助かる。そうしたら俺が正面から迎え討ってやる」

「面白い。大口もそこまで言えれば立派なものだ。四半刻だな、それ以上待たんぞ」

30分あれば充分だろ。

「ああ、ありがとうよ。じゃあ行くわ。ゴーレムを呼ぶから攻撃しないでくれると助かる。四半刻を待たずに戦闘が始まっちまう」

「いいだろう。聞こえたな! 手だし無用だ。ガーゼルまで道を開けよ!」

「は!」

指示を受けた男は命令を徹底させる為だろう。複数の騎士を呼び指示を出す。兵士たちが動きだし、道が開く。そこを業火がゆっくりと歩いてくる。業火に飛び移りコクピットに滑り込む。攻撃は受けなかった。

「あ、そうそう、俺の名前はタケル。ガーゼルの街で雑貨屋の店長をしている」

スピーカーを通して話す。

「タケル? どこかで聞いた名だ・・・。私は、スガラト王国第一王子のクーロナル・スガラトだ」

クーロナルが言う。

「殲滅の白刃と言えば意外と通ってる二つ名だぜ」

「「「「殲滅の白刃! フェンリルバスターではないか!」」」」

「あんたら、国境の兵士を皆殺しにしたろ。おかげで、やりたい事が見つかったぜ。こんな事で見つけたくなかったんだけどな」

「たとえフェンリルバスターだろうと1人で何ができるか!」

周りに居た男の1人が叫ぶ。

「遅くとも1刻後には何ができるかよく分かるはずだ。じゃあな!」

そう言ってアクセルを少しだけ踏み込む。周りを見渡すと、さっきよりも軍は部隊間の隙間を詰めて集まってきている。四半刻が立つまで本当に待ってくれるつもりらしい。まあ、5千人も居るんだ、俺一人とゴーレムが加わった所で大したことは出来ないと思うのが普通だな。

「さーて、四半刻しかねえから皆に説明してる時間は無いな。ノルン、仲間に説明するの頼めるかい? 何が有ったか説明するには俺よりも的任だろ?」

「はい」

「2人はガーゼルの街で待っててくれ。1刻も掛からずにけりを付ける。国境の兵士を早く弔ってやりてえからな」

「「はい」」

スガラトの軍を抜け業火を進めて行くと、さっきの戦いで無事だったゴーレムが業火に向かって進んで来るのが見える。

「あれって、攻撃するつもりなんじゃ?」

アプリコットが言う。

「あれ? 敵だと思われてる?」

そりゃそうか? 敵兵が割れたと思ったらそこからゴーレムが歩いてくるんだ。俺だとは思わねえよな。アクセルを踏み込み、小刻みにエクスプロージョンを使って加速し、ゴーレムの突進をかわしていく。ゴーレムを抜けたがアクセルは緩めることなく街に向かう。今度は門や外壁の上に居る魔術師達から攻撃魔法が飛んでくる。

「おーい! オレだ! タケルだ! 攻撃を止めてくれ」

攻撃が止んだ。おー、信じてくれたか。速度を落とし門の手前で駐機姿勢を取る。

「危ないかも知れねえから2人はちょっとこのまま待っててくれ」

そう言ってハッチを開け表に出る。門の上と俺の居る高さが殆ど同じだ。こりゃあ街からの出入りが大変だぞ。すると、騎士や魔術師たちをかき分け領主のザナッシュがやって来た。

「どーもー、お久しぶりでーす。ただいま戻りました」

「・・・・・・」

あれ? 沈黙が・・・・。

「・・・・・あー、タケル・・・。今までどこに居たのだ!! 今頃顔を出しおって!!」

「あー、汚い面で申し訳ない? ザナッシュ様、そんな大きな声を出さなくても聞こえますけど」

「スガラトが急に引いたと思ったら、敵軍からタケルが出てくる! 何がどうなってるんだ、きちんと説明してくれ!」

「向こうの総大将に話を付けて来たんです」

「どんな話をすれば5千人の軍が引きさがってくれるのかね!!?」

ザナッシュの声がガンガン響く。

「四半刻だけ引いてくれって言ったんだ。長旅から帰ったんで、荷物を下ろしたいって言って、総大将の首に刀を突き付けながらお願いしたら聞いてくれたぜ。さすがに王子の命は大事らしいね。死んじまったらお着きの人間の首も飛んじまうのかね? フィーア頼む」

