表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/91

もうすぐガーゼル

『バサバサバサ!』

『バッサバサバサ!!』

「まあ、こんなものでしょう」

「はい、これで隠せましたね」

2人の言葉に頷くと。

「さて、アスカの街にいくか」

「「はい」」

アスカの街の側の森に穴を掘り業火を入れて上から木の枝で覆ってカモフラージュし、街には徒歩で向かう事にする。

「じゃあ、フィーア留守番頼んだぞー」

『はい、いってらっしゃい』

「「いってきます」」

いつものようにフィーアに留守番を任せて歩き出す。

「いつもフィーアちゃんはお留守番ですね。1人で寂しいですよね」

「そうですね、ゴーレムと言ってもフィーアには意思が有るのですし」

「業火だけじゃ戦闘は出来ねえんだからしょうがないさ。それは1人じゃないって事だしな」

「1人じゃ無いとは?」

「業火は普通のゴーレム並に大きいから忘れがちだけど、こいつはフィーアと同じタイプのゴーレムだ。フィーアの妹分だな。ランチャーから打ち出すゴーレムとは違う」

あれは、意思を持たないタイプのゴーレムだ。体の再生と強化に魔力を振る事で継戦能力を上げている。昨日のように戦車の主砲で撃たれまくっても、まるでゾンビのように復活し命令を実行する。俺が操るだけじゃ無くフィーア達を経由する事でかなり離れた場所でも活動できる。ゴーレム核をオリハルコンでカバーしているから、めったな事では核を破壊されたりしない。もちろん昨日の砲撃程度では傷一つ付きはしない。

「業火ちゃんって呼んだ方がいいかな」

それは、無いだろう。

「妹分ですか。業火は女の子なんですか? ゴーレムに性別が有るんですか」

「ああ、俺用に覚醒させたゴーレムは今までも性別は女だったんだ。業火もそうなんじゃねえのかな」

「フィーアちゃんの他には何人いるんですか?」

「アイン、ツァイ、フィーアに業火、全部で4人だな。そして妹用にライ、友達の妹の所にテイル。俺が作った意思を持つゴーレムは6体だ。正確には業火はまだ人格が現れていないみたいだけど、フィーアに使った制御式をベースに改造しているからフィーアの双子の妹みたいなもんだ。ずっとフィーアが乗り込んでいるからな。空き時間に会話くらいしてるだろう、そのうち人格が発現するんじゃないかと思ってる」