『はい、店長』

フィーアが駐機姿勢のままコンテナを下ろしてくれる。

「王族が率いているのか。しかも第一王子とは」

「四半刻しか待たないって言ってたけどな。なーに、時間が問題なんじゃないんでね」

「だったら何が問題なんだね?」

少し落ち着いたのか、ザナッシュの声のトーンが下がった。

「業火がガーゼルの街を背にしてあいつらに対峙できる環境を作ることさ」

「そうすればどうなるんだね?」

「俺が奴らを蹴散らす。混戦状態だと介入しづらい」

そう言って飛び下りようとすると。

「おにいちゃん!」

「タケル兄ちゃん! どこにいってたの!」

「タケル!」

「タケル! 遅いよ!」

「ますたー、オカエリー!」

振り返ると、そこにはアシャさん、ケーナ、ガーネット、カーシャ、アインがいた。皆、色々な感情のこもったような複雑な顔をしている。

「時間がねえ。話は後だ! 取りあえず、2人をよろしく」

「「「「2人?」」」」

コクピットから2人を招きだし。

「フィーア、頼む」

『はい、店長』

業火の両手を使って、門の上に2人を乗せる。

「ノルンとアプリコットだ。訳が有って連れてきちまった。ザナッシュ様。詳しい話はノルンから聞いてくれ。俺はあいつらを叩き潰して来る」

下に飛び降りて、コンテナを漁る。ADRのマガジンを探し出し、地面に並べる。

「フィーア装備しろ」

『はい、店長。そろそろ20分です』

「おー」

ハッチの上に飛び移る。皆に向けて。

「すまなかった。心配かけちまったな。ここは俺が何とかするから。安心してくれ」

「お兄ちゃん。あとで、キ・チ・ン・と! 説明してもらいますからね」

アシャさんが言う。目が潤んでるような気がする。

「了解した。お手柔らかに頼む」

そう言ってコクピットに向かう。

「あっ、そうそう。オルストロークさんが捕まれば、伝言頼む。オレのロボの戦いぶりを見ててくれってな」

シートに着きハーネスを締める。

「さて、連中に思い知らせてやろうぜ。俺は怒ってるんだ」

国境警備の兵士達の姿を思い出す。

「仇を討つほどの間柄じゃあねえし、無念を晴らすなんて柄でもないけど、あんたらが守りたかった物を代わりに守らせてもらう!」

ハッチを閉じモニターを下ろす。業火を立ち上がらせる。

「アイン手伝ってくれ」

「ハイ、ますたー」

門の上から飛び降りるアインを確認して、業火をスガラト王国の軍に向ける。アクセルを踏み込んで前進し、200m程進んで業火を停止させる。ヘッドマウントディスプレーを下げ、向こうの軍を見渡す。