万が一って事が有るといけないから、いつでも業火を動かせるようにフィーアは乗り込んだままだ。

「そう簡単に人格が現れるんですか?」

「元にした制御式は昔の天才術師が完成させた物だからな。フィーアの人格が出たのもかなり会話した後だったみたいだし、簡単なのかどうかはちょっとな」

「そうなんですか」

「1番最初に作ったアインが延々話し続けたせいだからな。最初は戦闘を嫌がったのにはちょっと驚いたけどな」

「だったら、フィーアちゃんを1人残すのは意味がないんじゃないですか? 戦えないんじゃ、残っても意味がないんじゃ?」

「今は平気なんじゃねえかな。それに、逃げたっていいんだ。無理に戦う必要は無い」

「あー、逃げても良いんですね。良かった。無理やり戦うんじゃ可哀そうですもんね」

「ああ、そう言うことだ」


しばらく歩いてアスカの街が見えて来た。街の門が換わってるか? 門でチェックを済ませ街に入る。

「前とは違うような気もするし、同じような気もする」

「それは、10年以上経っているんですから、当たり前では?」

「そうだよな」

「それにしても、活気がある街です。大きいですし」

「そうですね、サースベリアの王都の方が大きいですけど、この街の方が活気は有りますね」

「交通の要所だって言ってたからな。交易が盛んなんだろうな」

ガーゼルも同じように交易が盛んな場所だが、アースデリア王国が小さな国だからな。アスカとは比べては可哀想だな。


「えーと、情報屋ってのはどこもこうなのか?」

「こうってのがどういうことか分らないが、何だか失礼な事を言ってるみたいだね」

「いや、ガーゼルの街の情報屋でもトップの婆さんが相手をしてくれたみたいだったんでね。初めての客にはそう言う人間が付くのかと思っただけさ」

「そりゃーまた遠いところから来たもんだね。で、どんな情報が欲しいんだね? こんな婆だがあたしもここのトップだよ」

「有難い、欲しい情報は結構昔の事なんでね。あなたでちょうどいいのかもしれない」

「昔の事? 坊やがかい?」

「タケルって名前も有るし、これでも成人してるんだ、坊やって年でもない。この街がアリステアって呼ばれてた頃の情報さ。雑貨屋をやっていたバーナムって男とその娘のアリシアの消息を知りたいんだ。そんな個人に関する情報なんか収集しちゃいないだろうから集めて報告して欲しい。時間は2日くらいで集められるだけって事で」

「せめて街の有力者や領主の所で役職にでも就いてなきゃ情報なんか扱ってるもんかね」

ノルンたち2人を宿で待たせ、冒険者ギルドに紹介された情報屋に俺1人で来ているところなんだが。まあこんなもんかも知れねえな。

「だよな。これから集めるってのは可能かい?」

「無理だね。あの事件より前の事なんか知ってる人間はほとんど居ないし、居てもあの事を忘れたがってるんだ。聞き出せやしないよ。普通ならね」

「普通なら? 普通じゃないのはあの2人か? それともあんたが普通じゃないのか?」

「まあ両方だね、でも、金を積まれても教える情報じゃ無いんだ。もうそんなことは無いけど当時は命に関わる情報だったんだよ」

なんだか、奥歯に物がはさまったような言い方だな。

「別に悪さをしようってんじゃないんだ。昔世話になった知り合いなんだよ、元気かどうかだけでも知りたいんだ。魔物の氾濫の前に街を出ちまったもんでね」

「タケル・・・。歳が合わない気もするね。見た目通りの歳じゃ無いのかね?」

「歳が合わないってのは?」

「婆の思い出話だ。つまらないかもしれないがちょいと聞いとくれ」

「あんまり時間がねえんだけどな。ここで分らなきゃ別の情報屋に行かなきゃならねえ」

「まあ良いからお聞きよ。10年以上昔の話さ街の娘が5人誘拐された事件があったのさ。街から連れだされ売り飛ばされちまうところだったんだが、1人の冒険者がアリシアの櫛を使ってダウジングの魔法を使い娘達を探し出し、誘拐犯6人を皆殺しにして娘達を救い出すと報酬も受け取らず街から消えちまった。その時に助けられた娘の1人がアリシアさ」

この婆さん俺を試してる?

「使ったのはハンカチだし、誘拐犯は7人だったぜ」

「・・・・・・やっぱりタケルさんあんたかい。なんだか歳を取っちゃいないみたいだね」

「いろいろと訳ありでね」

「まあ、いいさね。ずいぶん時間が立っちまったけどありがとうよ。あたしはダイナ。アリシアはあたしの大姪さ。バーナムは弟の息子なんだ。あの2人が普通じゃないってのはそう言う意味ってわけだ」

なるほど。

「そうか。でもあれは、冒険者として依頼を完遂しただけだ。別に礼を言われるような事じゃ無い。それに、あのままにしておけば、魔物の氾濫や領主の領民狩りに巻き込まれる事も無く今もどこかで平和に暮らせてたかもしれねえんだ。俺は余計な事をしたのかもしれない」

アリステアの住人がほぼ全滅したと聞いて、あれが無ければ5人は無事に済んだかもしれないとは思っていた。

「何を言うんだい。報酬も受け取らず、目の前から消えたって聞いたよ。バーナムもアリシアもあんたにえらく感謝していたよ。もちろんあたしもさ。あの時は魔物が街を襲い、領主が領民を殺しに来るなんて分る訳無いんだ。少なくとも、人買いに売られ親と引き離されて自分の意思に反した暮らしをする事が幸せだなんてあたしは思わないね。短い間だったかも知れないが、絶対に街に戻れた方が良かったはずさ」

「そうか。そう言ってくれるのは嬉しいな」

「さて、バーナムとアリシアだが、アリシアは家から出てヒーラー兼薬師として修行するために王都に行っていた。バーナムはあの魔物の反乱は乗り切ったよ。店も無事だった。アリシアが戻る家を守ると言って最後まで残っていたんだ。でも、領主との争いの時に店が焼かれ、バーナムも死んだよ」