「ゴーレムは30体か? まあ、いけるよな」

親指でボタンを押しながらマークしていく。

「フィーア、ADRセットアップ」

「はい、店長。残り2分です」

「まあ、正確な時計が有るかどうかわかんねえからな。向こうが動くまでは待つか」

背中から機械音が響く。砲身がモニターに映り込む。

「店長、ADRセットアップ完了。射撃位置に移動させました。次いで射撃姿勢を取ります」

業火が沈み込むのを感じる。射撃姿勢を取ったようだ。

「店長、30分経過しました。・・・・・・ゴーレムが18体先行してきます」

「よし、行くぞ」

「ところで、ゴーレムが30体いますが、ADRの砲弾が足りません」

「大丈夫だ問題ない」

未だ、動かない方のゴーレムを指定し。ADRを発射する。

『ドグォーーーン!』

軍の後ろに控えているゴーレムの1体が、もんどりうって倒れる。

『ドグォーーーン!』

つづけて撃つ。

・・・

・・・

途中でマガジンを取り替えながら撃ち続ける。

・・・

・・・

「店長。全弾、ゴーレム核に命中しました。敵ゴーレム12体沈黙。起き上がる様子は有りません」

「次はあいつらだな」

と言いながら、ボタンを押しこむ。

『ドグォーーーン!』

こちらに向かって来るゴーレムの先頭を進んできたヤツが崩れ落ちるように倒れる。

『ドグォーーーン!』

・・・

・・・

・・・

「店長、徹甲弾撃ち尽くしました。残りは徹甲榴弾3発です。敵ゴーレム残り5体です。距離400m」

「白兵戦に移行する。ADR格納。格納後切り離して街の外壁まで下がらせろ」

「はい、店長」

機械音が響きADRが格納されていく。

『ゴッ!』

「店長、ADR除装しました。ゴーレム200mまで接近。いつでも行けます」

「ありがとう」

ファンクションキーを変更し、両手で刀を抜く。アクセルを強く踏み込み、業火を飛び出させる。

「セイ!」

すれ違いながら、ゴーレム核を狙って刀を振らせる。業火とすれ違ったゴーレムが次々に崩れ落ちる。

「フィーア!」

「ゴーレム全て沈黙しました」

そのまま、軍に向かって業火を突っ込ませる。あらかじめ指示が有ったのか、ゴーレムが全滅したせいか、停止した軍を見て、業火の速度を落とす。それからファンクションキーを魔法戦闘用に変える。

「フィーア。ゴーレム達の準備は?」

「はい、現在B形態で待機中です。命令が有ればいつでもC形態に移行可能です」

「よし、やれ! C形態に移行し、徐々にこちらに向けて進ませろ。全員逃がすな!」

「はい、店長。全ゴーレムC体型に移行。敵軍の退路を断ちます」

軍の後ろに高さ5m幅60mの壁が立ち上がるゴーレム30体分で1.8km。敵の軍を半円状に取囲む壁が静かに立ちあがった。総大将に会う前に仕込んでおいたゴーレムだ。ゴーレムランチャーに入っていた30体のゴーレムは、状況に応じて数種類の形態を取ることが出来る。Aが普通のゴーレム。こいつはある程度サイズを自由に出来る。C形態が移動する壁。移動は出来るが速度は遅い、ただしゴーレムならではの再生能力で魔力が切れるか核が壊されるまで行動可能だ。ちなみにB形態はネコ科の大型獣数種類の形を取る。B-1、チーターの様なスピード特化タイプ。B-2ジャガーの様な隠密特化タイプ。そして、B-3トラの様な戦闘特化タイプと状況に応じて形態を変化させる事ができる。

「キサマ! ゴーレムを壊したからと言っていい気になるな。私が相手をしてやる!」

そう言って、真紅のフルプレートメイルに身を包み、真紅のグレートソードを構えた男が、停止した軍の隊列から飛び出してきた。後ろには青い金属光沢のスタッフを持ったローブの女が軍の囲みから出た所で立ち止まり、スタッフを掲げて魔法の詠唱に入った。こいつらが勇者か?

「あんたら勇者なんだろ? 侵略戦争に出てきちゃまずいんじゃねえのか?」

男は怯んだようだが、女は。

「フン! ここは元々我がスガラト王国の領土だ! あんたたちが勝手に王国なんて言って不当に占拠しているだけでしょう。つまり、私達がここで戦っても、なんら国際法に抵触しないのよ!」

「おい。詠唱を中断しても良いのかい?」

女は。

「あたしは、詠唱を中断しても平気よ。それに、あと一言で終わるし。ファイアーバースト!」

そう言って、スタッフをこちらに向けた。青白い火球が業火に向かって飛んでくる。

「やべえ!」

上級魔術だ。中級魔術である対魔術障壁に対物理障壁は展開しているが、上級魔術に対しては気安めにしかならない。ファンクションキーが魔術になってるが、記述魔法は中級魔法までしかない。いくら業火の魔力量が人間と比べ桁違いでも中級魔術で上級魔術を相殺できない。魔力操作で右腕を操作し、刀でファイアーバーストを切りつけた。

『ドッガーーーーーーーーーン!!』

爆炎が上がり、モニターが光に包まれる。コクピットに損傷は無い。

「フィーア、損害チェック」

「右前腕部3次装甲が外れて吹き飛びました。2次装甲の歪みは20%欠損は有りません。1次装甲と骨格の損傷は有りません。刀にも損傷無しです。ただし、2次装甲の歪みが干渉していますので、無理に動かすと外れてしまうかもしれません」

ん? 3次装甲って・・・。あー、トルーンで金の装甲にカバーを付けたんだっけ。

「やったわ!」

女勇者の声を外部マイクが拾った。

「フラグって知ってるかい?」

煙がはれるのを待ち、女をマークし、ダイヤルを操作し。ボタンを押しこむ。

『ブン!』

アーススピアが女に向かって飛んでいく。対魔術障壁に対物理障壁くらい張っているだろうが、アーススピアは物理系の魔術だ。確かに対物理障壁なら防げるが、業火のアーススピアの質量なら人間を弾き飛ばすくらいはする。上手くすれば、障壁だって吹き飛ばせるかも知れない。しかし、もう直ぐ届くというところで。

「ふん!」

男勇者が真紅のグレートソードを振り抜く。グレートソードから炎が噴き出しアーススピアを粉々に砕く。破片は女の横を通り過ぎ、後ろに居た兵士を吹き飛ばした。

「おいおい、そいつ死んだろ。勇者以外はどうなってもいいってのか? 俺様な連中だな」

「兵士などいくらでも換えが利く」

あーらら、言っちゃったよ。だったら、こうだ。エクスプロージョンを最大出力で10発並べ、撃つ!

『ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!』

『ゴー!』

連続した爆発音と同時に吹き飛ぶ騎士や兵士。女勇者に飛んで行った物だけは、男勇者が女勇者の前に立ってグレートソードを振り炎を打ち出し相殺ている。

「ふん!」

グレートソードを振り業火に炎を打ち出した。軽くかわして、左の剣で女の方を斬り付ける。

『ザッ!』

女勇者の体が袈裟斬りに半分になる。

「アレーナ!!」

振り向いて絶叫したところを、もう一振り。

「クッ!」

と言って、飛びのこうとしたが、俺は更に業火を前進させて。首を横薙ぎにした。遠くに転がった頭と、首の無い体に分かれ地面に倒れた勇者達を見て、敵の騎士や兵士が怯んだ。アインに指示を出す。

「本陣に行って、大将達を中心に最大出力のアースウォールで取り囲んでくれ。場所は、フィーアが指示しろ。アイン、あいつらの装備使えそうなら後で回収しておいてくれ、盗賊の持ちモノは基本的に討伐したん者のもんだ」

「ハイ、ますたー」

「はい、店長」

そう言って飛び出すアインを確認した俺は。

「フィーア、出力100%で、ファイアーウォールを張る。取り敢えず、ゴーレムの両端まで伸ばすぞ」

そう言って、ファイアウォールを展開し、敵の軍を全て囲い込んだ。

「さて、次はと」

ファイアウォールの設定を壁タイプから、面制圧のタイプ、火力より延焼面積が広いタイプに切り替え、囲いの中に業火を進めながら、兵士達を焼き払いにかかる。業火の正面に半径100m、角度90度の扇形の炎の固まりが出現する。

「「「「「「ギャーーー!!」」」」」

焼かれる者達の悲鳴が上がる。温度が低いせいか一瞬では燃え尽きない。業火を前進させながら、設定をいじる。半径を少し縮めることで、温度を上げる。ある程度進んだ所で再度ファイアーウォールを発動。扇形の炎に飲まれた兵士達は悲鳴を上げる事もなく焼かれていく。

「くそっ、こいつはきついな。うっうう」

それを見ていた俺は、たまらず吐いた。人の死を見るのは初めてでは無いとはいえ、この光景は精神的にきつい。

「店長、続きはあたしがやりましょう」

手の甲で口を拭い。

「だめだ! フィーアは殺すな。これは俺がやらなきゃダメなんだ!」

フィーアは元々人殺しが苦手だ、ゴーレムとはいえ自我が有るんだ。過度なストレスを与えるのは絶対に悪い影響を与える。

「フィーア、目の前でこんなのを見せちまって悪いな。コレが終わったら業火から降りていい。今回だけ俺の我儘に付き合ってくれ。まだ、俺1人じゃ業火を制御しきれない」

「店長・・・。お付き合いしますよ。どこまでも」

「ありがとう。でも、我慢はするなよ」

俺は、兵士達を焼き尽くすため、業火を前に進める。それを見た何人かの兵士は逃げようとして後ろを振り返る。その目には壁が映っているだろう。しかし、俺の前に居るよりは、幾らかましだと思ったんだろう。始めはとぼとぼと、業火が進むと、必死になって走り出す。

「壁を進めろ。早く楽にしてやる」

「はい、店長」


攻撃を開始してから2時間が過ぎた。魔力関知を行ったところ、囲いの中に生きた人間は俺の他にはアインがアースウォールで囲んだ本陣に居た連中だけになっていた。俺はあの後も何度も吐き、最後には胃液も出なくなったが吐き気が止まらなかった。