「そうか、バーナムさんは亡くなってるのか。で、王都に居たアリシアは無事なのか?」

「無事だったとは思うんだけど、その後の領主がやった領民狩りから逃れるために王都から脱出したらしいんだ。あたしの所の情報網でも探せなかったんだよ。手は尽くしたんだがね。どこかで元気に暮らしていてくれる事を願うばかりさ。無事ならもう結婚して子供の2人もいる歳なんだけどね」

婆さんは寂しそう派表情で話してくれた。可愛がっていたんだろうな。

「本当にそうだな。話が聞けて良かった。ありがとう、つらい事を思い出させちまってすまなかった」

「なーに、たまには思い出してやらないとね。それに、うちの情報網で死んだ事も確認出来なかったんだ。あたしは、あの子は生きていると信じてるよ。タケルさんには、あの時の礼が言えてよかったよ。心に引っかかってたからね」

「そいつは良かった。それで、情報料はいくらだい?」

「今の話は売ってる情報なんかじゃないんだよ金なんかとりゃしないよ。売り物の情報を買っておくれ」

「そうか、じゃあこいつの情報は有るかい?」

そう言ってP38を机の上に置いた。1発残っていたカートリッジは抜いてある。

「タケルさん、これをどこで手に入れたんだい? おっと、情報をタダで聞き出すってのは拙いね。どこまでの情報が欲しいんだね?」

「旅をしていた俺達にいきなり攻撃魔法を打ち込んできた乗り物に乗っていたヤツが持っていたもんだ。ヤマト帝国の兵器だと思うんだけど」

そう言って、多砲塔戦車の絵を見せる。

「5万イェンだね」

そう言われ、小金貨を5枚を机に置く。婆さんは1度扉の奥に引っ込んで書類を持って戻って来た。

「こいつは、ヤマト帝国の秘密兵器さ。多砲塔戦車って呼ばれてる。そして、撃ち込んできたのは魔法じゃないんだよ。砲弾と呼ばれていて、金属の中に爆薬が詰められている物を火薬で飛ばすんだそうだ。あ、火薬ってのはね」

「ああ、火薬は知ってる。作り方は知らないけどな」

「爆発する黒い粉って事しか分らないんだよウチでもね。で、その多砲塔戦車は実用に向けて試験運用中のはずだから、秘密を守るためにあんた達を襲ったってところかね」

「襲われたんで、戦車を叩き壊した。他人の命より大事な秘密ってのはなんなんだろうな? あえて、戦車のことは調べなかったんだ。奴らは命がけで秘密を守ったってこさ」

「なるほど、あれは鋼でできた箱に車輪を付けて走らせる機械だそうだ。魔結晶を動力に魔力タービンを動かして発電しモーターで駆動輪を動かす・・・・・。どうも、技術者が話した事をそのまま報告してきたみたいだね。何の事だか分らないね。これじゃ金はとれないか?」

なるほど、キャタピラといいモーターといい向こうの技術をこっちに持ち込んだのか。ガソリンエンジンとかは無理だったのか? こっちで作れない部品は魔道具で補ったって事か。柔軟な考え方だな。俺の業火も似たような物かも知れないが、俺は、向こうの技術なんか知らないからこっちに有る技術だけで作った所が根本的に違うか。業火はこっちの世界の人間でも今すぐ同じ物が作れない事はないからな。

「鋼の箱の厚さは?」

「3cmだね。上級魔術のファイアーバーストでも当たれば壊せるかもしれないね。射程距離まで近づける魔術師がいればだけどね。強力な対人用の兵器も積んでいるようだからね」

機関銃に大砲か。確かに魔法より射程が長いからな。敵が戦車を持って無ければ無敵の兵器って事か。でも、3cmじゃ対戦車砲なら簡単に・・・。その為の対物理障壁か、なるほど。まあ、業火のADRなら簡単に撃ち抜けるけどな。ADRの砲弾は先端に対物理障壁を張る。ドラゴンが障壁を張るらしいって話を聞いたからな。障壁を消滅させて本体を撃ち込む。障壁が無くても、先端が何かに触れたら障壁は解除されるように設定してある。そして、徹甲榴弾は先端が何かに触れた場所から爆発するまでの距離を任意に設定できる。装甲が3cmしか無いなら楽勝だ。まあ、弾速をもっと上げる工夫はしておこう。

「小金貨5枚にしちゃ情報が少ないね。あんたが、持ってきたそいつは拳銃って言って、少なくとも小隊規模の隊長クラスしか持っていない武器だね。魔術と違って、発射されたらまず避けられないほどの速度で鉛の弾が飛んでいくそうだ。用途や威力によって、色々なサイズや形の物が有るそうだよ。今のところ騎士や兵士全てに行き渡るほどの数は無いけど、どんどん作ってはいるみたいだ」

帝国がどこまで国を大きくするつもりかは分からねえけど、アースデリアに攻めてくるころには今よりずっと進んだ兵器が十分に揃っているんだろうな。適当な所で侵略はやめてくれりゃあ良いんだけどそうもいかないか。その後色々情報を聞き情報屋を後にした。


情報収集に掛かると思っていた時間が予想よりも大分少なかった。戦車との件が国にばれる前にこの国を出ちまおうか。戦車には通信士っぽい人間も乗っていた情報が伝わったかも知れない。まあ大丈夫だとは思うが、長居はしないほうが良いだろう。食料を買いこんだらこの街を出よう。1月程しかいなかったせいか、一度焼かれて街並みが変わったせいか、アスカと名前も変わってしまったこの街に特に懐かしさを感じる事は無かった。



何事も無くヤマト帝国を出た俺達は、その後は特に大きなトラブルも無く順調に旅を続けた。そろそろ旅も終りに近付いてきたところだ。ここはホグラン国、隣のスガラト王国が隣接する国の1つがアースデリア王国だ。俺は今ルオウ商会の本店にいる、例の錬金術の為に寄り道をした。2人は買い物だ。商業の国だけあって店は多いし、売っている物も様々だ。時間は幾ら合っても平気だろう。

「タケルさん。確かにあなたの作品で間違いないですね。素晴らし出来です。このアクセサリーはご希望通り100万イェンで引き取らせていただきましょう」

「ありがとうございます」

「いえ、良い取引が出来ました。出来れば、これからもお付き合いさせていただきたいものです」

「本当ですか? ルオウ商会はアースデリア王国に支店は有りましたよね? 俺の店はガーゼルの街に有るんです。俺の方から持ち込む事はできませんが、商会の方が街を通る時に寄ってもらえれば受注も納品も可能です。もちろん価格が今回より下がる事は承知の上です」

輸送中の危険を相手に負わせるんだ。納品価格が持ちこみより下がるのは当然だ。

「たしかに王都には支店が有ります。価格によっては、十分に検討に値します」

「では」

「しかし、アースデリア王国ですか。あそこは今スガラト王国との間が少々キナ臭いですからね。落ち付いてからということになりますか」

「キナ臭いとは?」

「アースデリア王国は元々スガラト王国の1部だったのですが、色々あって独立した訳です。もう300年以上も前の事ですし、国際的には独立国として認められています。スガラト王国でもその事に異議を唱えるどころか国交も有りましたし、交易もされています」

「色々ですか」

「はい、色々です。スガラト王国は2年前に王が代わりました。そうして今になって独立など無かったと言い出したようですよ」

「狙いは?」

「ズバリ、鉱山ですね。西方でヤマト帝国が領土を拡大しているんですよ。対抗するために自国も領土を拡大したいところでしょう。それに備えての軍備拡張、隣の国とは言え手の届く所に金属の鉱脈が有るんです。狙っていると言う情報が入ってます」

「アースデリア王国。小さな国ですからね」

地図を見たが、国土面積はスガラト王国の10分の1も無いんじゃないだろうか。

「はい、あそこに居ては才能の持ち腐れになってしまいます。ホグラン国に拠点を変えてみてはいかがですか? ウチだけでなく世界有数の商会が揃っているのです。タケルさんなら幾らでも稼げますよ。もちろんウチと専属で契約していただければ言う事無しですがね」