「・・・業火のコクピット汚しちまったな・・・」

「後であたしが掃除しておきます」

「ますたー、ダイジョブカ?」

「アイン・・か、あ・・ああ大丈夫なんじゃ・・・ねえかな。ちゃんと・・・死にそうな気分になってる。・・・まだ、まともな神経は残ってる・・・かも・・・しれねえ」

「ソウ? ダッタラ大丈夫ダネ。あーすうぉーるハ解除シテイイノ?」

俺はアインが作ったアースウォールの前に業火を進め、駐機姿勢をとらせる。壁を作っていたゴーレムは今はトラの形態になって待機している。

「ああ、解除してくれ」

「ハイ、ますたー」

アインが返事をすると。目の前のアースウォールが崩れ落ちる。細かく崩れた土に足首まで埋まった男達が現れた。地面に硬化の魔術を掛け動きを封じてから。

「・・・待たせたな・・・。・・・以外と・・・時間が過かっちまった・・・。なかなか大変だよな5千人も・・・いると」

それを聞いた、クーロナル達は周りの焼け野原とそこに転がる焼死体の群れを見回した。

「・・・・・・本当に・・・全滅させたの・・・か?」

「言ったろ。・・・・俺は殲滅の白刃だと。ゴブリン千匹とやった時よりはきつかったよ」

「・・・なぜだ・・・・なぜ・・・・、皆殺しにした!! 4割程度が死んでしまえば軍は退却せざるを得ないというのに」

クーロナルが目に怒りを込めて叫んだ。それ以外の騎士達はおびえる者、驚愕を顔に浮かべる者、放心状態の者など様々だ。

「俺は、雑貨屋の店長だぜ。軍がどうすれば帰るかなん・・・て、知らねえよ。アースデリア王国は・・・国際的に認められた国だ。そこに勇者を連れて攻め込んできたお前達は軍隊じゃねえだろ」

「軍じゃなければなんだというんだ!」

「盗賊だ。お前達がやったのはガーゼルの街に対する盗賊行為だ。盗賊は皆殺しだろ?」

「我々を盗賊だと! 我が軍を盗賊呼ばわりするとは無礼だぞ」

隣にいる派手な軍服を着た男が怒鳴る。

「盗賊の幹部風情に無礼者呼ばわりされる謂われははねえな」

「ファイアーランス!」

魔術師が炎の槍を打ち出す。避けずに、業火に当たるに任せる。そいつにマーカーを付け、ボタンを押す。

『ドッ!』

魔術師にアーススピアが当たり、体ごと砕けた。

「せっかく、無事に帰してやろうと思ったんだがな。これ以上帰る人数減らすのか?」

「「「「「・・・・・・・」」」」」

それを聞いて、クーロナル以外の人間は逃げだそうとしたが、足が動かない事に気付き絶望の表情を浮かべる。

「まあ、俺としちゃ1人残ればかまわないんだけど。これ以上減らすと、帰りに何か有ると伝言を頼む意味が無くなるからな」

「伝言だと? 何を伝言すると言うのだ」

「今から言うから、よーく聞いて、お前達の親玉に伝えろ。7日後だ。スガラト王国の王都を更地にしに行く。そっちが先に売った喧嘩だ。俺がキッチリ買い取ってやる。首を洗って待ってろ! って言っておいてくれ」

「我々はガーゼルを確保するために来た先遣部隊だ。本隊は4万だぞ。それが来ればアースデリアなど」

「アースデリアに向かって進軍してきたければすればいい。ただし、王都を空けて出てくれば、帰る家は無くなってるって事はわかるよな」

「くっ」

悔しそうな顔をする。足下に掛けた硬化の魔術を解いてやりながら。

「もう帰って良いぜ。伝言忘れるなよ」

生き残った十数人はあわてて街道を走っていった。

「さて、2人とも皆の所に戻ろうか

「ハイ、ますたー」

「はい、店長」

業火を振り向かせ、周りを見渡すと。顔も判別できないほど黒焦げになった人間が周り中に転がっている。「うっ」

もう一度吐く。もちろん胃液しか出ない。街を攻めて来た軍が相手だとは言え、こんな事をした俺をアシャさんはどう思うだろう。

「・・・・・・普通は引くよなー・・・・・・」

あれ? こんな事をした後に考えるのがアシャさんの事かよ。心をまともに保つためにそんな事が頭に浮かんだんだろうか? ・・・そう言えば、アシャさんには好きな男が居るんだったな。・・・失恋確定か・・・・・。そこで、俺は意識を手放した。

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