「せっかくですけど、それにあそこが気に入ってるんですよ」

「そうですか、では取引の件は前向きに考えさせていただきます」

「はい、よろしくお願いします」


「そうですか、アースデリアが戦争ですか」

ノルンの言葉に。

「国力が違いすぎるだろうな。戦争にならん。蹂躙し搾取するつもりなんだろう」

「人が沢山死んでしまうんですか?」

アプリコットが心配そうに言う。

「ああ、国同士の戦いだからな。そりゃあそうなるだろうな」

俺が一番殺す事になるかもしれねえな。

「どうする? 2人とも俺の所に行く事が安全とはいいきれなくなっちまったな。向こうが落ち着くまでこの国で待つか? 金なら心配いらないぞ。今稼いだ分だけでもしばらく暮らせるはずだ」

「タケルさんはどうするんですか?」

「ああ、ガーゼルに戻る。アースデリアを攻略するなら、あそこを拠点にするために最初に抑える筈だ。業火が有れば支えられる。いや、押し返せる。その為には帰って迎え撃たないとな」

そうだ、いくら攻撃力が高かろうが、占領された街を取り返すのは単機では無理だ。ノルンが。

「では、私も行きます。これでも、国では魔術師団員でしたからね。戦争に出る覚悟は出来ています。上級魔法もいくつか使えます。戦力になりますよ」

「あたしは、戦争の役には立ちませんけど。一緒に行きたいです」

「わかった。パーティメンバーだもんな」

「はい。まだ仮ですけど」

「そうですね。他のみなさんに認めていただかないと」

「2人なら大丈夫だ。俺が保証する」

「「はい!」」



「もう直ぐお昼ですねー」

「ああそうだな。適当に開けた所が有ったら飯にしよう」

「じゃあ、今日は私が作りますね」

「おう! 美味いの頼むぜ」

「え! ・・・・・すみません。いつも同じ物で」

「えー、ノルンさんのパスタ美味しいですよー」

「ああ、美味いぞ。お世辞抜きで」

「本当ですか! 頑張っちゃいますね!」

ノルンが腕を曲げて気合を見せる。

「あははは。期待してるよ」

「はい!」

スガラト王国に入ってしばらく経つ。もう直ぐ王都という所まで来ている。地図によれば王都とアースデリアの距離はそれ程離れていないようだ。もっとも俺達は王都には寄らずに、アースデリアと国境を接するパコナ領の領都パコナに向かう。少し先に有るはずの分かれ道で、パコナの街に向かう予定だ。

「店長、人が魔物に襲われています」

「「「え?」」」

「モニター切り替えます」

メインモニターが切り替わる。2人も身を乗り出してモニターを覗き込む。そこには。

「ゴブリンだな」

「ゴブリンですね」

「ゴブリンです」

10匹程のゴブリンに追い掛けられている。

「子供か?」

「子供が1人ですね」

「助けないと」

「おー。そうだな。フィーア方向は?」

「10時の方向。距離は400mです」

「よし。ちょっと行ってくる。フィーアは追いかけてきてくれ」

「はい、店長」

返事を聞いて、モニターを跳ね上げハッチを開ける。ハーネスを外し外に出る。魔力を流し身体強化をしてから。

「せい!」

子供を追いかける先頭のゴブリンに向かって飛び出す。あ、振り返った。子供は自分に向けて錆びた剣を振り上げるゴブリンに向かって剣を構える。どんどん近付いて行く。子供の顔は険しいが、そこに諦めの表情はみえない。中々の面構えだ。ゴブリンの振り下ろす剣を受け止めた子供の剣が中ばから折れてしまった。悔しい表情で後ずさった処に。

『ドゴッ!』

「ゴブーーー!!」

俺の飛び蹴りがゴブリンに突き刺さる。10m以上吹き飛ぶゴブリン。刀を抜いて後続のゴブリンに斬りかかる。

「ゴッブ!」

「ゴブ!」

「ゴブー」

あっという間にゴブリン達を切り捨てた。振り向くと惚けた顔の子供が折れた剣を片手に俺を見ていた。

「怪我は無いか?」

擦り傷や掻き傷は結構ある様だが大きな怪我は無いようだ。

「うん」

未だ事態が飲み込めていないような顔で頷く。チーフを抜いてハイヒールを掛けてやると。細かな傷が消えて行く。驚いた子供は。

「あんた、魔法も使える・・・。あっ! ありがとう。助かったぜ」

礼が言える。ちゃんとした子のようだ。

「いや、間に合って良かった。俺はタケル、冒険者だ」

「オレは、シグ。思う所があって旅をしている。あんた冒険者なのか、オレも冒険者になりてえんだ」

シグは、元気に言うと。急に沈んだ声で。

「でも、ゴブリンから逃げる事しかできなかった・・・。なれねえのかな冒険者」

「死なない限りいつか勝てるだろうくらいに思っときゃいいさ。無茶はしても、無理はしちゃいけない。冒険者なんてそんなもんさ」

「でも、今だってあんたがいなきゃ死んでた」

「結果的に生き残ったじゃねえか。今度はもっと上手く逃げりゃあ良い」

「逃げるのが上手くなっても嬉しくない」

「良いじゃないか、時には逃げる事も必要だ」

すると。

「あ・・・」

と言って。シグは、その場に座り込んでしまった。

「おい、どうした?」

「落ち着いたら。力が抜けた」

『グーーー』

「ははは。そうか、腹も減ってるみたいだな」

「2日水だけで歩いてたから・・・。ウワー!」

そう叫んで、座ったまま後ずさるシグの視線を追うと。業火が近付いて来るのが目に入った。

「大丈夫だ。あれは俺のゴーレムだから」

「あんたの? ゴーレム!? 魔物じゃないのか?」

「何だ、ゴーレム見たこと無いのか?」

「町の中で見るのなんか、ゴーレムドンキーだけだぜ。一回だけアイアンゴーレム見た事有るけど。あんな形じゃ無かったぜ」

「俺のは特別製だからな」

『店長、大丈夫ですか?』

「ゴーレムが喋った!」

「ああ、間に合ったよ。シグも大した事はない」

『シグって、その子の事ですか? 良かったですね』

フィーアに続いてアプリコットが声をかけてきた。

「え? 女の子の声?」

「あのゴーレムに乗ってるのさ。さて、立てるか? ここじゃ何だから、少し離れて昼飯にしよう」

周りにはゴブリンの死体が散乱している。流石に、飯を食う環境じゃ無い。


「うっ、ウマーイ! これ、なんて言う料理なんだ? こんな美味い物食べるのは初めてだ!」

パスタを一口食べたシグは満面の笑みを浮かべてそう言った。

「トマトとハーブのパスタよ。イッパイあるから慌てないで食べてね」

「ノエルさん料理上手だな」

そう言ってパスタを頬張る。

「シグは王都に向かってるのか? 2日も何も食べてないって言ってたよな。計画性が無さ過ぎだぞ」

「わっで、がね「あー、スマンスマン。飯食ってからでいい」ムグムグ。・・・・ンッグーー!」

と言って胸を叩き始めた。喉につかえたのか? パスタって閊えるのか? 器用な奴だな。

「はい、水を飲んで」

アプリコットがコップを手渡しながら背中を叩いてやる。

「ありがとう。死ぬかと思ったぜ」

「誰も取り返したりしないから、落ち着いて食べてね」

ニッコリ微笑んで言うアプリコットから目を逸らしたシグが真っ赤になって。

「うん」

今度はゆっくりと食べ始める。その姿を微笑ましいなと思って眺めていると。同じように笑顔のノルンと目が合った。お互い軽く笑顔を浮かべ食事に戻る。なんだか、良いな。気分がゆったりとする。


「さて、シグ。おまえさん、何処に行くつもりなんだ? 食料も持たずに旅をするなんて無謀だぞ」

「金も少ないし、途中の町で働きながら旅をしようと思ったんだ。でも、流れ者の子供なんか雇ってくれなくってよ。王都に着いたら何とかなると思ったんだけど。その前に食い物が無くなっちまったんだ」

「王都に着いても働き口が有るとは限らないんじゃ?」

そう言うアプリコットに。

「いや、大きな町なら下水掃除とか、草むしりみたいに日銭を稼ぐ手段はあるもんだ。ホグランに住んでた時だって、スラムの連中でも悪さをしない奴らはそうやってたんだ。ゴミダメみたいな所だったけど。何とか生きていけたぜ」

「苦労してたんですね。シグさんは」

「孤児院を飛び出してからは毎日そうやって生きてたんだ。苦労なんかじゃねえよ。盗みをしないんじゃそうするしか無いじゃないか」

スラムじゃ盗みや強盗なんて日常的に行われていたんだろう。シグはその中で、真っ当に生きようとしてたのか。

「偉いんだな」

俺が言うと。

「偉くなんかねえよ! 当たり前の事をしてただけだ」

その当たり前の事を続けることが難しい環境のはずなんだけどな。

「そうか、そうだな」

「そうですね」

俺に続いてノルンも頷く。

「で、シグ。これからどうするんだ? スガラト王国の王都に行くのか? 俺達は王都には向かわないから送る事は出来ねえけど」

「うん、王都にはいく。目的地はそこじゃ無いんだけど、旅費を稼がないとな」

「そうか、ちょっと待ってろ」

俺はそう言うと。業火のコンテナから、パンや乾し肉、木の実に水など5日分の食料を袋に詰め込みシグの所に戻る。

「こいつを持ってけ。それからこれもだ」

そう言って財布から小金貨を取りだした。シグは。

「飯を御馳走になっただけで十分有難いんだ。これ以上の迷惑はかけられねえ。それに金なんか恵んで貰う理由が無い。乞食じゃねえんだぞ!」

「タケルさん。そんな大きなお金を子供が持っていたら怪しまれて使えませんよ。小さなお金でないと」

「ノルンさん。シグさんはそう言う事を言っているのではなくて。憐れんで貰いたくないと言ってるんじゃないですか?」

「ん? そうなのか? そうだな、すまない。失礼な事を言ったな」

シグを憐れんだ訳じゃねえんだが。子供でも男だな、矜持が有るって事か。

「いや、オレも大声出しちまった。わりい」

「でもな、頼まれた訳じゃねえが、折角助けたんだ。このまま野垂れ死にされるのもなー。食料無しで王都に着けるのか? もし金を稼げなかったら、この先どうするつもりなんだ?」

「今食ったからしばらく平気だぜ。さっきも言ったけど金なら何とかする。野垂れ死んでもオレの運がそこまでだったって事さ」

「シグ、その運だけどな。今さっき使っちまったとは思わねえか? これからさらに幸運が続くってのはあまりにも楽観的だろうよ。でも、シグの気持ちも分る。でだ」

財布から小銭を1万イェン分程取り出し、布で包む。それを食料の入った袋に入れシグの前に置いた。

「そうかもしれねえけど。だからと言って、施しを受ける言われはねえって言ってるだろ!」

「いや、これは貸しだ。恵んでやる訳じゃねえよ」

「これから先また会えるかどうかも分らねえんだぞ。どうやって返せばいいんだよ! やっぱり施しじゃねえか!」

「違うぞ。それは貸しだ。誰だって、本人には返せない借りってヤツは受けてるもんさ。俺だってそうだ。これもそうだと考えろ」

「本人に返せないんじゃ、施しじゃないか。どうやって返せばいいんだよ」

「自分に余裕が有る時、余裕が無くても自分より苦しんでる奴がいた時、そいつを助けてやれ。本人に返せない借りってのはそうやって返すもんだ」

「そうですよ。人は生きている限り、誰かを助け、誰かに助けられているものなんですよ。私達は今少しだけシグくんより余裕が有るんです。だから、今まで受けた恩を返すだけなんです」

「うっー」

そう言って俯いてしまったシグ。もうひと押し要るかな?

「シグさん。あたしも、今はタケルさんに助けてもらっている真っ最中なんです。それでも、タケルさんはシグさんも助けたいと言ってるんです。優しいんですよタケルさんは。シグさんを憐れんでいる訳じゃないと思います。あたしもシグさんも一緒ですね。これから先、誰かを助ける事が出来るようになるまで助けてもらいませんか? タケルさんに返せないなら、他の人に倍返しましょう。利息を付けて。ね?」

「う、うん。ありがとう。この恩は忘れない」

「こんな事、覚えてる必要はねえぞ。大した事をやった訳じゃねえ。覚えていられると恥ずかしいからな」

そういえば。シグの剣は・・・。業火に一度戻って、鍛造済みのオリハルコンのインゴットを持って来た。

「シグ。おまえ、剣が折れちまっただろ。貸してみな」

今度は素直に鞘ごと渡してきた。抜いてみると、半ばから折れてしまっている。元々あまりいい出来ではなかったようだ。とは言え、シグの命を守ってきた相棒なんだろう。

「へー。握りと剣身は別なんだな。細工は元のを使うか」

オリハルコンをモデリングをつかって、剣の形にした。驚いた顔のシグに。

「よし、これで良い。刃を薄くしたからそれ程重くはなっていないと思うけど。ちょっと振ってみな」

受け取ったシグは。数度素振りをしてから。

「うん、前のとそんなに変わらないぜ」

「そうか、折れた剣じゃどうしようも無いだろ。持っていきな。そいつも、貸しにしとくよ」

「うん。ありがとう。でも、何人助ければ借りが返せるんだ。オレはゴブリンから逃げ回らなきゃならないくらい弱いんだぞ」

「俺も修行中だから偉そうな事は言えねえけどな。ゆっくりでいい、いつか強くなればいい。逃げなきゃならないときは思いっきり逃げろ。逃げちゃいけない時に逃げなきゃ良いんじゃね?」

「うん」



シグとは昨日は一緒に進み、夜を一緒に過ごした。今日になって王都から分れてパコナの街、アースデリアと国境を接する領都に向かう俺達はシグと分れた。シグは、俺達が見えなくなるまで分かれ道で手を振っていた。

「死んだ母がよく言っていました。『人は、自分がやった事は過大に評価し、自分がやってもらった事は過小に評価する。実際には自分がやった事など大した事では無いんだから、すぐに忘れてしまいなさい。でも人から受けた恩は絶対に忘れてはいけない』って。昨日のタケルさんの言葉を聞いて思い出しました」

ノルンが言う。

「へえー、いい事言うな」

「はい、だから、タケルさんにやった事は絶対に忘れませんし、助けてもらった事も絶対に忘れませんからね」

「あたしも、忘れませんね」

「いや、忘れてくれてかまわん。これから仲間としてやっていくんだ。貸しも借りもねえよ」

「「はい」」

2人がニッコリと笑顔になった。

「シグさん、良い子でしたね」

「そうですね」

「思うところがあってって言ってたけどなにが有るのやら」

「きっと大切な事なんですよ」

「かもな」

アプリコットが寂しそうに。

「また会えるかな?」

「アプリコットはああいうのが好みか? 確かに良い男になりそうな面構えでは有ったな」

「そうですね、よい子です」

「ちっ、違うもん!」

「ふふふ」

「あっははは」


 

「なんだって!? もう出たのか?」

パコナの街の冒険者ギルドに来た俺は受付の女の子に聞き返した。

「はい、この町を4日前の朝に発ちました」

「規模は!?」

「大勢いましたが、ガーゼルを攻め落とす先遣部隊とのことです。ガーゼルの街を落としてベースを確保するんでしょうね。勇者も2人いましたからね、ガーゼルの規模では2日と保たないって皆言ってましたね。その後、本体が向かうのでしょう」

「え? 侵略戦争に勇者を出すのは国際法違反だろ!」

「侵略戦争? いえ、王国は戦争では無いと言ってます。『アースデリアは国では無く、スガラト王国の領土を不法に占拠しアースデリア王国を詐称している。そこをを国の管理下に戻す』と言うのがスガラト王国の言い分ですから。勇者も使い放題と言う訳です」

「この国の勇者って何人いるんだ!?」

「3人です」

3人の内2人も出すのか。今からで間に合うか? 行軍なんて、業火のスピードに比べたらアクビが出るほど遅いだろうが、実際にこの街からどれ程の時間が掛かるかなんて、アースデリアから出た事の無い俺には分かりっこない。

「アリガトさん!」

そう言うと冒険者ギルドを飛び出した。2人を拾ってガーゼルに戻らねえと!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